ニューズレター

流れ 2012年12月号 目次

― 特集テーマ:産業界における流体機械 ―

  1. 巻頭言
    (小林, 吉川, 関野)
  2. 流体機械のキャビテーション性能と不安定現象に関する研究
    渡邉 聡 (九州大学)
  3. 振動水柱型波力発電システム
    鈴木 正己 (琉球大学)
  4. ウォータージェットを用いた環境調和型エネルギー資源の開発技術
    木崎 彰久 (東北大学)
  5. プロセスガス遠心圧縮機の設計、製造の技術革新
    葉山 耕一,深作 善郎,長谷川 直幸 (株式会社 荏原エリオット)
  6. ポンプ内部流れ可視化による現象理解 〜実験と数値流体力学(CFD)のハイブリッド手法〜
    宮部 正洋 (株式会社 酉島製作所)

 

ウォータージェットを用いた環境調和型エネルギー資源の開発技術


木崎 彰久
東北大学

1.はじめに

  ウォータージェットとは,圧力を高めた水を小孔(ノズル)から噴射した水噴流のことであるが,これを用いて切削等を行う場合,熱や粉塵の発生が少ない,切削の際に必要な反力が小さい,破砕エネルギーを局部に集中させることができる,可燃性環境でも安全に切削作業ができる,狭い空間や高圧水中などの難条件下でも使用可能である等の特徴がある.これらの特徴を利用して,鉱業(岩盤掘削,岩石切削,穿孔,スケール除去など),土木・建設分野(低振動工事,水中切断,地盤改良,コンクリートのはつり・補修など),金属・非金属・複合材料の加工(切断,穿孔,表面加工など),洗浄・剥離(パイプ内の洗浄,車・船舶・航空機の洗浄,塗装の剥離など),バリ取り(機械部品のバリ取り),食品加工(切断),医療(ウォータージェットメス,傷口洗浄),消防(消火活動,救助作業),船舶(ウォータージェット船)などの様々な分野で用いられている[1,2]

  資源分野における工学的な応用としては,1850 年代に米国カリフォルニアで起こったゴールドラッシュにおける金の砂鉱床採掘に使用された他,旧ソ連で石炭採掘に対する水力採炭法として実用化されたのが端緒であるとされる[2].石油,天然ガス,地熱などの分野では,地下岩盤のウォータージェットボーリング,石油天然ガス採取用ケーシングパイプの原位置パーフォレーション(穿孔),地熱発電所等の配管類に付着したスケールの除去などへの応用が行われている.これらの場合,坑井深度は一般に数100 ~ 数1,000 mに及ぶため,ウォータージェットは高圧水中環境下において使用されることになる.

  本稿では,ウォータージェットを用いた環境調和型エネルギー資源の開発技術として,著者らがこれまでに実施してきた作井関連技術に関する研究の概要について紹介する.

 

2.水中ウォータージェットによる岩盤掘削

  ウォータージェットを用いた掘削は,機械的な掘削を補助する目的でウォータージェットを用いるか,あるいはウォータージェットにより主たる掘削を行うかによって2通りに分類される.前者の場合,ウォータージェットが果たす主な役割は,刃先付近の破砕岩石屑の除去による掘進速度の向上や刃先の冷却によるビット寿命の向上であり,掘削作業時間の短縮に貢献している.一方,後者の場合は,ウォータージェットがレーザなどと同様に基本的に切削対象と接触しないでも掘削可能であることから,刃先(ビット)荷重の低減を目的として使用される.本技術は,水平掘りや枝堀りへ応用することにより,掘削作業における環境負荷の低減に貢献することが期待されている.しかしながら,現状における主な適用範囲は,固結度の小さい砂岩層などの軟弱な地層に限られており,花崗岩などのより強固な地層に対しても十分な掘進速度を得るための技術開発が求められている.

  ウォータージェットを用いて,高圧水中下で硬い岩石を掘削するための方法の一つとして,ウォータージェットに研磨材(アブレシブ)を混ぜたアブレシブウォータージェットが挙げられる.これは,水のみのウォータージェットに比べ高い切削能を有するが,アブレシブの費用が生ずるため地下岩盤の切削などにおける適用範囲は限られてきた.したがって,水のみのウォータージェットを用いて切削性能を向上させることが望まれるが,そのための方法として,ウォータージェット掘削により生じた切削岩石粉(カッティングス)をウォータージェットのアスピレータ作用により生ずる負圧により,ノズル前方に循環させて切削性能の向上を図るFig. 1に示すようなカッティングス循環型ノズルシステムを提案している[3].開発したプロトタイプノズルを用いた室内実験の結果,カッティングス循環により花崗岩などの硬い岩石に対する掘削能が向上することを明らかにしている.


Fig. 1  Concept of the nozzle system utilizing cuttings as abrasives.

 

3.水中アブレシブウォータージェットによるパーフォレーション

  坑井の仕上げあるいは改修工事において,坑井に用いられている既設のケーシングパイプにパーフォレーション(穿孔)を行う場合がある.具体例を挙げると,千葉県の房総半島から東京湾にわたる南関東ガス田では,地下500 m ~ 2,000 mの範囲に存在するガス層を対象に,最も有望なガス層に設置した孔明管によりガスを含んだかん水をガスリフトあるいは水中電動ポンプにより地上に汲み上げ,ガスを分離した後,一部の水を再び地下に還元する方法により水溶性天然ガスの採取が行われている[4].この地域では,老朽化した坑井の改修作業等において,坑井能力の回復やセメンチングを実施するため,鋼製の坑井ケーシングのパーフォレーションが必要とされている.パーフォレーションにより既存坑井の坑井能力を回復することができれば,新たな坑井を掘削する必要が減少するため,環境負荷を低減することができる.

  坑井ケーシングに対する穿孔方法には,Fig. 2に示すように様々な方法があるが,一般には成形爆薬を用いたジェットパーフォレーターが広く用いられている.しかしながら,老朽化した鋼管など対象鋼管の強度が低下している場合,鋼管を切断する等の重大な事故につながる恐れがあるため,代替手段の一つとしてアブレシブウォータージェットを用いた穿孔技術を開発した(Fig. 3).同方法では,高温の発生がなく,ウォータージェットによる力は衝突点に集中して作用するため,強度低下した鋼管に対しても損傷を与える恐れが小さい.


Fig. 2  Perforation techniques for well casing.



Fig. 3  Abrasive waterjets nozzle system for perforation of oil well casing.

  アブレシブウォータージェットには,予め水と研磨材を混合したスラリーを加圧して噴射するサスペンション型とウォータージェットノズル出口に研磨材を供給して研磨材を加速するインジェクション型の2種類がある.前者の方がエネルギー効率が高く,より低い吐出圧力で穿孔が可能であるが,スラリーを加圧するための高圧のスラリーポンプあるいは圧力容器を必要とする上に,通常コイルドチュービングと呼ばれる小口径の鋼管を通じて用いられるため,設備がやや大型になる.一方,インジェクション型のアブレシブウォータージェットでは,ウォータージェットノズルから噴射する媒体が清水であることから,鋼管の代わりに高圧ホースを使用でき,装置が小型でかつ安価になる上に保守性に優れている.また,研磨材タンクをノズルシステムに付帯したバッチ式の研磨材供給方式を採用した場合,研磨材を地上から高圧環境へポンプ流送する必要がないのに加えて,タンク内の研磨材に作用している環境圧力により研磨材がノズルシステム内の混合室へと押し出されて供給されるため,環境圧力が大きくなると研磨材の供給がより容易になるという特徴がある.Fig. 4は,インジェクション型アブレシブウォータージェットにおける環境圧力(pa)と研磨材流量(mA)の関係を2つの吐出圧力(p)に対して示したものであり,図中の曲線は,実験結果に対して得られた実験式により求められたものである.吐出圧力に関わらず,環境圧力に対して,研磨材流量が放物線的に増加していることから,ウォータージェットのアスピレータ作用で研磨材を供給する本システムでは,研磨材は,環境圧力と混合室の圧力の差により研磨材タンクから混合室に押し出されて供給されると言える[4]

 


Fig. 4  Relation between ambient pressure (pa) and abrasive mass flow rate (mA).

 

4.水中ウォータージェットによるスケール除去

  地熱発電所の還元井などに用いられている坑井ケーシングパイプの内壁面へのスケール付着は,坑井の生産および還元能力の低下を引き起こす一因となるため,スケールの付着を防止する技術とともにその除去技術が求められている[5-7].付着する主な地熱スケールには,カルシウムスケールとシリカスケールの2種類が挙げられるが,これらのうちカルシウムスケールは酸処理が可能であるが,シリカスケールは化学的な除去が困難である場合が多い.

  そこで,坑井内地熱スケールの機械的な除去方法の一つとして,自転型ノズルシステムを用いたウォータージェットによる除去技術の開発を行っている.Fig. 5は,硬質シリカスケールと同程度の強度を有する模擬地熱スケールに対して,ウォータージェット除去を行った実験結果の一例である[7].ノズル自転速度およびノズル送り速度が過剰となる条件では,スケールの削り残しが大きくなっているが,適切な条件に設定することにより好適なスケール除去能が得られることが分かる.今後は,実際の坑井への適用を目指し,ノズルシステムの耐熱化等の研究を 進めていく予定である.


Fig. 5  Photos of the inner wall of specimens after the scale-removal experiments.

 

5.おわりに

 本稿では,ウォータージェットを用いた環境調和型の作井関連技術として,掘削,穿孔およびスケール除去について取り上げ,それらの概要について紹介した.ウォータージェットに関連した技術は,幅広い分野に渡っており,また,現場から新しい着想が生まれることも多い.今後も産業界からの要望や他分野からの情報を取り入れつつ,次世代のウォータージェット技術の開発を進めていきたいと考えている.

 

謝辞

  岩盤掘削に関する研究の一部は,財団法人新井科学技術振興財団研究助成金により実施された.また,パーフォレーションおよび地熱スケール除去に関する研究の一部は,関東天然瓦斯開発株式会社との共同研究により実施されたものである.研究支援ならびに試料提供に対してここに謝意を表する.本研究の成果は,東北大学大学院環境科学研究科地殻システム情報学分野の教員ならびに学生の貢献により得られたものである. 関係者各位に謝意を表する.

 

参考文献

[1] 資源素材学会編,ウォータージェット掘削・応用百科, (1996).
[2] Summers, D. A., Waterjetting Technology, Chapman & Hall, London (1995).
[3] 木崎彰久, 飯野瑞輝, 坂口清敏, 松木浩二, 高圧水中下におけるカッティングス循環型ウォータージェットシステム, 噴流工学, Vol.25, No.1, (2008), pp.4-13.
[4] 木崎彰久, 高橋智誓, 松木浩二, 小山研也, 田村一浩, 小勝武, 水中アブレシブウォータージェットによる油井用鋼管のパーフォレーション, 石油技術協会誌, Vol.70, No.6, (2005), pp.554-567.
[5] 松木浩二, 奥村清彦, 杉本文男, ウォータージェットを用いた地熱スケールの除去に関する実験的研究, 日本地熱学会誌, Vol.9. No.4, (1987), pp.255-270.
[6] Frenier, W. W., and Ziauddin, M., Formation, Removal, and Inhibition of Inorganic Scale in the Oilfield Environment, SPE, Richardson, Texas (2008).
[7] Kizaki, A., Tanaka. H., Matsuki, K., Kon. T., Ogatsu. T., and Igi, T., Removal of Geothermal Scale through the Use of Self-rotating Nozzle Systems with Pure Waterjets, Proc. 20th International Conference on Water Jetting, 20-22 October, Graz, Austria , (2010), pp.163-176.
更新日:2012.12.14