ニューズレター

流れ 2008年4月号 目次

― 特集: 次世代二相流研究 ―

  1. まだ道なかば −船の抵抗とマイクロバブル−
    加藤 洋治(東洋大学)
  2. 気泡流だけに見られる面白いウエイク構造
    村井 祐一(北海道大学)
  3. サブミリスケールの気泡発生制御とその計測
    真田 俊之(静岡大学)
  4. 自由エネルギー拡散界面モデルの二相流数値解析への導入
    高田 尚樹(産業技術総合研究所)
  5. マイクロチャネル積層型熱交換器における熱交換特性と微細管内の気液二相流動現象
    藤原 暁子(筑波大学)
  6. オランダ トゥウェンテ大学滞在記
    杉山 和靖(東京大学)
  7. バブルリングの形成過程の観察(流れの夢コンテストに参加して)
    杉本 康弘(金沢工業大学)
  8. 編集後記(牛島,深潟,北川)

 

気泡流だけに見られる面白いウエイク構造


村井 祐一
北海道大学

1. はじめに

 気泡流は単相流に見られない幾多の興味深い流動構造を示す.その流体力学は,実に広い知識を必要としながら,しかも奥深い.著者は12年前に,気泡プルームの微細流動構造という題目で博士号の学位論文を提出した.そのときの悩みは,気泡プルームそのものの内部構造について調べたいのに,狙いに反して,それを取り囲む容器や水面の影響が強いことであった.数値解析であれば,周期境界や無限境界を与えて,この問題を概ね排除できる.しかし実験では排除できない.このような場合,二つの考え方がある.一つは,境界条件に無関係で,いつも共通に現れる気泡流の普遍的な構造を調べることに専念することである.もう一つは,気泡流を支配する境界条件の依存性・敏感性について,さらにより深く調べることである.前者については,色々と研究を重ねてそれなりに成果を挙げることが出来た.気泡同士の相互作用(1),気泡流の逆エネルギーカスケード現象(2),気泡のもたらす乱流構造(3),などである.一方,後者は,科学的・学術的研究としてはしばしば軽視されるテーマである.「境界条件を変えれば結果がかわる」のだから,そんなことを繰り返して新発見であるかのような顔をしてはいけないからである.境界条件別の結果は,微分方程式で例えるところの特殊解に過ぎない.学術論文ではユニバーサルに成立する一般解を求めていることは明らかである.それにも係わらず,この記事では境界条件への敏感な依存というものに焦点をおきたい.そもそもレイリーベナール対流やマランゴニ対流などの自然対流は,境界条件に大変に敏感である.気泡流も浮力対流の一つであり,境界条件に敏感なのである.ここでは浮力によって駆動される気泡流のウエイクについて紹介する.これにより,その流動構造が実に敏感に境界条件によって変化するかについて,改めて実感していただく.そしてそれらが単相流には見受けられない珍しいもので,この現象に色々な利用方法がありそうだという印象をもっていただければ幸いである.

 

2. 単一気泡のウエイク

 Fig. 1は半球殻形状の大きな気泡の浮上に伴う液体のウエイクを可視化したものである.七色のカラーは染料濃度分布であり,それは気泡まわりの液体の流れのPIVによって得られたものである.つまり,計測された速度ベクトル場を利用してスカラー輸送方程式を解いたものである.一つの気泡はその体積の何倍かの液体を輸送する能力をもつ.これが群をなして液体を輸送すると,一般には与えた気体流量の50倍程度の液体流量をもつ噴流が出現する.気泡プルームがダムや貯水槽・浄水槽の自然循環に使われる理由となっている.

 
Fig. 1 単一気泡のウエイクによる液体輸送作用

 

3. 物体まわりの気泡流のウエイク

 Fig. 2は多数の気泡が一様に浮上しているところに柱状の物体を固定したときの写真である.普通知られる円柱の後流パターンはレイノルズ数の関数であるが,そのどれにも当てはまらないウエイクが発生する.それは入れた物体よりも遙かに大きな構造になっている.ウエイクという用語はモノが通った道筋の意味から流体力学における伴流として訳されるが,ここでは第一訳である「目覚め」のとおりの結果となる.空間的に一様に気泡が浮上する状態はそれ自体,不安定であり,なんらかのきっかけによりそれが破壊され,そこで活発に対流が作られる.

 
Fig. 2 円柱と三角柱の上部につくられる単相伴流域

 Fig. 3はもっと色々な形状の柱状物体で実験を行った結果である(4).この図は,気泡の陰影画像に対して画像処理を行い,時間平均ボイド率分布を計測したものである.面白いことに,いずれの形状の物体からも高いボイド率の筋が水平方向に形成される.あたかも衝撃波のようにしてボイド率に大きな勾配が生ずるのである.流速は30cm/s程度であり,それは音速よりも遙かに小さいことから衝撃波ではない.これはいわゆる二次元のボイド波である.側部にエッジをもつ正方形柱の(d)のパターンでは,物体サイズよりも2倍以上にわたり気泡が水平方向に飛ばされている.その結果,物体上部には大きな液体単相領域が形成される.このような二相流のウエイクが発生したときの物体に作用する抗力は,気泡流の主流方向に作用するのではないことも計測された.すなわち気泡流中の物体には負の抗力が作用するのである.これは無論,単相流にはありえない現象である.ただしこれは見かけの解釈である.運動量をもつのは液体であり,気泡群は正味の運動量をもたない空洞群である.従って,相対的には気泡群は負の質量をもつ物体の流れと解釈することが可能で,そのような理解をしておけば,負の抗力の発生は当たり前のことなのである.バブルが浮上する大浴場で,そこで手足を入れるとしよう.すると図のような流れが発生し,手足には下向きの力が作用して,多少,重く感じるのである.

 
Fig. 3 様々な形状の柱状物体がもたらす気泡流の妙なウエイク構造

 Fig. 4は流線型や楕円体の物体を入れてみた場合である.予想どおりあまりウエイクが発生しないが,その理由は単相流のそれと異質である.つまり,気泡の物体に対する衝突頻度が低下したためである(5).単相流では,物体に対する衝突回数という概念は希薄気体のみである.同図の右側の写真は,星形物体の例である.これは著者と学生とで一緒になって「どんな形状の物体が一番大きなウエイクを作るのか」という問題を考えてみた結果である.物体の下部で気泡が衝突してその曲面を沿って滑らかに加速しながら左右にはじき飛ばされる.物体の上部ではボイド率勾配によって液体に大きな循環流ができているのだが,それを考慮して,流線に沿った曲面を物体に与えた.それにより循環流はさらに肥大化して,このような大きなウエイク領域をもつようになる.この場合,物体サイズの11倍の面積をもつウエイクを示した.この4頂点タイプの頂角対抗配置の星形物体以上に大きなウエイクをもつ形状はないと考えている.この形状を活用すると,好気性バイオリアクターや自然循環の安定な制御に利用できるので,関心のある方はお問い合わせ頂きたい.


Fig. 4 流線型・楕円・星形の物体での気泡流ウエイクの差異

 Fig. 5はこのような現象を詳細な数値解析によって明らかにしたものである.解析には気泡流のオイラー・ラグランジュモデル(6)を利用した.この図では個々の気泡に作用する慣性力(付加質量作用),圧力(ただし浮力が主役),抗力,揚力の寄与成分をカラーで表示している.円柱の下部では,抗力と浮力が平衡して,多数の気泡が整然と一様に浮上している.ボイド率波面上では大きな抗力が作用し,浮上速度を失って横に移流している.揚力は上部におけるボイド率勾配の大きな部分で液体の剪断によって発生し,それによって乱れた液体から気泡に揺動運動が加えられ,その領域一帯で慣性力の寄与分が高くなる.

 
Fig. 5 Euler-Lagrange解析による気泡群に作用する力の成分分析

 

4. 円柱群の間の気泡流

 前節までに述べたような流れは,密に配列する円管群の間の流れ(7)(8)に密接に関係している.つまり自然浮上気泡流中に多数の円管が配置されると,より組織的な流れが誘発される.一つの円管が作り出すウエイクが円管サイズよりも大きいので,円管どうしの間隔がそれより短い場合,全体として一体となって挙動するのである.Fig. 6はPIVによって計測した液体の速度ベクトル分布の統計をとり,時間平均の液相運動エネルギー分布を計測したものである.正方規則配置(左側)では鉛直方向にすき間が貫いており,そこを選択的に流れる.千鳥配置(中央)では斜めに傾斜した道筋で液体が流動しており,それが安定で平衡な状態として持続する.ランダム配置(右側)では円柱間のすき間が広い部分で選択的に流動が活性化している.このように,円柱群としての流動は,実は単一円柱の二相流としてのウエイクが猛烈に大きいという結果から説明されるのである.


Fig. 6 円柱群の間に気泡群を浮上させたときの選択的な気泡浮上経路

 

5. まとめ

 気泡流だけに見られるウエイク構造という題目で,著者の実験結果からその実例を紹介した.これらは確かに気泡流だけに見られ,単相流にはないウエイクである.物体に作用する流体力も根本的に異質な機構を持っている.このような気泡流の流動は物体の形状に依存した境界値問題となっている.ここに示したいくつかの実例から,気泡流のコントロール,不安定現象の抑制,あるいは攪拌・対流の活性化について何らかのヒントとなれば幸いである.

 

文 献

(1) A.Kitagawa, K.Sugiyama, Y.Murai, Experimental Detection of Bubble-Bubble Interactions in a Wall-Sliding Bubble Swarm, Int. J. Multiphase Flow, 30 (2004), 1213-1234.
(2) Y. Murai, et al, Inverse Energy Cascade Structure of Turbulence in a Bubbly Flow, JSME Int. J., Ser. B, 43 (2000), 188-196.
(3) Y.Murai, Y.Oishi, Y.Takeda, F.Yamamoto, Turbulent Shear Stress Profiles in a Bubbly Channel Flow Assessed by Particle Tracking Velocimetry, Exp. Fluids, 41 (2006), 343-352.
(4) Y.Murai, T.Sasaki, M.Ishikawa, F.Yamamoto, Bubble-Driven Convection around Cylinders Confined in a Channel, ASME J. Fluids Eng., 127 (2005), 117-123.
(5) A. Inoue, et al., Studies on two-phase cross flow. Part I: Flow characteristics around a cylinder, Int. J. Multiphase Flow, 12 (1986), 149-167.
(6) A. Kitagawa, Y.Murai, F.Yamamoto, Two-way Coupling of Eulerian-Lagrangian Model for Dispersed Multiphase Flow using Filtering Functions, Int. J. Multiphase Flow, 27(2001), 2129-2153.
(7) A. Serizawa et al., Experiment and numerical simulation of bubbly two-phase flow across horizontal and inclined rod bundles, Nucl. Eng. Des., 175 (1997), 131-146.
(8) T. Uchiyama, Numerical analysis of air-water two-phase flow across a staggered tube bundle using an incompressible two-fluid model, Nucl. Sci. Eng., 134 (2000), 281-292.

更新日:2008.4.1