ニューズレター

流れ 2013年4月号 目次

― 特集テーマ:流体工学と世界No.1技術 ―

  1. 東京スカイツリーの構造設計概要
    小西厚夫氏(日建設計)

  2. 高速車両向けトンネル内圧力変動解析
    阿部行伸氏((株)日立製作所)

  3. 高効率ガスタービン用多段軸流圧縮機の開発
    松岡右典氏(川崎重工業株式会社)
  4. 石炭ガス化複合発電IGCCと流体技術
    金子祥三氏(東京大学)

  5. 医療に貢献する生体力学シミュレーションに向けて
    高木周氏(東京大学) 
  6. 大規模数値計算による液体燃料噴霧の乱流微粒化・混合特性の解明
    新城淳史氏(宇宙航空研究開発機構)
  7. 編集後記
    (佐々木, 杵淵, 萩谷)

 

東京スカイツリーの構造設計概要


小西厚夫
日建設計 東京オフィス
構造設計室

1.はじめに

  首都圏のデジタル放送を担う新しい電波塔を設置することが在京TV局6社の間で2003年に企画され,建設地を現在の押上とすることがその2年後に決定される.この新しい電波塔が東京スカイツリー(写真1)である.従って,このタワーは民間の構造物であるが,災害時を含む首都圏への情報送信を担うという高い公共性をもち,政府の中央官庁建物や国内の超高層ビルよりはるかに高い構造性能の実現が課せられる.また,日本に到来する台風と地震は共に強く,結果としてその規格は世界でも類をみないほどに高いものとなる.


写真1 東京スカイツリー

  東京スカイツリーは国内で初めての600m級構造物であるがゆえ,その構造設計では一般の構造物で問題とならない領域が大きなテーマとなる.まず,地上600mに吹く乱れの小さな強い風を定義しなければならない(高層風の観測,写真3).またその高さゆえ,揺れる周期が長くなることで(構造物としての長周期化),地盤の深層構造が意外にも障壁となる(地震の長周期領域の定義;図1).これら新しいテーマに対する取り組みと並行して,新しい概念の制振機構(揺れを抑える仕組)の開発なども行っており,以下ではそれらの概要をご紹介する.


図1 地盤の深層構造と長周期地震動(土木学会HPより)

 

2.高層風などの風観測と耐風設計

  耐風設計に取り組むにあたり,まず600mの高さに至る設計用の強風を定義する必要がある.構造物に加わる風の特性は,建物から見て風上の地表面の状況で決まる(図2)ことから,計画地に於ける直接の高層風観測は必須と判断した.この高層風に対する観測の必要性は,1990年代に国内で盛んに行われた1000m超々高層に対する研究の中で,既に示されていた.

 高層風の観測方法としては当初,ドップラーソーダー(写真2)を用いた音波による観測とGPSゾンデを用いた気球による観測(写真3)の併用を考えていた.音波による手法は500〜1000m程度までの比較的低い高さの風速を連続的に観測することを,気球による手法は200m〜20km程度と比較的高層の風速分布の観測を得意とする.


図2 地表面粗度と境界層の発達


写真2 風速鉛直分布測定装置(ドップラーソーダー)


写真3 高層風の観測

  実際の高層風観測では,音波による計測機器が当時「可聴音」を用いていたことから騒音規制を受けて断念し,気球による方法に頼ることとなる.このため,連続観測を前提とする乱流構造の定義はできないものの,気球による観測では地上約1000〜1300m辺りで平均風速が一定となる現象を捉え,地表からタワー最頂部に至る平均風速の鉛直分布を決定することができた.その他,計画地内にある高さ65mの既存送信鉄塔に設置した超音波風向風速計及び3杯風速計による2年間の定置風観測を実施し,特に発生確率の高い風速の累積分布関数に反映することで鋼材の疲労設計に生かしている.

 

3.風応答に対する構造安全性検証

  本タワーの強風に対する設計には,地震時応答と同様の時刻歴応答解析(刻一刻変化する強風中でのタワーの挙動を再現する解析)による検証法を用いている(図3).この方法により,居住性,通信設備としての性能確認,制振機構の各部性能や鋼材疲労に対する精度の高い検証を行うことができる.

 一般に,構造物に作用する変動風力の時刻歴波形は,風洞実験時に構造物表面の毎時の風圧を直接計測することにより得られるが,本タワーは小さなパイプで構成するトラス構造物でありこれができない(写真4,図4).そこで,高さ毎に変化する空力性状を幾つか求め,これを基にした模擬風力波を時間と位置の相関を考慮しながら(図5)確率論(モンテカルロシミュレーション)を用いて作成する方法を採っている.


図3 風応答の時刻歴解析


写真4 風洞模型の製作(エポキシ系素材)


図4 模型製作用データ

  風洞実験としてはまず,タワー全体の風力を調査する実験(写真5)と,ゲイン塔を含む代表的な高さ部分に対する層風力実験(写真6),展望台に対する風圧実験の3つを並行して行った.その際,トラス部分では外塔と中央シャフトにかかる力を個別に計測することで,両者の相互作用と各々の空力特性の把握に努めた.次に,これらの実験から高さ毎の一連の層風力波を作成し,タワー全体に対する風力実験で得られたタワー基壇転倒モーメントのパワースペクトル密度をターゲットとして再度整合させたうえで設計用模擬風力波形としている.

写真5 代表的な風洞実験 写真6 部分風洞実験

 

  またタワー全体,ゲイン塔部分などの空力不安定現象に対する安全確認(図6),渦励振による増幅特性などに対しては,ロッキング振動実験,全弾性実験などによる物理的検証も行っている.


図6 振動実験模型

 

4.多モード制振機構の開発

 タワーに加わる多様な外乱と高い要求性能を満足するため,揺れを低減する制振機構を目的別に準備する「多モード制振機構」を開発した.これは,ゲイン塔固有のモードがもつ渦励振対策に頂部TMD(図7)を,塔体全体の幾つかの主なモードによる応答に対して心柱制振機構(図8)をあてる,制振機構の総称である.

 心柱制振機構とは,鉄筋コンクリート造である中央シャフトの質量を用いた新しい概念のもので,その高さゆえ1次固有周期が10秒と長く,一般の構造物より多くのモードが応答に寄与すること,通信性能や居住性などに高度な与件を抱えることなど,特有の課題をもつこのタワーのために開発した機構である.


図7 頂部TMD


図8 心柱制振機構

更新日:2013.4.8