第23回流れのふしぎ展 開催報告
田辺基子(神奈川工科大学)
平成29年8月17日(木),18日(金),日本科学未来館にて日本機械学会流体工学部門主催,神奈川工科大学共催,「第23回流れのふしぎ展」を開催しました.2日間で約2,500人もの方々の来場があり,今年も大盛会となりました.「流れのふしぎから未来がみえてくる」をテーマとして,(1)体験型展示,(2)楽しい流れの実験教室,(3)科学講演,(4)教員と科学ボランティアのための研修会 を実施しました.子どもから大人まで,身の回りの流れに関するふしぎな現象を間近に見て,さわって,遊ぶ中で,「えっ!?」と驚くような発見を通して,科学や流体力学の世界に興味を持ってもらおうというものです.ボランティアスタッフが毎年デザインする流れのふしぎ展公式キャラクター「フロウ(Flow)君」が今年も活躍し,スタッフTシャツのほか,スマホのカメラ画面にフロウ君が現れて,記念撮影できるAR技術(Augmented Reality,拡張現実)で,来場者を迎えました.AR技術では他にも,スマートフォンやタブレットのアプリでスタッフTシャツや説明パネルをスキャンすると,詳細な説明を読むことがでるサービスを準備し,子どもの付き添いのお父さんが待ち時間に熱心に読む姿も見られました.幼児から中・高生まで子どもの年齢が幅広いため,同じ現象でも説明内容や使える用語が変わります.また海外からの観光客や,インターナショナルスクールの課外活動の子どもたちも来場し,スタッフは年齢に応じた説明や英語での案内やサポートに努めました.留学生スタッフも大活躍しました.
(1)体験型展示(参加自由)
二つの部屋で,11種類の空気や水の流れを利用したおもちゃや遊びの展示ブースを設置し,スタンプラリー形式で実施しました.多くの小中学生などでブースは賑わい,あちこちで順番待ちの列が伸びました.スタンプを5個集めればスタッフ手作りの「浮沈子工作キット」をもらえるのですが,5個といわずコンプリートしてしまう子どもたちが続出しました.中でも一番人気のブースは「空力オリンピック」で,「ただいま〇〇分待ちです」という表示を出すほどでした.手を使わずドライヤー1つで,風の力を使って,発泡スチロールの球を筒から飛び出させたり,柵のないくねくね道を落とさず走らせたりするしくみに次々に挑みゴールを目指すタイムアタックで,いわば流体力学の総合競技です.上位の記録はプロジェクターで映し出され,見守る親御さんたちも興奮で手に汗握るコーナーになりました.スタッフが驚くような高記録も出て,来年が楽しみです.そのほか,エアポンプを利用してイルカが口で作るようなリングを水中で作る「空気の輪」,ボールの回転を利用して軌道を曲げ直接ゴールをねらう「コーナーキック」,終端速度と同じ速さで下から気流を吹かし,スポイトから落とした水滴が空中に静止して水滴の形状が観察できる「雨滴」,カップを回転させて飛ばすとフワッと手前に戻ってくる「マグナスカップ」,ゴムで引っ張って真っすぐにボールを飛ばすとボールの後ろの不規則な渦でボールに変化が起こる「無回転シュート」,水を満たしたたらいをグルグル回転させ,急に止めると,進行方向と垂直に渦が生まれ,たらいの内壁に広がっていた茶葉が回転しながらだんだん中心部分に集まってしまう「曲がる川の流れ」など,直接触って感じて楽しめる実験体験型ブースが多数揃いました.各ブースでは,スタッフによる遊び方の説明や現象の解説が行われました.高校生以上の来場者や親御さんの中には原理をより詳しく知りたい方も多く,大学や高校で教鞭をとるスタッフが対応しました.2日間とも,終了時間ギリギリまで一つでも多く遊びたい子どもたち,思わず夢中になり,楽しいおもちゃで癒される大人の方々の姿がみられました.
(2)楽しい流れの実験教室(小中学生対象,当日先着受付順)
申し込み制の実験教室では,竹串に通した2つの発泡スチロール製の球体を,手を使わずにストローで吹いて串から外す「雪だるま」づくりを行いました.身の回りの材料で,流体力学の現象を体験できるオリジナルおもちゃです.製作したおもちゃは,家庭や学校でも実験できるようにプレゼントします.ハサミやとがった串を使いますが,教職課程で学ぶ学生スタッフが「パネルシアター」を使って作り方を解説し,丁寧にサポートして,時には親御さんの助けも得て,参加した子どもたち全員が作品を完成することができました.ストローでどの場所を吹くと球は浮き上がるのか? 会場で成功しなかった子どもも,スタッフの実演や材料キットの説明書をもとに,家庭でチャレンジすることができます.このおもちゃは,飛行機の翼が空気の流れを受けて浮き上がる原理と関係していて,いつか揚力の概念を科学的に理解する土台の経験にもなる,まさに未来への種をまく企画でした.実験教室は全7回で84名の参加者があり大盛況となりました.参考動画として,日本機械学会ホームページで公開されている「楽しい流れの実験教室(http://www.jsme-fed.org/experiment/index.html)」が紹介されています.
(3)科学講演(聴講自由)
科学講演では,「スパコン京の シミュレーション 」(加藤千幸先生,東京大学),「ナノって何なの? 目に見えない小さな世界」(神谷克政先生,神奈川工科大学)と題して,2つの人気テーマの講演が行われ,大人だけでなく小中学生を含む延べ約140名の聴講者が集まりました.加藤先生の講演では,スパコンの概念のわかりやすい解説から始まり,水などの流体の乱流を,同じ条件であれば実際にまったく同じことが起こる超高精度の3Dシミュレーション映像で再現するスーパーコンピュータの解析能力と仕組みを大画面で見せてくれました.本物のような美しいCG映像ではなく,本物と同じ現象を作り出すことのできるスパコンの計算能力に,会場から驚きの声が上がりました.神谷先生の講演では,ナノの世界の小ささを水という素材で学びました.例えば水分子の直径=100億分の1メートル(0.1ナノメートル)という,なかなか実感できない極めて小さな単位を,自作模型を使って解説していただきました.フロアと気さくに対話しながらの講演では,ナノの世界での水分子の様子を,可愛らしいフォルムのキャラクターを使って説明してくださり,参加者は,ナノという極めて小さな世界について興味が尽きない様子でした.
(4)教員と科学ボランティアのための研修会(事前申込み)
研修会では,小・中・高校教員,科学ボランティア,教職課程学生等を対象とした流れに関わる原理やそれを魅力的な実験で学ぶ事例などを,石綿良三教授(神奈川工科大学)を講師として実践的に学びました.研修では様々な実験教材が配布され,簡単な実験装置も示しながら,身の回りの流れに関わる現象の秘密を,わかりやすく解説していただきました.参加者は,科学館関係者,高校教員,TV番組制作者を含めて10名ほど.日ごろは学校や科学教室等で科学の指導をしている参加者も,この教材なら面白く学べる!と,夏休み明けに向けて目を輝かせていらっしゃいました.教材作成のための材料の入手方法や下準備の要点などについて,石綿教授からノウハウも提供され,時間が来ても誰も会場を去ろうとせず,質問が途絶えないほどの盛り上がりを見せました.その中で,原理を正しく説明することの重要性を再認識しました.
<最後に>
開催に際して,日本機械学会流体工学部門特定事業資金,日本機械学会機械工学振興事業資金,神奈川工科大学からそれぞれ助成金を頂くとともに,東京都教育委員会をはじめ多くの機関・団体から後援・協賛を頂きました.また,開催までの実行委員会による準備と会期中の運営に当たっては,イベント当日がお盆休み明けで,人が集まりにくい時期であるにも関わらず,大学・高専・高校教員(神奈川工科大学,群馬大学,東北大学、東洋大学,東京都市大学、香川高専)13名、高校教員の3名,学生(神奈川工科大学,東洋大学,京都大学)32名,高校生4名、卒業生(神奈川工科大学)5名,一般ボランティア4名,総員58名の献身的な協力に支えられました.多大なる助成とご協力に深く感謝の意を表します.