ニューズレター

流れ 2006年4月号 目次

― 特集:噴流の制御 ―

  1. 渦発生ジェットによるはく離再付着流れの制御
    本阿弥 眞治(東京理科大)
  2. 柔らかいフィンをもつ円管から流出する噴流
    中島 正弘(鹿児島高専)
  3. ウォータージェット技術で用いられる噴流 −アブレシブジェットの展開−
    清水 誠二(日本大学)
  4. 超音速ジェットからの放出される強い音波の抑制
    前川 博(広島大学)
  5. 同軸噴流における物質混合のアクティブ制御
    深潟 康二,光石 暁彦,笠木 伸英(東京大学)
  6. 編集後記
    辻本 公一(三重大学),桑原利明(荏原製作所),舩橋 茂久(日立製作所),松本大樹(室蘭工業大学)

 

同軸噴流における物質混合のアクティブ制御


深潟 康二
東京大学


光石 暁彦
東京大学


笠木 伸英
東京大学

1.はじめに

  持続型エネルギー社会への移行に向け,ガスタービン・燃料電池ハイブリッドシステムを中核とした小型分散エネルギーシステムが注目されている[1].そこで想定される出力数kWのガスタービンに用いられる小型燃焼器では,低レイノルズ数条件のもとでいかにして燃料と酸化剤の混合状態を制御し,クリーンで高効率,かつ安定した燃焼を達成するかが大きな課題の一つとなっている.

(a)ノズル外観
(b) 燃焼制御実験における燃料濃度(白)と火炎(赤)の可視化
(左, 制御なし; 右, 制御あり)
図1 インテリジェントノズルを用いた燃焼制御 [3]

 著者らの研究グループでは,そのような小型燃焼器における混合の自在な制御を可能とすべく,図1(a)に示す「インテリジェントノズル」を開発した[2, 3].これはMEMS技術を用いて製作されたフラップ型電磁アクチュエータ群を外側ノズル壁面に備えた同軸ノズルである.これまでに行われた実験計測で,ノズルから火炎面に至るまでの燃料(中心噴流)と酸化剤(環状噴流)の混合過程を能動的に制御することで,様々な条件下において火炎を安定化させ(図1(b)),CO排出量を低減できる事がわかっている[3]

 しかし,例えばこれらに加えてNOx排出量を大幅低減させるなど,経験的制御では達成困難な改善を図るためには,より詳細な物質輸送・混合制御機構の解明,およびその知見に基づく理論的制御手法の構築が不可欠である.本稿では,その第一歩として行われている直接数値シミュレーション(DNS)を用いた機構解析[4]の一部を紹介する.

2.直接数値シミュレーション

   図2(a)に計算対象を示す.ノズルと流出部以外は壁面に囲まれた三次元軸対称な系となっている.同軸の二重円管ノズルによる噴流は,中心噴流/環状噴流間(内側剪断層)と環状噴流/周囲流体間(外側剪断層)と,二つの自由剪断層が存在する.環状噴流のバルク平均流速(Um,o )と外径(Do )で定義されるレイノルズ数(Re = Um,oDo/ν)は1320とし,同軸ノズルの直径比,ノズルからチャンバへの拡大比はどちらも2とした.残るパラメータは中心噴流と環状噴流のバルク平均流速比であるが,ここでは内側からメタン,外側から空気が噴出することを想定し,完全混合時の当量比約0.7に対応するUm,o/Um,i = 6.4を用いた.支配方程式である非圧縮のNavier-Stokes方程式及び濃度(スカラー)の輸送方程式は,高解像度の計算格子を用いて差分法[5]で離散化しており,乱流モデルは用いていない.

(a) 計算領域 (b) 制御によるノズル出口速度変動
図2 計算モデル

 インテリジェントノズルによる制御入力としては軸対称なモードを想定し,ノズル径の周期的収縮としてモデル化している.図2(b)にノズル出口速度分布を示すが,r /Do = 0.5の近傍に注目すると外側ノズルの外壁に対応する速度ゼロの位置が周期的に移動しているのが分かる.流量一定条件を課しているため環状噴流の流速も周期的に変化する.

3.制御の効果

  以下では収縮の振幅(ε)と周波数(Strouhal数,Sta)を,環状噴流のバルク平均流速と外径で無次元化してε = 0.0125,Sta = 1とした.これらは実際のインテリジェントノズルの最大振幅と,実験で混合の大幅な促進を確認できた周波数に対応する.

(a) 制御無し (b) 制御有り
図3 瞬時渦構造(赤:ωz = 5, 緑:ωz = 0, 青:ωz = -5)と物質濃度分布(黒,c = 0.095)

 図3に制御した場合と制御しなかった場合の瞬時渦構造と物質濃度場を示す.渦構造は速度勾配テンソルの第二不変量の等値面(軸方向渦度(ωz )で色付け)で,物質濃度場は中心噴流流体の体積混合分率(c)の等値面で表した.閉空間では剪断層の成長に不可欠な周囲流体のエントレインメントは限られており,加えて側壁の束縛の影響も大きい.その結果,二重剪断層のうち特に外側の成長が妨げられ,本流動条件下で制御なしの場合にはロールアップ渦に代表される噴流大規模渦構造は全く現れない(図3(a)).これに対し,制御ありの場合にはその入力によってノズル近傍に軸対称な渦輪が創出される(図3(b)).その下流では渦輪の不安定化から構造の三次元化が進み,z方向に軸を持つ縦渦状の構造が現れ崩壊に至ることで,スカラーの混合が促進されている.

 ノズル近傍の領域(z/Do < 2)において,制御と物質輸送の関係をより定量的に評価するため,制御入力の位相を用いた位相平均統計量を計算し,考察を行った.図4(a)はθ方向渦度(ωθ,渦輪に対応)と物質濃度の関係を表している.内側/外側の剪断層(それぞれr/Do = 0.25/0.5, z/Do = 0)から,一対の渦輪が制御に同期して放出されている様子が確認できる.中心噴流から噴出されたスカラーは,内側剪断層の渦輪(ωθ < 0の領域)に捕捉されており,渦輪とともに対流している.従って,物質混合分布の自在な制御を達成するための鍵は,内側の渦輪の三次元化・崩壊過程を制御することにあると考えられる.また図4(b)に示す三次元渦構造の生成機構は内側と外側で異なることが分かっており,それらの生成機構が収支式の解析より明らかになっている [4]

(a) 物質濃度
c = 0.05 (青)からc = 0.95 (赤)まで0.05刻み)
(b) 軸方向渦度変動
ω'zrms = 0.5 (青)からω'zrms = 12 (赤)まで0.5刻み)
図4 周方向渦度(黒:実線,ωθ ≥ 0;破線,ωθ < 0)と諸量の関係

4.おわりに

  以上,噴流自由剪断層を直接操作可能な同軸二重ノズル(インテリジェントノズル)を模擬し,基本的なモードについて制御入力の効果を追ってきた.今後,安定でクリーンな燃焼の実現のためにはどのような燃料濃度分布を作ればよいか,そのためにはどのような制御を行えばよいかといった知見をさらに体系化する必要がある.最終的には,これらの知見を基にして小型燃焼器における局所の燃料・酸化剤混合状態の自在な制御を可能とする理論的制御手法を確立することを目指したい.

参考文献

[1] 君島真仁,笠木伸英,「ガスタービン・燃料電池ハイブリッドシステムの展望」,エネルギー・資源,Vol. 23, No. 3, pp. 183-187 (2002).
[2] 鈴木宏明, 笠木伸英, 鈴木雄二, 「フラップ型電磁アクチュエータ群による軸対称噴流の能動制御」, 日本機械学会論文集, Vol. 65B, No. 639, pp. 3644-3651 (1999).
[3] 栗本直規, 鈴木雄二, 笠木伸英, 「マイクロ・アクチュエータ群による浮き上がり火炎の能動制御」, 日本機械学会論文集, Vol. 71B, No. 698, pp. 191-199 (2005).
[4] Mitsuishi, A., Fukagata, K. and Kasagi, N., “On the relationship between large-scale vortical structures and scalar transport processes in a controlled confined coaxial jet,” J. Turbul. (submitted).
[5] Fukagata, K. and Kasagi, N., “Highly energy-conservative finite difference method for the cylindrical coordinates,” J. Comput. Phys., Vol. 181, pp. 478-498 (2002).
更新日:2006.3.27