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第98期 (2020年度)流体工学部門 一般表彰(フロンティア表彰)

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一般表彰(フロンティア表彰)


竹内 伸太郎(大阪大学)

受賞理由

 固体間流路に対し,レイノルズ潤滑方程式で求まる圧力勾配と壁面速度で駆動されるクエット・ポアゼイユ流れの空間発達に帰着されるエレガントな潤滑解法を構築し,非狭隘領域へ拡張可能な新しい潤滑理論を開拓した.

受賞のコメント

 このたびは流体工学部門一般表彰(フロンティア表彰)をいただき、身に余る光栄です。いつも議論につきあってくださる共同研究者や同僚、ともに研究に取り組んできた学生諸氏のご支援や激励あっての受賞であると存じ、深く感謝いたしております。
 受賞対象の研究は、レイノルズ潤滑方程式の適用範囲拡張に関するもので、同方程式で求まるクエット・ポアゼイユ速度分布の空間発達が、潤滑圧力の高次解に関連することを示したものです。この研究は10年ほど前に大学院生と、非球形粒子を含む流れの中で粒子間衝突時の潤滑を解像する数値解法は可能だろうか、というディスカッションをしたときに始まりました。球形粒子については、粒子レイノルズ数が低い場合に粒子が受ける力を粒子間距離に依らずに表現する方法が、つい最近 発表されました(Goddard, Mills-Williams & Sun, Phys. Fluids, 2020)。私が示したのは、非球形の物体に対して比較的広い隙間の場合に潤滑圧をシンプルに求める方法です。研究室内でのディスカッションから時間は経ちまだ道半ばですが、潤滑が関わる複雑な流れの新しい解析技術に対する期待はますます高まっています。今回の受賞を励みに、より深く考え、流体工学の発展に尽力して参りたいと考えております。
 最後になりましたが、谷京晨博士(現・Hitz日立造船株式会社)、深田利昭博士(電力中央研究所)、田川義之先生(東京農工大)、大西領先生(現・東京工業大学)、R. Mills-Williams博士とJ. Sun先生(University of Edinburgh)、梶島岳夫先生(大阪大学)とは議論をとおして貴重な意見をいただきました。この場を借りて深くお礼申し上げます。

一般表彰(フロンティア表彰)


徳増 崇(東北大学)

受賞理由

 分子スケールの流動現象の数値シミュレーションを次世代電池の技術開発に応用するなど,流体工学分野において先駆的・先導的な役割を果たしてきた.

受賞のコメント

 この度は、日本機械学会流体工学部門一般表彰(フロンティア表彰)を賜り、誠に光栄に存じます。このような栄えある賞をいただき、身の引き締まる思いでおります。ご推薦くださった先生方をはじめ、選考関係者の皆様に深く御礼申し上げます。
 私が携わっております「燃料電池」を対象とした研究は、一昔前はもっぱら化学工学の分野で行われてきました。研究内容も「電池」である以上、化学反応をベースとした研究が主であり、「機械工学」の分野としてはあまりなじみがなかったと思います。しかしながら、燃料電池はデバイス内に水素と酸素を供給し続けて発電を行う装置であるため、電池内部の「流れ(物質輸送)」が発電効率に大きく影響すること、また、燃料電池内部の構造はナノスケールのオーダーであり、通常の連続体理論による解析では正確な挙動が把握できないことがわかってきました。これはまさに機械工学、ひいては流体工学が得意とする「分子流体工学」の分野であり、私はそのような議論が出始めた2005年頃から、受賞理由となっております分子スケールのシミュレーションを用いて、燃料電池を構成する様々な部材内部の反応物質(プロトン、酸素)や生成物質(水)の輸送現象の解明を行って参りました。これらの研究は徐々に産業界にも注目され、気がつけば10年以上もの長きにわたってNEDOプロジェクトに参画し、企業と共同で次世代の燃料電池開発を行っております。しかしながら、燃料電池の内部で生じる流動現象はナノスケールからミクロスケールのオーダーまで多岐にわたっており、現在の手法では十分に解析できない現象も多数存在します。現在では、従来の分子シミュレーションよりも規模の大きい現象を取り扱う手法の構築について研究を進めているところです。
 今回の受賞を励みに、より一層の研究を重ね、日本の流体工学やエネルギー産業を発展させる一助になるよう今後も尽力して参りたいと思います。また、最後になりましたが、本受賞の対象となる研究は、多数の方々のご協力により達成されたものです。研究を遂行するにあたって多大な貢献をいただきました研究室のメンバーやスタッフの方々に、厚くお礼申し上げます。

一般表彰(フロンティア表彰)


黒瀬 良一(京都大学)

受賞理由

乱流場における粒子運動や気液界面における輸送機構の解明,ミクロスケールの熱流体現象機構の解明など数値解析技術および計測技術の開発において先駆的,先導的な役割を果たしてきた.

受賞のコメント

 この度は、日本機械学会 流体工学部門 フロンティア表彰という名誉ある賞をいただき誠に有難うございます。思い返せば、学部4年生の時に配属された研究室で流体の研究を始めてから早30年近くが経ちました。当時はこんなに長く流体に携わることになろうとは想像だにしていませんでしたが、恩師の先生方や先輩、後輩、同僚、共同研究者、そして学生諸子に恵まれ、楽しく研究を続けることができました。皆様に心から感謝いたします。流体に関する研究の進展には、計測技術や計算機の進歩が強く関係します。個人的には、それらの進歩によって探求心や興味が定期的に刺激され、新たな課題にチャレンジするエネルギーをもらっているような気がしています。しかし、そのような計測技術や計算機の進歩にある程度は頼りつつも、世界の研究者の誰もチャレンジしていない、できない、思いもつかないような、わずかでもオリジナリティーのある成果を出したいとの思いで研究を続けてきました。その意味では、この賞に選出いただいたことは、今後の研究を進めていく上でも大変励みになります。今後も常にオリジナリティーにこだわりつつ、研究に邁進していきたいと思っております。また、流体力学に関連する分野の発展に少しでも貢献すべく、研究と教育の両面から真摯に取り組んでいく所存です。

更新日:2020.11.30