ニューズレター

流れ 2015年12月号 目次

― 特集テーマ:2015年度年次大会(その2) ―

  1. 巻頭言
    (竹村,杵淵,藤井,横山)
  2. CFDの流体システム設計への応用
    田中和博(九州工業大学)
  3. ワークショップ:機能性流体を基盤としたフロンティア流体工学への新展開
    高奈秀匡(東北大),西山秀哉(東北大)
  4. プラズマおよびイオン液体の環境・エネルギー技術への応用展開
    高奈秀匡(東北大)
  5. 電界共役流体のバイオエンジニアリング分野への展開
    竹村研治郎(慶應大)
  6. 磁気機能性流体を用いた革新的エネルギー変換・制御技術への応用展開
    岩本悠宏(同志社大)
  7. 電磁流体力学を応用した将来型エネルギー・航空宇宙技術
    藤野貴康(筑波大)

 

磁気機能性流体を用いた革新的エネルギー変換・制御技術への応用展開


岩本 悠宏

同志社大学

 

1. はじめに

 2015年9月13日から16日まで北海道大学工学部で開催された日本機械学会2015年度年次大会において,東北大学西山秀哉先生と高奈秀匡先生による企画ワークショップ「機能性流体を基盤としたフロンティア流体工学への新展開」で,「磁気機能性流体を用いた革新的エネルギー変換・制御技術への応用展開」について講演させて頂きました.本ワークショップを企画された先生方をはじめ,この度執筆の機会を与えてくださった日本機械学会流体工学部門の皆様に御礼を申し上げるとともに,以下に筆者の講演内容について紹介させていただきます.

  産業機器において用いられる流体に機能性を加味することにより,より高度な機能を実現したいという技術ニーズから,近年,流体工学の分野において機能性流体に関する研究が盛んに行われている.その中で磁場に感応する流体として磁性流体がある.磁性流体は,外部磁場によりその磁気特性を能動的に制御できることから,例えば,ハードディスクドライブにおける防塵シールや真空シール,軸受,スピーカー,金属の比重差別,近年では,PET等プラスチックの高精度リサイクルといった用途にすでに実用化されている(1-3).磁性流体は,外部磁場によりその熱物性や内部構造,動力学的特性を能動的に制御することができる.ここでは,磁性流体を用いた革新的エネルギー変換・制御技術への応用研究として,特に熱輸送に着目して,感温性磁性流体を用いた磁気駆動熱輸送装置について紹介する.


Fig.1 Ideal model of magnetically-driven heat transport device using magnetic fluid

 

2. 感温性磁性流体を用いたエネルギー変換原理

 感温性磁性流体は,キュリー温度の低い磁性微粒子(例えば,マンガン−亜鉛−フェライトなど)が母液中に安定分散した流体であり,常温域において磁場と熱に感応する.この感温磁化特性に起因して,図1に示すように,外部より磁場および熱を入力することで,磁化の空間的な非平衡状態に起因して流体が自己駆動する.すなわち,熱エネルギーを流体の運動エネルギーに変換することが可能である.本研究では,このエネルギー変換原理を自己循環型熱輸送装置に応用したものである.すなわち,磁石により非一様磁場を印加し,排熱等を用いて流体を加熱することで,ポンプなどの機械的要素を用いずに,電力フリーで熱輸送することが可能となる.さらに,一定量の低沸点溶液を感温磁性流体に混入することにより,沸騰潜熱の影響を加味し,熱輸送能力の飛躍的な向上を図っている.

 

3. 感温性磁性流体を用いたMEMS磁気駆動熱輸送装置

  近年,電子機器の小型化と高性能化という技術ニーズから,それに搭載されている半導体素子が高密度化し,発熱密度の増加が問題視されている.そこで,感温性磁性流体を用いた磁気駆動熱輸送装置の実現につき期待が集まっている.上述したように,本熱輸送装置は,外部より磁場および熱を入力することで,その熱流動を能動的に制御することができるため,磁石により非一様磁場を印加し,排熱等を用いて流体を加熱することで,磁化の空間的な非平衡状態に起因して流体が自己駆動し,同時に熱を輸送する.本装置は,磁気力を用いるため,従来の自己循環系の熱輸送装置(例えば,ヒートパイプ)で困難であった水平方向や微小重力環境下での熱輸送が可能である.また,ヒートパイプの毛細管力などに比べ,本装置の磁気力は大きいため,これまでに約6mの長距離熱輸送が可能である(4)ことを明らかにした.また,低熱源(〜約100度)での自己駆動・熱輸送が可能であり,直径φ1.54 mmの単一円管を用いる場合,〜31.7 kW/m2の熱流束帯の冷却が可能であることを確証した(5).図2に近年のCPU表面における熱流束と比較対象としてその他の発熱体の熱流束を示す.図2より,年々CPUの発熱量は増加傾向を示し,その熱流束はホットプレートとほぼ同程度である.図2の斜線領域は,本研究で提案した熱輸送装置について,直径φ1.54 mm円管流体駆動部(加熱部)を20本並列化した場合に対応可能な熱流束帯である.この場合,現在のCPUの冷却は可能であるが,CPUの表面積は典型的なもので約10mm×10mmであるのに対し,本熱輸送装置を20本1列並列化した場合,その幅は約30mmとなり,PC等に搭載するには多少大きいものとなる.そこで,CPUやLSIの冷却を念頭に,現在,MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を応用したMEMS磁気駆動熱輸送装置を(株)KRIと共同開発し(図3,MEMS磁気駆動熱輸送装置プロトタイプ),本熱輸送装置の諸特性を調査すると伴に,実用化に向けた開発研究に着手している.


Fig.2 Power density of CPU (6)


Fig.3 Prototype of MEMS magnetically-driven heat transport device with 0.8mm×0.5mm micro passes

 

4. おわりに

 本稿では,磁性流体を用いた革新的エネルギー変換・制御技術への応用研究として,感温性磁性流体を用いた磁気駆動熱輸送装置を紹介した.磁性流体は,外部磁場によりその熱流動を能動的に制御できるため,革新的な熱輸送装置の開発が期待でき,その応用範囲はMEMSから大型の装置までと広範囲である.また,本研究に限らず,磁気機能性流体の応用研究へは,流体力学,伝熱工学,電磁気学,材料科学,界面化学,磁性流体力学などの分野横断型・複合領域研究である.飛躍的な磁気機能性流体の研究発展・工学的応用展開へは,各分野の専門家が集った研究クラスタの形成による飛躍的な研究発展・応用展開が必要であるものと考える.

 

謝辞

 本研究を遂行するに当たり共同研究者である同志社大学流体力学研究室の山口博司先生ならびに大学院生,またMEMS磁気駆動熱輸送装置の研究開発に当たり(株)KRIに多大なご助力を頂戴致しました.ここに深く感謝の意を表します.

 

文   献

(1) Yamaguchi, H., “Engineering Fluid Mechanics”, Springer (2008).
(2) 山口博司,“磁性流体”,森北出版 (2011).
(3) 廣田泰丈,“磁性流体を用いた応用の最新動向と今後の展望”,平成23年度磁性流体連合講演会講演論文集,(2011), pp. 70-71.
(4) Iwamoto, Y., Yamaguchi, H., and Niu, X.-D., “Magnetically-Driven Heat Transport Device using a Binary Temperature-Sensitive Magnetic Fluid”, Journal of Magnetism and Magnetic Materials, Vol. 323 (2011), pp. 1378-1383.
(5) Iwamoto, Y., Fuji, Y., Takeda, K., Niu, X.-D., and Yamaguchi, H., “Application of a Binary-Sensitive Magnetic Fluid for a Mini Magnetically-Driven Heat Transport Device”, Journal of the Japanese Society for Experimental Mechanics, Vol. 13 (2013), pp. s18-s23.
(6) Intel Corporation H.P.; http://www.intel.co.jp
更新日:2015.12.15