部門賞

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第85期(2007年度)流体工学部門 部門賞

● 伊藤 基之 (名古屋工業大学)
● 大坂 英雄 (山口大学)
● 杉山 弘 (室蘭工業大学)
● 小濱 泰昭 (東北大学)
● 藤川 重雄  (北海道大学)
● 松本 洋一郎男 (東京大学)

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部門賞


伊藤 基之 (名古屋工業大学)

受賞理由:

 長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,特に回転物体まわりの流れの乱流特性解明や粘弾性流体の容器内旋回流に関する研究において顕著な業績をあげた.また,流動抵抗低減技術に関する基礎研究において先導的な役割を果たすなど,流体工学分野の発展に多大な貢献をした.

受賞のコメント:

 この度は,日本機械学会流体工学部門賞を受賞することとなり,身にあまる光栄と存じます.ご推薦いただいた方々ならびに関係各位に心より厚くお礼を申し上げます.

  私が流体工学研究の道に入ったのは今から40年程前のことです.最初は,ターボ機械の円板摩擦損失に関連した問題として,容器内で円板や円すい体が回転する場合のすき間内旋回流れの研究に取り組みました.中でも,層流から乱流への遷移の問題や乱流速度場の解明に力を注ぎました.次いで,一様流中の回転円すい体上境界層や自由回転円板上境界層の乱流構造解明に取り組みました.1980年代後半からは流れの抵抗低減効果に強い関心を抱くようになり,当時国内では未だほとんど研究されていなかった界面活性剤による乱流摩擦抵抗低減効果の研究に着手しました.また,この研究の遂行には非ニュートン流体力学の知識が不可欠であるため,勉強も兼ねて非ニュートン流体の容器内旋回流に関する研究も始めました.現在はこれらの研究に加えて,各種の流動抵抗低減効果に関する研究を行っています.なお昨年秋には,JSTの研究会として「流動抵抗低減技術研究会」を立ち上げ,実用化を目指した新たな抵抗低減技術の開発にも取り組んでいるところです.

  この間,流体工学部門の皆様方をはじめ多くの方々から温かいご指導・ご支援を賜りました.お世話になった方々に対し,この場をお借りして厚くお礼を申し上げます.

定年退職まで残りわずかとなりましたが,可能な限り流体工学の研究を続けたいものと考えております.今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます.

部門賞


大坂 英雄 (山口大学)

受賞理由:

 長年にわたり乱流境界層の構造と統計に関する実験的研究に従事し,壁面摩擦応力の直接測定をはじめとする高度かつ精密な流体計測技術を確立した.また,多数の卓越した研究業績を上げ,我が国の実験流体力学における指導的役割を果たすとともに,流体工学部門の運営にも尽力され,学術面,運営面の両面で流体工学分野の進展に多大の貢献をした.

受賞のコメント:

 この度は,日本機械学会流体工学部門賞を頂く栄誉に与り,まことに光栄なこととありがたく存じます.ご推薦頂いた関係各位に対し,改めて厚くお礼を申し上げます.受賞の理由となりました乱流境界層の構造と統計量に関する実験的研究は,私にとりまして大学院生のときから取り組んできた事柄です.研究をスタートさせるに際し,重要な示唆を与えて下さいました恩師,また研究を続ける環境を配慮して頂きました諸先生方に対し,深く感謝の意を表したいと思います.

 流体工学の中でも,およそ古典的な問題であろうと思われている乱流境界層の相似則について取り組んで来ましたが,このような分野にもまだ光が差し込むことを実感でき,大変心強く思っています.研究の進め方として,厳密な相似条件と近似的な条件との境界に注目し,丁寧な実験データをベースとし基礎式に含まれる各項の評価から,この境界は何が異なるのか,を明らかにすることから始めました.すると,実験条件を厳密に整備することが思いの外難しいことを経験致しました.しかし,考え方の基盤となる壁面せん断応力の直接測定だけは,計測技術を確立できたと思います.この分野は,CFDとEFDとの連携を強め相互に影響しあえば,基礎的ですが面白い課題は豊富であり,発展がまだ期待できます.多くの若い研究者,技術者の方に挑戦をして頂くことを願っているところです.

 終わりになりましたが,流体工学分野の一層の発展を祈念致します.


部門賞


杉山 弘 (室蘭工業大学)

受賞理由:

 長年にわたり高速流体力学に関し,特に,衝撃波を伴う超音速外部および内部流動や高速混相流動の現象解明に取り組み,顕著な業績を挙げてきた.最近では,次世代型航空宇宙機エンジン要素などに関連する超音速矩形ダクト内の大規模はく離を伴う衝撃波と乱流境界層の干渉流れ場の解明に成果を挙げると共に,この分野の研究に対し先導的役割を果たし,流体工学の発展に多大な貢献をした.

受賞のコメント:

 この度,栄えある日本機械学会流体工学部門賞の決定のお知らせを受け,大変光栄に存じている次第です.関係された方々に深く感謝申し上げます.また,流体工学部門講演会等で,長年にわたり「高速流れと衝撃波現象,圧縮性流れなど」のOSの企画と実行,研究発表等を通して,この分野の研究の進展に貢献されている多くの方々に感謝申し上げます.

  さて,私が約40年間にわたって取り組んできた高速流体力学に関する研究,特に衝撃波を伴う超音速流動の研究の背景と内容等について,簡単に振り返ってみたいと思います.

  私が初めて研究に携わった1970頃は,人類が初めて月面着陸に成功し,宇宙船の大気圏再突入問題がマスコミでよく取り上げられていた時代でした.この時代を背景に,最初に取り組んだ研究は,東北大学高速力学研究所(現流体科学研究所)の恩師(故)本田睦先生の指導の下で行った,衝撃波を伴う超音速外部流動,具体的には,迎え角を持つ鈍頭物体まわりの非対称超音速流の数値解析でした.この研究の独創的な点は,3次元流れの解析に有効な一対の流れ関数を用いて数値解析を行った点でした.続いて,この数値解析法を応用し,円錐状物体まわりの非対称超音速流や, 微粒子を含む超音速流中に置かれた鈍頭物体まわりの流れの諸特性を数値解析で明らかにしました.

  1972年に北海道の室蘭工大に赴任してからは,機械工学と航空宇宙工学の分野で重要な,衝撃波を伴う超音速内部流動の研究に取り組みました.具体的には,管路やダクト内で超音速流が亜音速流に減速する際に発生する衝撃波と壁面境界層との干渉の結果生じる,複数の衝撃波を伴う未解明で複雑な超音速内部流動現象,いわゆる擬似衝撃波現象の研究に取り組みました.今から約10年前の1996年に,これらの超音速内部流動現象を解明するために,大変有用で,ユニークな吹出し吸込み式マッハ2~4超音速風洞を設計,建設しました.この実験装置と,流れの可視化装置,壁面変動圧力測定,LDVや先進のPIVによる流速分布測定,壁面せん断応力分布測定などにより,矩形ダクト内のマッハ2と4擬似衝撃波の詳細な内部構造と振動特性等を明らかにしています.

  最近では,高マッハ数(マッハ数3以上)の場合の超音速内部流動現象,具体的には,スクラムジェットエンジンのインテークや分離部等を模擬した超音速矩形ダクト内の衝撃波による大規模はく離を伴う非対称超音速内部流動現象の解明に取り組んでいます.この種の研究は,我が国の第3期科学技術基本計画に記載されているように,次世代型宇宙輸送システムの研究開発の基盤研究で,大学等の研究機関で研究するのに相応しい研究課題であり,意義のある研究であると考えています.この受賞を契機に,今後,さらに研究に精進したいと思っております.

  終わりに,上述の研究に,私と共に,非常に熱心に取り組んできた室蘭工業大学機械工学科(現機械システム工学科)流体機械学・流体工学研究室(現高速流体力学研究室)の当時と現在の教職員,および博士前・後期課程の多くの大学院生諸君と学部学生諸君に感謝しています.

部門賞


小濱 泰昭 (東北大学)

受賞理由:

  後退翼や回転円板など三次元境界層の乱流遷移メカニズムの解明と層流制御に関する実験的研究を長年組織的に実施,流体工学上有用な成果を得ると共に,流体抵抗低減という視点の延長線上に,翼の地面効果を導入した全く新しい環境親和型の高速輸送システム“エアロトレイン”を発案,実際に浮上走行実験にてコンセプトの実用性を実証,することにより流体工学の発展に大きく貢献した.

受賞のコメント:

  長年境界層の乱流遷移と制御に関する研究を行ってきたが,その結果は経済的には極めて効果的であるが,環境的には焼け石に水的な効果しかもたらさないことを知ってから,かなり落胆したものである.その後,環境問題解決を最重要課題としてゼロから考え,全く新しい高速輸送システム”エアロトレイン”に着想,20年以上にわたり研究を続けてきた.少なくともその結果が評価され今回の流体工学部門賞につながったと思っている.地球温暖化を含む現在の深刻な環境汚染問題は,機械文明がもたらしたものであり,間接的には我々機械工学者の責任である.そのような強い反省のもと,これからはあらゆる機器やシステムを環境に負担をかけないものに改善してゆく必要があろう.加えて,全く新しい環境親和型の機器やシステムを発案,社会を牽引してゆく必要があろう.


部門賞


藤川 重雄  (北海道大学)

受賞理由:

 長年にわたりキャビテーション気泡の力学や気液界面での相変化に関する研究に取り組み,Fujikawa and Akamatsu Equationとして知られる気泡力学の基礎方程式の導出,気液界面における質量・運動量・エネルギーの分子輸送過程の解明,流体力学の教科書執筆等をとおして,流体工学の研究,教育に多大な貢献をした.

受賞のコメント:

 このたびは栄えある日本機械学会流体工学部門の部門賞をいただき,誠に光栄に存じます.気泡力学および気液界面での相変化に関する研究の成果を評価していただいたことは大変うれしく,恩師,先輩,同僚,卒業・修了生と共に喜びを分かち合いたいと思います.ご推薦いただいた関係各位に心から御礼を申し上げます.

  私がこの分野の研究に興味を持ったのは,私の修士論文の研究テーマを決める際(昭和46年)の恩師 赤松映明先生(京都大学名誉教授)のご助言でありました.このご助言は,「人のやっていないことをやりなさい.」という一言でした.当時,私は宇宙開発に興味を持っており,プラズマの流体力学をやりたかったのですが,赤松先生のご意見では,「これからは液体が重要になる.」とのことでした.液体を対象とした具体的な研究テーマを自分自身で見つけるまでにはさまざまな苦闘がありましたが,落ち着いた先は「気泡力学」(修士・博士課程での研究テーマ),博士学位取得後は「気液界面での相変化の分子論」となりました.これらの研究テーマは形を変えて,私の今日の研究テーマであり続けております.

  新しいことをやるのはどの分野でも大変なことですが,やりがいのあることです.工学,医学,化学等の分野をまたいで新しい出会いがあり,この出会いにより研究がさらに進展することを体験することができました.また,この出会いにより知らず知らずのうちに,「基礎と応用」,「理論と実験」,「ミクロとマクロ」といった研究手法の座標系で自分のいる位置を確認しながら,バランスよく研究を進めていく手法が身についたような気がします.今年9月末に,ニセコにおいて,「The 1st International Colloquium on Dynamics, Physics and Chemistry of Bubbles and Gas-Liquid Boundaries」というテーマで国際会議を開催し,気泡力学と気液界面現象の将来の発展方向を位置づけることができたことは幸いでした.今後,若い研究者の方々がこの分野の研究をさらに発展させて下さることを楽しみにしております.

  最後に,大学院入学以来,いつも私の先を歩まれ,今日まで私を導いて下さった兄弟子 故高野泰斎先生(元滋賀県立大学工学部長)にも,この受賞をご報告させていただきます.


部門賞


松本 洋一郎 (東京大学)

受賞理由:

 長年にわたり,希薄気体流れ,混相流,生体内流れ,医用応用など流体工学の広い分野において,数値シミュレーションと実験とを巧みに駆使したミクロな解析により様々なマクロな流れ現象を解明し,流体工学の新展開に先駆的役割を果たすとともに,顕著な業績を挙げてきた.流体工学部門の部門長や流体工学関連の数々の国際会議において組織委員長を務めるなど,流体工学分野の発展に多大なる貢献をした.

受賞のコメント:

 この度,日本機械学会流体工学部門賞を受賞させて頂くことになり光栄に存じます.推薦して頂きました関係各位ならびに,ともに研究をさせて頂いた恩師,同僚,学生諸子に深く感謝申し上げます.

  卒業論文で研究の面白さに目覚め,それ以来流体に関連した分野で研究を続けて来たことになります.出来るだけ厳密に現象を捉え,その本質に沿った解析を行うことを軸として研究を進めて来ました.例えば,気泡力学に関する研究では,研究を進めて行くにしたがって,分子スケールの現象が気泡運動という連続体スケールの現象に大きな影響を持っていることが分かりましたし,気泡というミクロなスケールの現象が,気泡流というマクロな現象を強く支配していることが分かりました.それ以来,様々なスケールで起きる現象をどのように合理的に繋いで解析していくかというマルチスケール解析に強い興味を持ちました.この方法は,気体分子同士の衝突や固体表面における気体分子の挙動が大きな影響を持つ希薄気体流れ解析においても強力な解析手法となります.このような解析手法は流体工学のみならず,様々な分野の解析手法として活用が可能ですし,異分野への展開も容易になります.医用分野への展開もこのような背景があってのことであったと思われます.

  今後も流体工学としての研究を深めるとともに,他分野への展開を図って行きたいと思っています.
更新日:2007.11.29