ニューズレター

流れ 2015年2月号 目次

― 特集テーマ:流体工学部門講演会 ―

  1. 巻頭言
    (大嶋,坂口,高橋)
  2. 航空機産業とJAXAにおける流体関連の研究活動
    中橋和博(宇宙航空研究開発機構)
  3. マルチ円形衝突噴流の干渉が形成する3次元流動構造
    市川賀康(東京理科大学)
  4. ひも状ミセル水溶液のステップせん断におけるバンディングと流動特性の関係
    伊藤雅利(長岡技術科学大学大学院)
  5. 壁乱流における正弦波状リブレットが渦の移流に与える影響
    笹森萌奈美,守裕也,岩本薫,村田章(東京農工大学)
  6. ストリークカメラを用いた水中ストリーマの高時間分解解析
    藤田英理 (東北大学)
  7. デコンボリューションを用いたディジタルホログラフィ粒子計測とその応用
    淺井裕斗,村田滋,田中洋介(京都工芸繊維大学)
  8. 私の夢コン体験記
    明石恵実(北海道大学)
  9. アクア流夢(リウム)館長日誌
    斎藤大地,佐藤伴音(北海道大学)

 

ひも状ミセル水溶液のステップせん断におけるバンディングと流動特性の関係


伊藤 雅利

長岡技術科学大学大学院

 

1.緒言

 2014年10月に富山大学五福キャンパスで開催された第92期日本機械学会流体工学部門講演会において,栄えある優秀講演表彰をいただいた.本研究は複雑流体の流れによるミクロ的な構造変化を屈折率などの光学特性の変化から解明しようとする新しい研究分野「レオ・オプティック」を用いたものであり,機械学会においては少し珍しい研究かも知れない.本ニュースレターを通して,一人でも多くの方に光学測定への興味を持っていただければと愚考し,ご評価いただいた講演発表内容を以下に紹介する.

 ひも状のミセルを形成する界面活性剤水溶液は,顕著な粘弾性特性を有し,物性値の操作が容易なため増粘剤などに活用されている.しかし,図1に示すように,臨界せん断速度以上では白濁化を伴うせん断誘起構造(SIS)を形成し非線形な挙動を呈し,またあるせん断速度域では通常とは異なるミクロ構造・粘度を有す不均一な流れ場を形成(Shear-banding:シアバンディング)するなど,そのミクロ的な挙動はいまだ不明な点が多い.ひも状ミセルのバンディングは,配向度の異なる層に加えてSIS化した層が存在するため,複雑であり国内外で研究が続けられている.これらに加え,ひも状ミセル水溶液に一定のせん断速度・せん断応力を与え続けると,応力緩和よりも長い時間周期で粘度が大きく変動する現象(一般にTemporal Shear Oscillationと呼ばれている.以下,応力変動現象と示す)が報告されている1), 2).しかし,なぜ一時的に粘度が増減するのか,そのメカニズムは未だ不明である.


Fig.1 Special featured phenomena of Wormlike Micellar Solutions.

 最新の研究手法には,SANS 3)や Cryo-TEM 4),複屈折測定などのレオ・オプティック測定が用いられている.しかし,これらは主に流路内の一部分における構造解析であるため,バンド構造の空間的な分布や各層の状態がせん断速度にどのように依存するかは調査できず,諸現象の解明上の課題とされてきた.本研究では,同心二重円筒型流路の全域にわたって流動複屈折と配向角の分布を測定することで,一定せん断速度の流れ場で形成されるシアバンドの構造を明らかにした.これにより,応力変動現象とシアバンド形態についていくつかの興味深い見地を得た.

 

2.実験条件

 流動制御およびシアバンドの可視化には可視化用流路を設置した応力制御型のレオメータ(MCR301,Anton Paar社)を用いた.流路には同心二重円筒型を選択し,寸法は外円筒内径,内円筒外径,内円筒高さがそれぞれ36.0, 32.0, 16.49mmである.試料には,臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB) 0.03Mとサリチル酸ナトリウム(NaSal) 0.06Mを蒸留水に溶解させたものを使用した.モル濃度比ψ(=NaSal / CTAB)は2.0であり,単一緩和Maxwellモデルを仮定して算出された応力緩和時間λは1.2秒である.実験温度は25℃一定とした.本溶液ではせん断速度が5〜25s-1の定常流れにおいて,およそ8〜12秒程度の周期で応力変動現象が発生する.変動の時間周期はせん断速度に依存し,せん断速度が増加すると短くなる傾向がある.

 

3.シアバンドの可視化

 ひも状ミセル水溶液は強い流動複屈折性を有する.あるせん断速度までは応力τと複屈折Δn'および配向角αは式(1)に示すような比例関係を持つ5)

ここで,C は光弾性係数,あるいは応力光学係数と呼ばれる時間に依存しない物質定数であり,(1)式は応力光学則,Stress-Optic rule (SOR)と呼ばれている.高分子の分子理論において,SOR は応力と複屈折がセグメントの配向によって生じることを示しており,現代の高分子レオロジーでは基本的かつ普遍的な概念となっている.しかし,SISが発生するとCの値が大きく変化するためSORは成立しなくなることが報告されている5), 6).また,シアバンドが形成される場合でも,流路内には不連続な層が維持されるためSORは溶液の一部分でしか成立せず適応できない.そこで本研究では,クロスニコル配置の偏光板を用いて,流路隙間における複屈折と配向角の分布を流路軸方向から観察し,流路半径方向の光弾性係数の不均一性,すなわちシアバンド形成の様子を観察した.光源には白色光を用いた.

 図2(a)〜(f)に=0.5~10s-1における流路内の可視化画像を示す.図中の破線は流路壁面を表し,内壁面が回転する.壁面間隙内の色相(Hue)は複屈折強度|Δn'|を示しており,大まかな複屈折の値を干渉色図から算出することができる.また,溶液の配向角と偏光板の消光角が等しい場所では,光が透過せず画像が暗くなる(消光位).この消光位の角度の分布を流路半径方向にわたって測定することで半径方向における配向角分布を算出することが可能である.図2(a)に示すようにせん断速度が低い場合,複屈折は非常に小さく画像には黒い領域しか確認できない.しかし,せん断速度が増加すると(図2(b)),流路半径方向にわたってほぼ一様の色相が現れる.さらに,=4s-1以上の高せん断速度では,内壁面側に複屈折の強い層が現れ,その厚さが徐々に増加していく傾向が観察された.また,速度の増加に伴い,消光位の位置が画像の右側へとシフトしていくことから,配向角も速度増加に伴って変化していることがわかる.


Fig.2  Visualization image of shear-banding in concentric cylinder flow cell (Gap: y=2.0 mm).

 

 クロスニコル観察により得られた画像から,流路間隙(2.0mm)にわたる複屈折と配向角を定量化した結果の一例を図3,図4に示す.横軸は流路間隙内の位置yを,縦軸は複屈折の絶対値|Δn'|と配向角αである.y=0mmは回転する内壁面を,α=0°は流れ方向を意味する.遅い流動(=1s-1, 図3)では,図2(b)からもわかるように複屈折と配向角の値は一定であり,比較的配向の弱い層のみが存在する.一方,=8s-1(図4)では,流路内にシアバンドが形成されている.特に内壁面側では複屈折の値は非常に高く,配向角もより流れ方向に近い値を示した.半径方向にわたってせん断応力が一定と仮定すると,この領域では光弾性係数Cの値が大きく変化している.従って,ミセルが異なる構造へと変化したSIS状態の層が形成されていると考えられる.ここでは,この|Δn'|>2×105の層をSIS-bandと称し,構造が変化していない通常状態の層をH-bandと称す.


Fig.3 Distributions of flow-induced birefringence |Δn'| and orientation angle αacross the radial direction of gap 2.0mm at shear rate 1s-1.



Fig.4 Distributions of flow-induced birefringence |Δn'|  and orientation angle α across the radial direction of gap 2.0mm at shear rate 8s-1.

 

4.応力変動現象とシアバンド構造の関係

 複屈折分布の時間変化をより詳しく見るために,図2(e)の赤斜線部に相当する領域(縦幅:2.0mm, 横幅:1ピクセル≒36μm)を1/30秒ごとに切り出し,横軸方向へ重ね合わせることで流路間隙における複屈折の時間変化をタイムスペースチャートとして作成した.図5(a),(b)に=8s-1におけるチャートと同時測定したせん断応力をそれぞれ示す.図5(a)の画像下端(y=0)が流路の内壁面である.H-band(画像上部白い領域)とSIS-band(下部青い領域)の界面が応力変動と同期してわずかながら変動していることが確認できる.また,各層における色相も徐々に変化しており,応力変動現象がシアバンド構造の時間的な変化と関係があることがわかる.最後に,可視化画像から算出したH-band,SIS-band各層における光弾性係数の平均値の時間変化を図5(c)に示す.H-bandではCの値が時間的にほぼ一定であるのに対し,SIS-bandにおける値は応力と強い相関を持ちながら大きく変動していることがわかる.


Fig.5  Relationship between (a) Spatio-temporal diagram across radial direction of gap 2.0mm, (b) Stress behavior and (c) Stress-optical coefficient C on Temporal Shear Oscillation at shear rate 8s-1 of step shear flow.

 

 

5.結論

 クロスニコル観察装置により光弾性係数Cの定量化プロセスを構築し,シアバンドの空間分布と内部構造変化(SIS)の有無を調査した結果,応力変動現象とこれら現象の関係について以下の結論を得た.

 本研究で使用したCTAB/NaSal水溶液では,高せん断速度領域で流動方向に強く配向した層と内部構造が変化したSIS状態の層が形成され2層のシアバンドが維持される.さらに,応力変動現象が発生した場合はSIS層の内部で光弾性係数が応力と強い相関を持って変化する.光弾性係数は構造変化の強さを意味しており,応力変動現象は流路内に形成されるSIS層の構造が時間的に変化することに起因する現象であると考えられる.

 

謝辞

 最後となりましたが,当日会場にて貴重なご意見を頂きました選考委員会の皆様,ならびに,受賞に至るまで熱心にご指導くださった長岡技術科学大学 高橋勉 教授,吉武裕美子 助教 に厚く御礼を申し上げます.

 

References

(1) Elizabeth K. Wheeler, Peter Fischer, Gerald G. Fuller, “Time-periodic flow induced structures and instabilities in a viscoelastic surfactant solution”, J. Non-Newtonian Fluid Mech., Vol.75, Issues 2-3 (1998), pp.193-208.
(2) Viviane Lutz-Bueno, Joachim Kohlbrecher, Peter Fischer, “Shear thickening, temporal shear oscillations, and degradation of dilute equimolar CTAB/NaSal wormlike solutions”, Rheol. Acta, Vol.52, Issue 4 (2013), pp.297-312.
(3) Carlos R. López-Barrón, A. Kate Gurnon, Aaron P. R. Eberle, Lionel Porcar, and Norman J. Wagner, “Microstructural evolution of a model, shear-banding micellar solution during shear startup and cessation”, Phys. Rev. E 89, 042301.
(4) Joshua J. Cardiela, Alice C. Dohnalkovab, Neville Dubasha, Ya Zhaoa, Perry Cheunga, and Amy Q. Shen, “Microstructure and rheology of a flow-induced structured phase in wormlike micellar solutions”, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. Vol.110, No.18 (2013), E1653-E1660.
(5) Toshiyuki Shikata, Sam J. Dahman, Dale S. Pearson, “Rheo-Optical Behavior of Wormlike Micelles”, Langmuir, Vol.10, Issue 10 (1994), pp.3470-3476.
(6) Tsutomu Takahashi, Hironori Sugata, Masataka Shirakashi, ”Rheo-optic behavior of wormlike micelles under a shear-induced structure formational condition - Verification of stress-optic rule by full component measurement of refractive index tensor”, Nihon Reoroji Gakkaishi, Vol.30, Issue 2 (2002), pp.109-113.
更新日:2015.2.19