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第89期 部門長からのメッセージ

部門活動を通じて見た流体工学研究の現況紹介


第89期
流体工学部門長
名古屋大学
酒井康彦

 第89期(2011年度)の流体工学部門長を務めました名古屋大学の酒井です.21世紀が始まって10年が経過した今年度(2011年度)は,東日本を襲った巨大地震による甚大な津波被害とそれに伴う福島第一原発事故による放射線汚染が重なり,“想定外”とされる事故対策,環境汚染,エネルギー危機が大きくクローズアップされ,これに係る科学技術の重要性が強く認識された年度になりました.流体工学は広く科学技術に関連しており,今後ますますその重要性は高まると予想されます.私は,そのような重責の一旦を負う学術集団としての流体工学部門の舵取りをまかされたわけですので,本来なら部門登録会員の皆様へのご挨拶文は,2011年度の当初に配信すべきものでしたが,日々の雑務に忙殺され,今日(2012年4月4日)まで原稿を作ることができず,大変失礼を致しました.ここに深くお詫び申し上げます.

  さて,日本機械学会に部門制が施行されたのは1987年(昭和62年)ですので,2011年度は部門制が始まってから24年目に当たります.流体工学部門は部門制発足当時から常に登録者数が全部門の中で最大をキープしており,2011年11月末現在で,登録者数は7,447名に達しております.部門活動の概要,運営組織,各種委員会の報告等については,ホームページ(http://www.jsme-fed.org/about/overview.html)に掲載されておりますので,ここでの記述は省略いたしますが,ここ1年間の流体工学部門の運営の責任の一旦を担った立場から,機械工学としての流体研究の動向をある程度見渡すことができましたので,限られた範囲ではありますが,流体工学部門の最近の学術活動の一部を紹介することで「流体工学研究の現況」を報告し,部門長挨拶に代えさせていただきたく存じます(以下の文章には,文献(1)の一部を転載したものが含まれています).

  2011年度の流体工学部門活動で最も大きな行事は7月24日から29日に浜松ACT CITY Congress Centerにて開催された日米韓合同流体工学会議(AJK2011-FED) でした.講演募集の段階で1,000件を超えるアブストラクトの申し込みがあったのですが,3月11日の東日本大震災による福島第一原発からの放射能汚染が欧米の研究者の参加を大幅に抑制してしまい,一時は開催自体が危ぶまれましたが,関係諸氏の不屈の努力でなんとか開催にこぎつけ,最終的には総講演件数が549件(一般講演523件,ポスター発表26件),参加人数が744人(33カ国から参加)を数えました.この会議は,Technical Tracksと呼ばれている26のシンポジウム,6つのフォーラムおよび4つのテクニカルフラッシュと名付けられた講演のみ(論文なし)のセッションから成っていましたが,まず,これらの中から20件以上講演件数があったTracksを挙げてみますと以下のようになります.

S06: 7th International Symposium on Pumping Machinery 54件
S03: 11th Symposium on Applications in Computational Fluid Dynamics 29 件
S22: 23rd Symposium on Fluid Machinery 27件
S10: 12th International Symposium on Gas-Liquid Two-Phase Flows 25件
S11: 13th International Symposium on Gas-Particle Flows 22 件
F06: Microfluidics Summer Forum 22 件

  上記の6つのTracksの講演件数は合計179件で,全体の34%程度ですが,現在の機械系流体工学研究の現況を推し量る上で意味があるデータと思われます.これらを見ると明らかですが,流体機械関係(S06とS22)で,実に81件もの講演があります.これは現在(2011年11月末)の機械学会流体工学部門の登録者数7,446名中4,177名(全体の56%)が私企業会員であることを考えますと,まこと納得のいく数字であり,いかに日本機械学会が一般企業会員に支えられているかを示すものと思います.また,上記6つのTracksのうち,混相流のセッションが2つ(S22:気液二相流,S10:固気二相流)あり,流体工学の応用分野として多くの研究者の興味を引いていることがわかります.さらに,CFDやマイクロフルイディクスといった比較的新しいテーマを扱ったセッションもあり,近年のコンピューターやマイクロ・ナノテクノロジーの発展を考えると若手研究者の数の増加が反映していると感じられます.

  さて,ここで現在機械系流体工学研究者が実際どのようなテーマに興味を持っているかについて考えてみることにします.これを表すひとつの指標は,機械学会流体工学部門が出版しているニュースレターのテーマに見ることができます.以下に,過去10年間に取り上げられたテーマの一部を示します.

 「医療と流体工学」(2011年12月),「空力騒音」(2010年12月),「環境流体」(2010年9月),「乱流遷移に携わる若手の研究紹介」(2010年4月),「未来を拓く超音速機」(2009年12月), 「界面を含む流れのシミュレーション」(2009年9月),「再生可能エネルギーと流体工学」(2008年12月), 「次世代二相流研究」(2008年4月),「大気プラズマ流」(2007年12月),「汎用ソフトウエア特集」 (2007年8月),「自動車と流れ」(2007年4月),「CFDを用いた流体機械最適設計の最前線」 (2006年12月),「風洞・水槽で流れを造る」(2006年9月),「噴流の制御」(2006年4月), 「レオロジー~非ニュートン流体の流動~」(2005年9月),「ナノ・マイクロスケールの熱流動」(2004年12月),「流体情報と融合研究」(2004年8月),「流れの制御とものづくり」(2004年4月), 「混相流」(2003年8月),「流れのコントロール」(2003年1月),「生体内の流れ」(2002年11月),「渦法」(2002年9月),「生物と流れ」(2001年10月)

上記リストより,ここ10年間で流体工学研究者が興味を持った分野のキーワードが見えてきます.すなわち「環境,医療,生物,生体,情報,マイクロ・ナノ,大気プラズマ流,制御」といった,古典的な流体工学とは一見異なった分野のテーマが流体工学研究者に興味を持たれてきていることがわかります.また,「自動車,超音速機,流体機械,噴流,レオロジー」といった古典的なテーマを現代技術・研究の進歩に照らして見直したテーマもあります.このように,現在の研究者には異分野との融合テーマへの研究移行を進めるとともに,従来からの研究テーマを粘り強く続け,新しい技術・知見を取り入れ,さらなる発展を目指すといった研究姿勢の二面性が見受けられます.このような傾向は今後も続くと予想されますが,どちらがよいかということではなく,これは研究者ご自身の哲学に基づいてテーマが選ばれていくものと思われます.なお,本年度(2011年度)に限ってみれば,上記リストにある「医療と流体工学」に加えて,「流体工学における女性研究者・技術者」(2011年9月)と「流れの夢コンテストの10年」(2011年4月)の2テーマが取り上げられており,流体工学部門が女性研究者や若手研究者の育成に力を注いでいる様子が伺われます.これは,将来の日本の社会情勢や人口構成を考えれば,自然にそのような方向に努力すべきであると考えることができます.ここにも流体工学部門関係諸氏の先見の目が伺われ,企画者に敬意を表するとともに,たいへん喜ばしく感じております.

  以上,限られた範囲ではありますが,主に日本機械学会流体工学部門活動,特に国際会議AJK2011の内容とニュースレターのテーマを紹介し,「流体工学研究の現況」を報告させていただきました.流体工学部門の活動は,たいへん幅広く上記の2つの活動のみでは,とてもその全容はわかりませんので,ぜひ部門のホームページ(http://www.jsme-fed.org/index.html)を頻繁にご覧いただき,部門活動にご理解・ご協力賜りますようお願い申し上げます.

  最後になりますが,流体工学部門活動がますます活発化して,部門登録会員相互の絆が強まり,流体工学・技術の持続的な発展が行われますよう切にお祈りして,2011年度流体工学部門長の挨拶と致します.

謝辞:

 日米韓合同流体工学会議(AJK2011-FED)に関するデータについては,同会議総務担当副議長の武居昌宏先生および武居研究室の山崎ゆかり様に調査していただき,ご提供いただきました.ここに記して御礼申し上げます.

参考文献

(1)酒井康彦,「流体工学研究の現状と将来」,日本機械学会東海支部創立60周年記念誌,(社)日本機械学会東海支部,平成24年2月,pp.84-86.

 

日本機械学会第89期流体工学部門部門長 酒井 康彦

更新日:2012.4.7