ニューズレター

流れ 2011年9月号 目次

― 特集テーマ: 流体工学における女性研究者・技術者 ―

  1. 巻頭言
    (小林,菊地,山川)
  2. 流体科学研究所の女性研究者たち
    伊賀 由佳,寺田 弥生,中野(岩上) わかな,竹島 由里子(東北大学流体科学研究所)
  3. 海洋再生可能エネルギーの利用に向けて
    猿渡 亜由未(北海道大学)
  4. 女性エンジニア・研究者の育成
    鬼頭 みずき(奈良工業高等専門学校)
  5. 流体工学を専攻したきっかけ
    岡林 希依(宇宙航空研究開発機構)
  6. 企業の研究者として -夢の実現に向けて-
    浅野 由花子(日立製作所)

 

女性エンジニア・研究者の育成


鬼頭 みずき
奈良工業高等専門学校

1. 研究活動

  私は自由せん断乱流である噴流現象,特にオリフィスノズルからの噴流について研究を行っています.噴流現象は電子機器の乾燥・洗浄・冷却技術など実用上利用されていますが,そのメカニズムは複雑でまだ不明な部分が多くあり,現在も噴流に関する研究を行っています.

  オリフィスノズルからの噴流(以下,オリフィス噴流という)では,経路が急激に絞られるため,ノズル内側角部に環状の渦が生じ,流れの速度ベクトルがノズル中心へ向い中心での速度が増加します.その結果,ノズル出口後の噴流の噴流径はノズル出口径よりも小さくなる縮流という現象が生じます.また,オリフィスノズルの出口速度分布は,噴流外縁で最大速度をもつ凹形の分布形となります.噴流外縁で大きな速度勾配をもつため周囲流体との不安定性が増加し,周囲流体をより多く巻き込む,さらに噴流は縮流が生じた後,急激に半径方向に大きく拡散する,等の特徴があります.したがって,オリフィス噴流の巻き込み流量は増加し,混合・拡散特性が優れています.衝突噴流の伝熱性能は噴流の衝突速度に大きく影響を受けるため,オリフィス噴流の場合,縮流の結果,中心線速度はノズル出口より増加し,乱れも増加することから,衝突平板上の伝熱特性の向上が期待されます.そこで,学生時代はオリフィスの絞り具合とノズル流動抵抗・衝突平板上の伝熱特性などの関係を明らかにしました(1).現在はオリフィス噴流の能動制御に興味を持っています.

 

2. 高等専門学校という教育・研究の場

  高等専門学校(以下,高専という)は大学の教育制度とは異なり,社会の技術者養成の要請に応え設立された高等教育機関です.高専では本科15歳〜19歳,専攻科20歳〜22歳の高校生世代から大学生世代の幅広い年齢層の学生が在籍しています.高専によっては異なることがあるかもしれませんが,本科1年生〜3年生は制服,本科4年生〜専攻科生は私服と装いも異なるため,校内の雰囲気も大学とは随分異なります.入学式では全学生が制服を着ているため,まるで高校にいるような気分になります.「くさび形教育」と呼ばれるカリキュラムに基づき,教養教育科目と専門教育科目の割合が高学年に進むにつれて変化し,最終的には専門教育科目主体となっていく教育を行っています.本科5年生は大学2年生に相当しますが,十分努力した学生は学会発表などを行うこともできます.また,専攻科生は大学3〜4年生に相当し,早期専門教育制・少人数制を取り入れているため,学会発表はもちろん,国際会議などで発表することもできます.研究室は専門学科の各教員が持ち,本科4年生もしくは5年生から配属されます.私自身は,自分の研究室を持った当初,その運営の仕方に随分悩みました.「自分の研究室は家庭と同じ」というアドバイスをある教授から受け納得しましたが,一家の長であることは,研究室の一員という立場に慣れた筆者にとって非常に難しく,戸惑いました.高専では自身が研究室のボスであり,同時に助手としての役割も担わなければなりません.研究室を家庭とするならば,女性である私は,学生たちにとってやはり母親的存在なのでしょうか.日々炊事洗濯といった家事をこなし家庭を切り盛りする「お母ちゃん」の姿に,研究室運営のヒントがあるのかもしれません.

 

3. 科学技術分野における女子学生の教育

  野呂知加子先生(日本大学)が述べているように,少子高齢時代に突入した日本が国際競争力の維持・強化を図るには,科学技術振興とイノベーションの創出が必須であり,そのためには若手研究者や女性研究者等がその意欲と能力を発揮できる多様性社会の実現が必要です(2).奈良工業高等専門学校(奈良高専)では多様性社会の実現にはまず,女性技術者・研究者の育成が必要であり,そのためには理工系の教育機関への女子入学生の確保が必要であるとの考えから,「理系ゴコロのススメ」という取り組み(3)を実施しました.このプロジェクトの目的は理系分野で働く女性がまだまだ少ない現状で,女子中高生の理系進路に対するイメージチェンジを図り,理系分野への進路選択に興味をもってもらうことでした.私もプロジェクトのスタッフとして女性エンジニア・研究者として活躍されている方の講演を拝聴する機会がありましたが,専門分野における女性というよりも,むしろ「働く母親」のたくましさを感じました.

  内田由理子先生(香川高専)らによる「高専を卒業した女子学生の労働に関する調査」で,次の3つの点が明らかにされています(4).@就労定着率が男子卒業生に比べ非常に低い.A技術職としての転職・再就職が非常に困難であり,転職・再就職者のうち技術職についている女子卒業生は半数に満たない.B女子卒業生の32.3%が無職である.女子卒業生が技術職として就労継続していくには,やはり,いかに仕事と家庭を両立できるかが決め手となり,配偶者の意識や家族の協力といったプライベートな条件が女性のキャリア形成に大きな影響を及ぼすと指摘しています.仕事によっては,特にアカデミックな世界では,男女の差はないように思いますが,子供を持つ働く女性には仕事と家庭の両立支援制度が整い実際に活用できること,また配偶者や家族の理解ある支援が必要なのでしょう.

 

4. 女性エンジニア・研究者を育てるこれからの教育

  前述の「理系ゴコロのススメ」という取り組みを通して女子学生と話すうちに,中学校・高校における日本特有の“理系・文系の選択”もまた女性の科学技術分野への進出を難しくしているのではないかと感じました.私は中高一貫教育のカトリック系女子校で十代を過ごしましたが,そこでは男性と女性が存在すれば自然に出来てしまうと思われる男女の「住み分け」が存在せず,また進路についても,理系・文系というくくりではなく,興味があるかないかという基準で選択をしました.ただモノづくりが好きだったから,機械工学科を選んだのです.もし,共学校に通っており,男子学生ばかりの理系コースが存在していたなら,機械工学科に進むことを躊躇したかもしれません.高専の女子学生たちからは自分たちがマイノリティーであるという自覚,そして,自ら選択したという強い意志と確固たる考えが感じられます.現在の理工系分野に進もうとする女性には,こうしたマイノリティーグループで生きていくという強い意志と勇気が必要なのでしょう.私の所属する学科では,各学年の女子学生数は1割に満たないほどですが,彼女たちには,プライベートな条件が女性のキャリア形成に大きな影響を及ぼすことを伝え,柔軟な職業意識を持った,強くしなやかな女性技術者・研究者になってくれることを期待しています.

 学生達はよく“私たち(僕たち)は理系だから,・・・はできない”とか,“やっぱり女子だから,・・・は必要ない”と話します.“理系・文系”や“男子・女子”といった言葉によって,無限にあるはずの可能性に自ら限界を作っているように思えてなりません.これらの概念を取り払い,誰もが好きな道を何の気負いもなく進むことができればよいと思います.そして,女性エンジニア・研究者の進出が社会や学問にさらなる多様性をもたらせば,これまで多くの男性が深く掘り下げてきた分野を,これからは女性が広げていくことになるのかもしれないと考えます.科学技術分野における女性研究者や学生の存在は,性差を超えた“人間”の育成にも貢献できるのではないでしょうか.

 

(1) 鬼頭みずき,社河内敏彦,坂本達治,辻本公一,安藤俊剛,“オリフィス衝突噴流の流動・伝熱特性(絞り面積比の影響)”,日本機械学会論文集,74-739B (2008-03), pp.670-677
(2) 野呂知加子,“科学技術分野における女性の活躍促進”,日本工学教育協会,Vol.59, No.3 (2011), pp. 17-24
(3) 藤田直幸,小林淳哉,小松京嗣,佐々木伸子,内田由理子,氷室昭三,“理系進路に対する女子中高生のイメージチェンジを図る取り組み”,日本工学教育協会,Vol.59, No.3 (2011), pp. 55-60
(4) 内田由理子,“高専を卒業した女子学生のキャリア形成”,日本工学教育協会,Vol.59, No.3 (2011), pp. 67-72
更新日:2011.9.9