ニューズレター

流れ 2016年2月号 目次

― 特集テーマ:流体工学部門講演会 ―

  1. 巻頭言
    (坂口,大嶋,本澤)
  2. 人工心臓に活きる流体工学
    山根隆志(神戸大学)
  3. 表面処理を施した単一光ファイバープローブによる泡沫計測
    仁平 あゆ美,齋藤 隆之(静岡大学)
  4. 溶存気体成分に依存する超音波粒子凝集過程の可視化
    矢内 沙祐里,村松 浩也,水嶋 祐基,齋藤 隆之(静岡大学)
  5. 塞栓後脳動脈瘤の再開通発生に関するCFD解析による研究
    藤村宗一郎(東京理科大学)
  6. とある高専生の夢コン体験記
    上根直也(米子工業高専)
  7. 流れの夢コンテストを通して
    服部秀平(産業技術総合研究所),江森郁麻(産業技術総合研究所)

 

溶存気体成分に依存する超音波粒子凝集過程の可視化


矢内 沙祐里
静岡大学

 

1. 緒言

  平成27年11月,東京理科大学葛飾キャンパスで開催された第93期日本機械学会流体工学部門において,優秀講演賞という名誉ある賞をいただきました.本稿はその発表内容をとりまとめたものです.超音波を用いた固体粒子凝集手法および溶存気体成分と粒子凝集形態との関係を紹介致します.

 従来,超音波を用いた粒子操作技術としてMHz帯超音波による筋状の粒子凝集に関する研究が報告されている(1).この技術は,粒子表面に音響放射力を作用させ,微粒子を音圧の腹/節に凝集させるというものである.対して,我々は従来の研究で報告されていない粒子凝集形態を発見した.水中にkHz帯超音波を照射することで,粒子を球状に凝体させることが可能である.本技術で形成される凝集体は,長時間安定して定在し,溶液攪拌後でも再度同位置に凝集する.凝集体形成には,水中で発生する音響キャビテーション気泡(以下,ACOB)が大きな役割を担っている.粒子表面の気泡核から発生したACOBsは音響放射力を受け,粒子を音圧の腹に牽引し(2),球状凝集体を形成する.

  本報告では,水中の溶存ガス種を変えた時の粒子の凝集挙動に着目する.溶存CO2ガス量を制御することで,球状と鎖状の2種類の凝集体が形成される.超音波照射時の水中の粒子凝集体の可視化,ACOBsの空間分布の可視化,音圧分布計測の結果から球状・鎖状の粒子凝集形態の違いを考察する.

 

2. 実験装置

  本実験では溶液にはイオン交換水を用い,脱気・未脱気の2種類の条件で実験した.真空脱気と超音波脱気を組み合わせ,フラスコ内の水を10分間脱気した.また,CO2ガスを一定量溶解した.溶存ガス量を溶存酸素計(HT2040-01, Hanna Instruments)および溶存炭素計(CGP-31, 東亜DKK)で測定した.図1に凝集体可視化実験で使用した実験装置の概略を示す.ファンクションジェネレータ(SG4115,岩通計測)からの正弦電圧信号を高出力アンプ(2100L,E&I)で増幅し,ランジュバン型振動子(HEC-45254M,本多電子)を駆動した.ファンクションジェネレータの出力電圧は1.000 Vとする.アクリル製矩形水槽(内寸:54×54 mm)を液面高さ60 mmまで未脱気/脱気イオン交換水で満たした.凝集用粒子には平均粒径φ1000 μm,密度1.06 g/cm3のポリスチレン粒子を用いた.高速度ビデオカメラ(SA-X2,Photron)とフラットイルミネーターを,水槽を挟んで対向するように配置し,粒子凝集体の投影画像を撮影した.また,レーザーシートを光源とし,超音波照射時に水中で発生する気泡分布を可視化した.

  さらに,ハイドロフォン(HPM1/1,Precision Acoustics)を用い超音波照射時の水中の音圧を測定した.ハイドロフォンプローブの位置調整は自動ステージを用い精密に制御し,水槽中心における液面から水槽底板までの音圧を計測した.

 


Fig. 1  Experimental setup of visualization.

Table 1  Experimental conditions.

 

3. 結果・考察

  図2(a)に超音波照射時における粒子挙動の可視化結果, (b)にx = -12 ~ 12 mm の範囲の水中音圧分布,(c)にACOBs散乱光の可視化結果を示す.図3に球状・鎖状の粒子凝集体の拡大図を示す.可視化画像(a)の空間分解能は53.1 μm/pixel,撮影速度は1000 fpsである.(c)の撮影速度は60 fpsであり,1秒間に発生する気泡散乱光の分布を表したものである.照射超音波周波数はそれぞれ,(1) 19.8 kHz,(2) 20.8 kHz,(3) 20.8 kHz,(4) 20.8 kHzである.図2(a)の可視化結果より,(1)の条件下では,球状凝集体が形成される.定在位置は z = 19.2 mm,平均径はD = 8.76 mmである.20.8 kHzの超音波照射時にも球状凝集体の形成は可能であるが,凝集径が小さくなった.(2)において,20.8 kHzのみ鎖状凝集体が形成された.定在位置はz = 26.3 mm,凝集粒子数はN = 2 ~ 7個である.(3)では,20.8 kHz超音波照射時に,球状と鎖状の2種類の凝集体が形成された.球状凝集体定在位置はz = 38.2 mm,平均径はD = 8.45 mmである.一方,鎖状凝集体はz = 8 ~ 22 mmで形成された後,球状凝集体定在位置に向かって移動し,合一した.(4)では,凝集体は形成されず,沈殿粒子は超音波照射直後液面まで浮上した.(1)-(3)において,凝集体定在位置にACOBが多数分布していることがわかる.これは,水中で発生したACOBsが第1ビヤークネス力を受け,音圧の腹に引き寄せられるためである(3).図2より,ACOBs集合位置,音圧の腹,および粒子凝集体定在位置は良く一致することがわかる.ここで,ACOBsと凝集体との関係について説明する.粒子表面には無数のキズが存在し,気泡核の役割を果たす.超音波の音圧変動によって粒子表面の気泡核からACOBsが発生する.ACOBsには第1ビヤークネス力が働き,粒子を牽引しながら音圧の腹に移動する.その後,定在位置に近づいたACOBs同士には第2ビヤークネス力による引力が作用するため,ACOBsが合一する.これにより,離れた位置に存在した粒子は引き付けあい,球状凝集体が形成される.また,凝集形成の違い(球状/鎖状)には,AirとCO2の気泡運動の違いが関係している.CO2気泡はAir気泡に比べ,整流拡散(4)によって気泡界面運動が抑制される.気泡界面の振動が抑制されることで,気泡に作用する第2ビヤークネス力がほぼ作用しなくなる.それにより,凝集可能な粒子数の減少,および気泡間の引力が減少し,粒子衝突時の反発力が抑制され,鎖状の粒子凝集体が形成される.(4)で凝集体が形成されない原因は,溶存ガス量の増加に伴い発生する気泡径が増加したためである.(4)の平均気泡径はd = 176 μmである.気泡の共振径はAir:144 μm,CO2:152 μmである.共振径よりも大きい気泡は,音圧の腹ではなく節に引き付けられ,液面付近まで浮上したものと考える.

  今回使用した振動子の共振周波数は22.8 kHzである.そのため,周波数:20.8 kHzの水中音圧振幅は,周波数:19.8 kHzのときの音圧振幅よりも大きな値となり,ACOBs発生量が増加する.今回の実験では,(2),(3)の条件では,19.8 kHzのときにはCO2気泡は発生せず,鎖状凝集体は形成されなかった.また,(1)の条件では,19.8 kHzのときに球状凝集体が形成され,20.8 kHzでは凝集径が減少した.この原因としては,20.8 kHzのときに入力される音響エネルギーが過大となり,ACOBsの径が増加したためであると考える.以上の結果から,凝集体形成には水中の溶存ガス成分に起因したACOBsが密接に関わっており,球状凝集体形成にはAir気泡挙動,鎖状凝集体形成にはCO2気泡挙動に強く関係し,凝集体形成時のACOBs発生数,ACOBs径が重要な因子となることが分かった.


Fig. 2  Experimental Results.
(a) Visualization of the particles movement, (b) Acoustic pressure profile,
(c) Visualization of ACOBs' scattered light.

 

7. 結言

 本研究では,水中の溶存ガスを変化させることで,球状と鎖状の粒子凝集体を形成させることに成功した.粒子凝集挙動の違いは水中および粒子表面で発生するACOBsの挙動の違いが起因している.CO2気泡はAir気泡に比べ気泡界面振動が小さく,気泡にはたらく第2ビヤークネス力が小さくなる.これにより,鎖状の粒子凝集体が形成されるものと考える.また,水中の音圧変動も凝集体を形成させる因子として働く.今後の研究では,粒子表面で発生する気泡運動を可視化し,気泡運動が粒子凝集体に与える影響を定量化する.さらに,気泡界面振動や気泡挙動の違いが粒子凝集形態に与える影響を考察する.

 

謝辞

 本発表および討論において大変貴重なコメントと質問を頂きました先生方,選考委員会の皆様,ならびにニューズレター執筆の機会をくださった日本機械学会流体工学部門関係者の皆様に心から感謝いたします.研究室の先輩方ならびに実験にご協力いただいた後輩の皆様に深く感謝いたします.本受賞に慢心することなく,今後の研究にも精進して参ります.

 

文献

(1) 小塚晃透,日本音響学会誌,Vol. 61, 154-159 (2005).
(2) Mizushima, Y., Nagami, Y., Nakamura, Y. and Saito, T., Chem. Eng. Sci., Vol. 93, 395-400 (2013).
(3) Mettin, R., Akhatov, I., Parlitz, U., Ohl, C. D., and Lauterborn, W., Phys. Rev. E., Vol. 56, 2924-2931 (1997).
(4) Hsieh, D. and Plesset, M. S., J. Acoust. Soc. Am., Vol. 33, 206-215 (1961).
更新日:2016.2.16