ニューズレター

流れ 2016年2月号 目次

― 特集テーマ:流体工学部門講演会 ―

  1. 巻頭言
    (坂口,大嶋,本澤)
  2. 人工心臓に活きる流体工学
    山根隆志(神戸大学)
  3. 表面処理を施した単一光ファイバープローブによる泡沫計測
    仁平 あゆ美,齋藤 隆之(静岡大学)
  4. 溶存気体成分に依存する超音波粒子凝集過程の可視化
    矢内 沙祐里,村松 浩也,水嶋 祐基,齋藤 隆之(静岡大学)
  5. 塞栓後脳動脈瘤の再開通発生に関するCFD解析による研究
    藤村宗一郎(東京理科大学)
  6. とある高専生の夢コン体験記
    上根直也(米子工業高専)
  7. 流れの夢コンテストを通して
    服部秀平(産業技術総合研究所),江森郁麻(産業技術総合研究所)

 

とある高専生の夢コン体験記


上根 直也
米子工業高等専門学校

 

1.はじめに

 2015年11月7日,この日は私の人生の中で特別な日となった.そう,この日,流れの夢コンテスト2015が開催され,私たちは『一樹賞』を受賞したのである.14回目を数えるこのコンテストは,今回『輪を広げる癒し・福祉』というテーマで開催され,私たち米子高専早水研究室は2年ぶりに出場した.このコンテストに出場すると決めてからの約半年間の苦労・苦難,そして受賞してからの喜びや,思わぬサプライズを本稿で記したい.

 

2.『このテーマは難しい』

 これはテーマが発表された時の私たちの会話である.今回のテーマの内容は,『様々な流れに関わるアイデア・技術をベースとして,人々を癒やす作品や未来の福祉機器として役立ちそうな作品を製作し競ってもらいます.観る人の知的好奇心を掻き立てるとともに人の和を広げられるような魅力に満ちた作品を期待しています.奮ってご応募ください.』であり,正直応募するか迷った.何を作ればいいかさっぱりイメージが湧かない.しかし,出場しない訳にはいかない.上には逆らえないのである.

 

3.『インパクトある物を』

 私たちは今回の作品をきめる際に気をつけたことがいくつかあるが,その中で最も大切にしたのがこれである.なぜなら,このコンテストは名前にもあるように夢を与える斬新なアイデアを求めているからである.そこで私たちはこう考えた.『水を代表とする流体に関する癒しグッズは山ほどあり,癒しに着目してくるチームは多いはず,それなら自分たちは多少難しくても福祉に着目しよう.』

  ここまで決まったものの,具体的なアイデアは何も出ないまま数日が過ぎたある日,テレビで最近ペットが医療技術の向上やペット専用の健康食品の開発などをうけて長寿命化してきており,それに伴って寝たきりになるペットが増えているということを知った.そして,このようなペットは衣擦れや床ずれといった問題を抱えている.そこで,このようなペットの為に何か福祉機器を作れないかと考え,今回の『極楽快適ウォーターベッド“YASUTAKA”』が誕生した.我ながら,なかなかのネーミングセンスである.ちなみになぜ“YASUTAKA”か?というと,我らが指導教員の名前が早水庸隆(やすたか)准教授だからである.

 

4.クラドニ図形

  この言葉を聞いたことがあるだろうか?聞いたことのない方は是非見て頂きたい.これは簡単にいうと音の周波数を変えると板の上にまかれた砂が様々な模様を作りだすというものである.ウォーターベッドからマッサージ効果を得る為に必要な水圧振動を,どう発生させるかという問題に頭を抱えているとき,この言葉が頭をよぎった.『もしこれが水だったらどんなことが起こるのだろう?』早速,研究室に置いてあるスピーカーを1つ分解して実験を行った.それが図1(動画)である.


図1 音の周波数による水の挙動(動画)

 これを初めて見た瞬間の感動は今でも忘れられない.思わず他の研究室の友人まで呼んできてしまったほどである.この音の周波数の変化が水に異なる挙動を与えるのを利用して,今回のウォーターベッドはマッサージ効果を得ることに成功した.

 

5.車好きのWくん

  さてやりたいことは決まった.あとは実際に作るだけである.しかし,ここでも私は頭を抱える事になる.なぜなら,家庭用のスピーカーでは騒音などの観点から出力が制限され思ったように振動してくれないのである.大出力の物もあるにはあるが,今回の夢コンの補助額では収まりそうもない物ばかりだった.『車用のスピーカーならかなり大出力のやつがあるよ.中古ショップなら安いのもあるし』ここで登場するのが車好きのWくんである.彼は同じ研究室の仲間で,普段からよく車をいじったりしている正真正銘の車好きである.この彼の一言で車用のスピーカーを使う事が決まった.そこからは,必要な物がある店の案内から電気的な配線まで彼が中心となってくれた.彼の豊富な知識には驚かされるばかりで非常に頼もしく,もう彼なしでは今回の賞は成しえなかったといっても過言ではない.彼の活躍もあり作業は急ピッチで進んでいった.

 

6.『期限に間に合わないかもしれない』

  コンテスト当日を目前に控えた11月3日,実行委員会の方からこんなメールが届いた.『こんにちは.夢コン実行委員会です.いよいよコンテストが今週末に迫りました.皆さん展示品は完成し,プレゼンの練習中といったところでしょうか.さて,直前で申し訳ありませんが幾つかご連絡があります.‥‥』もう焦りに焦った.皆さんもうお分かりだろう.作品が完成していないのである.プレゼンなんて影も形もなかった.この辺りの事は必死すぎてあまりよく覚えていない.結局作品が完成したのはコンテスト2日前の発送が間に合うギリギリの時間であった.普通のダンボールに収まりきらず,2つのダンボールをつなげて作った特大ダンボールに梱包した私たちの汗と涙の結晶は東京に旅立った.

 

7.『極楽快適ウォーターベッド“YASUTAKA”』

 ここでコンテスト当日の事について触れる前に作品の紹介をしよう.図2に示すのが今回発表した『極楽快適ウォーターベッド“YASUTAKA”』である.簡単に構造を説明すると,ベースとなる黒い箱の上面に穴を開けてスピーカーをはめ込み,そのスピーカーから異なる周波数の音を発生させ,その音を振動として上部のウォーターベッドに伝えるといった構造になっている.つまり,この作品は従来のウォーターベッドが持つ身体への負担軽減効果に加え,水圧振動によるマッサージ効果を兼ね備えた,癒し効果が高いウォーターベッドといえる.最終的に癒し・福祉という2つのテーマを兼ね備えた作品が完成した.

(a) 写真  (b) 3Dモデル

図2 極楽快適ウォーターベッド“YASUTAKA”

 

8.コンテスト当日

  さていよいよ流れの夢コンテスト当日である.午前はショートプレゼンテーションで簡単な作品紹介を,午後からは実際に作品を動かして実演を行うというスケジュールとなっていた.発表原稿の最終チェックとパソコンの動作の確認を終え,いよいよプレゼンの部が始まった.東京大学など名だたる大学が発表を行い,あっという間に私の番となった.何度も練習を重ねていただけあり,自信を持って発表する事ができたと思う.仲間たちからもとても良かったと声をかけてもらいまずは一安心.

  そして実演の部.ここでハプニングが起きた.なんとウォーターベッドの袋が破れて,水が漏れてきたのである.急いで穴をふさぎなんとか水が止まったときには実演の部開始から20分が経過していた.遅れを取り戻すために必死に来てくださった方々に作品を紹介し,触れてもらい,作品の魅力を伝えた.

  1時間半の実演の部を終え,ついに審査結果の発表となった.正直,実演の部でのハプニングもありほとんど期待していなかった.しかし,ふたを開けてみると各審査項目においてとても高い評価を得られているではないか.しかも『魅力的なプレゼンテーションだったか』という項目においては1位である.これはもしや?と仲間と顔を見合わせたのを今でも鮮明に覚えている.そして,『一樹賞 米子高専早水研究室』の文字がスクリーンに浮かび上がった.半年間の努力が報われた瞬間だった.たくさんの人々やカメラの前で賞状を受け取った時に今回のコンテストに参加して良かったと心から思った.

 

9.今回の夢コンを通じて得た事

  私は今回の夢コンを通じて主に2つの事を得た.1つはプレゼンテーションの大切さを再認識することができた事である.私達は常日頃から『どれだけ良いものを作っても,それを相手に伝えられなければ何の意味もない』という事を多くのプレゼン発表を通じて指導されている.今回の夢コンでもその成果が十分に発揮された事から,プレゼンテーションの大切さを再認識する事ができた.2つ目は人との関わりである.今回の夢コンを通して私はたくさんの人と出会う事ができた.同じく夢コンに出場された方,他の学校の先生方,そして私にとって非常に大きかったのは,高専専攻科を修了された後,東京大学大学院の修士過程に在学しておられる方との出会いである.私も今年の春から米子高専の専攻科に進学し,その後も大学院への進学を目指している.そのため,私にとって,とても有意義な話を聞かせてもらい,今後の道標とすることができた.

 

10.最後に

  このコンテストを終えた後のサプライズについて少し記したいと思う.なんと今回の受賞が新聞に載ったのである.それだけではない.なんとその新聞を読んだテレビ局からも取材が来たのである.放送後は長らく会っていなかった同級生から連絡が来るなど多くの人から反響があり,ここまで大事になるとは思ってもみなかったので,これにはとても驚かされた.今回,得た事をもう1つ挙げるのであればメディアの影響力の大きさを知ったことである.

  最後になりましたが,今回の夢コンを通じて大変たくさんの方々にお世話になりました.アドバイスをくださった先輩方,技術指導してくださった技術職員の方々,大きくて重い荷物を運んでくださった東京理科大学の方々,最後の片付けで手を貸してくださった金沢工業大学の方々,今回の実行委員長を務められた亀谷雄樹先生をはじめとする実行委員会の方々,夜遅くまで熱心に指導してくださった早水先生.そして,毎日共に悩んで喜びを分かち合った早水研究室の仲間達.本当にたくさんの方々に支えられて今回このような名誉ある賞を頂くことが出来ました.この場をお借りして深くお礼申し上げます.

更新日:2016.2.16