部門賞

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第86期(2008年度)流体工学部門 部門賞

● 井小萩 利明 (東北大学)
● 西山 秀哉 (東北大学)
● 大場 謙吉 (関西大学)

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部門賞


井小萩 利明 (東北大学)

受賞理由:

 長年にわたり圧縮性混相流体の複雑な流れの研究に取り組み,顕著な成果を挙げた.特に,混相媒体モデルによる数値解析によって,様々な時空間における高速流動現象を解明するなど,流体工学分野で先導的な役割を果たしてきた.さらに,流体工学部門においても多くの役職を歴任し,部門の発展に尽力した.

受賞のコメント:

 この度は,栄えある流体工学部門賞を頂き,誠に光栄に存じます.ご推薦頂いた方々,ならびに恩師をはじめ関係各位に心から厚く御礼申し上げます.

 受賞対象の研究は,混相媒体モデルによる数値解析です.80~90年代の数値流体力学(CFD)の発展は,わが国においても目覚しいものがあり,特に衝撃波捕獲スキームや乱流モデルに関する研究は特筆すべきものでした.幸いにも,90年代の初めに,数値スキームや乱流のモデリングなどの研究に携わる機会を得ました.しかしながら,この分野の成熟度に反比例して,それまで長年行ってきたキャビテーション研究分野でのCFD導入の立ち遅れに,忸怩たる思いが募っていました.そもそもキャビテーション流れは,気液混相の複雑流れであり,マクロ的には発生・消滅を繰り返す短時間現象で,その局在性や気液混相の圧縮性などが卓越する点では通常の気液二相流と本質的に異なるものです.そのため,まず,キャビテーションの流動形態にとらわれず,かつ若干の先行研究とは異なる視点からのモデリングとなるべく経験則を排除した単純な数学モデルの基礎方程式を導入して,実現象にどこまで迫れるかを課題としました.その結果,他の研究成果と同様に,よく知られたキャビテーション性能やキャビテーション不安定をかなり良く再現できることが示されました.その後,本数値解析手法に相変化モデルや気液界面捕獲スキームを取り込み,気泡・液滴,自由界面の高速変形挙動などの工学的問題にも応用できるよう拡張しております.

 現在,システム保全の観点から,キャビテーションや液滴衝撃によるエロージョンの数値予測のため,流体‐構造連成解析に取り組んでいます.そのためには,改めて,多重スケールの視点から,ミクロ‐マクロの研究へと高度化する必要性を感じています.

部門賞


西山 秀哉 (東北大学)

受賞理由:

 長年にわたり機能性流体,混相流および複雑干渉の視点でプラズマ流およびプラズマ流動システムに関する顕著な業績をあげ,新たな学術体系を構築した.また,活発な国際共同研究の推進,国際および国内会議の企画,研究分科会活動,著書の出版や先駆的な論文発表により,流体工学の新分野の発展に多大な貢献をした.

受賞のコメント:

 この度は,日本機械学会流体工学部門賞を受賞させていただき誠に光栄に存じます.恩師,同分野の研究仲間,卒業及び修了した学生諸子さらにはご推薦いただいた関係各位に心より深く感謝を申し上げます.

 この分野での研究のきっかけは,1989年東北大学流体科学研究所(旧高速力学研究所)に改組となり,当時所長の神山新一先生(東北大学名誉教授)が磁性流体を中心とした日本で最初に提唱された機能性流体の概念を小生が如何にプラズマ流体に展開するかでした.ちょうど1990年フォン・カルマン流体力学研究所に長期滞在する機会を得て,同時にヨーロッパの色々な大学や研究機関も訪問し,特にプラズマに関わる一流の研究者との討論により見聞を広め,研究構想を練りました.まずは,プラズマ流体は電子,イオン,原子等の多成分系の電磁流体であること,また電磁場制御性,化学的高活性,高エネルギー密度,変物性等の多くの機能性発現研究に力点を置くことでした.当時は,世界的に熱プラズマを中心に材料プロセスやプラズマ推進への応用が活発でしたので,将来,研究展開の可能性を確信できました.そこで,流体工学とは異分野のプラズマ工学,材料工学や化学工学等で活躍している国内外の研究者と積極的に交流し,流体工学に異なる手法を導入し,またプラズマ流体を機能性流体とする場合,混相流体工学の手法も取り入れ,研究の多様性を描出するようにしました.特にロシア,オランダ,チェコやインド,中国,韓国等の外国人研究者との共同研究は,粒子スケールでの機能性に特化したプラズマ流体そのものの研究の深化と材料プロセスや環境浄化プロセスへの応用を想定した複雑系であるプラズマ流動システムのマクロ性能評価への展開に役立ちました.まさしく,研究力とは同分野や異分野の研究者との切磋琢磨や融合によって養われることを実感した次第です.近年では,プラズマ流動システム内のナノ・マイクロスケールでのプラズマ流体と微粒子・気泡や界面等との要素間干渉とマクロスケールでのプラズマ流動システム性能をマルチスケールの視点で相関付けようと考えております.

  今後は,世界水準の研究レベルを意識しつつ,個性的な流体科学研究の世界を築き,スピリットのある次世代の熱い研究者の育成や学生の指導,研究成果の社会還元に努めて参りたいと思っております.今後ともどうかよろしくお願いいたします.

部門賞


大場 謙吉 (関西大学)

受賞理由:

 流体工学を基盤としてバイオメカニクスならびに医工学にわたる学際的な新領域を開拓し,とくにヒトの循環器系と呼吸器系の生体外模擬実験による血流動態と気道内往復気流の研究,レーザーおよび超音波診断技術の開発において多くの業績をあげるとともに,教科書,ハンドブック等の執筆を通して流体工学部門の発展に貢献した.

受賞のコメント:

 この度,思い掛けずも日本機械学会流体工学部門・部門賞という立派な賞を頂けることになり,まことに光栄に存じます.ご推薦頂きました関係各位に心より厚くお礼申し上げます.

  受賞理由に挙げられているバイオメカニクス,医工学分野への流体力学の展開は,私が大阪大学助手になりたての1970年頃,阪大の医師の依頼を受けて始めたもので,冠状動脈が周りの心筋の圧迫によってつぶされ,その中を拍動血流が通る現象のメカニズムを解明すべく生体外模擬実験としてゴム管を空気圧で圧平し,管内の拍動水流の動特性を調べました.この実験は私が1980年に関西大学に移ってから,管内外の屈折率合致液によって透明化されたシリコンゴム管内の局所瞬時の流れ場をレーザーで測る研究に進展しました.以後約40年の間に私の研究テーマの中で医工学関連の占める割合が増して行き,現在は私の研究室で実施中の約20テーマ中の8割を占めています.残りは受託研究と昆虫の飛行の研究です.

  自然界で最も複雑なシステムであるヒトの身体の一部分,例えば心臓弁の挙動,肺・気道内の空気流などを力学的観点から研究する場合,脳・神経系と内分泌系による制御からいったん切り離して純粋な流体・弾性体連成問題として取り扱うことによって力学現象としての本質が理解できると言うのが工学者としての私の立脚点です.この考えに基づいて,生体を模擬した種々の実形状モデルを用い,生体外で高精度で再現性の高い実験を繰り返し行なうことによって生体現象の機序を解明し,動物実験の持つ弱点(実験材料の腐敗・変質,再現性の無さ,個体差等)を補い,これらを動物実験,臨床実験と連携させながら医療に役立てようとしてまいりました.未だしばらく現体制で教育・研究活動を続けるつもりです.

  医工連携研究は,私の座右の銘である「工学とは人間の役に立つ知識と物を創る科学である」という観点から見ると,工学分野の研究者,学生にとって「人間に役立つ」最も直接的な研究分野であり,かつ自然界で最も複雑な存在であるヒトを対象とする非常にchallengingな研究分野でもありますので,流体工学分野の研究者にもどんどん参入して欲しいと願っています.

更新日:2008.10.15