ニューズレター

流れ 2006年9月号 目次

― 特集: 風洞・水槽で流れを造る ―

  1. ACサーボモータでファンを駆動する風洞による風速風向変動の生成
    野村卓史(日本大学理工学部)
  2. 乱流風洞による実験的研究の可能性
    関下信正(豊橋技術科学大学)
  3. 風車の風洞実験
    前田太佳夫(三重大学),鎌田泰成(三重大学)
  4. インデックスマッチングを利用した流れの可視化実験
    西野耕一(横浜国立大学大学院工学研究院)
  5. 編集後記
    磯 良行(石川島播磨重工),安藤 俊剛(三重大学),
    東村 哲志(シーディー・アダプコ・ジャパン),辻 知宏(高知工科大学)

 

風車の風洞実験


前田太佳夫
三重大学


鎌田泰成
三重大学

1.はじめに

 風車翼に流入する流れは非定常であり,また,回転翼周りの流れは遠心力の効果に加えて3次元流れとなり複雑である.また,風車回転速度に対して,風速変動による非定常性および大気境界層による空間的風速変化の影響が相対的に大きいため風車翼周りの流れは非常に複雑となる.

 最近ではCFDにより風車周りの流れ解析も行われているが,日々進展する風車翼形,年々大型化する風車規模に対してCFDは設計ツールとしては利用されず,現状では翼素運動量複合理論で風車翼は設計されており,CFDはそれの検証にとどまっている.これは風車を取り巻く運転環境が複雑であることが原因であるとともに,風車周りの流れに関して十分な測定データが揃っていないことが要因である.

 著者らはこれまで風車や風力エネルギに関する様々な計測を行ってきた.本報告では風洞を用いた風車回転翼周りの流れ計測の例を紹介する.

2.ロータ周囲の速度測定

 翼形は二次元解析によって設計されるが,それを風車翼として用いると三次元性や回転効果などにより設計値とは異なった性能を示すため,その解明に向けてロータ周囲の速度場を風洞実験によって測定している (1) .

 図1に風洞実験設備装置を示す.風洞は吹出口径 3.6m、最大風速30m/sの単帰還式回流型風洞である.写真手前の円筒部分にファンが設置され、建物内に計測部が設けられている.図2は実験用風車を示す.供試風車はロータ直径2.4mの3枚翼水平軸風車である.風車ナセルには増速機,発電機,トルク計,回転計および回転角検出用エンコーダが取り付けられている.ロータ回転数は発電機をインバータ駆動することにより停止から600rpmまで任意に設定できる.ロータ周囲の速度測定には,後方散乱式2次元レーザードップラ流速計(以降LDVと記述する)を使用する.LDVプローブは,風洞測定部全体を覆う主流方向5m×幅方向4.5m×高さ2.5mの範囲で移動可能な3次元位置決め装置に取り付けられている.プローブは焦点距離1m,1.6mおよび2mのものを測定対象位置によって使い分けている.検査体積は焦点距離2mのものでは直径0.15mm,長さ4.3mmである.トレーサはエアロゾルである.主流風速はロータ回転面より上流に設置したピトー管により測定する.

 実験の手順としては,主流風速と翼ピッチ角を設定し,ロータ回転数をインバータによって変化させて行う.LDV測定は, x-y面内の速度成分u,vおよびx-z面内の速度成分u,wを別々に測定し,これらの速度成分を合成し翼周囲の3次元速度成分としている.翼が検査面を通過するときをアジマス角0°として−30°〜90°の120°の範囲で測定している.流れの速度はアジマス角0.4°刻みで測定し,1.2°ごとの角度範囲内の平均値を計算して記録し,ロータ9回転分以上測定を行いアジマス角によって位相平均している.

 図3にLDVで測定したロータ近傍の速度ベクトル図を示す.図3 (a)は低回転時の失速状態,(b)は最適状態,(c)は過回転状態を示す.各図において左は翼が測定面を通過した直後の回転角Ψ=6°,右は1回転にわたる平均速度のベクトル図である.最適状態および過回転時と比較して,失速状態のロータ周囲流れは後流中に大きな乱れ領域を含み,翼端付近において翼の失速が顕著である.

 図4にLDVで測定した翼端近傍の速度ベクトルの例を示す.風車は最適周速比で運転されている.図は翼端を斜め後方より見ており,翼端が測定面を通過した直後の流れを示す.図より測定面において翼端を回りこむ流れが確認できる.(図をクリックすると翼通過により引起される測定面での流れ場の変化が時系列で確認できます)

図1 三重大学大型風洞実験設備

図2 風洞実験用風車

図3 風車翼周囲の速度ベクトル(主流方向および半径方向成分)

 

図4 風車翼端周囲の速度ベクトル
(クリックするとアニメーション開始)

3.翼面上の圧力測定

 ロータ周囲の速度場の観察は現象の理解には有効である.しかし,ロータに発生する流体力を定量的に評価し解析するためには翼に発生する圧力を測定する方がより直接的である (2) .図5に翼面上圧力分布測定の信号系統図を示す.圧力センサは半導体式差圧センサで, 32点の測定圧力ポートおよび基準圧力ポートを持ち,定格は±7.65kPaである.センサ受圧膜への遠心力による影響を避けるため,圧力センサは風車ハブ内の回転中心に取り付け,さらに受圧膜が回転面と平行になるように固定した.基準圧力は遠心力の影響を受けない回転中心での圧力とした.圧力センサで検知した圧力は電圧信号として回転系上のボス内のA/Dボードに入力されデジタル値に変換された後,ナセル主軸に取り付けた白金スリップリングを通して静止系へ送られパソコンで記録される.この際,スリップリングでノイズが乗らないようにUSBを使って信号を伝送している.サンプリング速度は1チャンネル当り0.1msecであるため32チャンネルを1組としたときの時間誤差は3.2msecであり,これは本ロータの最適周速比λ=5.2において5.6°に相当する.またサンプリングデータはロータ100回転分のデータを位相平均して記録した.

 図6に圧力測定孔の配置を示す.翼表面に直径 0.4mmの圧力検出孔を設けてある.翼表面直下には内径0.6mmの銅パイプが翼端付近から翼根元にかけて埋め込んであり,風車ボス内の圧力センサに導かれる.圧力測定断面は半径方向にr/R=0.3,0.5,0.7および0.85の4断面に配置してある.測定した圧力分布を翼表面にわたって積分することにより翼に発生する流体力を計算することができる.しかし,この測定によって得られるのは圧力抵抗であり摩擦抵抗は測定できない.揚抗比にもよるが摩擦抵抗分として数%の誤差を含むことになる.

 回転翼については迎角を定義することが困難であるために,図7に示すように翼弦線を基準とした翼弦方向力係数 Ctと翼厚方向力係数Cnを定義して,測定結果を整理した.

 図8 (a),(b)には翼中程r/R=0.5における圧力分布およびCt−Cn曲線を示す.図には静止状態における測定結果も示してある.r/R=0.5では回転状態と静止状態ではCt−Cn曲線も圧力分布も似た傾向となる.図9(a),(b)には翼根元r/R=0.3の測定結果を示す.図から翼根元では静止状態の場合よりも回転状態の方が正圧面と負圧面との圧力差,つまりCnが大きいことがわかる.これは翼根元では半径方向流が翼面上境界層に与える影響が顕著であるためと推察される.また,前縁はく離状態にある失速時には,翼根元の負圧面上の圧力係数は静止時よりも回転時の方が大きくなるため,Ct−Cn曲線に違いが生じる.

図5 翼面上圧力分布測定の信号系統図

 

 

図6 圧力測定孔の配置

 

 

図7 翼素に作用する流体力の定義

 

 

図8  r/R=0.5における圧力分布およびCt−Cn曲線

 

 
図9  r/R=0.3における圧力分布およびCt−Cn曲線

4.後流測定

 風車本体の価格に対するインフラ整備(道路,送電線など)のコストの割合を抑制するために単基よりも複数基を設置するウィンドファームが一般的になってきた.ウィンドファームの場合,上流側風車の後流内に下流側風車が配置されると下流側風車の設備利用率が低下するため,現状は風車間距離にかなり余裕を見込んで設置されている.しかし,土地の有効利用の点からは限られた面積により多くの風車を設置したい.そのため後流に関する知見が必要とされており,当研究室では風車後流の速度場を粒子画像流速計(以降PIVと記述する)を用いて測定した (3).図10にPIV実験装置の配置図を示す.出力120mJのダブルパルスYAGレーザを用い,CCDカメラで画像を取得し処理する.トレーサは粒径2〜3μmのエアロゾルを用いて風車回転面に均一にシーディングする.PIVによって取得される1画像当たりの大きさはx方向幅120mm×y方向幅90mmに設定し,これを複数枚重ね合わせることにより後流の二次元速度ベクトル分布を作成した.後流内の各測定断面では翼が水平位置にあるときをアジマス角0°として,ここから20°毎に120°までサンプリングし,アジマス角ごとに25枚の画像を撮影し,その位相平均をその測定断面でのベクトル図とした.

 図 11は後流の等速度線図と等渦度線図を示す.この実験から,ロータの2D〜3D下流まで翼端渦が捉えられ,また,翼端渦が消滅した3D下流付近から後流域の拡大が観察された.このことから,後流は誘導渦による速度減少によって発生すると推察される.

図 10 PIV実験装置の配置図   (a) 等速度線図 (b) 等渦度線図 図 11 回転面より1D 下流の後流の等速度線図と等渦度線図

5.おわりに

 現状の風車は「温暖化防止エネルギ源」として普及しているが出力係数が向上すれば「石油代替エネルギ源」として風車本来の価値も確立することができる.作動円板理論では風車出力係数 Cp=0.59(ベッツの限界)が得られるが,実際には風洞実験でCp=0.45程度であり,また,商用風車では起動性や騒音を考慮してロータ径を大きめに,回転数を低めに設定してあるためCp=0.30程度となる.そのため実機と理論の差はまだまだ大きいので,材料や電気など他分野との協力も得て,私たちとしては詳細な測定が可能な風洞実験,実機風車によるフィールド実験とを組み合わせて,空力研究を進め風車の性能向上に貢献したいと考えている.

参考文献

前田・他3名,風洞実験による水平軸風車翼周りの流れに関する研究,日本機械学会論文集, B71-701 (2005),171.
前田・他3名,風洞実験による水平軸風車翼周りの流れに関する研究(第2報,翼面圧力分布による流れ状態の検討),日本機械学会論文集, B71-705 (2005),
383.
前田・他2名,水平軸風車後流の風洞実験とフィールド実験,日本機械学会論文集, B71-701 (2005),162.

更新日:2006.9.28