第93期 (2015年度)流体工学部門 部門賞
部門賞
今尾 茂樹(岐阜大学)
受賞理由:
長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に多大な功績があった.特に,各種噴流の流動特性解明とその制御,添加剤による流動抵抗低減に関する研究において顕著な業績を挙げた.
受賞のコメント:
流体工学部門賞をいただき,光栄の至りと感じています.推薦をいただきました方々,これまでご指導ご鞭撻をいただきました先生方ならびに研究で関わった方々に心よりお礼申し上げます.
私が卒業研究で流体講座を選んだのは,まだまだ未知のことがありそうな分野だなという直感と指導教員の人柄からでした.その感覚は今なお続いています.
というのは,流れの研究を進めれば進めるほど色々な疑問が出てきて興味が尽きないこと,そして流体分野で関わった日本中いや世界中の研究者がどの方もいい印象の方々ばかりだからです.
私は最初,回転管内および二重管内の流動,特に層流-乱流遷移の実験的解明に取り組みました.そこでピトー管,差圧計,トルク計などの自作と各種計測法を利用した経験は,その後大いに役立ちました.抵抗低減流れの研究は,恩師の伊藤基之先生からお話をいただき,実際に添加剤でいとも簡単に抵抗が激減するのに驚きました.その添加剤による抵抗低減流れが回転管内で安定化した流れに類似していたことから,様々な角度から現象を捉えることの大切さを感じました.噴流に関する研究は岐阜大学へ移ってから始めましたが,所属先が噴流研究で歴史ある講座であったこととスタッフにも恵まれたお陰で,噴流の特性からその制御というさらに広い視野を得ることができました.
学会関係では,研究分科会,国際会議,EFDワークショップ,流れの夢コンテストなど大変多くの方々にお世話になりました.どの場面においても出会う方々がすばらしい方ばかりで,つくづく流体分野へ入ってよかったと実感しています.そんな思いを次世代へつなぎ,流体分野のさらなる発展のために微力を尽くしたいと考えています.今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます.
部門賞
齋藤 隆之(静岡大学)
受賞理由:
長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に多大な功績があった.特に,独自に開発した光ファイバープローブをはじめとする高度な光学計測による気液二相流現象の解明とその工学的応用において顕著な業績を挙げた.
受賞のコメント:
日本機械学会流体工学部門賞を戴くことができ、大変に光栄ですし、心から嬉しいと思っております.本当にありがとうございました.
私は、通商産業省 工業技術院 資源環境技術総合研究所(現 産業技術総合研究所)に在職中、深海底鉱物資源の揚鉱技術(固液二相流とエアリフトポンプ)の研究開発に携わりました.
静岡大学に転任後は、気泡と液滴を高精度計測するための光ファイバープローブの開発、レーザーを利用した混相流計測手法の開発ならびにこれらの計測手法を利用して気液二相流の素過程、気泡乱流の素過程を研究しております.さらに、これら素過程研究の成果を基盤に、ガスリフトを利用した二酸化炭素の深海固定システムの開発(地球温暖化対策)、オゾンガスによる高度廃水処理システムの開発(地域環境保全)を行っております.最近は『フェムト秒レーザーと超純水との相互作用』と『超音波と気体溶存水との相互作用』に着目し、時間領域における混相流現象(気体と成る前の電離状態から気泡が形成されるまでのフェムト秒からマイクロ秒に及ぶ流体物理)の研究に取り組んでいます.パルスレーザーと時間分解計測を駆使した実験に夢中になっております.混相流、レーザー、光ファイバーの組み合わせは奥が深く、次から次へと好奇心をそそる対象が現れます.
内外の良い研究仲間との議論(時には飲みながら)と彼らからの刺激を受けながら、雑用に追われる中で研究に没頭する時間を作って、繊細な実験と膨大なデータの解析と格闘する毎日です.本受賞を励みに、さらに困難な課題に挑戦して行きたいとの思いを強くしております.
多くの研究仲間に恵まれたことに深く感謝するとともに、日本機械学会のさらなる発展を心から祈念いたします.
部門賞
高見 敏弘(岡山理科大学)
受賞理由:
長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に多大な功績があった.特に,管路・ダクト内流れの流動抵抗や流動機構,噴流の拡散現象に関する研究において顕著な業績を挙げた.
受賞のコメント:
大学入学の1973年に遭遇したオイルショックとそれによって引き起こされた狂乱物価が契機となって、エネルギー分野の熱流体工学に強い関心を持つようになりました.最初のテーマ(電磁流体力学):電磁石間に置かれた二重管内の水銀流れの実験で、理論と実験が非常によく一致した感動が忘れられず、その後、熱交換器に関係する曲がり管内流れの研究を本格的に始めました.戦後1950年代の混乱困窮期の中、伊藤英覚先生(東北大学)、妹尾泰利先生(九州大学)の両先生が開拓した曲がり流路内の二次流れ研究を、少しでも前進させることに貢献できたのは今でも幸運だったと思っています.
また、つまらんことの多かった広島時代に、「おもしろきこともなき世におもしろく(すみなすものは心なりけり)」高杉晋作辞世で激励していただいた大坂英雄先生(山口大学)にも感謝申し上げます.
現在、修士時代と同じテーマ:管内の脈動乱流の研究を細々と続けています.管内流れは機械屋さんならではテーマで、大学の機械系流体屋さんが管内流れのテーマを最低1つでも扱うことを義務だと思っていただけると、日本機械学会論文が増やせるのではと思う次第です.
部門賞
萩原 良道(京都工芸繊維大学)
受賞理由:
長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に多大な功績があった.特に,混相流に関する実験と解析,高分子あるいは波状面による抵抗低減に関する研究において顕著な業績を挙げた.
受賞のコメント:
この度は、栄えある日本機械学会流体工学部門賞を賜り、誠に光栄に存じます。亡き恩師、ともに研究を推進してきた同僚と当時の院生諸君、ならびに本賞の推薦あるいは審査をしていただいた方々、皆様に厚く御礼申し上げます。
混相流については、京大院生時代の40年前に、鉛直管内空気・水環状噴霧二相流の実験を開始しました。気流乱流と液滴フラックスの同時測定を行い、液滴の乱流拡散を議論しました。また液膜厚さの測定を行い、界面波構造を議論しました。京大助手時代には、界面波のモデリング、そのモデルを含む環状流の数値シミュレーション、およびモデルを含まない液膜流の直接数値シミュレーションを行いました。また、液膜厚さの時間変化のカオス性を明らかにしました。京大助教授時代には、水平管内波状流の界面波と乱流気流の同時計測を行いました。21年前に京工繊大教授に赴任後は、少数の不溶性液滴を含む水乱流の計測と直接数値シミュレーション、固体粒子を含む乱流水流の計測と直接数値シミュレーション、および微細気泡を含む固体面近傍層流水流の計測を行い、新たな知見を得ました。
抵抗低減については、20年前に混相流の数値シミュレーションの応用として、多数のビーズ、バネ、およびダッシュポットを組み合わせたモデルにより絡まった高分子を模擬し、この高分子の水溶液を壁面のスロットから緩和層に流入させたチャネル乱流水流の数値シミュレーションと実験を始めました。このモデルを改良して皮膚の小片を模擬し、この小片のはがれを伴うイルカの表皮のしわに沿う乱流水流の数値シミュレーションを行い、抵抗低減につながる整構造の変形を予測しました。このモデルをさらに改良して多糖を模擬し、多糖を伴う大型海藻の波状に変形する葉状体周りの海水流のシミュレーションを行い、摩擦抵抗低減を明らかにしました。最近、モデルを含まない波状壁間のチャネル乱流のシミュレーションを実行し、摩擦抵抗低減と熱伝達促進を得ました。また、壁面における流体のすべりを与えることによって、この低減と促進がより著しくなることを示しました。
様々な理由により、他の熱伝達の研究も含めて、多くの研究を行いました。その経験の蓄積は、研究上の新たなアイデアの原動力になります。本賞は、より一層流体工学分野の発展に寄与するようにとの激励と拝察します。これらの原動力と激励を糧に、今後も精一杯前進していきますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
部門賞
福西 祐(東北大学)
受賞理由:
長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に多大な功績があった.特に,境界層の乱流遷移とその制御,アクチュエータを用いた空力音の制御等において顕著な業績を挙げた.また,部門長として流体工学部門の発展に多大なる貢献をした.
受賞のコメント:
この度は,流体工学部門賞という大変名誉な賞を賜り,誠に光栄に存じます.これまで私を教育・研究の道に導いて下さった恩師,学会・研究会等を通じてさまざまなご指導をいただき,議論の相手を勤めて下さった諸先生方,並びに研究推進に多大な協力をしてくれた同僚や多くの教え子たちに心より感謝申し上げます.また,ご推薦下さいました皆様方に厚く御礼申し上げます.
私は,昭和52年(1977年)に東京大学工学部航空学科を卒業し,東京大学宇宙航空研究所の佐藤 浩先生の研究室に入り,大学院5年間と研究生としての2年間を佐藤研で過ごしました.当時の佐藤研は大学院生の数と同じくらいの数の風洞があるという恵まれた環境でした.研究室に入ってまもなく,先輩に当たる斎藤博之助さんが古いテレビを分解して何かやっておられる場面に遭遇しました.「何をやっているのですか?」とお聞きすると,「いや,テレビが捨ててあったからオシロスコープに改造しているんですよ」と何食わぬ顔でおっしゃられ,衝撃を受けたものでしたが,ほどなくして研究室にあるほとんどの測定器が手作りであることを知ることになりました.欲しい測定器のカタログを佐藤 浩先生の所へ持って行って見せると,「なるほどこれは便利そうだ.でも,これくらい作れないことはないだろう.どうだ?」と返され,闘争心に火を付けられて自分で作ってしまう,ということが何度もありました.最後には当時発売されたばかりの16ビットCPUを秋葉原で買ってきて計測用のコンピューターまで自作しました.PC98などが発売される前の話です.当時私は乱流境界層中の組織的構造に関する実験を行っていたため,オンラインで条件付抽出アンサンブル平均処理ができることは大いに役立ちました.しかしそれよりも,大学院で身についた「その気になれば何でも作れる」という自信は何よりの財産となりました.
私の時代と比べて今の若い人たちは早急な結果を求められていて本当に気の毒に思います.動作原理をちゃんと把握することなく計測器を使っていたりすることが当たり前になってしまいました.さらに雑用が増え,じっくりと物事を考える時間が取れないように見えます.我々にも責任の一端があるのですが,少しずつでも改善されることを望みます.
最後になりましたが,今回の受賞を機に流体工学部門の皆様のお役に少しでも立てるよう一層努めて参りたいと考えております.また,受賞を励みに研究にもさらに精進し,流体工学の発展に少しでも貢献できたらと思います.