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第94期 (2016年度)流体工学部門 一般表彰(フロンティア表彰)

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一般表彰(フロンティア表彰)


細川 茂雄(神戸大学)

受賞理由:

 気泡流をはじめとする気液二相流の分野で優れた成果を数多く挙げている.特に,分子タグ法による乱れエネルギ収支の研究をはじめ,高精度の先端計測手法に先駆的に取り組み,その開発に大きく貢献している.

受賞のコメント:

 この度は,栄誉ある流体工学部門一般表彰(フロンティア表彰)を賜り,大変光栄に存じます.ご推薦をいただいた方々ならびに関係者の皆様に厚く御礼申し上げます.

 気泡流などの気液二相流では,界面が存在するため非接触計測手法が望まれるとともに,既存計測手法をそのまま用いるだけでは,信頼性の高いデータが得られない場合や,流れの理解に必要な物理量の定量計測が困難な場合がしばしばあります.計測可能な範囲の実験データと鋭い洞察力により物理現象を解明する方法もありますが,私は対象とする流動現象の分析に必要な計測手法の構築から研究を開始し,流れ場から直接情報を得ることにより現象の理解を深めるアプローチを良く用いてきました.実際の流れの情報には当初見逃していた事項も含まれており,新たな発見につながる可能性を秘めていることが,このようなアプローチの醍醐味と考えています.受賞理由に挙げられいる分子タグ法は,流体中に分子レベルで生じる物理化学現象を利用してタグを形成し,流れの可視化や速度測定する非接触計測手法であり,市販されている非接触速度計測手法の多くが必要とするトレーサ粒子が不要であり,タグの生成位置・時刻を制御できる点が魅力です.もともと私はLDVを中心とするトレーサ粒子を用いた計測手法を得意としており,しばしばトレーサ粒子の追従性や気液界面に及ぼす影響やについて質問を受けました.厳密な回答のためには,粒子のない系での速度測定を行う必要があると考えたことが,分子タグ法を始めたきっかけです.その後,カメラや光源の高性能化により分子タグの流れの歪みによる変形が検出可能となり,タグの並進および変形から速度と速度勾配を測定する手法に発展させました.同時期に気泡乱流の研究も始めており,分子タグ法を用いて気泡流における乱れエネルギの収支の評価を試みたところ,幾つかの改良で良好な結果が得られました.この他にも幾つかの実験・計測手法を開発してきましたが,気液二相流にはこれらの手法を用いても分析が難しい興味深い課題が山積しています.今後も,計測手法の改良・開発により気液二相流の理解に少しでも貢献できるよう研鑽していく所存です.

  計測手法は広く利用されてこそ,その意義が高まりますが,我々の開発した手法はまだまだ広く利用されるに至っておりません.今後も改善を重ね,多くの研究者・技術者に利用していただけるよう努めたいと思います.今回,計測に関わる課題で賞をいただいたことが,若手を中心とする研究者が流体計測に興味を持ち,その発展に貢献されるきっかけとなれば喜ばしい限りです.

 最後になりましたが,これらの研究成果は一人では成し得なかったものであり,一緒に研究に取り組んできた共同研究者,学生諸氏に深く感謝申し上げます.


一般表彰(フロンティア表彰)


阿部 浩幸(宇宙航空研究開発機構)

受賞理由:

 平行平板間乱流や剥離乱流境界層において,当時世界最高レイノルズ数の直接数値シミュレーションを実現し,特に外層の大規模構造に関する業績やデータベースの構築など,航空機開発の基礎となる先駆的な業績を挙げた.

受賞のコメント:

 この度は,流体工学部門一般表彰(フロンティア表彰)を賜り,大変光栄に存じます.ご推薦を頂いた先生方,本テーマに携わった共同研究者の皆様に深く感謝申し上げます.

  本研究の出発点は,学生時代に河村洋先生(東京理科大学)の下で壁面に接する乱流(壁乱流)の直接数値シミュレーション(DNS)に携わったことに遡ります.当時,研究室では有限差分法のエネルギー保存型スキーム(コンシステント・スキーム)を用いた平行平板間乱流のDNS並列計算コードの作成が進められていました.当方は,このDNSコードの高次精度化と温度場への拡張,開発したコードを用いたレイノルズ数・プラントル数の依存性に関する研究に取組みました.以降,大規模並列計算を用いた壁乱流のDNSに関する研究に従事してまいりました.

  受賞対象の高レイノルズ数平行平板間乱流のDNSは,研究所に異動した際に本格的に取り組んだ計算です.平行平板間乱流のDNSで扱えるレイノルズ数は,計算機性能が急速に向上したことにより,内・外層が分離できるほどのレイノルズ数(壁面摩擦速度とチャネル半幅に基づくレイノルズ数で1000程度)に近づいていました.ここで,出身大学と所属研究所の協力体制の下,計算機性能を最大限に引き出すよう計算コードの開発を行い,熱伝達を伴うDNSにおいて当時世界最高レイノルズ数の計算を達成致しました.得られた結果に対しては,外層の大規模構造や各種乱流統計量のレイノルズ数依存性・スケーリング則に関する研究を実施するとともに,データベース化して,世界中の研究者がデータを共有できるようWebにて公開致しました.

  受賞対象のもう一つの剥離乱流境界層のDNSは,航空機高揚力装置周りの流れを念頭に,逆圧力勾配による剥離乱流境界層のDNSに取り組んだ計算です.当時,外部流ではゼロ圧力勾配の乱流境界層のDNSがようやく各国で行われ始めた状況でしたが,一方で,剥離乱流境界層のDNSは今後の発展を待たれる状況でした.このような状況のもと,剥離乱流境界層のDNSで当時世界最大規模の計算を実施し,剥離・再付着点や乱流剥離泡のレイノルズ数依存性の研究,航空分野で用いられる乱流モデルの開発を実施致しました.

  振り返ってみますと,これらのDNSが実現できたのは,共同研究者の皆様の強力なサポートはもちろんのこと国内外の研究者との議論の場が常にあったことが大きかったものと思っております.今回の受賞を糧としまして,今後も複雑乱流現象の理解・予測に資するDNSを積極的に実施し,国内外の研究者と切磋琢磨しながら,流体工学の発展に寄与できるよう努めてまいります.

更新日:2017.5.25