ニューズレター

流れ 2015年12月号 目次

― 特集テーマ:2015年度年次大会(その2) ―

  1. 巻頭言
    (竹村,杵淵,藤井,横山)
  2. CFDの流体システム設計への応用
    田中和博(九州工業大学)
  3. ワークショップ:機能性流体を基盤としたフロンティア流体工学への新展開
    高奈秀匡(東北大),西山秀哉(東北大)
  4. プラズマおよびイオン液体の環境・エネルギー技術への応用展開
    高奈秀匡(東北大)
  5. 電界共役流体のバイオエンジニアリング分野への展開
    竹村研治郎(慶應大)
  6. 磁気機能性流体を用いた革新的エネルギー変換・制御技術への応用展開
    岩本悠宏(同志社大)
  7. 電磁流体力学を応用した将来型エネルギー・航空宇宙技術
    藤野貴康(筑波大)

 

電界共役流体のバイオエンジニアリング分野への展開


竹村 研治郎
慶應義塾大学

 

1. はじめに

  電界共役流体(Electro-conjugate fluid, ECF)は直流電圧の印加によって活発な流動を発生する機能性流体である.機械的なポンプを必要とせずに微小な電極への電圧印加だけで流動を発生できることから,微小流体システムに適した液圧源として期待されており,ECFマイクロモータ(1)やECFフレキシブルハンド(2),ECFレートジャイロ(3)などに応用されている.一方,近年は微小流体システムの応用先としてMicro total analysis system(µTAS)などバイオエンジニアリング分野での利用が活発に研究されている.なかでも,サンプルを液滴として扱うDroplet µTASは微少なサンプルでの分析を目指すものであり,資源やコストの低減や,分析時間の短縮が期待されている.こうした技術が確立されれば,たとえば,1滴の血液での病理診断が実現する可能性もある.

  本稿では,マイクロ液圧源として期待されるECFを用いた液滴混合デバイス(4)を紹介し,ECFのバイオエンジニアリング分野での応用の可能性を示す.

 

2. 液滴混合デバイス

  円形チャンバ内で旋回流を生じている液体は,遠心方向に慣性力を受ける.ここに,旋回流を生じている液体と混合しない液体を滴下すれば,旋回流に沿って円運動するため,やはり遠心方向に慣性力を受けることになる.ここで,液滴の密度が旋回流を生じている液体よりも小さければ,図1のように液滴には向心力が働くことになる.この結果,液滴は滴下位置から螺旋軌跡を描いてチャンバ中心に自律的に移動する.複数の液滴をチャンバに滴下すれば,全てが自律的にチャンバ中心に移動し,中心で互いに混合する.


Fig. 1 Centripetal force induced in the swirl flow.

 


Fig. 2 Configuration of electrode substrate.

 先述のように,ECFは微小な電極への電圧印加によって流動を発生できる.このため,図1の旋回流をECFによって発生できれば,極めて簡単な構造で液滴混合デバイスを構成できる.図2に旋回流を発生させるための電極基板を示す.この電極は半径方向に放射状に配置された電極対から成り,電極の一方は鋸歯状の突起を,もう一方は円弧状の凹部を有している.電極基板をECF中に沈め,電極対に高電圧を印加すると突起の先端から凹部に向かって流動が発生し,全体として旋回流が発生する.本研究では水を主成分とする液滴を実験に用いこととし,作動流体の選定には,
・液滴と交わらない
・液滴の密度よりも大きな密度をもつ
・比較的大きな流速が得られる
という3点を考慮し,FF-505-12(新技術マネイジメント製)を採用した.FF-505-12の密度は1.550 kg/m3である.

 

3. 液滴混合実験

  予備実験から電極対への印加電圧を1.7 kV,チャンバに満たすECFを1.2 mLとして,液滴混合実験を行った.液滴は30 µLの着色した水溶液である.青色液滴を予めチャンバ中央に滴下し,電圧を印加した後,赤色液滴をECFチャンバの壁面近傍に滴下した.この瞬間をt = 0とし,赤色液滴と青色液滴が結合するまでに要する時間を測定した.実験結果を図3に示す.


Fig. 3 Actual view of the mixing experiment: A red droplet moves spirally to the center and becomes in contact with a blue droplet at t = 2.60 s. Afterwards, two droplets keep rolling together and mix at t = 3.96 s. Droplets stay at the center of the chamber until applied voltage is off.

 赤色液滴は,螺旋運動をしながらECFチャンバ中央に移動し,t = 3.96 sで青色液滴と結合した.結合した後も電圧の印加を停止するまで液滴は中央に止まり続けた.本実験から,液滴は電極対への電圧の印加のみによって自律的にチャンバ中央に移動し,互いに混合することが確認された.また,混合後の液滴の体積は2倍に増加しているものの,ECFに比べて密度が小さいことに変わりはない.このため,1つの液滴がチャンバ中央に留まっているという点では,混合後の状態は本質的に実験の初期状態と同等であるといえる.すなわち,新たに液滴をチャンバ内に滴下すれば液滴は再びチャンバ中央において自律的に混合すると考えられる.言い換えれば,本手法は分析に必要な反応回数によらず複数の液滴を繰り返し自律的に混合することが可能である.

 

4. ECFの生体毒性実験

  121 ℃,20 min,2 atmでオートクレーブ滅菌したECFに細胞を暴露し,毒性試験を行った.すなわち,細胞をECFに暴露した時間と細胞の生存数の関係を調べた.まず,細胞培養フラスコの底面にマウス由来線維芽細胞(L929)を播種し,その後フラスコ内に滅菌後のECFを1.0 mL添加した.この状態で37 ℃,5 % CO2のインキュベータ内に静置し,細胞をECFに暴露してからの経過時間(以下,暴露時間)に応じて5種類のサンプル(暴露時間5 minから25 minまで5 min間隔)を準備した.各サンプルの暴露時間が経過した後にECFを除去し,培養フラスコ底面に残存している生存細胞数を血球計算盤により測定した.なお,比較のためにECFを添加せずに静置した基準サンプル(暴露時間0 min)も別途準備した.フラスコ底面における残存細胞数の測定結果を図4に示す.


Fig. 4 Number of cells remained on the culture substrate after the ECF exposure.

 図4より,暴露時間の増大に伴い残存細胞数は指数関数的に減少することがわかる.これは,細胞をECFに暴露することによって,細胞が死滅する,あるいはフラスコ底面から剥離されることを意味している.このため,ECFに暴露された細胞の増殖性を調べた.上記の5サンプルおよび基準サンプルからそれぞれ1.0×105個の細胞を回収し,それぞれ別の細胞培養フラスコに播種した.これらに培地を加え,インキュベータ内で72 hrs培養した後,フラスコ内の全ての細胞を回収し,その数を測定した.この結果,暴露時間が10 min以内であれば播種した細胞数よりも回収された細胞数の方が多く,細胞の増殖性が失われていないことがわかった.特に,暴露時間が5 minのサンプルは基準サンプルと同程度の増殖性を示したため,少なくとも5 min以内の暴露であればECFはL929細胞の活性に影響を及ぼさないと考えられる.

 一般的に,µTASはサンプルや試薬の量が少なく,結果として反応時間も短くなるため,5 min以内で分析が終了することが予想される.このため,上記の細胞毒性実験の結果から,部分的ではあるもののECFのバイオエンジニアリング分野への適応の可能性が示せたと言える.

 

7. おわりに

 本稿では,ECFを利用した自律的液滴混合デバイスを紹介し,ECFのDroplet µTASへの応用の可能性を示した.また,細胞種は限定したもののECFの生体毒性の試験結果を示した.今後,微小流体システムの圧力源として有望なECFがバイオエンジニアリング分野にも貢献することを期待したい.

 

文   献

(1) Yokota, S., Kawamura, K., Takemura, K., Edamura, K., “High-integration Micromotor using Electro-conjugate Fluid (ECF)”, Journal of Robotics and Mechatronics, Vol. 17, No. 2 (2005), pp. 142-148.
(2) Yamaguchi, A., Takemura, K., Yokota, S., Edamura, K., “A robot hand using electro-conjugate fluid: Grasping experiment with balloon actuators inducing a palm motion of robot hand”, Sensors and Actuators A: Physical, Vol. 174 (2012), pp. 181-188.
(3) Takemura, K., Yokota, S., Imamura, T., Edamura, K., Kumagai, H., “Practical design of a liquid rate gyroscope using an electro-conjugate fluid”, Proceedings of the Institution of Mechanical Engineers, Part I: Journal of Systems and Control Engineering, Vol. 223, No. 6 (2009), pp. 727-736.
(4) 小林紀穂,倉科佑太,竹村研治郎,横田眞一,枝村一弥,“電界共役流体を用いたDroplet μTASのための液滴混合デバイスの開発”,日本機械学会論文集,Vol. 80, No. 819 (2014), No. 14-00288.
更新日:2015.12.15