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第95期 (2017年度)流体工学部門 一般表彰(フロンティア表彰)

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一般表彰(フロンティア表彰)


佐藤 岳彦(東北大学)

受賞理由:

 大気圧プラズマによる流れと生体の相互作用や水中プラズマの反応流動機構解明に向けた実験的研究で優れた業績を多数挙げ,流体工学的手法を用いた滅菌技術などの生体応用分野で先駆的な役割を果たしてきた.

受賞のコメント:

 この度は、流体工学部門一般表彰(フロンティア表彰)を賜り大変光栄に存じます。ご推薦を頂いた皆様ならびに共同研究者の方々,今までご指導を下さった先生方に深く御礼を申し上げます。今回受賞の対象となった研究は、大気圧プラズマによる流れと生体の相互作用ならびに水中プラズマの反応流動機構を明らかにしたものでありますが、いずれも異分野との融合領域であり、多くの方々に支えられてこそできた研究だと感慨深く感じております。

  大気圧プラズマと生体の相互作用の研究は、2003年にSARSアウトブレイクがあり、病原性微生物に対する予防技術の重要性を強く感じたことをきっかけに、身の回りを簡便に殺菌できる装置を作りはじめたのが最初です。より簡便に効果的に殺菌する装置を開発したところ、プラズマが誘起する流れが効率の良い殺菌に重要な役割を担っていることが分かり、流体工学との繋がりを強く意識するようになりました。また、プラズマ殺菌の研究中にプラズマによる細菌増殖の現象を発見し、生体応答の面白さに触れ、その後プラズマと細胞の相互作用に関する研究に展開することになりました。細胞応答においては、プラズマが生成する化学種の中で、過酸化水素が不活化の鍵となる因子であることを特定することができました。おかげで、次世代のガン治療や再生医療に向けて発展している「プラズマ医療」の創成期に立ち会うことが出来ました。水中プラズマについては、生体内治療用のプラズマを発生させる手法の研究に取り組んだのがきっかけです。最初に作製した水中プラズマ装置から大量の微細気泡が発生したため、その気泡の発生機構を調べているうちに水中放電の開始・進展機構の解明につながりました。しかしながら、水中の電荷輸送機構などは未だ不明で、今後も継続して取り組みたいと考えております。また、一連の研究において、プラズマが誘起する気泡のガス成分に水素が含まれていることを明らかにできたのは、異分野融合の成果だと感じております。現在は、水中放電の研究の出発点となった、気泡の微細化や安定化に関する研究を進めているところです。

 今回の受賞を励みに、人々の生活をより安全かつ豊かにする研究につながるよう,また流体工学部門の発展に少しでも貢献出来るよう、尽力していきたいと思っております。


一般表彰(フロンティア表彰)


坪倉 誠(神戸大学)

受賞理由:

 複数の偏微分方程式群と異なる時空間スケールで支配される複雑な流体現象を統一的に扱うための連成シミュレーション手法を開発し,優れた業績を多数挙げた.自動車における次世代空力非定常解析の分野でも先駆的・先導的な役割を果たしてきた.

受賞のコメント:

 この度は、栄えある日本機械学会流体工学部門一般表彰(フロンティア表彰)を賜り、誠に光栄に存じます。ご推薦下さった方々と選考関係者の皆様に深く御礼申し上げます。

  推薦理由となっている複雑流体現象統一的解法の研究開発は、2012年に理化学研究所 計算科学研究機構にて、我々の研究チームが発足した際の中心研究テーマとしてスタートしました。産業界に見られる複雑複合流れ現象を対象に、超並列計算環境を有効に活用し、現在産業界で主流となっている既存シミュレーション技術では扱うことが難しい問題に対してブレークスルーをもたらすような、次世代のものづくりの基盤シミュレーション技術を構築することを大きな目標に掲げて、活動を続けてまいりました。この目的のために、統一データ構造として中橋先生が提唱されたBuilding Cube Methodを採用し、流体運動や構造変形に対して統一的な方程式を適用することで、京コンピュータの超並列計算で高いスケーラビリティと対ピーク性能比を確保しました。本解析手法はまだまだ開発段階であり、現在、ポスト京を見据えて開発を加速させています。その一環として、2017年11月には理研コンソとして「HPCを活用した自動車用次世代CAEコンソーシアム」を発足させ、この中で産学連携で研究開発を進めることが決まっています。

 最後になりましたが、本研究活動で中心的役割を果たしてくれた理化学研究所 計算科学研究機構 複雑現象統一的解法研究チームのメンバー一同をはじめとして、研究成果の実証に携わって頂いた自動車を中心とする産業界の皆様にも、心よりお礼を申し上げます。ものづくりの現場で苦労されている皆様に対して、少しでも研究成果を役立てたいという理研メンバーの情熱と大きな努力なしにはこの成功はなかったと確信しています。今後もフロンティア表彰の名前に恥じぬよう、メンバー一丸となって、次世代ものづくりCAEの最前線を牽引していく所存でいます。


一般表彰(フロンティア表彰)


長田 孝二(名古屋大学)

受賞理由:

 化学反応を伴う液相乱流の統計的性質について実験と数値計算からアプローチし,乱流拡散現象解明において優れた業績を多数挙げた.また,格子乱流など乱流の本質的な特性解明における新規性の高い分野でも先駆的,主導的な役割を果たしてきた.

受賞のコメント:

 この度は,栄誉ある流体工学部門一般表彰(フロンティア賞)を賜り,大変光栄に存じます.ご推薦をいただきました方々や関係者の皆様に厚くお礼を申し上げます.また,受賞対象となった研究は小森悟名誉教授(京都大学)ならびに酒井康彦教授(名古屋大学)のもとで行われたものであり,多大なご指導ならびにご支援をいただきましたこと,この場をお借りして厚くお礼申し上げます.

  受賞対象である格子乱流ならびに化学反応ですが,当時九州大学で助教授をされておりました小森悟先生より卒業論文のテーマとして与えられたのがきっかけで,以降四半世紀以上が経過しましたが,いまだに興味をもって研究を行っております.卒業研究では,格子乱流は準一様等方性乱流をつくるための「道具」として用いました.酢酸水溶液とアンモニア水溶液を予混合のない状態で格子乱流場に供給し,レーザドップラ流速計とレーザ誘起蛍光法を組み合わせて瞬間速度と瞬間濃度を同時測定しました.酢酸もアンモニア水も強烈な刺激臭があり,狭い暗室の中で連日黙々と実験した日々を思い出します.格子乱流を道具として用いる研究はその後も続き,修士課程では温度差や塩分濃度差による安定および不安定密度成層の実験に用いました.卒業研究で行った化学反応を伴う乱流にも依然興味があったため,密度成層乱流場で化学反応が起こる場合の浮力の影響を調べました.2005年に名古屋大学に異動してからは,乱流の急激な変形によって生じるコーナー部での二次流れに関する実験を行うため,同じく乱流生成のための道具として格子乱流を用いました.この実験では,2003年のUniversity College London留学中にJ.C.R. Hunt教授から学んだ急激変形理論の検証ができました.同じくロンドン留学中にImperial College LondonのJ.C. Vassilicos教授を訪問した際にフラクタル形状を有する格子をみせていただき,それ以降,様々な格子による乱流の生成と減衰過程に興味を持つようになり,風洞実験と直接数値計算を行ってまいりました.今年秋からは京都大学より移設した風洞も稼働しますので,今後も関連研究を続けていきたいと思っております.

 最後になりましたが,これらの研究を遂行するにあたり貴重なご意見をいただきましたJ.C.R. Hunt教授,P.A. Davidson博士,J.C. Vassilicos教授に深くお礼申し上げます.また,研究を遂行するにあたって多大なご協力をいただきました研究室メンバーおよび技術職員の方々にお礼申し上げます.


一般表彰(フロンティア表彰)


渕脇 正樹(九州工業大学)

受賞理由:

 弾性翼の非定常推力・揚力発生機構について実験と数値計算からアプローチし,優れた業績を多数挙げた.蝶など生物の飛行メカニズム解明にも大きく貢献し,生物流体の分野でも先駆的,先導的な役割を果たしてきた.

受賞のコメント:

 この度は,栄誉ある流体工学部門一般表彰(フロンティア表彰)を賜り,大変光栄に存じます.ご推薦をいただいた先生方,関係各位ならびにこれまで研究面で多大なご指導とご協力を下さった皆様に厚く御礼申し上げます.

  受賞理由に挙げられた研究の契機は,恩師の田中和博先生(九州工業大学名誉教授)に与えて頂いた修士論文の研究テーマ「ピッチング運動を行う翼に伴う非定常はく離」になります.同期が与えられたターボ機械の実験や数値シミュレーションに関する研究テーマを横目で華々しく感じながらも,その基礎現象の理解に一心不乱に取り組んでいた気がします.その中でも,自身で組み上げた実験装置により浮かび上がる渦のダイナミックな動きに強く心惹かれたことも鮮明に覚えています.特に,シュリーレンおよび蛍光染料による可視化システムを構築し,運動翼前縁から連続的に発生する離散的な渦,また,その離散的な渦群から構成される前縁はく離渦とその再付着現象を捉え,さらには,ロボットハンドに用いられていた小型六軸力覚センサにより,非定常流体力を直接計測することで,これらの流れ場と非定常揚力特性を関連付けられた時には,流体力学の魅力に少しだけ触れた気がしました.また,非定常はく離現象のほんの一旦を垣間見たことで,渦,非定常はく離と言った基礎現象の理解に,より醍醐味を感じるようになりました.学位取得後,九州工業大学の助教をしていた時に,当時の学生から「蝶は,何故,飛ぶことができるのでしょうか?」という質問を受け,明確な回答が答えられず,悶々としていた頃,蝶のしなやかなに変形する翅まわりの流れはどのようになっているのだろうかと思い,その基礎現象として,弾性を有する運動翼まわりの渦流れ構造について研究を始めました.弾性翼は,その作製を業者に頼ることなく,研究室内で作製し,PIV計測,非定常流体力測定,さらには数値シミュレーションにより,その非定常流体力特性が無次元曲げ剛性およびSt数により帰納化できることを見出しました.その一方で,弾性翼まわりの流れ場の応用問題として,飛翔する蝶の翅まわりの渦構造を数種のPIV計測により定量的に捉えることで,今でも,そのダイナミックな渦の動きに魅了されています.しかしながら,いずれもその複雑な渦構造および動的挙動の詳細に対する十分な結論付けは未だ見出せていません.そのような意味でも,この受賞は流体工学部門からの期待のこもった激励であると受け止めております.今後,そのご期待に応え,少しでも流体工学の発展に貢献できるよう,これまで以上に研究に邁進したいと思っております.

  最後になりますが,研究の契機をくださり,これまで温かくご指導頂いた田中和博先生,ご指導賜りました数多くの先生方,研究室スタッフ,そして何より,一緒に実験および解析に取り組んでくれた研究室の卒業生および学生に深く感謝申し上げます.

更新日:2017.12.26