ニューズレター

流れ 2003年1月号 目次

― 特集1.流れのコントロール ―

― 特集2.学生の流体工学研究 ―

3. 「第80期流体工学部門賞の選考と授与」

 

研究室の学生から見た流体工学の研究の面白さ
ナノ世界の現象と流体工学研究


東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻(松本・高木研)
菊川豪太

1. 研究室の行く先

 私は,研究室名「流体工学研究室」に所属している.しかし,後に簡単に触れるようにこの名前からは,ちょっと想像することが難しい研究を行っている.修士2年の私が流体工学の動向を言及するのはおこがましいけれど,少なくとも本研究室においては,いわゆるトレンド色の強い分野への新しいベクトルを模索しているように思われる.すなわち,キーワード「バイオ」「ナノスケール」「生体」といったものである.自分自身では研究室の門を叩いたとき,このような研究の潮流を意識していたわけではない.また,現在でも旧来からの正統派流体研究が不必要だとも魅力がないとも全く思わない.「つぼ」にはまると熱中してしまう性格である私が,このような研究をしていたとしても,やはり同じように没頭していたに違いないと思う.しかし,上に挙げた流行のキーワードに何やら得たいの知れない魅力を感じてしまうのもまた事実だろう.そして,私自身の研究は「ナノスケール」へと突入し,いつしか「つぼ」にはまっていた.

2. 自分の研究紹介

 以下では,まず自分の研究を簡単に紹介し,最後に流体工学研究の面白さについて考えてみたいと思う.
 研究題目は「界面活性剤によるナノバブルの安定化に関する分子動力学解析」である.現在,微小気泡は様々な分野で研究・応用が進んでおり,例えば医療分野では超音波造影に利用されている.つまり脂肪酸によって界面を安定化させたマイクロバブルを人体血管内に導入し,超音波を照射して反射してくるエコーを観測することで,より鮮明な血管造影を行うといったものである.本来,水中のマイクロオーダー以下の微小気泡というのは,強い表面張力の効果で,それ自身では収縮しようとして不安定な存在であると考えられる.しかし,最近の研究から,水中の超撥水性固体表面に,研究題目にある「ナノバブル」の存在が示唆されている[1,2].これらの存在の是非に関して大いに興味を覚え,また,上に述べた血管造影剤において用いられている安定化物質としての両親媒性分子(特に界面活性剤)の安定化への影響を分子レベルから評価すべく研究を始めた.本研究では,分子レベルの対象に対し有力な解析手法である,分子動力学法を用いている.結果の一例を図1に示すが,分子シミュレーション上で実際に界面活性剤の吸着構造が表れ,親水基の極性や疎水基の長さが安定化に寄与していることを定性的に示すことができた.
このようなナノスケールの現象を解析する分子動力学法は,流体研究に限らず広く定着していると考えられるが,少し大きなスケールの内容を議論しようとしたとき,計算負荷の問題が立ちはだかり,たちまち解析が困難になってくる.今後は,スケール間の接合に関する問題を自分の研究の対象として,挑戦していきたいと考えている.


Fig.1 Snapshot of MD result of water-surfactant solution. The left figure shows the bubble region (yellow region), and the right figure is a cross-sectional snapshot.

3. 流行と流体

 翻って,流体研究の面白さはどこにあるのか,あるいは実際修士2年まで研究を行ってきて何に魅力を感じたかについて考えてみた.
 私はおそらく一般的に見て熱中派である.教科書などにある過去に築き上げられた複雑な流体理論を見ていると理解してみたくなる.一方で,新しいものにも大いに興味がある.他人が全く手を出していない,考えたことのない領域に踏み出したいという欲望に常に駆られている.そして結局,本当の研究の面白さは,その研究が「流行」を走っているかどうかというのはあまり重要でないことに気が付いた.
 現在,当研究室ではたくさんの研究者(学生を含め)が非常に幅広い研究を行っている.このような環境で自分の研究をアピールしようと考えると,自分の研究に対して深く考えることを強いられる.自己言及の繰り返しである.そして,そのようにして考え抜かれている研究というのはやはり面白いと感じるようになった.
 今後,流体研究は外の世界(他の分野)に触れ多様化することは間違いなく,既にそういった潮流をひしひしと感じている.しかし,新しい領域そのものが面白いわけではなく,新しい流れを創ろうとすること,あるいは新しい領域にいてそれ自身を深く自己言及することが面白いのではないかと思う.これから自分自身の研究に対しても,そういった姿勢を貫き,他の研究者が興味を持ってくれるような研究にできればよいなと思っている.

文 献

[1] Ishida, N., Inoue, T., Miyahara, M., and Higashitani, K., Langmuir, 16 (2000), 5681-5687
[2] Tyrrell, J. W. G. and Attard, P., Phys. Rev. Lett., 87 (2001), 176104

更新日:2003.1