第88期 (2010年度)流体工学部門 部門賞
部門賞
鬼頭修己(名古屋工業大学)
受賞理由:
長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に多大な功績があった.特に,旋回乱流,回転チャネル乱流,クエット・ポアズユ乱流の基礎研究などにおいて顕著な業績を挙げた.
受賞のコメント:
この度は,栄誉ある流体工学部門 部門賞をいただき光栄に存じます.
これまで私が名古屋大学,名古屋工業大学で30余年,流体工学に関する研究と教育にかかわってきたことに対する賞と思っております.このようなきっかけを作って頂いた恩師の(故)村上光清先生をはじめ研究・教育でお世話にになった多くの同僚の方,一緒に研究を進めてくださった当時の学生の皆さんに深く感謝をします.また名古屋の片隅で比較的静かな環境で教育・研究に関われたのも良かったと思っています.
研究をはじめたころはエンジニアリングサイエンスが重要であるといわれ,また自分も物理現象の基礎が大事と考え,これまで管内乱流等の基礎的事項を実験的に研究を進めてきました.時代が進み応用を強く意識した研究の重要性が高まる中,その重要性を認識しつつもこれまでの殻を破れず悩むこともありましたが,結局はこれが自分のスタイルで自分のやり方だと思うようになりました.工学は基礎から応用まで幅の広いスペクトルを持っていると思います.これまでやってきた基礎的な実験研究は,新しい研究手法あるいは新しい研究対象ではなかったが,ΔX程度の微分量の貢献はできたであろうと考えています.
部門賞
後藤 彰((株)荏原製作所 )
受賞理由:
長年にわたりターボ機械の設計技術の向上に取り組み,CFD解析を援用した流体設計・最適技術の創出に顕著な業績を挙げた.また,部門長および研究分科会委員として,流体工学部門における産学連携に多大なる貢献をした.
受賞のコメント:
名誉ある流体工学部門賞を受賞し,大変光栄に存じます.これまで,共に研究開発に取り組んできた皆様方,ご指導を頂戴した先生方,ならびに,今回ご推薦賜りました関係各位に厚くお礼申し上げます.
大学の卒業研究テーマであった回転2球間隙間流れについての成果を,学生講演会で発表したことが研究者としての第一歩であり,また,機械学会との最初の接点でもありました.その後,大学院での5年間の翼列に関する研究を経て,1981年に荏原製作所に就職し,ファンの内部流れ,ポンプの性能予測と圧力脈動の研究など,ターボ機械内部流れの研究に取り組みました.将来の飛躍を期待する上司や関係者の理解を得て,1988年から1990年まで,会社の海外留学制度により,英国ケンブリッジ大学ホイットル研究所に在籍しました.この2年間の経験は,研究者として,そして一個人としてかけがえのない財産となり,この間に蓄えた燃料で,その後の20年間を飛び続けて来ました.世界トップの研究者との交流は大変貴重な体験であり,オリジナリティー溢れる仕事や自分の考えを発信する事の大切さを痛感しました.帰国後は,ターボ機械内部流れの数値解析や不安定特性のアクティブ制御の研究を行いました.また,留学時の交流をきっかけとして,英国ロンドン大学との共同研究を1990年から開始し,3次元逆解法の実用化を,世界に先駆けて実現する事ができました.その成果は,ロンドン大学とのジョイントベンチャー設立により,航空宇宙から産業用,舶用,自動車用,家電用など,各国の様々な技術分野でのターボ機械の性能最適化へとつながりました.2000年前後からは,3次元逆解法・最適化アルゴリズム・数値解析のハイブリッド化による自動最適化に取り組み,最近では,多目的最適化技術の実用化へと発展しています.近年のシミュレーション技術の進化は本当に目を見張るものがあります.30代前半までターボ機械の内部流れを実験計測する事に悪戦苦闘していた自分が,留学先の研究所で,回転する羽根車内部の複雑な3次元流動を,数値解析により初めて可視化できた時の感動を忘れる事はできません.
私の人生に大きな意味を持った海外留学は,学会などの交流を通じて知り合った先生方のご助力なしには実現できませんでした.また,その後の学会活動も,研究者としての強力な推進力となりました.これまでご指導,ご鞭撻頂きました皆様方に,改めて心から感謝の意を表したいと思います.
部門賞
杉本 信正(大阪大学)
受賞理由:
長年にわたり流体力学ならびに流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に多大な功績があった.特に,非線形波動理論において世界を先導する研究を行い顕著な業績を挙げた.
受賞のコメント:
この度は,日本機械学会流体工学部門の栄えある部門賞を頂くことになりまして,誠に光栄に存じます.波の研究を評価頂きましたことは大変うれしく,ご推薦ならびにご選考頂きました方々には,心より厚く御礼申し上げます.
卒業研究以来,これまで一貫して波の研究に従事してきました.学生のころは,波は難しくてよく分からない,というのが率直な感想でした.しかし,難しさからかえって興味が引かれ,今日まで研究するに至りました.様々な波動を自分なりに理解し,新しい現象や問題を提起し解明してきたつもりですが,それでもまだまだ知らないことが多くあり,勉強不足と奥の深さを感じています.
受賞理由に「世界を先導する研究」と高く評価して頂きまして大変名誉に存じます.分散性を利用した音響衝撃波の抑制と音響ソリトンの発生の研究が,幸いにもPhysical Review FocusやScience等で広く紹介して頂いたことかと存じます.この研究の原点は,管路を非線形音波(有限振幅の圧力波)が伝播するとき,どのように衝撃波が発生し,減衰するかという素朴な疑問でした.これがトンネル微気圧波の問題に関係すると思いついたときから,衝撃波の発生を根本的に抑える方法として分散性の利用に着目し,ヘルムホルツ共鳴器列の取り付けに考えが至りました.このアイデアは微気圧波問題の解消に実際適用できると思います.
これに関連して,トンネルに列車が突入したときに発生する圧力場を求める音響理論を展開しました.最大圧を与える簡単な式を導き,空気力学によるこれまでの結果と列車断面積が小さいとき一致することを確認するなど,音響理論の有用性を示しました.また,共鳴器の取り付け方によっては波が共鳴器の周りに局在する可能性や,共鳴器列が列車の走行に及ぼす影響も研究しました.ところで,管の中に閉じ込めた気柱をピストンで駆動し共振させますと,衝撃波が発生します.定在波でも進行波と同様に,分散性を利用すると衝撃波の抑制が可能であることを実証しました.これら研究は一段落し,ここ数年は熱音響現象に関心をもっています.その典型例であるタコニス振動に対して,従来否定的に扱われてきた境界層理論の有用性を示し,これまでの見方を大きく変えました.現在は,温度勾配がある細管内の圧力波の伝播を考えています.
ところで近年,ヘルムホルツ共鳴器列を取り付けた導波管を水中に沈め,超音波メタマテリアルとして機能させようとする試みがアメリカで行われています.メタマテリアルとは,自然にはない性質を人工的に作り出した物質のことです.共鳴器列による分散性の発生も,これに該当します.超音波の負の屈折(スーパーレンズ)が生じるとのことです.改めて調べようと思っていますが,何方か研究されませんか.若い方へのアドバイスとして,最近は業績がたえず問われますので,日々の研究しか眼中にないかもしれません.しかし,ちょっと違う分野を並行して勉強されることをお薦めします.これが案外役に立ちます.
最後になりましたが,これまでお世話になりました恩師,同輩,研究室の皆様にも感謝し,御礼申し上げます.
部門賞
中野 政身(東北大学)
受賞理由:
長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に多大な功績があった.特に,流体関連振動・騒音とその低減化ならびに電磁レオロジー流体の研究を行い顕著な業績を挙げた.
受賞のコメント:
この度は,日本機械学会流体工学部門・部門賞という栄えある賞を頂けることになり,大変喜ばしく光栄に存じております.ご推薦頂きました関係各位,ならびにご薫陶を賜りました恩師に心より感謝申し上げます.これまで小生の研究を支えていただきました共同研究仲間,数多くの教え子とともに喜びを分かち合いたいと存じます.
小生は,大学院時代から,その当時漸く学会で使われ始めた学術用語である流体関連振動や流力騒音に関する研究を展開してきております.高圧ガスバルブから発生する騒音・振動に関する研究とその低減化,多孔形低騒音弁の減音の効率化を指向した超音速多孔噴流の構成法に関する研究,円柱周囲のはく離流れとそのウェークの制御を目的とした円柱のFM・AM加振による放出渦の強さや周期性の制御に関する研究,狭さく部を有する血管の弾性壁と内部流れの干渉による自励発振現象の解明,そして衝突噴流の自励発振現象の抑制を目的としたホールトーン現象の音響励起によるアクティブ制御などに関する研究で,一貫して流れ場に誘起される衝撃波や大小さまざまな渦運動と音響や壁面との干渉・連成問題を扱ってきました.最近では,計算機の飛躍的な進歩に伴って,DNS・LESや移動変形メッシュ法を使った数値シミュレーションによって,流れ場と音響との干渉問題や流れ場と弾性壁との連成振動の問題などを再現し制御することに取り組んでいます.
電磁場に反応して粘性の変化するER/MR流体などの電磁レオロジー流体に関する研究は,ER流体との出会いをきっかけに1993年頃から始めました.これらの機能性流体の基本的レオロジー特性(定常,ヒステリシス,動的粘弾性(動的モデルの構築も含む)などの特性)を流動構造との関連のもとに把握して,その特性を活かした特徴的な応用機器の開発(各種ダンパ,ブレーキ,クラッチ,マイクロアクチュエータ,張力制御装置,点字表示システムなど)とその制御法を提案してきました.その間,第6回のER・MR流体に関する国際会議を開催し,国内外のこの分野の研究者との交流も盛んになり,国際的な研究ネットワークのもと研究展開を実施することができました.最近は,新規なナノ粒子分散ER流体・高性能なMR流体の創製・評価とその応用機器の実用化を目指した研究開発に精進しております.
今後とも,流体工学に関わる流動現象は他分野との融合化が加速されるため,マルチスケール・マルチフィジックスの視点からのアプローチの必要性を感じております.また,新たな研究展開と人間力のある人材の育成に向けて頑張って行きたいと思っておりますので,今後とも何卒宜しくお願い申し上げます.