第82期(2004年度)流体工学部門 一般表彰(フロンティア表彰)
● 加藤千幸 教授 (東京大学)
● 新美智秀 教授 (名古屋大学)
● 古川雅人 教授 (九州大学)
加藤 千幸 教授(東京大学)
<授与式の写真>
受賞理由:
物体周りの流れや流体機械から発生する騒音の数値解析手法を開発し,流体騒音発生機構の解明により騒音低減に関する新たな知見を得た.また,講演会および講習会などでオーガナイザーとしてこの分野の発展に貢献した.
受賞のコメント:
このたびは,流体工学部門フロンティア表彰という大変栄誉ある表彰を受け,誠に光栄に存じます.今回の表彰は,多くの諸先輩方や共同研究者のご指導・ご協力の賜物と深く感謝しております.特に, 15 年前の 1989 年に私が米国スタンフォード大学から帰国した際に,「これからは音の時代だから是非,流体音の解析を始めるといい.」と言って,私にこの研究テーマを与えて下さった,(株)日立製作所機械研究所の池川昌弘主管研究長,飯野利喜主管研究長, 5 年前の 1999 年に,大学というより広い研究の場にお誘い下さった,東京大学生産技術研究所の小林敏雄教授,吉識晴夫教授(以上,何れも当時の御所属),ならびに,工学院大学機械工学科の飯田明由助教授を始めとした多くの共同研究者の方々に改めて御礼申し上げます.
さて,流体騒音を解析する目的は騒音の低減です.工学は最終的には「現場」で役に立って,初めてその価値が認められるものですから,私はできるだけ現場から離れないよう心掛けております.流体騒音の数値解析で最も難しいことは,対象としている音の本質的な発生要因を推定することです.その意味では,単に数値解析に留まることなく,実際の物から出ている音の測定や風洞試験にも注力しています.これからもこの分野の発展に,微力ながら尽力して行きたいと考えておりますので,ご指導・ご協力のほど,宜しくお願い申し上げます.
新美 智秀 教授(名古屋大学)
<授与式の写真>
受賞理由:
レーザー計測手法,特にレーザー誘起蛍光法( LIF )や共鳴多光子イオン化法( REMPI )などのレーザーおよび光学を利用した最先端計測技術を希薄気体流計測へ適用し,流体計測技術の分野において先駆的な業績をあげ,新分野の開拓・発展に寄与した.
受賞のコメント:
この度は,これまで研究してまいりましたレーザー誘起蛍光法( LIF )や共鳴多光子イオン化法( REMPI )などの光計測技術の開発およびそれらの希薄気体流への適用に関しまして流体工学部門の一般表彰 ( フロンティア表彰 ) を賜わり,大変光栄に存じます.
20年ほど前に始めたレーザー誘起蛍光法では,光軸の合わない色素レーザや塩素ガスの漏れるエキシマレーザーに悪戦苦闘しながら非接触の2次元温度計測法を開発したこと,共鳴多光子イオン化法では「イオンの気持ちにならなければ」との助言でイオン検出が可能になったことなどを思い出します.これらの研究は,研究室の学生の皆さんの努力,多くの方からの助言によって推進できたことは言うまでもありません.紙面をお借りして,ここに衷心より感謝申し上げます.
現在は「高クヌッセン数流れ」をキーワードに,希薄気体の流れに加えてマイクロ・ナノシステムに関連する代表長さの小さい流れ場の研究も遂行しており,実験室にクリーンブース,蛍光顕微鏡,分子膜製造装置などを設置しました.この受賞を励みとして,今後共一層これらの研究に取り組んで行くつもりです.
古川 雅人 助教授 (九州大学)
<授与式の写真>
受賞理由:
流体機械内の非定常三次元流れを数値解析により明らかにし,特に複雑な渦構造の解明により,失速現象や騒音発生機構に関する新たな知見を提示し,流体機械の性能向上にとって有用な基礎資料を得られ,この分野の発展に貢献した.
受賞のコメント:
この度は流体工学部門・一般表彰(フロンティア表彰)をいただき誠に光栄です.流体機械の内部流動という流体工学では古典的な研究テーマを手がけてきましたが,その内部流動現象を解析する際に,単なる大規模 CFD 計算を実施するのではなく, CFD 結果から流体力学的に意味のある情報を抽出・可視化するビジュアルデータマイニング(知的可視化)技術を駆使して,流体機械内の極めて複雑な渦流れ場の非定常三次元挙動を解明してきました.特に,特異点理論に基づいた知的可視化技術により CFD 結果から三次元渦構造を抽出することによって,翼列流れ場の大規模渦構造においても渦崩壊現象が発現することを初めて見出すとともに,動翼列における旋回失速初生時の非定常三次元流れ挙動,ファンにおける渦構造の非定常挙動とそれが空力騒音発生に及ぼす効果などに関して新たな知見を示してきたことがこの度の受賞につながったものと考えます.
第三者から評価される良い成果を出せたことは良い研究環境に恵まれたお陰であり,深く感謝いたします.上述した翼列流れ場での渦崩壊現象は, Cambridge 大学の Whittle Lab に1年間滞在していた折に新たに見出した知見です. Sabbatical leave では講義も会議も雑用もなく,時間が十分にありましたから,日本の大学院生から送られてきた結果をじっくり解析して見出した成果です.おそらく,1年間の sabbatical leave がなければ,この知見は得られなかったことと思います.今の日本の大学では研究時間の確保がますます難しくなっていますが,これからも研究に対しては妥協することなく,流体工学の発展に貢献できることを願っています.