部門賞

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第98期 (2020年度)流体工学部門 部門賞

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部門賞


鳴海 敬倫(新潟大学)

受賞理由

 長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に顕著な功績を収めた.特に,複雑流体の流動のミクロ構造からの解析方法を開拓し複雑流体の研究において卓越した業績を挙げた.また,複雑流体研究会の主査を務め,年次大会OSを長年継続して企画するなど流体工学部門の活性化に多大なる貢献をした.

受賞のコメント

 この度は,栄えある日本機械学会流体工学部門賞を賜り,誠に光栄に存じます.ご推薦くださいました皆様ならびにご関係の皆様に衷心より御礼申し上げます.この賞をいただけたことは,研究面ではご指導いただきました長谷川富市先生はじめ諸先輩方,また,議論を重ねて研究を高めてくださいました同じ分野の先生方のおかげであり,心から感謝申し上げます.もちろん,研究を一緒に遂行してくださった研究室の皆様のご協力がなければ成果に至らなかったことは自明であり,ご関係諸氏とともに喜びたいと思います.
 学生のころ,長谷川富市先生の指導の下で高分子溶液の流動に関する研究を始めて,複雑流体の示す特異な挙動の不思議さに興味を持ちました.この種の流体の工学的応用を目指すと共に,その特異性の発現のメカニズムを理解したいという思いも強く,今日まで同じ分野で研究を行ってまいりました.高分子溶液のスクイーズ流れに始まり,液晶などの機能性流体による流動制御,最近では分散系流体の非定常流れでの特異挙動などを研究してまいりましたが,レオロジーに係る他分野の皆様との共同研究や意見交換から,特に複雑流体の場合はマクロな物性によるメカニズムとしてでは現象の理解は難しく,ミクロな構造変化などを考慮に入れた検討の必要性を感じております.従いまして,この複雑流体の分野は多角的な視点からの議論が必要で,その意味でも,この分野はいまだ研究途上にあり,様々な議論が必要と思っております.そのようなこの分野の活性化を,当時大阪大学の森教安先生,高知工科大学の蝶野成臣先生他の先生方と議論し協働して,本部門に複雑流体研究会を設置し,議論する場ができたことは,一つの喜びでした.
 ぜひ,これからの皆様がこの分野の活性化をさらに進めていただければ幸いと思っております.私も微力ながら,皆様の研究の発展に寄与できればと思っております.
 終わりになりしたが,もちろん複雑流体分野だけでなく,流体工学部門のますますのご隆盛を祈念しするとともに,改めまして感謝と御礼を申し上げたいと存じます.

部門賞


河合 理文(IHI)

受賞理由

 長年にわたり流体工学分野の研究開発に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に顕著な功績を収めた.特に,CFDおよび空力設計の分野で多数の卓越した業績を挙げた.また,第92期流体工学部門長を務めるなど,流体工学部門の活動に積極的に参画し,流体工学部門の活性化に多大なる貢献をした.

受賞のコメント

 このたびは部門賞という栄誉ある賞をいただき,望外の喜びです.私のような企業の技術者には身に余るもので感謝にたえません。
 私は1983年にIHIの技術研究所に配属されました。ちょうどCFDとスーパーコンピュータの黎明期で、1984年にFACOM VP-100の1号機が名古屋大学で稼働し、1987 年には第1回数値流体力学シンポジウムが開催されました。このころはCFD プログラムを各社で独自に研究開発しており、私もソルバーのベクトル化(IHIもVP-50を導入)やいちいちプログラムを書いての計算格子生成などに励んでいました。しかし徐々に研究開発よりも、その技術を具体的な機器に適用して課題を解決することに興味とやりがいを感じるようになりました。総合重工ですので、陸海空、μm単位の軸受隙間から巨大プラントまで、実にバラエティに富んだ機器・製品・流れにかかわって今に至っています。
 縁あって機械学会流体工学部門に出没するようになり、講演会などにもかかわるようになりましたが、これら「その他の流れ」をまとめて扱う場がないと感じました。そこで「産業応用」「産業機器」といったキーワードでOSを企画したりしました。残念ながら結果ははかばかしくなく、肝腎の企業からの発表は少数のままです。それでも産業応用的なセッションはある程度定着したように思われます。
 学会活動もせっかく呼ばれたのだからといろいろな役目を仰せつかって取り組みました。多くの企業人に参加してもらうよう呼び掛けてきたつもりです。
 流体工学への貢献は見るべきものがありませんが、これらの活動が認められての部門賞だろうと考えています。あらためてありがとうございました。
 さて、この2020年度に表彰される者としては、いわゆるコロナ禍について触れないわけにはいかないでしょう。学会の行事・会議はあっという間にWebのみになりました。しかしやはり、学会行事の魅力は生の人と人による質問、ディスカッション、そして語り合いです。私の部門活動の中でも、講習会を開催した名古屋での気鋭の先生方+事務局との居酒屋、AJK2015でソウルのホールの地下食堂で重鎮の先生方と熱く語ったことが思い出されます。完全に元には戻らないにしても、来年の部門講演会ではみんなで集まってリアルな交流ができることを祈っています。

部門賞


山本 誠(東京理科大学)

受賞理由

 長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に顕著な功績を収めた.特に,数値流体工学の分野で多数の卓越した業績を挙げた.また,第94期流体工学部門長を務めるなど,流体工学部門の活動に積極的に参画し,流体工学部門の活性化に多大なる貢献をした.

受賞のコメント

 この度は、流体工学部門賞という大変名誉な賞をいただき、誠にありがとうございました。大学院修士課程で数値流体工学の研究に携わってから40年も経ったかと思うと、本当に感慨深いものがあります。ここまで研究を続けてこられたのは、親身にご指導いただいた東京大学の田古里哲夫先生、荒川忠一先生、東京理科大学の酒井俊道先生、本阿弥眞治先生を始めとして、年齢を問わず数多くの先生方や企業の方々からのご支援・ご協力があったからこそだと思います。また、研究室の円滑な運営に尽力してくれた助手・助教の方々、文句も言わず研究に邁進して多くの成果を上げてくれた研究室の卒業生・現役生の皆さんにも、心から感謝したいと思います。
 私が数値流体工学の研究を始めた1980年頃は参考にできる書籍や論文がほとんどなく、四苦八苦しながら手探りでプログラムを開発していました。今振り返ってみると2次元の単純なプログラムでしたが、まともな解が得られた時の喜びは昨日のことのように覚えています。LESやDNSの利用が当たり前になった現在の数値流体工学と比べると、本当に隔世の感があります。1990年代後半からは、誰も研究していない(少なくとも日本では)テーマへの展開を図り、熱流体が関係したマルチフィジックス現象の数値計算に取り組みました。ジェットエンジン内で発生する着氷、粒子付着、サンドエロージョンといったマルチフィジックス現象の数値計算は、現在でも私の研究室の主要研究テーマになっています。2010年頃からは、数値流体工学を医療に応用し、脳動脈瘤の診断(破裂予測)、手術効果の術前予測といった医師の支援を目的とした研究にも着手しています。いずれの研究も未解決の課題が数多く残されており、私の定年までに解決できるとは全く思えません。将来、若い人達がこういった未解決の課題に挑戦して行ってもらえれば望外の幸せです。
 最後に、流体工学の未来を担っていただける若い人達の更なる活躍を祈念して、私からのお礼の言葉に代えさせていただきます。ありがとうございました。

部門賞


河原 源太(大阪大学)

受賞理由

 長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に顕著な功績を収めた.特に,乱流や乱流制御の分野において多数の卓越した業績を挙げた.また,流体工学部門の活動に積極的に参画し,流体工学部門の活性化に多大なる貢献をした.

受賞のコメント

 この度は,栄えある流体工学部門賞を賜り,誠にありがとうございました.ご推薦,ご選考に関わられた関係各位に厚く御礼申し上げます.また,これまでお世話になった先生方,共同研究者の皆さん,さらには研究室の学生諸君に深く感謝致します.
 学生時代を過ごした1980年代は,カオスやフラクタルといった従来とは異なる乱流の見方が広く知られるようになり,他方では直接数値シミュレーションや粒子画像流速計によって乱流の空間構造を捉えることが可能となった時期でした.大阪大学大学院基礎工学研究科を修了し,乱流研究に取り組み始めた1980年代末には,それまで予想もしなかった乱流研究の新たな展開が期待されていました.基礎工学の実践を目指していた私にとって,乱流の問題は工学的に重要であると同時に,物理学や数学の対象としても未解明であり,さらには大きな研究の進展が予感され,何よりも魅力的な課題でした.
 当時特に影響を受けた乱流に関する解説が2つあります.その1つは,1987年のCTR夏季プログラムの論文集に掲載されたJavier Jiménez先生による論文「Coherent structures and dynamical systems」です.この解説では,非線形力学系の低次元多様体による秩序構造の記述が示唆されています.もう1つは,1989年の「数理科学」5月号に掲載された山田道夫先生,大木谷耕司先生による解説「乱流とカオス」です.この解説では,少数自由度の非線形散逸力学系におけるカオスと乱流との接点が議論されています.これらの解説を勉強して以来,現在に至るまで乱流の本質を非線形散逸力学系における単純不変集合(周期軌道や固定点)によって捉える研究に取り組んできました.
 力学系理論に基づくアプローチは,現象が低レイノルズ数で発生する乱流遷移の問題にはうまく適用することができ,流体力学上の重要課題である円管流,平面クエット流,平面ポアズイユ流における亜臨界乱流遷移の解明が世界各国の研究者の努力により近年大きく進展しました.しかし,力学系理論に基づく試みは,現状では低レイノルズ数に限定されているため,十分発達した乱流の本質の理解は遅々として進んでいません.定年退職までの残された研究期間を力学系理論に基づく発達乱流の研究に是非充てたいと考えています.
 未解決の難問といわれる乱流ですが,力学系アプローチの進展によって従来想像もしなかった新たな研究の展開が今後も期待されます.多くの若い方々が乱流研究に参画されることを切に望んでいます.

部門賞


川野 聡恭(大阪大学)

受賞理由

 長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に顕著な功績を収めた.特に,液晶の流動挙動を詳細に明らかにし,それを利用したマイクロアクチュエータの開発など顕著な業績を挙げた.また,流体工学部門の活動に積極的に参画し,流体工学部門の活性化に多大なる貢献をした.

受賞のコメント

 この度は,流体工学部門賞を賜り,身に余る光栄に存じます.ご推薦頂いた先生方,関係者の皆様,これまでご指導下さった先生方,ならびに,研究室のスタッフ・卒業生の皆様に厚く御礼申し上げます.
 ナヴィエ・ストークス方程式に基づく流体力学理論のみでは取り扱いが困難であったマイクロ・ナノ混相流,イオン電流,非平衡気体流,生体流等の機能性を理論と実験の両面から探求しています.特に,電子,イオン,原子,分子,荷電微粒子の流動(集団挙動と統計)および物性(電子ダイナミクスと化学反応)を統合的に究明し,分子流動場の新機能発現や利導に繋げる学術分野の開拓を目指しております.最近では,従来の流体力学体系への「熱揺動と大偏差原理」「電気泳動,熱泳動および光圧」そして「機械学習によるナノ粒子流動制御」に関する知識と技術の高次融合を推進し,対電極群が付加されたNanofluidicデバイスによる一分子識別技術を世界に先駆けて開発することに注力しています.分子流動科学における学術深化の先導と直接的な社会貢献に資するよう,粉骨砕身の努力をしてまいる所存にございますので,今後とも,ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします.

更新日:2020.11.30