第83期(2005年度)流体工学部門 一般表彰(フロンティア表彰)
● 岡本 孝司 教授 (東京大学)
● 後藤 彰 ((株)荏原総合研究所)
● 大島 伸行 教授 (北海道大学)
● 辻本 良信 教授 (大阪大学)
● 速水 洋 教授 (九州大学)
岡本 孝司 教授(東京大学)
受賞理由:
時空間1億/秒の高解像度速度分布が計測可能なダイナミックPIVを世界に先駆けて開発研究し,実用化への道を開いた.さらに,国際ワークショップを企画し,機械学会ワークショップ等を精力的に展開した.
受賞のコメント:
このたびは、栄えある流体工学部門・一般表彰(フロンティア表彰)を賜り、誠に光栄に存じます。粒子画像流速測定法(Particle Image Velocimetry; PIV)は、2次元の分布情報が計測できる手法として80年代に開発され、90年代に大きく発展を遂げ、流体計測手法の一般的手法として確立されてきました。古くから高速度カメラをPIVに用いるアイディアは提案されておりましたが、ここ数年の高速度カメラ技術の大幅な進歩によって、時間方向の情報を取得できるダイナミックPIVとして確立されつつあります。この発展途上にあったPIV研究の一端を担うことができたことは、研究者としては幸運であったと思います。今回の表彰は、PIV研究会のメンバー、科研費グループの皆様をはじめとする、多くの方々のご協力とご指導の賜物であると深く感謝いたします。
現在は、マイクロスケールからマクロスケールまで、さまざまな流れ場にダイナミックPIVを適用して、6~20kHzで得られる多量(数万枚)の画像データと格闘する毎日です。一度に熱線流速計数千個分の情報が得られます。実験は3秒で終わるのですが、3秒間に得られる6万枚の画像解析に数時間、データ処理には数日から数ヶ月掛かっています。解析の高速化や処理の標準化など、誤差評価を含めたダイナミックPIV手法の普及にも力を入れたいと考えています。また、見えないものを視る「可視化」というキーワードにこだわって、新しい事にチャレンジをしていきたいと考えていますので、今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
後藤 彰((株)荏原総合研究所)
受賞理由:
研究会や企業・大学のコンソーシアムを主宰し、ファンの騒音発生に着目して逆問題解析と数値解析を組み合わせた手法により機器設計の指針を示した。
受賞のコメント: フロンティア表彰を受賞して
流体工学部門からフロンティア表彰を受賞させて頂き、大変名誉なことであると感じております。この度の受賞理由となっております、ファン騒音低減に関するコンソーシアムプロジェクトの企画は、日本機械学会研究協力部会RC178「非定常・不安定流動の制御・省エネ実用化研究分科会」の活動から派生したものです。学会活動としては新しい試みであったことから、同分科会主査の速水洋先生(九州大学)並びに同幹事の田中和博先生(九州工業大学)には大変ご苦労頂きながら、強力にご支援頂き、心より御礼申し上げます。また、同プロジェクトの研究機関として2年半に渡りご助力頂きました、加藤千幸先生(東京大学)、古川雅人先生(九州大学)、辻本良信先生、山本晶万先生(大阪大学)、金子賢二先生、塩見憲正先生(佐賀大学)、さらに同プロジェクトのスポンサーとしてご協力頂きました16社(13スポンサー)の関係各位に心より感謝申し上げます。
本プロジェクトは、プロペラファンの騒音低減を実現するための設計基盤技術の獲得を目指し、流れの数値解析、翼形状の逆解法設計、騒音・性能特性および内部流れの計測、騒音モデルの構築に取り組んだものです。こうした産学連携のコンソーシアムプロジェクトを企画するに至った私の個人的背景としましては、産業界の一研究者としての立場、逆解法ソフトのベンダーとしての立場、そして学会における研究分科会委員の立場からの三種類の視点を持てたということが大きかったと感じています。ターボ機械は産業基盤や市民生活を支える重要な機械装置である反面、多額の研究開発投資を行うことが困難な状況にあります。その意味でも、例えば様々な製品開発の基礎となる共通基盤技術の構築に関しては、競合会社を含む関係会社が大学等の公的機関と協力し、産学連携により研究開発を行うことが民間・研究機関の両者にとって有意義であると考えております。
今回のフロンティア表彰を受賞理由となりましたコンソーシアムプロジェクトの企画・実行が、今後の産学連携に対して何らかのきっかけとなることができれば幸甚であります。関係各位に対し、改めて心から御礼申し上げます。
大島 伸行 教授(北海道大学)
受賞理由:
自動車技術関連や燃焼機器内流れのLES解析など、実用的かつ重要な問題に数値解析手法を適用するとともに、企業連合の研究会を主催するなどこの分野の発展に貢献した。
受賞のコメント:
このたび、流体工学部門フロンティア賞を戴きますことを大変光栄に存じます。この褒賞を自身思うに、その過半は、東大生産技術研究所にて実施された「戦略的基盤ソフトウェアの開発」プロジェクトの成果に負うものといえます。研究代表の小林教授、加藤教授のもと4年間に150名超の研究者が合同した大イベントであり、私の参画しました「次世代流体解析システム」も30名の研究者が協力して実施されてきました。研究に加わった学生らや様々なお立場からご支援いただいた皆様を数えますと、実に多くの方々の智恵の賜物と改めて思います。そこに参加できた幸運を感じつつ、今回の賞をご関連の皆様と共に受けさせていただきます。このプロジェクトの一番の狙いは基礎研究から実用化への架け橋となることにあって、流体工学分野には、その成果を次世代流体解析ソフトウェア”FrontFlow”として世に問うているところです。今まさに”FrontFlow”を乱流工学シミュレーションの確かな展開に繋げるべく格闘しておりますが、この受賞を機会に、より多くの目で評価・批判をいただき、多くの手で次世代の画期的な成果や、あるいはナノ・マイクロ、バイオ、宇宙といった新しい機械工学の魅力的な世界にも展開されるならば望外の喜びです。私自身も次のフロンティアを目指す一人として、フロンティア賞を大きな励みといたします。ありがとうございます。
辻本 良信 教授(大阪大学)
受賞理由:
ターボ機械の不安定現象に関する長年の研究を通じ,キャビテーションの発生に熱力学的効果を考慮するなど独創的な取り組みにより流体機械の複雑現象への指針を示した。
受賞のコメント:
この度は栄えある部門一般表彰(フロンテイア表彰)をいただくことになりありがとうございました。信頼性向上に日夜地道に取り組むターボ機械技術者の代表としていただける事になったものと解釈し、ありがたく思っています。ご存じのように流体工学は新しい技術分野の実現を支えるものとしてその応用が広がっています。このような中で、従来からのターボ機械に取り組む研究・技術者の割合は必然的に年々低下しつつ有ります。しかし流体工学全般と同様、ターボ機械の応用も広がり、より過酷な条件下で信頼性の高い運転をする事が要求されています。一方、流体工学の進展に伴い新しい数値解析技術・実験技術が応用可能となり、開発の現場も経験定数に依存する従来の経験主義的な手法から、より実際の流れに即した手法に移行しつつあります。このような状況は、流体工学の基礎研究で培った解析技術、実験技術を現実の問題に適用する良いチャンスであることを示しています。今後基礎研究のフロンテイアと開発のフロンテイアがより有機的に結びつき、流体工学がより大きく発展することを願っています。
速水 洋 教授(九州大学)
受賞理由:
時空間1億/秒の高解像度速度分布が計測可能なダイナミックPIVを世界に先駆けて開発研究し,実用化への道を開いた.さらに,国際ワークショップを企画し,機械学会ワークショップ等を精力的に展開した.
受賞のコメント:
この度は、ダイナミックPIVの開発研究とその展開に関しまして流体工学部門一般表彰(フロンティア表彰)を賜り、大変光栄に存じます。推薦者、関係各位ならびに会員各位に厚く御礼申し上げます。
本開発研究は2002年度スタートの科研基盤研究Aをベースに遂行されたもので、本プロジェクトチームが評価されましたことを大変嬉しく思っています。私はただその代表としての受賞だと存じますし、共同研究者の皆様に厚く御礼申し上げます。また、本プロジェクトは科研基盤研究C「多次元画像流速計測標準のための国際協力に関する企画調査」(小林敏雄代表)の中から生まれたプロジェクトであります。メンバー各位に御礼申し上げます。
ダイナミックPIVは高速カメラと高速パルスレーザのマッチングが鍵を握るわけですが、幸い、国内メーカの開発時期と一致し、本プロジェクトからの要望を加味していただきながら1年目に入手できたことが成功の大きな要因の一つかと思われます。また、レーザについては米国製でしたが、現地に2名が飛び、こちらの仕様とつきあわせての導入でした。各メーカのご支援にも感謝申し上げます。立ち上げまでのいろいろ苦労はありましたが、無事に動いたときは感激でした。各メーカの協力に加えて、周辺機器を含めたシステムの整備はメンバーの協力の賜であり、さらには本装置の応用については特に、メンバー各位の独自の発想とチャレンジ精神でこれまでにない素晴らしい成果が生まれました。お陰様で、国際会議の招へい講演等でスリランカ、南アフリカ、中国ならびに韓国等を訪問できたこともこれまでにない思い出となりました。
本装置はまだ課題も多いのですが、これらの課題を克服して、近い将来には標準機器の一つとして広く利用されることを望んでいます。
名誉ある受賞を通過点として、さらにチャレンジ精神を発揮し、流体工学分野の発展に少しでもお役に立てればと存じます。