第100期 (2022年度)流体工学部門 部門賞
部門賞
伊藤 慎一郎(工学院大学)
受賞理由
長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,その発展に顕著な功績を収めた.特に,生物流体/スポーツ流体に関する業績が顕著であり,流体工学部門の活動に積極的に参画し,その活性化に多大なる貢献をした.
受賞のコメント
この度は思いがけず部門からの表彰を賜り,ご関係の方々のご配慮に厚く感謝申し上げます.私の人生は紆余曲折で,まさに論語の通りの人生を送っています.進学校の中学時代は,本当のどん底まで落ちました.中高一貫で高校にはなんとか進学できましたが,小学校時代の夢「科学者になる」は一体何だったのか?何のためにこの進学校に入学したのかを自問自答し,(子曰わく,吾十有五にして学に志し,)短期間で総復習し,追いつき,追い越し,本来の進学校入学の目的を果たすことができました.そのどん底時代の中学の頃の心の支えは生き物でした,猿・ゴリラの研究にあこがれ,コンラートローレンツの動物行動学に夢中になった時期がありました.数学と物理にひかれて機械工学科に進学して流体力学の世界を知りました.大学院時代に東大航空学科の東昭先生の生き物の流体力学の授業を聞き,興味は持ちましたが,自分からその世界に飛び込むことはありませんでした.修士卒業後,一度は企業に就職しましたが,大学に出戻り,防衛大で教職を得ました(三十にして立ち). 40歳の手前で研究内容に行き詰まり,自分の好きなもの,生き物と流体力学を一緒にやろう決意しました(四十にして惑わず).全てを捨てて生物流体を始めました.ちょうどその頃,同好の志が集まってアクアバイオメカニズム研究会(現エアロ・アクアバイオメカニズム学会)を発足させ,お互いに切磋琢磨できました.教育面においては,自分自身の経験とファインマン物理の感動から,学生達に分かりやすく興味のある流体力学の新たな授業展開を模索し始めた52歳(五十にして天命を知り)の時,機械学会流体工学基礎講座の講師の声がかかりました.スッポンと亀の泳ぎ方を人間に当てはめてスポーツ流体工学(水泳理論)を始めたのは46歳のことです.スイマーの泳ぎを流体力学的に見ると,水泳コーチがびっくりするほどの鋭い指摘ができて自信になりました.さらにボール等のスポーツ用具,運動解析も発展しスポーツ流体という分野を構築しました.人の忠告を素直に受ける「六十にして耳順い,」の域にはまだまだ達していませんが,そうでありたいと思います.今は66歳,もうすぐ「七十にして心の欲する所に従へども矩を踰えず」の年を迎えようとしています.開講している流体力学基礎講座も毎年微修正しております.さらに流体力学をかみ砕いて初学の士に分かりやすく伝えようと思います.今後の学会の流体工学分野の部門活動と新たな研究が大いに進展することを期待いたします.
部門賞
内山 知実(名古屋大学)
受賞理由
長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,その発展に顕著な功績を収めた.特に,混相流,流体機械,渦法に関する業績が顕著であり,流体工学部門の活動に積極的に参画し,その活性化に多大なる貢献をした.
受賞のコメント
この度は,大変栄誉ある流体工学部門賞を賜りましたことに,心より感謝申し上げます.ご推薦・ご選考いただきました,ご関係の皆様に篤く御礼申し上げます.また,これまでお世話になりました恩師の先生方,および様々な場面で研究をご支援いただきました学内外の皆様に感謝申し上げます.
流体工学への私の関りは,名古屋大学において菊山功嗣先生のご指導のもと取り組んだ,ターボポンプの羽根入口におけるキャビテーションの発生機構の解明に関する,卒業研究に始まります.現在名古屋工業大学教授の長谷川豊先生が当時大学院学生であり,実験遂行にあたり,懇切丁寧なご指導をいただきました.回転する羽根車の入口に三孔ピトー管を挿入し,得られる差圧ヘッドをメカニカルシールを介して静止系に取り出し,速度を測定しました.羽根車入口の速度分布および羽根面上の圧力分布とキャビテーションの発生との関係を調べました.当時4年生であった私は,実験の方法ばかりでなく,辛抱強く研究に取り組む姿勢など,大変多くのことを学ぶことができ,後々まで貴重な財産となりました.その後,名古屋大学の峯村吉泰先生のもとで,ターボポンプ内の気液二相流の数値解析に取り組みました.羽根間の相分布や二相流時のポンプ性能などをシミュレーションで予測することを目指しました.国内外において研究例が限定的であった当時,独創性に優れた研究へ発展し,学位論文につながりました.また,日本機械学会奨励賞を受賞でき,文部省在外研究員としてベルリン工科大学の長期滞在も叶いました.ターボ機械,混相流,および数値解析の積集合であるテーマであり,3つの分野の知識を若手のうちに獲得する絶好の機会を与えていただいたことに深く感謝しています.
上述のように,学生および若手の時期に流体機械に関わる研究テーマに向き合った履歴から,その後は,たとえ要素研究であっても,つねに実機を念頭に置くように心がけてきました.現在所属している全国共同利用・共同研究拠点である未来材料・システム研究所は,環境調和型で持続可能な社会の実現を目指し,先端的な材料・デバイスの基礎研究から社会実装のためのシステム技術までを一貫研究することを目的としています.私は,流体工学を駆使した装置を創出し,実用化することを任務として捉えています.現在,ウイルスの不活化機能を併せもつエアカーテン装置,電源自立型のタービン式IoT流量計などを学内外の研究者や民間企業と共同で開発しています.エアカーテン装置は噴流の拡散抑制,電源自立型流量計はマイクロ水力発電に関する,いずれも独自の要素技術を活用しています.両装置ともに病院や工場などで実証実験を実施しており,実用化に向けて開発研究を加速しているところです.
最後になりましたが,流体工学部門の益々のご発展をお祈り申し上げ,受賞の感謝のご挨拶とさせていただきます.