流れの読み物

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流れ 2000年11月号 目次

― 特集 自然エネルギー ―

  1. ネパール・ブジュン村の極小水力発電所建設
    (中瀬 敬之 前徳島ネパール友好協会会長,徳島大学工学部)
  2. 急進展する風力発電 陸から海へ
    (牛山 泉 足利工業大学)

― 研究会紹介 ―

  1. 研究会紹介 : 「新エネルギー研究会」が発足
    (林 農 新エネルギー研究会 主査,鳥取大学工学部)

― 海外研究動向 ―

  1. : ライス大学滞在記
    (野々下 知泰 上智大学)
  2. 海外研究動向 : Imperial College...そしてパブ
    (川添 博光 鳥取大学)

― 開催行事報告 ―

  1. : 風に負けるな,水を超えろ! 第6回 流れと遊ぶアイデアコンテスト
    (石綿 良三 神奈川大学システムデザイン工学科)

 

  1. 第78期流体工学部門講演会報告
    (実行委員長 杉山 弘 室蘭工業大学)
  2. 78期流体工学部門賞の選考と授与
    (総務委員会委員長 重河 和夫 ㈱神戸製鋼所)
  3. 学生の欄 : 実験流体力学トークインに参加して
    (細野 晃裕 岐阜大学大学院工学研究科)
  4. 開催予定行事案内
  5. 広報委員会からのお知らせ

 

海外研究動向 : Imperial College...そしてパブ

川添 博光
(鳥取大学)

 ミレニアムにあたる1999年10月末から2000年8月末までの10ヶ 月間,文部省の在外研究員として英国ロンドンにあるImperia l Collegeに滞在する機会を得ました.Imperial Collegeはヒースロー空港を通る地下鉄ピカデリー線のサウスケンジントン駅から 北のハイドパークに向かって徒歩約10分のところにあります. この近くには自然史博物館,科学博物館,ビクトリアアルバート 美術館,ロイヤルアルバートホール,さらには大使館などがあ り,したがってこの近辺の住居費はビックリするほど高い文教地 区となっています.なお,私は片道約1時間をかけてロンドン北 部のフィンチェリーというところから地下鉄通勤をしました.
 私はImperial Collegeの機械工学科,熱流体セクション(Thermofluids Section)のWhitelaw教授のところでお世話になったわけですが,この機械工学科は,図1に示すように,6つのセ クション(日本の大学における大講座に相当する感じ)とそれを サポートするサービス部門から成り立っています.各セクション の最後の数字は教授の数を表していますが,Thermofluidsセク ションは本学科で最大の大講座となっていまal Collegeには学科およびセンターの数を全部合わせると53ほどに も達しますが,その中で流体関係の研究が行われていると思われ る学科として機械工学科の他に,航空学科,土木・環境工学科, 物理学科などがあります.そして機械工学料のそれぞれの大講座 には,アカデミックスタッフとして,教授(Professor),リーダー (Leader),シニアレクチャラー(Senior Lecturer),レクチャラー(Lecturer),リサーチフェロー(Research Fellow)がいて,さらにポスドク,PhDの学生がいます.以上がおおよその機械工学科 の構成です.


▲図1 Imperial College 機械工学科

 Thermofluidsセクションにおいて私が受け持った 研究は,内燃機関の混合気形成に関するもので,主にレーザを使った光計測です.これはかつて私が豊田中央研究所でお世話になっていたとき Whitelaw教授が訪問され,お会いしたことがあってそのときの私 の印象が彼に強くあったようでこの研究を担当することになった ものと思います.この研究は自動車のF1レースにも参戦してい るJaguar-Cosworthとの研究プロジェクトで,Whitelaw教授および同じくThermofluidsに属するArcoumanis教授がその代表に なっておられるもので,私はPhD学生の1人とその研究に取り 組みました.この学生は途中で腰の骨を折る事故に遭い研究は途 中からペースダウンとなりましたが,点火栓と燃料噴射弁を近づ けて着火性を確保しつつ希薄燃焼を達成しようという概念のもの で,ピストン頂面に複雑なキャビティを必要とせず,またいろい ろなエンジンへの展開も容易といった長所を有しています.その 基礎的研究を担当したわけですが,このコンセプトに対して生意 気にも自分の意見がありましたので彼らと衝突するような議論も しました.議論したと私が勝手に感じているだけかもしれません が,これもまたいい経験になったと思います.

 最後の2ヶ月ほどはRoverの研究プロジェクトをResearch FellowのNouri博士および別のPhD学生と担当しました.これも先 の研究と同様な内容のもので,LDV(Laser Doppler Velocimetry)とPDA(Phase Doppler Anemometry)による気流および噴霧計測が中心となりますが,時間的都合によりLDV計測を終えたとこ ろで帰国となりました.ところで,お世話になったArcoumanis 教授は今秋,Imperial CollegeからLondon City Universityへ転出されるとのことで,このニュースレターが出る頃には既に移動されているものと思います.

 Whitelaw教授,Arcoumanis教授,そしてTaylor教授はお互い に連携しつつ,3~4つほどの大きな実験室の中をパーティ ションで仕切って,その一つ一つの中で個々の研究が進められています.その大半がEuropean Union,そして米国や日本をはじめとする世界各国からの共同研究でいわばスポンサー付のものです.日 本の国立大学においても独立行政法人化が進行中ですが,私たち もこのような研究体制が取れればと羨ましい限りでした.しかし ながら我が国では,国民(企業も?)の舶来指向もさることなが らこれを可能にする社会的背景も不十分で,これが整うにはまだ まだ時間がかかるような気がしました.Thermofluidsセクション の私が滞在した周りではその90%ほどがスポンサー付の研究であ り,これをPhD学生,ポスドクそしてアカデミックスタッフが サポートしながら着実に,しかし日本ほどバタバタせずにやや ゆっくりペースで進んでいるように感じました.もちろん,将来 を考えての基礎研究にも着手しており,私にはむしろこちらの成 果の方が楽しみです.

 以降,話題を変えて少し個人的なそしてやや感覚的な話をします.私は渡英にあたって次のような4つの目標を持っていまし た.

(1)Imperial Collegeおよびそこへやってくる研究者と知り合いになろう,
(2)英語,特に会話が上手になろう,
(3)研究をやろう,
(4)家族ともっと触れ合おう,の四つです.

研究が3番目 になっていますがこれはさておき,(1),(3),(4)はほぼ満足で きるものでした.問題は残りの(2)英語で,40代半ばという私 の年齢のせいもあると思いたいのですが,自分には外国語がダメ だろうという深刻な雰囲気になることも度々あり,今ではもう仕 方ないと諦めているほどです.ヒアリングについては徐々に慣れ てくるような気がしましたが,スピーキングは私の限られた数少ない構文と単語で一生懸命に頭の中で作文しているのです.日本 にいるときから“よし,ロンドンへ行ったらセキュリティ の人(写真1:機械工学科セキュリティのカーティスさんと)から掃 除のおじさんおばさん,そしてレジのお姉さんとも話をして会話の練習をしよう”などと意気込んでいましたが,“Good morning”そしてそれに続く決まり文句程度でなかなか上手くはいきません でした.また,会話にもう一歩入り込めるような共通の話題もな かなか見あたりません.一方,研究の話になるとこちらが内容を 知っていることも手伝って少しはましになりますが,いざこちら が言いたいことを頭で作文していると,その間にどんどん話が進 んでいってしまってストレス蓄積といった具合です.“少しでも 多くの人と接すること”が大切だと考えていたわけですが,それ がどうも上手く続かずに何ともやり切れないまま帰国の段となり ました.今度このような機会があったら,一つの場面で何か一つ でいいから言い方を覚えてしまってそれを積み重ねていくといっ たやり方をやってみたらどうかなと思っています.

 次に,Imperial Collegeの中には私が知るだけでも3つほどのパブがありますが,このパブは英国においてみんなが気楽に集まってお喋りする場,人との出会いや分かれの場(写真2:私の歓送会で),ときには深刻な話をしたり意見を戦わせたりする場( 写真3:ついつい議論に)など掛け替えのない場を,しかも安価に 提供してくれます.かつて日本でもよく使われた寄合場とか公会 堂に相当するのでしょうが,パブは毎日使われますし,しかも小 綺麗にしてあって,アルコール(主にビール)も用意されているので,私にはかなりの吸引力がありました.サッカーの試合など があるとそれはもう応援の場一色に変わって大騒ぎですが,これ も仲間意識を高めるのに一役買っているのでしょう.このパブは お店の周りが花で飾られていることが多く,ビール1杯(1パイ ント=450~500cc)が1.5~2.5ポンド(240~400円)程度でそ の種類も多く,普通は料理などありませんからとても経済的に気 の合った仲間と語りあうことができます.これはイングランドに 限らずスコットランドでも同じで,恐らく他のウェールズ,北ア イルランドも同じでしょう.このパブのような場が日本にあった ら,新しい製品や技術,そして研究の創造にきっと役立つだろう と,そして退職したら赤字覚悟でパブでもやって暮らそうかなど と思いながらペンを置きます.

 


▲写真1 機械工学科セキュリティのカーティス氏と

▲写真3 パブではしばしば議論へと進展

▲写真2 サウスケンジントン駅近くのパブで私の歓送会
更新日:2000.11