流れ 2006年1月号 目次
― 2006年度年次大会流体工学部門オーガナイズドセッション ―
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2006年度年次大会OS45「フルードパワー機器」
〔文責 オーガナイザー 西海孝夫(防衛大)〕
1.はじめに
フルードパワーとは,加圧された流体を用いて,その動力を伝達および制御して負荷を駆動させる技術分野を総称している.従来は,油や空気のみを媒体としていたために,油空圧と呼ばれていたが,昨今の水圧技術の目覚しい進歩や,電磁場に反応して粘性が変化する機能性流体の出現により,数年前より油空圧技術を扱う工業会・学会の名称や機関誌名も変更され,フルードパワーに統一されている.この専門分野を包括する日本フルードパワーシステム学会(http://www.jfps.jp/;JFPSと略す)は,日本機械学会と歴史的にも関係が深く,昭和45年3月に設立され,35年余りにわたり独自の学問体系を築いている.現在では,JFPSは,会員数約1300名(学生員,賛助会員含む)を擁し,JSMEとの共催で春と秋の定例講演会,3年に1度の国際シンポジウム,年数回の講習会やセミナーを催すなど活発な活動を行ってきている.さらに,学会誌・論文集を年6回の冊子体で発刊するとともに,電子媒体による関係論文の検索や季刊誌を提供しサービスの充実を図っている.
本稿では,昨今のフルードパワー機器関連における研究発表の動向や,オーガナイザーの研究を2件ほど事例として挙げる.「フルードパワー機器」とは,本来ならば,流体から機械へ,あるいは機械から流体へのエネルギーの変換・伝達・制御を行う流体機器を言うが,狭い分野にとらわれず広義な意味での流体で駆動される様々なマシン(機器・機械)の開発や解析,流体計測や制御の手法などを含めた広範囲なテーマを本OSでは募集する.
2.フルードパワー機器関連の講演会と研究動向
フルードパワー分野の研究発表は,流体工学のみならず制御工学,機械力学,振動工学,熱工学,メカトロニクス,福祉・生体工学,トライボロジー,電気・情報工学,ナノテクノロジーなどの専門分野との連携から成り立っているため,本学会やJFPSはもとより,計測自動制御学会などの部門大会やオーガナイズドセッションが毎年各地で開催され,盛況をはくしている.2005年に本OSに関連して国内で開催された講演会・見本市は,オーガナイザーの知る限りで以下の通りである.
- 2005/5/25-27 日本フルードパワーシステム学会春季講演会
- 2005/7/14-15 日本シミュレーション学会大会「流体システム」
- 2005/8/22-25第9回運動と振動の制御シンポジウム「福祉工学」
- 2005/8/30-9/2IFPEX2005(第21回フルードパワー国際見本市),カレッジコーナー(教育機関の研究内容展示)・JFPSフルードパワーワークショップが併設
- 2005/10/18 計測自動制御学会産業応用部門大会第6回流体計測制御シンポジウム
- 2005/10/22 日本機械学会関東支部山梨講演会「流体パワーによる駆動と制御」
- 2005/11/7-10 日本フルードパワーシステム学会第6回国際シンポジウム
- 2005/11/25 日本機械学会関東支部埼玉ブロック大会「油圧・空気圧による駆動と制御」
- 2005/12/8-9 日本機械学会 機械力学・計測制御部門(幹事部門),機素潤滑設計部門,ロボティクス・メカトロニクス部門,バイオエンジニアリング部門4部門合同「パワーアシスト」
これらの研究内容を散見してみると,ポンプやコンプレッサーなど圧力源の内部挙動や騒音低減,流体振動に起因する管路の脈動特性,バルブ内のキャビテーション,混入空気による作動油の劣化などフルードパワー機器に直結したテーマも見受けられると同時に,空気圧によるパワーアシストや福祉機器,新たな作動流体として注目を浴びている電界共役流体を利用したマイクロフルードアクチュエータの開発,油圧スイッチング制御法の評価など多岐にわたる.
なお,JFPSでの2004年と2005年春季・秋季の講演会におけるOSは,以下の通りである.
- 2004年春季:「空気圧を用いた次世代人間親和型システム」,「フルードパワー制御の最近の動向」
- 2004年秋季:「機能性流体」,「モーションベース」,「乗り物」
- 2005年春季:「レスキュー」,「ハイブリッドシステム」
3.フルードパワーに関するオーガナイザーの発表事例の概要
3.1 層流型流量計の開発
(2005/11/25日本機械学会関東支部埼玉ブロック大会OS「油圧・空気圧による駆動と制御」より抜粋改訂)
図1 層流型流量計の構造
図1に示す層流型流量計の構造は,流れ方向に対して中央が細いテーパ形状の物体(以後,受圧体と呼ぶ)を,管路中央から偏心させて設置させている.管路上側には広い流路が,管路下側には狭い流路が独立に形成され,その上下流路内での流れの不均衡性から受圧体の両面には流量に比例した圧力差が生じる.この圧力分布は受圧体中心O点まわりに流量に比例した力のモーメントを発生させるため,二次元流れを仮定すれば次式からトルクを検出することによって流量を求めることができる.
(1)
ここに,上式のはゲイン係数と呼び,受圧体の傾斜量を表す無次元量と,矩形管路中心と受圧体中心の偏心量を表す無次元量で決定される値である.また,は上下流路の入口平均すき間,は流路中央での平均すき間,は粘度,は受圧体の全長である.
図2に,作動油の油温が30℃(=0.0427Pas )における,3種類の無次元偏心量(=0.35,0.55,0.75)に対する測定結果を示す.ここで,図中の設計値は,流量計の寸法諸元から式(1)を用いて算出している.この測定結果から,偏心量が大きいほどトルクに対する流量の勾配が小さくなっていくことが明らかである.また,トルク変換器の定格値の40%程度までの領域において,全ての偏心条件の測定値は設計値とよく一致していることが確認できる.
本研究で提案する流量計は,微小な圧力差を比較的に広い受圧面で受け増幅させ,これによって発生した静止トルクを流量に変換して検出するため,既存の流量計に比べて部品数が少なく,機構が単純で,圧力損失が小さい等の特徴を有しており,汎用性のある流量計として期待できる.今後,流路内圧力の計測やCFD解析,流量計の動特性について検討していく予定である.
図2 層流型流量計の流量・トルク特性
3.2 油圧サーボモータ系の複合ニューラル制御の設計
(2005/10/22日本機械学会関東支部山梨講演会OS「流体パワーによる駆動と制御」より抜粋改訂)
本研究は,状態フィードバックニューラルネットによる角度と角速度の複合制御を構築し,制御精度に優れ,かつ外乱に対してロバストな油圧サーボモータ系の制御を実現することを目的としている.すでに,ニューラルネット(以後,NNと呼ぶ)補償器による位置や速度制御の実現をはじめ,位置と速度の出力信号を平滑に選択する複合制御系により,2つの状態量は両立して良好な制御が行えることを確認している.ここでは,シミュレーションにもとづく平滑選択のパラメータ選定方法を提示し,さらに実験によってその有効性を実証する.
図3は,状態フィードバックNN補償による複合制御系である.NN補償器には,速度および位置補償器の入出力特性を,オフライン学習によってそれぞれに写像している.この系では,NNが規範モデル信号,と角速度および角度信号,の偏差,を最小化するオンライン学習を行うことで,望ましい出力特性を得ることができる.サーボ入力は,並列に配置する2つのNN補償器の出力,へ,次式(2)による結合係数,をそれぞれ乗じて,その和により生成する.
(2)
ここで結合係数は,油圧モータの角速度に応じて 0≦Ψ≦1 の範囲に変化し,補償器の出力信号を平滑に選択する.種々なシミュレーションによる検討の結果,結合係数のパラメータは,と決定する.図4は,設定入力の角速度変化が,角度変化がとなる周期5sの波形を与えた実験結果である.NNの学習初期に見られる角速度と規範モデルの偏差は,繰り返し学習の進行によって改善され,以後では角速度,角度応答がともに規範モデルに十分追従していることが確認できる.
図3 ニューラルネットによる角度と角速度の複合制御
図4 複合制御系の実験結果の一例
このように,脳神経細胞の信号伝達特性を模擬したニューラルネットは,油圧サーボ系の持つ非線形特性を改善し,位置と速度を両立して制御できることが明らかになった.今後は,多自由度の油圧マニピュレータやモーションベースに適用し,ニューラルネットの持つ多面的な能力を探っていきたい.
4.おわりに
フルードパワーは,すでに成熟した産業との声もある.しかし,京都議定書の影響を受け環境問題や省エネ化など多くの課題と直面し,ユーザ側から要求事項は,一段と厳しさを増している.今後,新しい技術の発掘や,きめ細かな機器の要素研究を遂行することにより,フルードパワー技術は,益々発展し,電気駆動と競合する市場で優位に立つことができると考える.
通常であれば秋に地方で催されるJFPS主催の講演会は,本年6月8~9日に北海道・札幌で開かれるため,東京近郊での開催が見込まれる.ぜひ,フルードパワー機器関連の企業,研究所,教育研究機関で活躍されている学識経験者の方々が,一人でも多く熊本の地を訪れ,専門領域を超えての有意義で活発な情報交換の場と致したくご協力をお願いする.
東京工業大学 | 北川 能 (kitagawa@cm.ctrl.titech.ac.jp) |
防衛大学校 | 西海 孝夫 (nishiumi@nda.ac.jp) |
芝浦工業大学 | 川上 幸男 (kawakami@se.shibaura-it.ac.jp) |