ニューズレター

流れ 2008年12月号 目次

― 特集テーマ:「再生可能エネルギーと流体工学」 ―

  1. 地球温暖化防止の切り札としての風車
    荒川 忠一(東京大学)
  2. 風力タービンと流体工学   
    前田 太佳夫(三重大学)
  3. 複雑地形上に立地された風車近傍に発生する地形乱流の影響について
    内田 孝紀(九州大学)
  4. 浮体式波力発電装置”後ろ曲げダクトブイ”の開発
    永田 修一(佐賀大学)
  5. 波力発電用往復流型タービンの開発
    高尾 学(松江高専)   
  6. 編集後記(鎌田,木上,帆足)

 

風力タービンと流体工学


前田太佳夫
三重大学

1.はじめに

 風力発電は環境配慮型の再生可能エネルギーの中でも経済性と効率に優れており,世界の風力発電は年30%の勢いで成長している.現在の累積設備容量は100GWを超え,これは原子力発電所100基分に相当する.風力産業は2007年の単年度だけでも20GWに拡大されており,今後,益々成長することが予想されている.一方,国内では,欧州主導の国際規格にしたがって製作,輸入された風車が日本の台風や高乱流などの厳しい気象条件に適合しないことによる課題が顕在化している.風力発電は地球温暖化とエネルギーセキュリティへの対策として優れており,国内産業育成やサプライチェーンの拡大などについても期待できる再生可能エネルギーの優等生として,技術的課題を抽出した次世代風力発電のシナリオが展開されつつある.本稿では,風力発電技術の中でも,風力タービン本体に関連した「次世代風力発電技術」に関連した流体工学の貢献について述べたい.

 

2.超大型風車

 次世代風力発電の技術課題の中で,流体工学に関連したキーワードとしては「超大型風車」および「洋上風力発電」がある.

  風車は年々大型化しており,現状では直径112m,出力6MWのプロトタイプ洋上風車がドイツで試験されている.欧州では海に風車を建設する洋上風車が盛んであり,世界的に洋上風車の導入が進められるとますます風車の大型化が進むと考えられる.風車構成要素の中でもコスト割合が20%以上を占めるロータブレードのコスト低減が大型風車の価格を下げる鍵となっており,ブレードの高性能化や信頼性の向上が必要となる.風車が風から得るエネルギーは風を受ける面積に比例するため,風車発電量は風車直径Dの2乗に比例する.一方,風車のコストは重量(または体積)に依存するためDの3乗に比例する.したがって風車のエネルギーコスト(COE)は直径の3/2乗に比例する.このCOEを低減するために風車の大型化に際しては発電量をDの2乗よりも大きく,重量をDの3乗よりも小さくすることが重要であり,ブレードの流体力学的性能の向上と軽量化・高強度化が課題となる.

  超大型風車は世界中の風力産業が目指しているところであり,欧州では10〜20MW級風車が研究されている.20MW風車は直径250m,ブレード先端部は東京タワーよりも高くなる.この大型風車の開発を支えるために必要と考えられるのが高性能ブレードに関する研究である.ブレード性能を向上させるために自然風の非定常環境においても出力変動が緩やかな風車専用翼型の開発は日々活発に行われている.また,実用的に簡便にできる翼面上境界層制御も採用されており,ジグザグテープによるはく離制御やボルテックスジェネレータによる縦渦制御などが行われている.また,屋外で運転される風力タービンブレードは汚れ易いため,翼表面が汚れても性能が低下しない,粗度に影響されにくい翼型開発も行われている.また,大型風車ではブレードが長くなるために,自重あるいは空力荷重によるたわみが発生する.そのために空力弾性を考慮して風車運転時に最適なフラップ角やピッチ角になるような設計が進められている.

  翼の平面形としては,陸上では低周速比(主流速度に対する翼端速度の比)用のソリディティの大きい幅広ブレード,洋上では高周速比用のソリディティの小さい幅狭いブレードが開発されている.ソリディティが小さいブレードは重量も軽減できるために風力タービン全体のコスト低減に対する効果が大きい.

  その他には,翼端形状の工夫による低騒音化がある.風力タービンのブレードから発生する渦そのものは消し去ることはできないので,翼端形状を工夫することにより,空力騒音の原因となる渦周波数成分や低周波騒音の原因となる周波数成分を影響範囲から外す工夫が研究されており,一部実用化されている.

  発電用風車は,ブレードのピッチ角を固定して運転し,ロータ回転数を増速機で増速させて発電機に伝える形式から始まった.これを”デンマークコンセプト”と呼ぶ.しかし,固定ピッチ角によるブレードの失速制御は,風車起動から定格に至る過程で失速点を越えるため揚力のオーバーシュートが発生し,また出力制御が難しいため徐々に姿を消し,出力制御が容易な可変ピッチ角制御へと移行してきた.しかし,洋上風力発電の推進にともなう風車大型化により,ブレードも長大化し,ピッチ角制御を行う油圧・電動機構も強固なものが要求されるようになってきており,コスト削減や寿命・信頼性の向上のためには今後は固定ピッチが復活する可能性もある.固定ピッチ角制御が見直されると失速特性を改善した翼型などの,翼型そのものの開発がさらに活発化すると思われる.

  また,洋上風力発電のようにアクセスが難しい地点に風車を設置する場合には,ブレードに作用する流体力や疲労荷重をモニタリングすることにより,個々のブレードのメンテナンス時期の把握やブレード寿命の延命を図ることが可能になる.このようなセンサ計測技術やコンディションモニタリングが今後の風力タービンの運転には必要とされている.

 

3.洋上風力発電

 風力発電の導入については,陸上の好風況地点は有限であるとともに偏在している.風力発電の導入が積極的に進められている欧州では陸上における風車の設置が飽和しつつあり,海に風車を建設する「洋上風力発電」の開発が進められており,2020年に40GWの導入目標が掲げられている.

  欧州では水深20m程度までの浅い沿岸部が沖合いまで広く存在し,そこに洋上風力発電の設置が展開されている.陸上と比べて洋上では高さ方向への風速変化,および風速や風向の変動が小さいなどの風の条件に対する利点がある.また,大型風車の場合には,その大きさと重量から陸上では輸送に対して障害が生じるが,洋上では輸送が容易である.さらに,風車に対する景観や騒音などの問題が発生しないために社会的受容性が向上する.

 欧州の水深20m程度の浅い海では,海中に設置する橋梁基礎の従来技術の延長上で洋上風力発電の開発を進めることができた.しかし,日本においては沿岸部に近い地点でも水深が非常に深いため,欧州とは異なった深い海域に風力発電を設置する新技術が必要となる.また,風力発電は回転するターボ機械であるから,洋上風車の設計には橋梁のように静的風荷重と静的波荷重だけから計算するわけにはいかず,回転する風力タービンの変動荷重も解析が必要となり,風力と波力の連成問題が発生する.現状の技術では,波力による基礎部分に作用する荷重に,風力タービン自体による荷重を加えて強度計算されているが,これは過剰設計になるため,今後は風力と波力を連成した最適設計が進められると考えている.

  また,風況の良い地点は水深が深いため,浮体式洋上風力発電も検討の価値がある.日本は海に囲まれており海洋に関する資源は十分にあり,その資源を風力発電に活用することはエネルギーセキュリティの点からもメリットが大きい.

 

4.おわりに

 これまで欧州での大型風車の開発は10年以上先を見据えて開発し成功してきた.日本においても10年後をターゲットとした超大型の30MW洋上風車開発など壮大な構想のともに技術的課題を洗い出し,それらを着実に解決して技術を発展させ,目標を達成することが必要である.洋上風力発電という目標のもとに欧州が行ってきたような産学官一体のコンソーシアムによって風力発電の研究開発が促進されることを期待したい.

更新日:2008.12.26