ニューズレター

流れ 2015年12月号 目次

― 特集テーマ:2015年度年次大会(その2) ―

  1. 巻頭言
    (竹村,杵淵,藤井,横山)
  2. CFDの流体システム設計への応用
    田中和博(九州工業大学)
  3. ワークショップ:機能性流体を基盤としたフロンティア流体工学への新展開
    高奈秀匡(東北大),西山秀哉(東北大)
  4. プラズマおよびイオン液体の環境・エネルギー技術への応用展開
    高奈秀匡(東北大)
  5. 電界共役流体のバイオエンジニアリング分野への展開
    竹村研治郎(慶應大)
  6. 磁気機能性流体を用いた革新的エネルギー変換・制御技術への応用展開
    岩本悠宏(同志社大)
  7. 電磁流体力学を応用した将来型エネルギー・航空宇宙技術
    藤野貴康(筑波大)

 

CFDの流体システム設計への応用


田中 和博
九州工業大学

 

1.はじめに

 流体の利用のされ方は様々であり、例えば自動車や飛行機の切換え装置の部位には流体(油圧・空気圧)制御弁が納まっている.これらを製作する場合に振動や性能不足等の不具合が生じることは多々耳にする.このような分野で,CFD応用が意外にも進んでいない事態には驚かされる.

  機械工学は,外部から与えられたエネルギーや情報などを有用な機能(運動,力,情報など)に変換する働きを有する機械に関わる自然科学とその設計に関わる科学から構成される学問であると定義されている(1).その基盤となる「力学」は多様なスケールや現象に及ぶと同時に,伝統的に質点や固体の運動,固体の強度,流体の力学,熱に関する力学(熱学)といった基本ディシプリンがある.また,これらを具体的な設計に組み込む方法論として,系の制御,効果の最適化,生産計画などの設計科学が重要な基盤として機械工学に含まれる.

 

2.設計環境の変化と設計手法の体系化 

 近年,製品の最終形態としてはメカであるが実態はメカという衣装をまとったメカエレキソフト(機械,電気,制御,ファームウェア)融合製品が主体となり,ものづくりの複雑化,国際化の中で人間を中心とした(摺り合わせ的な)ものづくりだけでは限界が出ている.今後のものづくりを考える上では,個別の要素で考えるのではなく,これらを包括的に捉えたものづくりとものづくりを具体化する設計手法を確立することが急務となっている(2)だが、設計研究の進捗とともに設計を形式知化することの困難さが表面化し,今や情報処理の分野でも設計情報の処理は先端的な課題となっている.その一方で,実務(企業)と学術(大学)の間に乖離が存在しており,この乖離を埋めるためには設計科学の体系化を目指して産学の知を結集することが重要であり,産学の人材が集い密接に協働できる活動拠点の整備等の具体的施策が緊急に必要な時期にある.欧米においては,国の支援の下で密に連携して産学が集うセンターが組織され,実務と学術の乖離を埋めようとしている例も多くみられる(3).それらを通して、ものづくりにおいて具体的な設計手法の体系化が重要である.

 

3.CFDの立ち位置

 上記の課題にCFDが立ち向かうためには,アプリケーション・ソフトウェアの充実,コンピュータの性能を引き出すための技術向上,使いこなす人材を含めて利用環境の改善とコストの軽減など,解決すべき課題は多い.現状は,数百万〜数千万格子規模のRANSによる解析が主流であり,空力設計プロセスにおいてかつては風洞実験で実施されていた部分の多くがCFDに取って代わられているが,本質的には風洞実験の補完的役割からの脱却になっていない(4)既存の設計プロセスに対してCFDを当てはめるという考えでは無く,設計プロセスそのものを大きく変革できるか,製品のイノベーションに結び付く設計プロセスを提案できるか,それにより技術のブレークスルーをおこせるか,CFDの真価が問われる時代である.コンピュータが強力になった現在のシミュレーションの役割は従来の要素技術の開発,局所的な現象解析に留まっている必要は無い.マルチスケール,マルチ・フィジックス解析や実験結果との連携を含めてトータルエンジニアリングの実現が時代の要求である.

 

4.1D-CAE

 今日,高機能製品の設計が必須とされ,設計の良否が左右される設計上流の重要度が高まっている.設計上流とは,要求機能から設計仕様を決定するまでのプロセスを言い,具体的に言うと形状が決定される前の段階を指す.従来の計算工学は,1)形が決まった後で有効であり,下流設計用途である.2)事後検証用途であり,事前仮説用ではない.3)解析用途であり,設計因子間の関係記述とはなっていず,設計にダイレクトに使えない.4)現象の守備範囲が狭く,設計に関わる全現象が扱えず,部分現象解明用途である等の特徴を持つ.これに対し,この数年,産業界を中心に設計上流で有効な計算工学手法1DCAEが期待されてきており,上記項目に対して上流設計にダイレクトに使える広範囲カバー型のツールが必要とされている(5)

 この1Dとは特に一次元であることを意味しているのではなく,物事の本質を的確に捉え,見通しの良い形式でシンプルに表現することを意味する.1DCAEにより,設計の上流から下流までCAEで評価可能となる(図1).1DCAEによる全体適正設計を受けて(この結果を入力として)個別設計を実施,個別設計の結果を全体適正結果に戻しシステム検証を行う(図2)(6).従来の3D-CAE (含CFD)は部分最適を可能としていたものの,システム全体を見通した全体最適は不得手であった.そこで, 1DCAEをシステムへの対応として、 CFDとの統合を図ることが可能となれば、システムの最適設計への道が一つ見えて来る.


図1 製品設計における1DCAEの位置づけ


図2 設計問題における1DCAEと3D-CFDの関係
上記の2枚の図は,大富浩一,羽藤武宏著「1DCAEによるものづくりの革新核心」東芝レビュー Vol.67 No.7 (2012),pp.7-10,より転載.

 

5.CFDシステムダイナミクス

 機械工学に内包される分野としてシステムダイナミクスの世界がある.上記の乖離を埋める一手法としてシステム設計を1DCAEで、3D-CAEをCFDで捉えてみてはどうであろうか.その意味では,ブロック線図,ボンドグラフなどのシステムのモデリング手法や一般言語のMODELICA等とCFDの協同で最適設計へと向かう,図3に示すような世界が入り混じって存在していると考えられる.


図3 CFD,1D-CAE,設計(最適化)の関係


図4 ポンプ配管系の全システムのモデル化
(文献(7)須田信英,”システムダイナミクス",コロナ社(1988), pp.116-118.一部を修正)


表1 ボンドグラフのパワー変数と対応する物理量

パワー変数

電気系

直線運動系

回転運動系

流体系

エフォート(示強性)

電圧

トルク

圧力

フロー    (示量性)

電流

速度

角速度

流量

 図4に電源からポンプによる水の排出に至るシステムを示す.このシステムは,電気系,回転運動系,流体系から成っている(7).一例として,ボンドグラフ法により伝達される動力(パワー)でシステムをモデル表現すると,表1に示される変数で全システムを一通りの手法で表現できる.このシステムは I(慣性), C(弾性), R(損失), GY(伝達)素子で表現されている13の要素(構成則)と13の保存則(自動的に成立する代数関係)からなるシステムであることが分かる.これらの構成則は図4のように近似的に表現される.

 図4に示される構成則で満足する流体エンジニアは居ないであろう.流体抵抗は圧力損失と流量が線形の関係で表現されるのは限られた状態であり一般的ではないし,ポンプ出力圧は回転数に単純比例している訳ではないからである.そこでCFDを利用して流体抵抗やポンプ特性を求めることで,それらの特性をシステムモデルの構成則に組み込めば全体システムの特性をデジタル的に把握することが可能となる.このような方法でも1DCAEとCFDを結節することができる.

 数値解析が広く利用されるようになった結果,システムをモデル化するには現象やその構成要素の構成方程式(数学モデル)がますます重要となる.個別要素の物理モデル化が必要とされ,その具現化を数学モデル構築という面で発揮するという高いレベルが求められている.物理モデル化のレベルと数学モデルは一対で対応するので,この物理・数学モデルの構築に挑戦するには,ものの構造や特性をよく観察し,要素間の相互作用など,ものごとを具体的・総合的に考える方法論を身に着けて行くことが必要とされる

 

6.形状の最適化、システムの最適化を目指したトータル設計へ

 CFD技術を取り込むことにより大きく発展してきた流体工学にとっては,システムダイナミクスをふくむ他系の工学と結節することによりその発展の方向を更に強めていくことが期待できる.その結果,現実問題→物理モデル→数学モデル→情報技術→結果評価という一連のモデリング&シミュレーションの技術は更に発展し,トータル設計への統合化がますます図られ,新システム創造を可能とするCFDベースのトータル設計技術を生み出すであろう事が期待される.

 

文献

(1) 日本学術会議,機械工学委員会,“大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準,機械工学分野”,平成25年8月19日,( http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-h140919.pdf ).
(2) 日本学術会議,機械工学委員会,“社会や市場の変化に対応する生産科学の振興と人材育成”,平成26年9月19日,( http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-h140919.pdf ).
(3) 田中 豊,米国フルードパワー教育・研究の現状とERCについて The Japan Fluid Power System Society (JFPS), FPIC Quarterly, Vol.14, No.4(2006), pp.18-24.
(4) 小林敏雄,“コンピュータ・シミュレーションの課題と動向”,第23回鉄道総研講演会(2010),pp.1-11.
( http://bunken.rtri.or.jp/PDF/cdroms1/0009/2010/0009000155.pdf )
(5) 手塚 明,“1DCAEの研究展開に向けて”,日本計算工学会,計算工学,Vol.18,No.3(2013),pp.2958.
あるいは,1DCAEと計算工学(1DCAE公開シンポジウム−高付加価値製品の開発に向けて−)
(6) 大富浩一,”1DCAEコンセプト”,日本計算工学会,計算工学,Vol.18,No.3(2013),pp.2962-2963.
あるいは,大富浩一,羽藤武宏,“1DCAEによるものづくりの革新核心”,東芝レビュー,Vol.67,No.7 (2012), pp.7-10.
(7) 須田信英,”システムダイナミクス",コロナ社(1988), pp.116-118.
更新日:2015.12.15