第99期 (2021年度)流体工学部門 部門賞
部門賞
飯田 明由(豊橋技術科学大学)
受賞理由
長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,流体工学の発展に顕著な功績を収めた.特に,空力音響に関する分野で多数の卓越した業績を挙げた.また,流体工学部門の活動に積極的に参画し,流体工学部門の活性化に多大なる貢献をした.
受賞のコメント
この度は、流体工学部門賞という大変名誉な賞をいただき、誠に光栄に存じます。ご推薦,ご選考に関わられた関係各位に厚く御礼申し上げます。また,研究を進めるにあたり多くの先生方,企業の研究者の方々,研究室の学生諸君に支援をいただきました.ここに深く感謝いたします.特に,大学院で乱流計測,風洞実験の基礎を教えてくださった蒔田秀治先生,数値解析,空力音響学についてご指導くださった東大生研 加藤千幸先生,空力音の研究の面白さを教えてくださった日本大学 故藤田肇先生,自動車空力に関する研究を指導してくださった神戸大学 坪倉誠先生,研究の進め方や悩み事について相談に乗っていただいた九州大学 速水洋先生,音響工学の基礎を教えてくださった京都大学 高野靖先生には大変お世話になりました.また,横山博史先生,吉永司先生と一緒に研究できたことで研究を推進することができたことに感謝いたします.
私が研究している空力騒音は,流体力学の中ではニッチな分野であり,研究者が多い分野ではありませんが,企業における製品開発では問題となることが多いため,応用分野での研究が盛んな分野です.私自身の研究も新幹線のパンタグラフ騒音の低減からスタートしました.始めた当時はあまり意識していませんでしたが,空力音は流れ,音,振動のマルチフィジックス問題であり,複数の物理量を同時に計測することの難しさや面白さがありました.流れと音を同時に測るため,低騒音風洞の開発,マイクアレイの試作と新幹線騒音計測,渦度プローブの開発などを行いました.渦度が測れなくて困っていたとき,北海道工業大学の豊田国昭先生に渦度プローブを教えていただき,渦度プローブを用いた空力音源計測で機械学会論文賞を受賞することができました.学会での人のつながりを大変ありがたく思いました.日立在籍時に流れに起因する新幹線の車内騒音の予測に挑戦しました.このときは,室内音が200dBを超えるという全く無意味な計算しかできませんでしたが,その後,東大加藤先生,吉村忍先生と「京」コンピュータのプロジェクトで,同様な計算を行い,流れに起因する自動車車内の騒音が予測できることを確認しました.25年くらい同じような研究を地道に続けてよかったと思います.私自身の研究は応用よりですが,流体計測の基礎部分は,コロナ禍における飛沫計測やマスク計測にも役立ちました.若い研究者の方々が,流体の応用範囲の広さを活かして,様々な分野,未知の分野で活躍することを祈念して、私からのお礼の言葉に代えさせていただきます。ありがとうございました。
部門賞
大林 茂(東北大学)
受賞理由
長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,流体工学の発展に顕著な功績を収めた.特に,CFDとその応用としての多目的設計探査,データ同化の研究などで多数の卓越した業績を挙げた.
受賞のコメント
この度は流体工学部門賞という大変名誉な賞を賜り,大変光栄に存じます.親身にご指導いただいた恩師の先生方,さまざまな機会に議論をさせて頂いた先輩や同僚の研究者の皆様,ご支援を頂いた大学や研究所のスタッフの皆様,一緒に研究を進めてきた研究室のメンバーに心より感謝申し上げます.
僕が大学院時代を過ごした1980年代は,スーパーコンピュータが世に出て,数値流体力学が大きな脚光を浴びた時代でした.大学院では当時の航空宇宙技術研究所に導入されたFujitsu VP400,渡米後のNASA Ames研究所では,Cray XMP,2,YMP,C90の4機種を利用し,帰国して東北大学に採用になってからは,航空宇宙技術研究所のNWT,東北大学大型計算機センターや流体科学研究所のNEC SXシリーズ,SGIのスパコン等を利用させていただきました.研究対象としては,大学院では3次元圧縮性Navier-Stokes方程式のシミュレーションコードの開発に取り組み,NASA Ames研究所ではスペースシャトル周りの流れの計算や空力弾性問題のシミュレーションに取り組みました.帰国直前にAmesのカフェテリアで,友人の台湾出身の研究者とランチのおりに,
僕:帰国したら最適化の研究でもやるかな
友人:台湾の友人から頼まれて,Stanford BookstoreでGenetic Algorithmの本を買って送ってやったんだけど,最適化の新しい手法らしい
僕:へぇー,じゃ僕も買ってみよう
という会話をきっかけに,帰国後はGenetic Algorithm(遺伝的アルゴリズム,進化計算法の一つ)を利用して空力最適化問題に取り組み,その成果は多目的設計探査として家電製品から航空機まで適用していただけるようになりました.また,教授昇任と同時に新設された流体融合研究センターに配置され,同センターの早瀬敏幸先生の計測融合シミュレーションを通じて,気象分野で発展したデータ同化の研究にも取り組むことになりました.データ同化は,今後社会で必要とされるデジタルツインの構築に向けて,ますます重要度が増すと考えています.これまでの研究を振り返ると,自分の専門分野を深掘りするだけでなく,他分野の知識を積極的に取り組むことも重要だと感じています.
最後になりましたが,本賞にご推薦くださいました皆様に厚く御礼申し上げますとともに,流体工学部門のますますのご発展をお祈り申し上げます.
部門賞
小尾 晋之介(慶應義塾大学)
受賞理由
長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,流体工学の発展に顕著な功績を収めた.特に,乱流現象を中心とした流体運動に関する分野で多数の卓越した業績を挙げた.また,第95期流体工学部門長を務めるなど,流体工学部門の活動に積極的に参画し,流体工学部門の活性化に多大なる貢献をした.
受賞のコメント
この度は思いがけず部門からの表彰を賜り,ご関係の方々のご配慮に厚く感謝申し上げます.
私が日本機械学会に入会したのは1983年で,学部卒業直前か大学院入学のタイミングでした.慶應義塾大学の前田昌信先生と菱田公一先生の研究室で固気混相乱流の対流伝熱という,後から思うととんでもなく複雑な問題に卒業研究で触れたことが,研究活動への入口でした.前田先生のお取り計らいで西独・エアランゲン大学のDurst教授の研究所に留学し,LDVなどの実験技術を学ぶ傍ら,研究所の数値解析グループから乱流CFDの基礎を習いました.いったん帰国し修士課程を終えて再渡独したときは,レイノルズ応力方程式モデルによる複雑乱流の数値解析をテーマに据え,日本では文献でしかお名前を見ることがないような著名な研究者達ともたびたび議論をする機会がありました.当時は複雑乱流に関するスタンフォード会議(1980年開催)の余韻が残る一方,低Re数のチャネル乱流LESがそれまでの実験では得られなかった乱流統計量を提供し始めたころで,乱流モデルの再構築と,複雑乱流への応用が盛んに研究されていました.また,欧州の研究者の間ではベンチマークを用いた乱流モデルの検証が協同的かつ継続的に行われ,そのような場で自分の計算結果が他の研究者の結果とともに一枚のグラフにプロットされ比較されることにわくわくしました.
ありがたいことに学位取得のタイミングで母校に就職が決まり,有賀一郎先生と益田重明先生のグループで流体機械に近い分野に関わることになりました.それから30年が過ぎましたが,この間の活動が今回の受賞理由である「乱流現象を中心とした流体運動に関する分野」の業績として評価頂けたわけで,研究室で一緒に努力したメンバーに改めて深く感謝します.この間,いくつかの実験結果を前述の欧州の研究グループにテストケースとして提供し,現地でその詳細を説明するといった活動もしました.学会は本来そのような協同作業の場としてもっと活用すべきだろうとも思います.
部門長を仰せつかったときに部門講演会をポスター形式にするというかなり大胆な変更を提案したのは,議論の活性化に資するだろうという期待がありました.新型コロナ感染症の拡大でそれもオンライン講演会へと姿を変えましたが,学会が今後も研究者の交流を促し,流体工学分野の研究がおおいに進展することに期待いたします.
部門賞
能見 基彦(荏原製作所)
受賞理由
長年にわたり流体工学分野の研究開発に従事し,流体工学の発展に顕著な功績を収めた.特に,流体機械・ターボ機械やキャビテーションに関する分野で多数の卓越した業績を挙げた.また,第96期流体工学部門長を務めるなど,流体工学部門の活動に積極的に参画し,流体工学部門の活性化に多大なる貢献をした.
受賞のコメント
この度は、大変、栄誉ある賞を頂戴することになり、ご推薦いただきました、流体工学部門の関係各位に深く、御礼申し上げます。
私の流体工学部門との関りは、1999年に、当時、技術委員長の松本洋一郎先生が主催の会議で、辻本良信先生が主査をお勤めの講演会WGに配属となり、種々のお仕事のお手伝いを始めたところから出発しました。当時は、大勢の御高名な先生の中に、自分のような若輩者が混じっていて良いのだろうかと、とまどったものでした。その後、ご依頼のお仕事を、あまり断らなかったこと以外、あまり部門に貢献できなかったにもかかわらず、思いがけず、部門長の要職にご推挙いただきました。当時、前任の小尾晋之介先生が構想された、部門講演会の平日開催と全発表ポスターセッションという大きなパラダイムチェンジにどう取り組むか、部門の要職の皆さまと種々の検討を行いましたが、幹事校となりました室蘭工業大学の関係各位のご尽力が実り、大成功となったのは、流体工学部門における私の最高の思い出です。
一方、所属する荏原製作所の業務では、ポンプ内部流れのCFDや、マイクロ流体の基礎的な実験、流体抵抗低減など、さまざまなテーマを手がけましたが、中でもキャビテーションに関しては、CFDモデルの改良や、サージングのモデル化、壊食の予測など、比較的、じっくり取り組むことができました。ここにも、東北大学の井小萩利明先生を初め、多くの先生方から、長年にわたり多くの御指導、御鞭撻を頂戴できたからこその道のりであったと思います。また、どちらに飛んでいくか分からない私の平均自由行程を、温かく見守っていただいた、荏原製作所の後藤彰技監ほか、関係各位にも深く感謝いたします。
私の流体工学の研究の核には、早稲田大学においてシステムダイナミクスの視点、管内一次元流の特性曲線法解析、そして論理の通った論文の書き方を学習したことがあります。熱心なご指導で、今の私を形作っていただいた機械工学科・産業数学コースの山本勝弘名誉教授には、熱く御礼を申し上げたいと思います。
偶然か必然かは不明ですが、人との出会いが、人生では、やはり重要だと思います。そこから、多くの皆さまに支えられて、小さなことでも成し遂げられた時の喜びは格別です。これからも、多くの皆さまに支えられていくことと存じますが、今では年長となった者の務めとして、少しでも、若い皆さまの力に成るところがあればと考えます。以上を持ちまして受賞御礼の言葉と致したいと存じます。