第84期(2006年度)流体工学部門 一般表彰(フロンティア表彰)
● 小森 悟 (京都大学)
● 高野 泰斉 (滋賀県立大学)
● 李鹿 輝 (山形大学)
小森 悟 (京都大学)
受賞理由:
風波乱流場を対象として気液界面での乱流および物質移動現象に関する先駆的な研究を実験と数値計算の両面から行い,二酸化炭素等による温暖化の予測において重要となる大気・海洋間の海表面を通しての物質交換機構についての知見を深めるとともに,気液二相流の界面現象を解明するための先端的な手法を創出し,流体工学の新たな研究分野を開拓した.
受賞のコメント:
この度は,流体工学部門一般表彰(フロンテイア表彰)を賜り,大変光栄に存じます.推薦者,関係各位ならびに受賞対象の研究に協力してくれた学生諸君に厚く御礼申し上げます.
上記の受賞理由に書かれております研究成果は, 1980 年代の初めに,当時,国立公害研究所の植田洋匡先生のアドバイスを得て,開水路内乱流の気液界面近傍での乱流構造と熱輸送機構との関連性について研究を始めたことがきっかけとなり,その後,地球環境の問題がクローズアップされ始めたため,大気・海洋間での物質および熱の交換機構の解明が重要であると考え,科学研究費基盤研究 (S) 等の援助を受けて,せん断力の働く風波乱流場での熱および物質輸送の解明へと研究対象を発展させることにより得られたものであります.
海表面のようなせん断力の働く風波気液界面での運動量,熱および物質の輸送に関する研究は,これまで海洋科学の分野で主に行われてきましたが,それらの輸送機構は十分には解明されておらず物理的考察に欠ける熱物質輸送モデルが使用されているのが現状でありました.その主原因の一つは,時々刻々変化する風波気液界面近傍での乱流情報を得ることが難しかったことにあります.しかし,この問題は,精密な乱流計測および数値計算に関するノウハウを有する流体工学研究者には格好の気液二相流の研究対象であったため,私どもは,流体工学的な立場から, PIV , LDV ,抵抗線温度計,放射温度計, LIF などによる速度,温度,濃度等の乱流計測および並列スーパコンピュータを利用した直接数値計算を駆使することにより,風波気液界面を通しての熱および物質の輸送機構を風波気液界面近傍の乱流構造と関連づけて明らかにすることに取り組んでまいりました.現在は,熱および物質輸送に及ぼすうねり,砕波による気泡の巻き込み,液滴の飛散,密度成層などの種々の因子の影響も明らかし,これらの知見を活用して大気・海洋間の熱および物質輸送に関する信頼度の高いモデルを構築することに努めております.今後も,従来の地球物理分野の立場とは一味違う流体工学的な立場からのアプローチにより大気海洋乱流中に現れる種々の乱流輸送現象の解明とそのモデル化の研究に取り組み,今回のフロンテア賞の受賞に恥じない研究を推進していきたいと考えております.
高野 泰斉 (滋賀県立大学)
受賞理由:
流体工学の立場からマイクロマシン技術開発にかかわる生物流体力学の新領域開拓に先導的役割を果たした.特に,べん毛の回転により遊泳するバクテリアの推進機構の理論的研究,ビブリオ菌の遊泳に関する理論的ならびに実験的研究は国内外で高い評価を得ている.
受賞のコメント:
この度は,流体工学フロンティア表彰という大変名誉な表彰を受け,光栄に存じます.ビブリオ菌の運動の研究に従事して14年になります.流体工学のメーンのテーマでもなく,これを始めた経緯は,1992年に鳥取大学の機械工学科に加わった時に,マイクロマシンに関連する研究を勧められたことによります.らせん型べん毛を回転させて運動しているμmオーダーのビブリオ菌はマイクロマシンの実在証明になっていると考え,研究を始めました.暗中模索の状態から, Lighthill のグループが精子の運動の理論を立てていることに気付き,近似理論ながら,一般的な解析が出来ました.その後,1993年10月に後藤知伸氏が研究室の同僚として加わり, Lighthill らの slender body theory や BEM を導入し,解析を精密化し,各種の運動のシミュレーションを行いました.その結果を,京都で開催された世界理論応用力学会議の Pedley 教授のセッションで発表し,微生物の運動も少数ながら世界的にやられていることを知りました.後藤氏はそれを契機としてケンブリッジで Pedley の指導を受け,現在は鳥取大学の教授です.
高輝度暗視野顕微鏡によるビブリオ菌の運動の観察を始めた頃に,世界に先駆けビブリオ菌のべん毛の回転速度が1000回転となることを見出した生物物理の工藤成史氏,曲山幸生氏の知己を得て,技術指導も受け,また,バクテリアのべん毛の微細構造の情報を得て,現在は,滋賀県立大学においてべん毛の変形の研究も行っています.
1997年にエアロ・アクアバイオメカニズム研究会(加藤直三氏(造船),森川裕久氏(機械),上村慎治氏(生物))が発足し,工学系,理学系の立場から「生物と流れ」の研究を目指し,異分野の研究者との交流も楽しんでいます.
本受賞を契機に,微生物の運動のメカニズムをマイクロマシンを含む流体機械に応用することも心がけて行きたいと考えています.
李鹿 輝 (山形大学)
受賞理由:
流れのウェーブレット応用研究において新領域を拓く先駆的役割を果たすとともに,次々に独創的な研究成果をあげ,国内外で高い評価を受けている.さらに,研究会の主査,数多くの国際及び国内会議のオーガナイザーとしてこの領域の開拓・発展に貢献した.
受賞のコメント:
この度は,流れのウェーブレット応用研究に関しまして流体工学部門から一般表彰(フロンティア表彰)を賜り,大変名誉なことであると感じております.
12年前に始めた流れのウェーブレット応用研究では,最初の難関は流れの(画像,信号,速度,温度等)データに適用する解析手法の開発です.勿論,それを伴う最も難しいことはウェーブレット解析の結果から流体力学的に意味のある情報且つこれまで解明されない現象を抽出することです.現在,最先端の解析技術として,ウェーブレット変換は,複雑な乱流渦構造の抽出, PIV また流れ画像の解析,混相流の流動機構の分析などの研究において急速に進歩しています.これまでは可視化不可能であった多重スケールの流れ構造が時間―空間―周波数の3次元面から定量的に可視化されてきています.今後の展開としては,ウェーブレットは解析・可視化技術のツールとして様々な流れ現象対象に応用されるように,微力ながら尽力して行きたいと考えております.
今回の表彰は,可視化情報学会の「ウェーブレットと知的可視化の応用」研究会のメンバーの皆様をはじめとする,多くの諸先生方や共同研究者のご指導・ご協力の賜物と深く感謝しております.この表彰を契機に,今後もこれらの研究に対してなお一層努力を続けて行きたいと考えております.