ニューズレター

流れ 2005年9月号 目次

― 現場で用いられる流体力学 〜どのように使われているか〜 ―

  1. ものの健全性と流動数値解析
    萩原 剛(東芝 電力・社会システム社)
  2. エアーシャワー装置用フリップフロップノズルに関する研究
    本多 武史,向井 寛(日立製作所)
  3. 大規模シミュレーションによる原子炉熱設計の現状
    高瀬 和之(日本原子力研究所)
  4. Fluid Mechanics in Manufacturing Industry-Development of Scroll Compressor
    アノワル ホセイン(Anwar Hossain)(アネスト岩田株式会社)
  5. 編集後記
    岩本 幸治(愛媛大学),小出 瑞康(新潟産業大学),平元 理峰(北海道工業大学)

 

エアーシャワー装置用フリップフロップノズルに関する研究


(株)日立製作所
機械研究所 第1部
本多 武史


(株)日立製作所
機械研究所
高度設計シミュレーション
センタ
向井 寛

1.はじめに

  近年,人体等の対象物に気流を噴射し,付着した塵埃を除去するエアーシャワー装置に対するニーズは高い.この要因として
1)食品分野におけるHACCP(Hazard Analysis Critical Control Points;危害分析重要管理点)の浸透
2)同分野における異物混入防止等の社会的ニーズの高揚
3)半導体製造工場等の加工微細化に伴う高清浄化への要求
4)清掃工場等,外部に対する汚染物質漏洩の防止
などが挙げられる.更に近年では,除塵時間の短縮化による作業効率の向上の観点から,除塵性能の向上と除塵時間の短縮が望まれている.このニーズに対応すべく,純流体素子技術を応用したノズル『フラッタージェットノズル』(以下FJノズル)を新たに開発した.このFJノズルを適用し,エアーシャワー装置の除塵効率を向上したので紹介する.

2.エアーシャワー装置

 エアーシャワー装置の概略図を図1に示す.この装置は,半導体・液晶製造工場,食品・医薬品工場の清浄空間への入出口に設置されており,以下のように動作する.人もしくは対象物がエアーシャワー装置室内に入るとファンにより昇圧,HEPAフィルタにて清浄された空気が左右から噴出し,衣服についた塵埃を吹き飛ばす.同時に,浮遊した塵埃を装置上部からのダウンフローにより装置床へと押し下げ,プレフィルタで回収する.
  従来のエアーシャワー装置は,ノズル(パンカールーバ)より吹出した単調な噴流を,スポットで対象物に噴射し除塵を行う.スポット径が小さいため,利用者は装置の中で回転して全身に噴流を当てる動作を行う.また,単調な噴流では淀み点や死水域が生ずることから,衣類を叩き,振動や形状の変化により塵埃を除去する動作を行う.

図1 エアーシャワー装置の概略図



3.フラッタジェットノズルの開発

  新型エアーシャワー装置は,気流を制御し除塵性能の向上を図っている.即ち,各ノズルより吹き出す噴流を高速で揺動させることで,除塵範囲を拡大すると同時に,叩きの効果が得られ,除塵性能が向上する.
  FJノズルは,フリップフロップノズル(1)と同様の原理で発振し,自励振動により気流を広範囲に揺動する点に特徴がある.また,単純構造の純流体素子であり,可動部・摺動部が無いため発塵がなく,メンテナンス性に優れた特徴も有する.従来ノズルとの比較結果を図2,図3に示す.図2はノズル特徴の差異を,図3は吹出口に設けた布の動きの違いを比較した結果である.FJノズルの基本構造はフリップフロップノズルと同様で,断面が長方形の流入口と,流入口直後に設けられ流入方向と垂直に交わる連結ダクトと,連結ダクト部下流の吹出口で構成されている(図4).動作は,@コアンダ効果により,噴流が吹出口の上下いずれかの壁面に沿って流れる.A噴流が沿った側に圧力の低い領域が生ずる.B低圧部に向かい,連結ダクト内を通る流れが励起される.C励起されたダクト内流れにより噴流が剥がされて反対側の面に沿った流れとなる.この動作を繰り返し,揺動する噴流が生成される.

図2 ノズル特徴

 

従来ノズル(単純噴流)(動画)
クリックすると再生: 3.6MB
フラッタージェットノズル(揺動噴流) (動画)
(純流体素子により気流を揺動)
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図3 噴流比較

 

図4 噴流の揺動動作

 図5にノズル内部の流動状態を分析する目的で実施した,STAR-CD(CD-Adapco Japan)による3次元非定常解析結果を示す.解析結果から,揺動噴流現象の確認ができ,一定時刻後(約0.2[s])から定常な発振状態となっている事がわかった(2).次に,解析結果の検証のために,圧力変換機と2次元レーザドップラー流速計を用いてFJノズル内部の圧力変動,ノズル吹出口中央における吹出速度分布を測定した.

図5 3次元非定常解析結果(動画)
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 図6は連結ダクト内壁面に設けた圧力評価点での静圧差である.縦軸は,静圧差(Pu-Pl)を断面平均風速Ujの動圧を用いて無次元化し,横軸は周期Tで無次元化している.本結果から解析値と実験値は,一致していることが分かる.なお,発振周波数も解析値12[Hz] ,実験値12.1[Hz]と一致している. 図7にノズル吹出口中央における吹出速度のz方向速度(主流方向Vz)を示す.1周期を8分割し,各時刻(位相)におけるVzについて解析値と実験値を重ねて表示している.縦軸はノズル吹出口における吹出速度のz方向速度(主流方向Vz)を断面平均風速Ujにて無次元化し,横軸はy方向位置Hを流入口の寸法H0で無次元化し示している.

図6 解析結果の検証(連結ダクト内圧力変化)

 図7に示すように,各位相における速度分布は,逆流域の占める割合まで含め,解析値と実験値は非常に良く一致している. 以上の比較結果から,FJノズルの動作が解析により精度良く再現できている事を確認した.(3)

図7 解析結果の検証(ノズル出口風速分布の変化)

4.除塵性能の向上

 図8に除塵性能の比較を示す.揺動する噴流の効果により除塵範囲を拡大すると同時に,叩きの効果が得られるため,除塵効率が11%向上した.この結果,エアーシャワーの使用時間を15秒から8秒へ半減でき,クリーンルーム内への入室時間短縮と除塵性能の向上を実現した(4).

図8 ノズル除塵評価結果

 

5.おわりに

 2003年5月より従来機種をモデルチェンジし,除塵性能向上と除塵時間の短縮を実現したFJノズル搭載“フラッタージェット”シリーズ(1)としてエアーシャワー装置を製品化した.

図9 フラッタージェットノズル搭載新型エアーシャワー装置

 

参考文献

(1) 高曽徹・他3名:フリップフロップノズル噴流の自励振動(ノズル内の流動・圧力変化の機構):航空宇宙学会・流体力学会 第32回流体力学講演会(2000)
(2) 向井寛・他4名:高除塵化のための特殊形状吹出ノズルの開発:日本機械学会・日本機械学会2004年 年次大会(2004)
(3) 本多武史・他3名:エアーシャワー装置用フリップフロップノズルに関する研究:日本機械学会流体工学部門講演会(2004)
(4) 本間圭一・他5名:高除塵化のための特殊形状吹出ノズルの性能検討:日本空気清浄協会・第21回空気清浄とコンタミネーションコントロール研究大会(2003)
更新日:2005.4.7