No. 21-117 講習会「流体とインフォマティクス」開催報告
IHI 藤原 浩介
近年,従来手法と情報科学的なアプローチを融合し,有用な情報を抽出する新しい分野が開拓されている。本講習会ではその中でも特に流体問題への適用に着目し,「機械学習」や「最適化」などの比較的新しいテーマの実際に関して広く紹介した。本講習会は主に企業の技術者・研究者や学部・大学院の学生を対象とし,WebExを用いたライブ配信を行なった。
ホームページ
https://www.jsme.or.jp/event/21-117
プログラム
09:30~09:40 | 開催の挨拶・説明 IHI 藤原 |
09:40~11:10 | 流体力学の低次元モデルとスパースセンシング 東北大学 野々村准教授 |
11:20~12:20 | フルードインフォマティクス2.0 東北大学 大林教授 |
12:20~13:40 | お昼休み |
13:40~14:40 | データ科学技術の流れ制御技術への応用事例 荏原製作所 安様 |
14:50~15:50 | 機械学習による乱流モデリング 東北大学 服部教授 |
16:00~17:00 | 機械学習を用いたデータ駆動型設計 東京大学 米倉講師 |
17:00~17:10 | 閉会の挨拶・アンケートの依頼 IHI 藤原 |
参加者
47名
正員 21名,
学生員 10名,
正員学生 2名,
特別員 8名,
会員外 2名 ,
一般学生 2名,
協賛団体会員 2名
アンケート結果
回答数21名(回答率44.7%)
参加者について
得られた回答のうち,参加者は企業及び大学の教職員(それぞれ10名,5名)が最も多く,学生は3名だけと少なかった(Fig.1)。参加者の年齢層は50台が14%とやや少ないが,年齢によって大きな差は見られない(Fig.2)。参加者のほぼ全員が流体力学分野に何らかの形で関わっており,動機も「データサイエンスに関わりたい/基礎を学びたい」「EFDとCFDの融合」「最新情報や知見,具体例の収集」の声が挙げられており,データサイエンス・AI・MLを古典的分野である流体力学に応用・融合させることに高い関心やニーズがあることの反映だと考えられる。
オンライン開催・参加費用について
オンライン開催に否定的な意見は皆無で(Fig.3),その理由として「移動が不要」(12名)が最も多く,その他「メモを取りやすい」(1名),「参加者が分かりやすい」(1名)などの意見もあった。一方で「接続不良により参加取消しをせざるを得なかった」(1名),「接続が途切れることがあった」(1名),「会社都合で接続できず個人用PCで参加」(1名)などオンライン開催固有の問題点が少数ながら存在した。このような問題に関しては音声・画面共有の確認を希望する参加者に対しても行なうことが考えられるが,①コロナ禍3年目に入り社会全体として接続不良の問題は当初よりは少なくなってきたと思われ,本講習に限っては接続不良の意見が少なかったこと,②参加者が多い場合,対応策のための主催者側の手間が大きくなりすぎることなどを考慮すると,従来通り開催案内にて講習会で使用するツールを明示するのが現実的に取れる妥当な手段であると考えられる。参加者によって都合の良いツールは異なるため全員を満足させることはできないが,「都合の良い/悪いツール」に関してアンケートをとってもよいかもしれない。
参加費用に関しては妥当であると捉える意見が最も多かった一方,やや高いと考える意見も多かった(Fig.4)。収支上は大幅な黒字となっていることを考えると,参加者を増やす意味ためにも,講習会費用の値下げは検討に値すると思われる。
評価・今後の期待
講習会そのものについては「満足」の回答が最も多く,講習内容に対する理解も高く,大きな不満の発生は無いようである(Fig.5,Fig.6)。その一方で,講習会に期待している内容について,次のような意見が寄せられた。
- OpenFoamを使用したCFDの講習,CFDと制御対象モデルを連成計算させる事例の制御系シミュレーションを対象とした講習
- 企業の設計者向けの乱流モデル選択とその評価方法
- 機械学習とCCFDの融合の実装の工夫について
- 機械学習モデルを組み込んだ数値シミュレーション
- 計算を大規模化する際のデータの取扱い等の課題
- 計測アルゴリズム(コード)解説
- 流体関連の機械学習
- 今回の講義内容のようなEFD/CFD融合,機械学習(流体機械・開発設計及び流動現象)で基礎から応用及び深堀した内容(今回は概要的なものも含まれていたので特化した内容が良い)
- 大規模計算結果のポスト処理高速化
- 適切な圧縮性移流スキームの選択
- COBEやFrontFlowのようなスパコンで用いられる流体解析プログラムの利用方法説明とチュートリアルのハンズオン
- Pythonを用いた機械学習・深層学習の実践講座(中級者向けの内容)
筆者の想像ではあるが,寄せられた意見には幅があるのは,①ある程度当該分野に関わっているため,深堀り・専門化した内容を勉強したい中級/上級者層,②将来的には使いたいがよく分からないので,まずはトレーニングやチュートリアルで機械学習・AI・MLに触れることを端緒にしたい初心者層,2つの層が存在しているためだと考えられる。それぞれの層に求められる講習内容は大きく異なるため,今後は各々の層に向けた内容の講習会やチュートリアルの機会が望まれると考えられる。今回の講習会の回答率が45%程度と低いため意見の分析には注意を要するが,ニーズをうまく取込んだ講習会を企画すれば参加者及び収入増が期待できるだけでなく,新たな学術分野の社会実装と活性化にも少なからず貢献できるだろう。