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第92期 (2014年度)流体工学部門 一般表彰(フロンティア表彰)

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一般表彰(フロンティア表彰)


飯田 明由(豊橋技術科学大学)

受賞理由:

 流れと音の同時計測技術や高速度PIVを用いた音源探査技術などを開発するとともに,理論的に空力騒音発生機構の解明ならびに空力騒音の低減化にとって有用な知見を提示し,空力騒音分野における先駆的な業績を挙げた.

受賞のコメント:

 この度は,流体工学部門一般表彰(フロンティア表彰)を授かり,大変光栄に存じます.関係者の皆さまに厚く御礼申し上げます.

  私が大学院を卒業する少し前に国鉄が分割民営化され,JR各社は鉄道技術の一層の向上により鉄道の付加価値を高めるため,新幹線の高速化を重視した技術開発を始めました.新幹線の高速化を実現するためには,空力騒音の低減技術を開発する必要があり,日立製作所機械研究所では,空力騒音関連の技術者の強化を図ることになりました.そのような事情もあって,大学院を卒業後,研究生として大学に残っていた私を日立の藤田肇主任研究員(後の日大教授)が日立に誘ってくれました.日立に入社してみると,数値解析の研究には池川 昌弘主任研究員(後に北大教授),加藤千幸主任研究員(後に東大教授),風洞実験分野では大田黒俊夫主任研究,音響分野では高野靖主任研究らがいらっしゃり,大学院を出たばかりで何も知らない若造が研究を始めるには素晴らしい環境でした.日本の景気が良かったこともあって,入社してすぐに低騒音風洞の開発を任されたほか,空力騒音の基礎実験に関する研究,多線式熱線渦度計の開発,新幹線の音源探査を行うためのマイクロフォンアレイの開発などを行いました.特に加藤先生と円柱周りの流れと音の関係を丹念に調べる実験,解析を行ったことにより,空力騒音の基礎をしっかりと勉強することができました.また,企業の研究所のため,基礎研究だけでなく,実際の製品開発にも参画できたことは非常に良かったと思っています.新幹線のパンタグラフや碍子カバーの開発では,理屈ではこうなるはず,理論解析だとこれで音が下がるはずと考えて実際にやってみると全然効果がなく,思いつきで行った対策が非常に効果的だったことなど,実機の開発を通じて空力騒音の難しさなどを実感しながら研究を進めてきました.

  研究を進めていくなかで一番感じたことは,地道に長く続けること,人との付き合いの大切さです.日立で周りの人に恵まれたように大学に移ってからも,九州大学の速水先生,北大の坪倉先生,日大の鈴木先生,スズキの橋爪課長,東大,岡本先生,染谷先生,みずほ総研の山出さんら多くの人に助けてもらいながら研究を進めてきました.また,現在,研究室の助教を務めている横山博史先生には,彼が加藤研の学生のころから一緒に研究を進めていて,私の研究成果の大部分は横山先生との共同研究によるものです.

  今回,このような立派な賞をもらえるのも,多くの人の協力があってのことであり,毎日少しずつ積み上げてきた研究の成果なのかなと思います.実験の多くは失敗だったり,不十分なものだったにも関わらずあきらめずに長く続けていたら,すこしは社会に貢献できる結果が残せたのかなと思います.このような研究の進め方は大学時代の恩師の蒔田秀治先生から学びました.これからも空力騒音の分野で少しでもあたらしいことを切り開いていければと思います.

 最後に,私の使用している風洞や計測システムを開発してくださった元日立製作所機械研究所試作室の故鈴木洋一氏に感謝の意を表します.


一般表彰(フロンティア表彰)


須賀 一彦(大阪府立大学)

受賞理由:

 非線形渦粘性モデルを用いたk-εモデルや粗面および多孔質体表面上の乱流に対する解析的壁関数モデルなど,数々の有用な乱流モデルを開発し,乱流工学分野における先駆的な業績を挙げた.

受賞のコメント:

 この度は,流体工学部門フロンティア表彰を賜り,大変光栄に存じます.ご推薦を頂いた先生方,関係各位,ご指導を受けたLaunder教授をはじめとする先生方,㈱豊田中央研究所の皆様,一緒に研究に取り組んで頂いた共同研究者,ならびに大阪府立大学の研究室の学生諸氏に深く感謝申し上げます.

 今回評価していただきました研究は,私が㈱豊田中央研究所に在職中,社費留学生として英国のUMIST(The University of Manchester Institute of Science and Technology)のB.E. Launder教授の下で行った,非線形渦粘性乱流モデルに関する博士研究とそのフォローアップ研究,ならびに帰国後UMIST時代の仲間と共同研究として始めた解析的壁関数モデルの拡張に関する一連の研究です.期待と不安を胸に抱き,曇天のマンチェスター空港に降り立ったのは1992年夏のことですから,もう22年も前のことです.当時企業研究者として,論文で見かける評判の良いとされる乱流モデルを自分の手製コードに組み込んで使用していましたが,実際の応用場面では不可解な結果がまま得られることに問題意識を持っておりました.そこで,そのことを豊田中研の社費留学面接試験で当時の所長をはじめとする上層部に伝え,自分が乱流モデル研究のメッカに乗り込んで実際に役立つ乱流モデルの開発をするのだと勇ましくも訴えた結果のことでした.以来,ご批判はあるかもしれませんが,自分では一貫して設計者の立場から“使える乱流モデル”の開発に軸足を置いてきたつもりです.

  一般に応用計算では乱流モデルにk-ε渦粘性モデル,壁面境界条件には壁関数を用いることが現在でも広く行われています.使われるプログラムによっては,SST乱流モデルが推奨されていますが,これはいわばk-εモデルとk-ωモデルのハイブリッドモデルで線形渦粘性モデルをベースにしていることに変わりはありません.私の研究では,この線形の渦粘性モデルでは原理的にモデル化ができない乱流について明確にし,渦粘性モデルを3次項まで含めて高次モデルとすることで汎用性を高めるというものです.また,標準壁関数は基本として対数則をベースにしていますが,これもまた発達境界層流れから逸脱すればその根拠が揺らぎます.そこで,運動量式を壁面近傍で常微分方程式に近似し数学的に積分することで,壁面近傍を細密に格子分割することなく取り扱う解析的壁関数に着目しました.このモデルは,UMISTの後輩の博士研究で始まりましたが,それを受け継いでさらに機能を拡張して,粗面壁の乱流をモデル化する研究をUMIST時代の仲間と始めました.その後,大阪府大に移ってからは,さらに多孔体界面乱流や気液界面の乱流スカラー輸送にまで解析的壁関数を拡張する研究を行って来ました.ちなみに以上のモデルのいくつかは,実際に市販CFDプログラムに搭載されました.

 設計者の視点に立てば,乱流の工学的な数値解析にはまだまだ多くの課題があります.その中には,現象解明もできていないような場も多く含まれています.本受賞を励みとして,今後も産業応用の現場に貢献できるモデルの研究を現象解明も行いながら,さらに進めていきたいと考えております.


一般表彰(フロンティア表彰)


森西 洋平(名古屋工業大学)

受賞理由:

 完全保存形高次精度差分法など有用な数値スキームを開発するとともに,離散化による数値誤差に関して体系的な理論を構築するなど,数値流体力学分野における先駆的な業績を挙げた.

受賞のコメント:

 この度は流体工学部門一般表彰(フロンティア賞)を賜り大変光栄に存じます.

 受賞対象である流れの数値スキームの研究は,筆者が修士課程において東大・小林敏雄先生の下で実施した乱流のラージ・エディ・シミュレーション(LES)の研究が発端となります.当時(1980年代半ば)は数値流体力学(CFD)が急速に発展し,衝撃波捕獲法やアンサンブル平均乱流モデルを用いた数値計算が華やかな時代で,さらに日本でのスパコン開発を背景にした乱流のLESや直接数値計算(DNS)等の大規模数値計算の黎明期でもありました.このようにハード面で恵まれていた当時の日本のCFD研究でしたが,数値計算手法については基本的に欧米で開発されたものがそのまま使用されており,世界からまだ一歩遅れているというのが現状であった様に思います.その後,CFDの各分野でも日本人研究者が開発した様々な手法が世界で使用されるようになっているのはご周知のとおりですが,筆者も時流に乗って,乱流の非定常数値計算手法に関する研究を実施してきました.CFDの応用ではまず計算結果が安定に得られる事が重要で,人知の結晶である風上差分は衝撃波等の不連続を伴う流れ,低レイノルズ数流れ,および平均流の数値解析で大きな成功を収めてきました.しかし,風上差分による過度な数値散逸はたとえ高次精度であっても高レイノルズ数乱流の非定常数値計算に対してダメージを与えます.これは,LESやDNSのような乱流の非定常数値計算において,時間および空間的な変動を維持しながら流れの数値計算を長時間実施するためには,安定性および非散逸性という相反する性質を移流項スキームに具備させることが必要なためです.これを達成するため,非圧縮性流れの支配方程式が持つ保存特性に着目し,支配方程式を離散化して直接得られる保存量に加え,解析的には従属的に保存される運動エネルギーも保存するような数値スキーム構築の理論の体系化を行いました.また,乱流のLESに導入されるSGSモデルが数値誤差に埋没しないために必要な,空間4次精度以上の数値スキームが一般的に構成可能な事も示しました.その後,完全離散式(時間および空間離散式)への拡張,圧縮性流体への拡張,さらにALEタイプの移動変形格子への拡張,も行っております.幸いにもこれらの数値スキームは乱流の非定常数値計算の応用の拡大とともに世界で注目される様になりました.

 この研究を顧みますと,一見数値計算手法の研究開発でありますが,実は数値計算に有効な,流れの支配方程式の定性的特性の探究が主要であった様に思います.元来流れの数値計算は,解析解が得られない流れ場に対して数値的な近似解を与えようとするものです.これについて従来の数値スキームの研究は,支配方程式をいかに高精度に離散化して数値解を求めるかに重点が置かれていた様に思います.一方で筆者の上記研究は,解の存在自体が自明でない非線形偏微分方程式系に対して,その定性的特性(ここでは従属的な保存特性)を考慮すれば,少なくとも定性的には満足な結果が得られる,という事を示している様に思われます.そして,近年益々複雑になってきた流れが関与する各種連成問題等についても同様の手段が有効と考えられ,今回賜ったフロンティア賞の名に恥じない様,これまでの経験を生かして今後も関連分野の発展に尽力しようと考える次第です.

 最後になりますが,ご推薦を頂きました先生方,これまでご指導ご鞭撻を頂いた恩師の先生方,および研究室で一緒に研究に取り組んできたスタッフと学生諸君に感謝致します.

更新日:2015.4.6