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流れ 2019年2月号 目次

― 特集テーマ:JSME年次大会特集 ―

  1. 巻頭言
    (本澤,黒沢)
  2. バイオミメティクスで流れを掴む技術の開発
    窪田 佳寛(東洋大学),望月 修(東洋大学)
  3. プラズマアクチュエータ研究会 ~5年間の活動と今後の展望~
    瀬川 武彦(産業技術総合研究所),深潟 康二(慶應義塾大学),松野 隆(鳥取大学),野々村 拓(東北大学),大西 直文(東北大学)
  4. 効率的なトライ&エラーによる流れ制御の研究
    石川 仁(東京理科大学)
  5. コアンダノズルによる遷音速、超音速不足膨張噴流のベクトル制御
    社河内 敏彦(三重大学)
  6. 主流と干渉する噴流による境界層能動制御
    長谷川 裕晃(宇都宮大学)
  7. 多機能OCTによる毛細血管血流速マイクロ断層可視化法
    佐伯 壮一(大阪市立大学),古川 大介(大阪市立大学),伊藤 高文(東光高岳),西野 佳昭(東光高岳)
  8. 多機能OCT によるスキンメカニクス診断への応用 ~皮膚抹消血管構造の可視化~
    原 祐輔(資生堂グローバルイノベーションセンター),佐伯 壮一(大阪市立大学)

 

多機能OCT によるスキンメカニクス診断への応用 ~皮膚抹消血管構造の可視化~


原 祐輔
資生堂グローバル
イノベーションセンター

佐伯 壮一
大阪市立大学

1.はじめに

 皮膚は厚さ2 ~ 3 mm程度の薄い組織であるが,ヒトの全身を覆うように存在しており,総重量は全体重の16 %にも及ぶ人体における最大の臓器である[1].さらに,生体と外界との境界に存在することから,バリア機能や体温調整機能などの生命を維持するために極めて重要な役割を果たしている.ここで,皮膚は表皮層や真皮層といった層構造に加え,血管やリンパ管,汗腺などの多数の器官から構成されおり,皮膚が正常に機能するためにそれぞれの構造が重要な意味を持っている.皮膚構成物の変質による皮膚機能の不調や老化は,生命やQuality of Lifeに関わる疾病に加え,シワやシミなどに代表される美容トラブルとも直結することが知られている.したがって,皮膚の様々な機能をその構成物ごとに精度高く診断することは,皮膚機能の変調や老化に対処する医療・美容領域において重要な課題である.

 皮膚の内部構造を可視化する技術として光コヒーレンス断層画像法(Optical Coherence Tomography; OCT)が近年注目され,臨床応用が進められている.OCTは,皮膚の断層像を1 ~ 10 μmの高空間分解能にて非侵襲かつ非接触にてin vivo取得することが可能であり,ビデオレート以上の速度で2次元断層像を可視化する.本研究では,OCT技術を応用することにより,皮膚の毛細血管の空間分布を可視化する技術を開発し,従来にない高精度な皮膚の診断技術を確立することを目的とした.

2.皮膚抹消血管構造を可視化する技術

 皮膚に存在する毛細血管は,皮膚全体の恒常性維持に必須な器官であり,美容領域においても,健康的な肌色やシワ,シミに対して作用していることが示唆されている.そのため,皮膚血管の形態や機能を評価することは,疾病や美容トラブルなどを診断するための重要な指標になると考えられる.

 皮膚の血管を診断する手法としては,マイクロスコープにて観察する手法などが知られている.しかし,皮膚の血管は深さごとに異なる特徴を有しているのに対して,マイクロスコープでは血管の空間分布を考慮した解析を行うことは出来ないという課題があった.最近,毛細血管の空間分布を可視化する技術として,皮膚の同一位置における断層像をOCTにより複数回取得し,血流に由来するスペックルの揺らぎを検出する手法が提案された[2].特に,OCTの強度画像の相互相関解析から血管を可視化する技術はcmOCT (correlation mapping OCT)と呼ばれ,前腕内側の皮膚血管の可視化が行われている[3].そこで,cmOCTアルゴリズムによりヒト顔の皮膚血管可視化を予備的に検討したところ,抹消の血管構造を検知することは出来なかった.この理由としては,顔抹消血管の血流束がcmOCTの検出感度以下であったためであると考えられる.そこで本研究では,時間方向に隣接する複数の相関係数を乗算することにより,cmOCTによる血管抽出感度を向上させるアルゴリズムを開発した.さらに,体動により発生するノイズを効率的に除去するアルゴリズムを実装することにより,血流が緩やかで体動が大きなヒト顔皮膚においても安定的に毛細血管の空間分布を可視化できるシステムを構築した.

3.開発した血管可視化技術の適用例

 開発した技術を用いて,ヒト顔における血行促進剤の適用による効果を検証した結果を図1に示す.開発したアルゴリズムにより皮膚抹消の血管構造が高感度に可視化できること,さらに,血行促進剤により抹消血管が拡張している動態が観察された.また,本技術により,加齢に伴い顔の毛細血管が減少すること,顔に出来るシミの主要タイプである老人性色素斑において皮膚の毛細血管が異常に増加していること[4,5]を明らかにしている.本研究にて構築したシステムにより,薬剤適用による血管動態ならびに加齢やシミ部位における血管分布の変化を解析できることから,本手法の皮膚診断技術としての有用性が示唆される.


Fig. 1 Vasodilation effect of blood circulation promoter.

Blood vessel images before and after application of benzyl nicotinate are shown in (a) and (b), respectively.
White regions indicate the blood vessels.

4.おわりに

 皮膚を非侵襲的に断層可視化する従来のOCT技術は,表皮厚や真皮コラーゲンの状態を計測するために使用されてきた.本研究では,従来のOCT技術に抹消血管を可視化する機能を付与することにより,OCTの新たな有用性を示した.

 OCTを多機能化する検討は近年進んできており,皮膚の粘弾性挙動の空間分布を診断できることも示されている[6, 7].今後,OCT技術の更なる多機能化により,皮膚の老化や疾病に対する診断ならびに皮膚に塗布する薬剤や美容施術の効果検証などが高精度に行われることが期待される.

参考文献

[1]  清水宏, あたらしい皮膚科学(第2版),株式会社中山書店 (2011), 1-27.
[2] Chen CL and Wang RK, “Optical coherence tomography based angiography”, Biomedical Optics Express, 8 (2017), 1056-1082.
[3] Enfield J, et al., “In vivo imaging of the microcirculation of the volar forearm using correlation mapping optical coherence tomography (cmOCT)”, Biomedical Optics Express, 2 (2011), 1184-1193.
[4] Hara Y, et al., “Visualization of age-related vascular alterations in facial skin using optical coherence tomography-based angiography”, Journal of dermatological Science, 90 (2018), 96-98.
[5] Shibata T and Hara Y, “Involvement of vasculature in hyperpigmentation and the possibility of a new approach towards treatment”, Fragrance Journal, 454 (2018), 19-23.
[6] Hara Y, et al., “Visualization of viscoelastic behavior in vivo skin using optical coherence tomography-based straingraphy combined with suction device”, Mechanical Engineering Letters, 4 (2018), 17-24.
[7] Hara Y, et al., “Visualization of viscoelastic behavior in skin equivalent using optical coherence tomography-based straingraphy”, Skin Research and Technology, 24 (2018), 334-339.

 

更新日:2019.2.22