第97期 (2019年度)流体工学部門 一般表彰(フロンティア表彰)
一般表彰(フロンティア表彰)
大山 聖(宇宙航空研究開発機構)
受賞理由
HPCを利用した空力音響最適化や低レイノルズ数流れなどで業績を上げるとともに,開発した技術の産業利用展開や火星飛行機の開発など,計算流体工学分野や産業応用においても先駆的,主導的な役割を果たしてきた.
受賞のコメント
このたびは,流体工学部門一般表彰(フロンティア賞)をいただき,大変光栄に思います.
非才な私がこのような栄えある賞を頂けたのは,学生時代にご指導いただいた中橋和博先生(元東北大学),大林茂先生(東北大学),中村孝さん(航空宇宙技術研究所(当時)),ポスドクの私をご指導いただいた故Meng-Sing Liouさん(NASAグレン研究所),宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所に助手として赴任してからさまざまご教授いただいた藤井孝藏先生(現在は東京理科大学)をはじめとし,共同研究者の皆様方,学生・ポスドクの皆様のおかげです.この場を借りて改めて深く感謝いたします.
2011年度から2015年度に実施されたHPCI戦略プログラム「分野4次世代ものづくり」,および,2016年度から2019年度まで実施されている重点課題「近未来型ものづくりを先導する革新的設計・製造プロセスの開発」において,京コンピュータを利用してロケット射点の空力音響多目的設計最適化,超電導リニアの空力音響多目的設計最適化など世界に先駆けた大規模流体設計最適化計算を実証できたことは,非常によい経験となりました.また,重点課題では大規模設計最適化のためのアルゴリズム開発をさせていただき,ポスト京稼働後の研究も非常に楽しみにしています.
一般表彰(フロンティア表彰)
北村 圭一(横浜国立大学)
受賞理由
衝撃波を安定に捉え,高速から低速流れまで幅広く扱える圧縮性流体解析法SLAU2およびその発展版を提案し,混相流・超臨界流体・電磁流体等の幅広い流体工学分野において先駆的・先導的な役割を果たしてきた.
受賞のコメント
この度は大変栄誉ある表彰を賜り,誠に光栄でございます.ご推薦をいただいた皆様,関係者の皆様に厚く御礼申し上げます.受賞対象となった研究は,「衝撃波安定・全速度対応・圧縮性流体計算手法SLAU2 (Simple Low-dissipation Advection-Upstream-splitting-method 2)の提案(2013)ならびに,その様々な流体への拡張」でございます.この研究は,最初にSLAU2の学会発表を行った2011年当時の上司,かつ前身のSLAUの提唱者でいらっしゃいます宇宙航空研究開発機構(JAXA) 第三研究ユニット(旧 情報・計算工学センター)長 嶋英志 博士の下で始まりました.嶋さんにはSLAU2等の計算手法そのものや,これらを活かしたモノづくりまで,大変親身なご指導をいただきました.この場をお借りして厚く御礼申し上げます.
またその間,嶋さんには私をNASAグレン研究所の故・Meng-Sing Liou博士の下へ気持ち良く滞在させていただきました(2011~2012).そしてそこではSLAU2を混相流へと拡張し,水中衝撃波・気泡干渉などの問題を扱えるようにする事ができました(2014).またJAXA 橋本敦 博士とは,亜音速~遷音速領域における数値解の解像度を向上させたバージョン「HR-SLAU2」を提案しました(2016).その後,再び嶋さんと協力し,北海道大学 寺島洋史先生のサポートもいただきながら,SLAU2を超臨界流体へも適用可能と致しました(2018).更には米国ノートルダム大学 Balsara教授と共にSLAU2の電磁流体(MHD)への拡張にも成功しました(2019).現在ではSLAU2は,おかげさまでJAXA汎用コードFaSTARやLS-FLOW,そして米国スタンフォード大学の“SU2 (Stanford University Unstructured)”コードにも実装され,国内外で広く活用いただいております.その中で,また更なる改良点のヒントをいただく事もございます.こうして多くの皆様にお世話になりながら,SLAU2も私自身も年々成長を続けていると感じております.SLAU2を使っていただいた事のある方,またお世話になっております全ての皆様に感謝を申し上げたいと思います.
ところで,たびたびご質問いただくのは「SLAUとSLAU2の違いは何か?」です.簡単にお答えしますと,SLAU2では衝撃波への耐性が強化されています.「カーバンクル現象」に代表される衝撃波異常解(不安定解)は,その原因も,発生パターンも不明でした.こうした中,「数値的に表現される衝撃波の内部構造に着目し,その中でのみ,適切に数値散逸量を増やす」事で異常解の抑制に成功したのがSLAU2です.この衝撃波異常の研究や着眼点については,2006~2007年に交換留学で滞在した米国ミシガン大学Roe教授,Van Leer教授の下で行った研究に基づいています.両教授と,当時ポスドクでいらした西川裕章博士(現 NIA)に大変お世話になりました事,感謝致します.
そして最後に,そもそもこのような研究に興味を持った原点は,2002~2008年に大学院生として行った「極超音速衝撃波干渉流れの数値解析」の研究でした.指導教員でいらした名古屋大学大学院 中村佳朗名誉教授には,研究から研究室運営まで大変お世話になりました事,この場をお借りして改めて感謝を申し上げます.
一般表彰(フロンティア表彰)
辻 知宏(高知工科大学)
受賞理由
液晶の流れ挙動を実験と理論計算によって明らかにするとともに力学的性質を体系化することで,液晶を用いたマイクロサイズの機械要素を開発するなど流動制御分野において先駆的,先導的な役割を果たしてきた.