ニューズレター

流れ 2017年2月号 目次

― 特集テーマ:流体工学部門講演会 ―

  1. 巻頭言
    (本澤,橋本,松田)
  2. 21世紀の乱流研究
    柳瀬眞一郎(岡山大学)
  3. 液晶流を利用した無定形アクチュエータ
    松田琳子,辻知宏,蝶野成臣(高知工科大学)
  4. 遷音速多段軸流圧縮機の静翼列におけるハブ・コーナーはく離の流れ構造
    齋藤誠志朗(九州大学)
  5. 移動壁面上を浮遊する液滴
    澤口英理奈,濱開,田川義之(東京農工大学)
  6. 静電配向制御によるセルロース新素材創製プロセス
    武田祐介(東北大学),Christophe Brouzet,Nitesh Mittal,Fredrik Lundell (KTH Royal Institute of Technology, Sweden),高奈秀匡(東北大学)
  7. 流れの夢コンテストに参加して
    坪根虎汰(広島国泰寺高校2年),棟田陽(広島国泰寺高校 科学部物理班顧問)
  8. 流れの夢コンテストに参加して
    山内遥(明星大学)

 

静電配向制御によるセルロース新素材創製プロセス


武田祐介
(東北大学)


Christophe Brouzet
(KTH Royal Institute of Technology)


Nitesh Mittal
(KTH Royal Institute of Technology)


Fredrik Lundell
(KTH Royal Institute of Technology)


高奈秀匡
(東北大学)

 

1. 緒   言

 2016年11月12日,13日の2日間にわたり,山口大学工学部常盤キャンパスで開催された第94期日本機械学会流体工学部門講演会において,栄えある優秀講演表彰をいただいた.この場を借りて日本機械学会の皆様および選考委員会の皆様に御礼を申し上げるとともに,講演発表内容を以下に紹介する.

  近年,セルロースナノファイバー(CNF)と呼ばれる木材繊維を化学的,機械的にナノオーダーにまで微細化した新規バイオマス素材が注目を集めている.この素材は30~40本のセルロース分子が水素結合によって束となった幅3~4 nm,長さ2~3 μmの高結晶性の超微細繊維であり,軽量(鉄鋼の1/5),高強度(鉄鋼の5倍),低熱膨張(石英ガラス並)などの優れた特性を有することから,繊維強化複合材料として幅広い分野での応用が期待されている.また,環境負荷が低く,日本には資源となる木材が豊富に存在することから,低炭素社会の実現に向けて大きな可能性を有する素材といえる.

  図1に一般的な繊維材料の比強度および比弾性率を示す(1).図中の赤い点は木材繊維を示し,各数値は木材繊維の長軸と木材繊維内部に存在するCNFの長軸がなす平均角度である.木材繊維の比強度および比弾性率はその平均角度の減少に伴い向上しており,平均角度が1oの場合にはガラス繊維やアラミド繊維(Kevlar)と同程度の値を示すことが分かる.すなわち,繊維内部のCNFの配向を制御することができれば,繊維の高強度・高弾性化が可能となる.


Fig. 1 Specific strength and specific modulus for common filament materials(1).

 

 スウェーデン王立工科大学においては,CNFを素材とした高強度・高弾性セルロース繊維を人工的に創製することを目的として,Flow-focusingプロセスと呼ばれるセルロース繊維創製プロセスの研究が進められている(1,2).このプロセスは十字型の流路から構成され, 鉛直方向流路上端からCNF−水分散系を供給し(Core flow),水平方向流路左右端からHCl溶液を供給する(Sheath flow).鉛直方向流路と水平方向流路の合流部において,Core flowには強い伸長流が生じ,Core flow内部に存在するCNFが流れ方向に配向するとともに,HCl溶液がCore flow内部に拡散することで,CNF間のクーロン反発力が減少し,水素結合により繊維状に凝集する.その後,鉛直方向流路下端からセルロース繊維が流動下で連続的に生成されるセルロース繊維創製プロセスである.このプロセスにより創製されたセルロース繊維の比強度および比弾性率は,図1において☆で示される.木材繊維と比較すると,更なる高強度・高弾性化の余地があることが分かり,CNFの配向制御が不十分であると考えられる.そこで本研究では,CNFの新規な配向制御方法として,交流電場を用いた方法を提案し,Flow-focusingプロセスと組み合わせることにより,更なるCNFの配向度向上およびセルロース繊維の高強度・高弾性化を目的とする.

  本研究では,まず初めに,簡素化された系を用いて,可視化解析により静止場でのセルロース微小繊維の交流電場に対する応答性を明らかにし,続いて,図2に示す本研究において提案された上流部に電極を配置したFlow-focusing流路を用いて,光学計測により流動下におけるCNFの静電配向効果を明らかにする.


Fig. 2 Developed flow-focusing channel with electrodes.

 

2. 交流電場に対するセルロース微小繊維の応答性

 静止場でのセルロース微小繊維の交流電場に対する応答性を明らかにすることを目的とし,簡素化された系での可視化解析を行った.図3に本解析に用いた実験装置の概略図を示す.シャーレ底部に銅テープを電極として取り付けており,電極間距離は2 cm,電極幅は0.5 cmである.本実験は可視化を目的としているため,実際のプロセスで使用するCNFよりも大きい平均繊維長50〜60 μmのセルロース微小繊維を使用し,その水分散系を試料液体とした.試料液体の濃度および粘度,導電率はそれぞれ0.2 wt.%,5.05 mPa・s,122 μS/cmである.試料液体20 mlに正弦波交流電場を印加した際の微小繊維の動的挙動をデジタル一眼レフカメラと背景光を用いて可視化した.


Fig. 3 Schematic illustration of experimental setup for visualization.

 図4(a)および(b)に電極間に電場を印加していない場合および1 kVpp,5 kHzの正弦波交流電場を印加した場合の可視化写真をそれぞれ示す.なお,このときの平均電場は500 V/cmである.交流電場下において,セルロース微小繊維は電場と平行に配向する.これは,セルロース微小繊維が分極することにより,電場から静電トルクを受け,電場の向きに回転するためである.なお,電場の向きが反転した場合でも,微小繊維内部の双極子モーメントの向きも反転するため,微小繊維は常に同じ方向に回転する.また,電場を印加してから微小繊維が電場と平行に配向するまでに要する時間は,平均電場500 V/cmおよび5 kHzの条件では,20秒程度であることが明らかとなった.


(a) 0 Vpp


(b) 1 kVpp, 5 kHz

Fig. 4 Visualization of micro-scale cellulose fibrils with or without AC electric field.

 

3. 流動下におけるCNFの静電配向効果

 図5に上流部に電極を配置したFlow-focusing流路形状および光学計測系の概略図を示す.本実験では上述の可視化解析により得られた知見をもとに,流路合流部よりも上流部に電極を配置したFlow-focusing流路を用いて,光学計測により流動下におけるCNFの静電配向効果を明らかにした.流路断面積は1 mm × 1 mmであり,流路上端からはCNF−水分散系を13.5 ml/hで供給し(Core flow),流路左右端からは純水を23.4 ml/hで供給する(Sheath flow).Core flow上流部に電源電極と接地電極を交互に3つずつ配置し,電極間距離は10 mm,電極幅は4 mmである.この場合,CNFの電極間の滞在時間は,セルロース微小繊維の電場に対する応答時間である約20秒となる.また,最も下流にある電極から流路合流部までの距離は5 mmである.CNF−水分散系の濃度および粘度,導電率はそれぞれ0.3 wt.%,16.5 mPa・s,48.0 μS/cmである.

  本実験ではCNF−水分散系の複屈折性を利用して,CNFの配向度を評価した.He-Neレーザー(λ = 632.8 nm),偏光板,ICCDカメラを図5のように配置し,流動下において印加電圧800 Vppおよび1 kVpp,周波数4 kHzの正弦波交流電場を印加した際の流路合流部およびその下流域における透過光をICCDカメラで撮影し,画像解析により流路中心近傍の透過光強度を計測した.CNFが流れ方向に配向するほど,CNF−水分散系の複屈折性が向上するため,直線偏光がCNF−水分散系を透過すると楕円偏光となり,2枚目の偏光板を透過する光量が増加する.すなわち,透過光強度を計測することにより,CNFの配向度を定性的に評価することが可能である.


Fig. 5 Schematic illustration of experimental setup with a flow-focusing channel imposing electrostatic field for the alignment of charged fibrils in the upstream of flow-focusing section.

 図6に流路合流部およびその下流域における透過光強度を異なる印加電圧に対して示す.また,図中上部には透過光強度の計測領域を示した図を合わせて示す.なお,Core flowの流れ方向をz方向として,Sheath flowの上壁位置をz = 0 mmとする.図より,全ての印加電圧において,透過光強度はz = 2 mm付近で最大となり,下流に行くにつれて次第に減少することが分かる.これは,流路合流部近傍において,伸長流の影響を受けてCNFの配向度が向上し,下流に流れるにつれて,ブラウン拡散の影響を受けてCNFの配向が乱れるためである.ここで,印加電圧に着目すると,印加電圧の増加に伴い,流路合流部およびその下流域において透過光強度が増加していることが分かる.すなわち,印加電圧の増加に伴い,CNFの配向度が向上しており,流動下においてもCNFの静電配向が効果的であることが示された.


Fig. 6 Axial distribution of transmitted light intensity for various applied voltages obtained from the averaged CCD image at the square sections shown in the picture.

 

4. 結   言

 本研究では,更なるセルロースナノファイバー(CNF)の配向度向上およびセルロース繊維の高強度・高弾性化を目指し,交流電場によるCNFの配向制御法を従来のFlow-focusingプロセスと組み合わせた革新的セルロース繊維創製プロセスを確立した.本研究で得られた知見を以下に要約する.

  1. 簡素化された系を用いて,静止場での交流電場下におけるセルロース微小繊維の動的挙動を可視化解析した.交流電場下において分極したセルロース微小繊維は電場からトルクを受け回転し,平均電場500 V/cmおよび5 kHzの条件では,20秒程度で電場と平行に配向する.
  2. 上流部に電極を配置したFlow-focusing流路を用いて,光学計測により流動下におけるCNFの静電配向効果を評価した.印加電圧の増加に伴い,流路合流部およびその下流域におけるCNFの配向度が向上し,流動下においてもCNFの静電配向が効果的であることが示された.

 

謝   辞

  本研究は,日本学術振興会の研究拠点形成事業(JSPS Core-to-Core Program)および東北大学学際科学フロンティア研究所の領域創成研究プログラムの支援を得て行われたものである.また,本研究に対し,東北大学の西山秀哉教授より貴重なご助言を賜った.また,中嶋智樹技術職員には本実験に対し支援を賜った.最後に,本ニューズレターの執筆という貴重な機会を与えて下さった日本機械学会の皆様および選考委員会の皆様に深く感謝の意を表する.

 

文   献

(1) Håkansson, K. M., Fall, A. B., Lundell, F., Yu, S., Krywka, C., Roth, S. V., Santoro, G., Kvick, M., Wittberg, L. P., Wågberg, L. and Söderberg, L. D., “Hydrodynamic alignment and assembly of nanofibrils resulting in strong cellulose filament”, Nature Communications, Vol. 5, No. 4018 (2014).
(2) Håkansson, K. M., “Online determination of anisotropy during cellulose nanofibril assembly in a flow focusing device”, RSC Advances, Vol. 5 (2015), pp. 18601-18608.
更新日:2017.2.22