部門賞

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第90期 (2012年度)流体工学部門 部門賞

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部門賞


古川 雅人(九州大学)

受賞理由:

 長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に多大な功績があった.特に,ターボ機械における複雑渦流れ現象および異常流動現象に関する実験的および数値解析的研究において顕著な業績を挙げた.また,部門長として流体工学部門の発展に多大なる貢献をした.

受賞のコメント:

 この度は,栄えある流体工学部門賞を受賞し,誠に光栄に存じます.これまでに,ご薫陶を賜りました恩師の先生方,共に研究に取り組んできました職員と学生諸氏,ならびにこの度ご推薦を頂きました関係各位に心より深く感謝申し上げます.

 卒業研究以来,ターボ機械に関連した研究に従事して30年以上が過ぎました.大学院を修了するまでは,EFD(実験流体力学)を駆使して研究に取り組んでいました.卒業研究で直径5μmの熱線張りにたいへん苦労していたこと,修士課程でLDVによる内部流れ場の計測を経験してレーザを用いた非接触式の計測法によりターボ機械の羽根車内の複雑な三次元流れ場が計測可能になりつつあったことに胸を躍らせたことなどが懐かしく思い出されます.しかしながら,私の大学院時代は,TVDスキームの提案に代表されるように,まさにCFD(数値流体力学)の黎明期でありました.そしてこのCFDに,ターボ機械の複雑な内部流動を解析する強力なツールとしての魅力を感じ,博士課程修了後から本格的にNavier-Stokes方程式を用いたCFD解析を研究に導入いたしました.また,ターボ機械の内部流れ場は複雑な三次元性を呈する上に,強い非定常も伴うことから,その流れ場に対する大規模なCFD計算結果から問題となる流動現象を抽出して新たな知見を引き出すことは容易でありません.そこで,特異点理論に基づいた渦中心の同定や限界流線のトポロジー解析を駆使して流体力学的に意味のある情報を抽出・表示する知的可視化手法を取り入れることによって,ターボ機械内の複雑な渦流れ現象の解析技術を飛躍的に向上させることができました.

 ターボ機械は成熟した分野であるだけに,研究対象となる問題が厄介なもの(非定常三次元流動現象)ばかりであり,実験解析(EFD)のみで問題を解決することには限界があります.かといって,CFDで全て片付くほどCFD結果に高い信頼性はありません(特に非定常現象に対しては).解析対象と同じ条件あるいは類似の問題に対するEFD結果からCFD結果の検証を行わなければ,CFDの結果を鵜呑みにできないのが現状です.実験そのものをCFDで置き換えるのではなく,EFDを補完し,流動現象をより深く解明することを目的としてCFDを活用することが賢明です.この観点から,非定常流れ計測を駆使したEFDと知的可視化手法を援用したCFDとを組み合わせたEFD/CFDハイブリッド流動解析をターボ機械の流動問題解決に適用して参りました.このEFD/CFDハイブリッド流動解析を駆使することにより,減速翼列の失速点近傍で翼端漏れ渦が崩壊することを新たに見出すことができましたし,最近では,動翼列における旋回失速の初生メカニズムを解明するとともに,翼端漏れ渦の崩壊により翼列の失速が抑制されることなどを明らかにすることもできました.今秋からは,私どもが明らかにした旋回失速の初生メカニズムがガスタービンの実機でも成り立つのかをスーパーコンピュータ「京」を利用して調べる研究課題に着手いたします.

この度,名誉ある部門賞を受賞いたすことができましたことは,良い研究環境に恵まれたお陰でございます.これまでにご指導およびご鞭撻頂きました皆様方に改めて深く感謝申し上げます.今後とも,流体工学の発展に更なる貢献を果たすことができれば幸甚の至りです.

部門賞


新美 智秀(名古屋大学)

受賞理由:

 長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に多大な功績があった.特に,高クヌッセン数流れのレーザー計測技術の開発およびこれを用いた流動解析などにおいて顕著な業績を挙げた.また,部門長として流体工学部門の発展に多大なる貢献をした.

受賞のコメント:

 名誉ある流体工学部門 部門賞を受賞し,大変光栄に存じます.研究者としてお導きいただいた多くの先生方,またご推薦いただいた方々にも厚く御礼申し上げます.一緒に研究を推進してきた多くの同僚,学生の皆様にも心よりお礼申し上げます.

  希薄気体流の流れ場を対象とした可視化計測手法として,レーザー誘起蛍光法(LIF)や共鳴多光子イオン化法(REMPI)に挑戦し,2次元温度計測手法の開発や超音速低密度気体流における回転温度非平衡現象の解明を行ってきました.10年ほど前より「高クヌッセン数流れ」を提唱してまいりました.ご存知のように,気体流の希薄度を表わす重要な無次元パラメータとしてクヌッセン数(Kn : Knudsen number)があり,これは平均自由行程lと流れ場の代表長さL を用いてKn =l /Lで定義されます.一般にKnが大きくなると,気体流は連続体として近似できなくなり,原子・分子の流れとして扱わなくてはならなくなります.たとえば,真空技術や宇宙関係技術で重要となる低密度気体流では,l が大きくなるため分子間衝突数が極端に減少して気体流中に強い非平衡現象が発現し,MEMS (Micro Electro Mechanical Systems)に代表されるナノ・マイクロデバイス近傍の流れ場では,Lが極端に小さくなって気体分子は他の気体分子よりも固体表面と数多く衝突するため,流れ場が固体表面の影響を強く受けることになります.このような「高クヌッセン数流れ」に関連する非平衡現象や気体分子とデバイスとの相互作用に関する精緻実験データが少なく,最近は実験手法の開発と精緻実験データの取得に努めています.また,日本機械学会に「マイクロ気体流れに関する調査研究分科会」を立ち上げ,マイクロ気体流れに関する広範囲な基礎的な知見を発展させ,工業的にも適用可能な情報を構築するとともに,この分野の周知と若手研究者の育成を目指しています.

 今後とも,この賞を励みとして,新しい分野に挑戦したいと思っています.どうぞよろしくお願い申し上げます.

部門賞


金元 敏明(九州工業大学)

受賞理由:

 長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に多大な功績があった.特に,風力発電,水力発電などのクリーンエネルギー開発に関する研究において顕著な業績を挙げた.

 受賞のコメント:

日本機械学会流体工学部門賞の栄誉を授かり,ご推薦下さいました関係各位に厚くお礼申しあげます.また,私を育てて頂いた恩師,暖かいご支援ご指導ご鞭撻を賜った産学官の関係各位,研究の第一線で戦ってくれた卒業生に感謝の意を表します.

 第一次オイルショックを契機に1975年この道に入り,ポンプと水車に関する研究の日々を過ごし,「揚げたり下げたり大変なことで」と諸兄にからかわれたことが懐かしい.1980年終盤から1990年初期のバブル景気に並行したのがITブーム.大学も負けずにIT,IT・・・.機械家にとっては忍耐・我慢が似合う暗黒の日々であった.この流れを一変させたのが,1993年の京都議定書である.世間は地球温暖化防止に向けて走り出し,大学の研究も環境,エネルギー関連が改めて脚光を浴びるようになってきた.

 「関門海峡で発電に挑戦したい」「発電機がネックになって難しいかも」北九州に赴任した当初の会話である.周波数と起電圧の関係から,水力発電では増速機構を設けるか,あるいは発電機径を大きくする(極数を増やす)方法が従前からとられている.土木工事は無論のこと灯浮標以外は一切設置できず,船舶の航行が最優先の関門海峡では致命傷である.それなら,固定子も回転電機子とは逆方向に回転させて,磁界を切る相対速度を速くすれば良いかもしれない.その無茶な発想に応えて1998年のある日,固定子を持たない二重回転電機子形発電機が大学に届いた.これを駆動するのは2段のランナであり,回転電機子との連携運転が前提であることから,あえて“相反転方式”と命名し,JISにも登録された.北九州で生まれた相反転方式水力発電ユニットは三重県多気町で元気に活躍している.この方式は即ポンプに応用されるとともに,潮汐発電,潮流発電,波力発電にも展開され,風にも飛び火した.前後二段の風車ロータと内外二重の回転電機子が絶妙な連携プレーを演じるインテリジェント風力発電ユニットは2011年本場欧州で国際会議賞を受賞し,嫁入り先を募集中である.

 一つの羽根車で事足りるにもかかわらずあえて二段にし,電気機械と融合して付加価値を求めようとする興味本位な研究は未だに終焉を知らない.研究生活の最終章でクリーンエネルギー開発に取り組める機会に恵まれたことを改めて感謝したい.

部門賞


田中 和博(九州工業大学)

受賞理由:

 長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に多大な功績があった.特に,様々な流体システムにおける流動および振動の実験的・数値的解析において顕著な業績を挙げた.

受賞のコメント:

 この度は,栄誉ある流体工学部門賞を賜り,大変光栄に存じます.これまで,ご指導頂きました恩師(大橋秀雄先生)をはじめとする皆様方,共に研究に取り組んで頂いた皆様方,ならびに,今回ご推薦賜りました関係各位に厚くお礼を申し上げます.

  博士課程修了後,最初の職場である油圧工学を専門とする研究室で,パワー(動力)伝達をベースとしたシステム・モデル化手法であるボンドグラフ法に出会いました.パワー変数のアナロジーによりシステムをモデル化するこの手法は現実的であり,また機構を鮮明に意識しないと精確なモデルを構築できないので構造や機構をよく理解させてくれるものです.広範囲な分野にまたがるシステムをただ一通りの考え方でモデル化していくこの手法に,瞬く間にのめり込みました.モデルから導出される状態方程式はブロック線図によるモデルから導出されるものと同じものですが,信号伝達ではなくパワー伝達の立場からのモデル化は,機械(システム)の内部の機構から流れまでをも考慮した複雑モデルも構築可能であり,現実的問題解決にはうってつけの手法です.

  九州工業大学に赴任したのは37歳の時です.キャンパスは新しくても,最高学年は2年生という状態でしたので,研究室作りも一から始めました.それまでの研究一色状態から教育と言う大きな荷物を肩に担ぐこととなりました.この新しい環境の中で,アクチュエータ・システムや流体機械システムなど,流体が関係するシステムのモデル構築と動特性解析を実践する中で多くの実例や研究仲間に出会いました.システムのモデリング&シミュレーションは,ツール(ソフトウェア)により勝敗が決まる時代となって来ていますが,旧くは研究仲間でソフトウェア作成に勤しんで国際会議に持参するという怖いもの知らずの時代も懐かしく思い出されます.この中で,流体が関連するシステムのモデル構築が複雑であり実に興味深いことを常に感じています.

 これまで,良き協力者に恵まれ楽しい研究生活を送ることができました.また,素直で協力的かつ精力的な学生諸君のお陰で,積極的で明るい研究室に発展してきたことを実感するたびに,ともに歩んでくれた彼らに感謝の念を禁じ得ません.これからも,流体システムのモデリング&シミュレーションにより,流体系とシステム系を連結する役割を担いたいと思っています.改めて,ご指導,ご鞭撻頂きました皆様方に心から感謝の意を表したいと思います.このたびは本当に有難うございました.

部門賞


池田 敏彦(信州大学)

受賞理由:

 長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に多大な功績があった.特に,各種噴流現象の解明,可視化計測,環境負荷低減型小型水車の開発などにおいて顕著な業績を挙げた.

受賞のコメント:

 この度は,栄誉ある日本機械学会流体工学部門賞を受賞させて頂きましたこと,誠に光栄に存じます.これまで,ご指導頂いた恩師の先生方,ご推薦下さいました関係の皆様方に厚くお礼を申し上げます.

 卒業以来四十数年にわたり,信州大学で流体工学に関する研究と教育に携わってまいりました.このきっかけは,信州大学工学部修士課程の新設に伴って九州大学から赴任された恩師の(故)大路通雄先生との出会でした.この間,渦流崩壊現象,脈動噴流や脈動噴流など各種噴流現象の解明に関する研究を行ってきました.

  平成10年に新設された環境機能工学科への移籍は一つの転機でした.この頃から,地球温暖化防止は全世界的な課題でした.長野県は四つの平野(盆地)と北アルプスなどの高峰をかかえた地形で,水資源に恵まれています.さらに,3.11の東北地方太平洋沖地震および福島第一原子力発電所事故は,水力など再生可能エネルギーの利用拡大を図る動きを加速させました.ダムなどによる大規模集中型発電は建設適地の減少や環境問題等で新たな建設は困難な状況下にあります.そこで,農業用水路など各地に分散して存在する極小規模水力エネルギーの有効利用に注目しました.現在も,河川工事をほとんど必要とせず,身近にある小規模河川をそのまま利用し,流れに置くだけで発電する環境負荷低減型小型水車(エコ水車)の開発と普及に尽力しております.

 この受賞を励みに,少しでもエネルギーの安定した確保に貢献できることを夢見ながら努力して参りたいと思います.これまで,皆様方から多方面に渡りご支援頂きましたことを深く感謝申し上げます.

部門賞


李鹿 輝(山形大学)

受賞理由:

 長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に多大な功績があった.特に,ウェーブレット解析を用いた複雑流動現象の解明や省エネルギー空気輸送技術の開発などにおいて顕著な業績を挙げた.

受賞のコメント:

 この度は,名誉ある日本機械学会流体工学部門賞を賜り,大変光栄に存じます.まず,私を教育研究者の道に導いていただいた恩師の先生方,共に研究に取り組んで頂いた皆様方,推薦者ならびに関係各位に厚く御礼を申し上げます.

 流れのウェーブレット応用研究は1993年頃から始めました.当時,参考資料が少なく,数学理論は理解し難いものでした.また,流れのデータ(画像,速度,温度等)に適用する解析手法の開発はもう一つの難関でしたが,最も難しい問題はウェーブレット変換の結果から流れの本質現象を抽出・解析することでした.それから一年余りの努力を経て,研究成果の第一報はJSME Int. J. Ser. Bに論文として発表されることになりました.その後,複雑な乱流渦構造の抽出, PIV また流れ画像の解析,混相流の流動機構の分析などの幅広いウェーブレット応用研究を全力に進め,その成果は JFMやPhys. Rev. Eなどにも論文として掲載されました.これまでは可視化不可能であった流れの多重スケール構造を時間―空間―周波数の3次元面から定量的に解明することができました.現在,数値シミュレーションで得られた三次元速度分布を三次元ウェーブレット変換することにより,多重スケールの流れ構造を解析することに取り組んでいます.

 旋回流空気輸送に関する研究は私の博士学位論文の研究テーマでした.当時の恩師である富田侑嗣先生(九州工業大学)から頂いた数々のご指導・ご助言は,その後の省エネルギー空気輸送の研究にとって大きな励ましとなりました.空気輸送は非常に古い工業技術ですが,省エネルギー輸送技術の研究は今でも一つの重要な課題となっております.当時の私は空気輸送の粉粒体の運動特徴を分析することから,入口付近で粉粒体を速く加速するのは省エネルギー輸送の重要なポイントであることを見つけました.これに基づいて,粉粒体の入口付近において旋回流,デューン形状模型や自励振動のソフトフィンなどの装置を使用することにより,粉粒体は浮遊し加速しやすくなりました.結果として,空気輸送の圧力損失や輸送速度を低減することに成功しました.近年,粉粒体空気輸送のウェーブレット解析とPIV計測に取り組んで,低速輸送の粒子運動機構に関する基礎研究を続けております.一部分の研究成果はExp. Fluids,Int. J. Multiphase Flow,J. Fluids Eng.やChem. Eng. Sci.などに掲載れました.

 今後は,この受賞を励みに,世界高水準の研究レベルを意識しつつ,流体工学の研究に対してなお一層努力を続けると共に,分野融合研究への展開を図っていきたいと存じ私の受賞コメントとさせていただきます.

更新日:2012.12.26