ニューズレター

流れ 2008年12月号 目次

― 特集テーマ:「再生可能エネルギーと流体工学」 ―

  1. 地球温暖化防止の切り札としての風車
    荒川 忠一(東京大学)
  2. 風力タービンと流体工学   
    前田 太佳夫(三重大学)
  3. 複雑地形上に立地された風車近傍に発生する地形乱流の影響について
    内田 孝紀(九州大学)
  4. 浮体式波力発電装置”後ろ曲げダクトブイ”の開発
    永田 修一(佐賀大学)
  5. 波力発電用往復流型タービンの開発
    高尾 学(松江高専)   
  6. 編集後記(鎌田,木上,帆足)

 

複雑地形上に立地された風車近傍に発生する地形乱流の影響について


内田孝紀
九州大学

1.はじめに

  現在,地球温暖化を防ぐため,CO2の大幅な削減が緊急課題となっている.これに伴い,クリーンで環境に優しい風力エネルギー(自然エネルギー)の有効利用に注目が集まっている.我が国においても,風力発電施設は急速に増加している.風車出力は風速の三乗に比例するため,風の強い場所を的確に,かつピンポイントに選定することが重要である.特に日本の地勢は欧米とは著しく異なり,平坦な地形は少なく,多様性に富む複雑地形がほとんどである.こうした状況下では,流れの衝突,剥離,再付着,逆流などの風に対する地形効果を考慮したきめ細かい風況予測が求められる.

 我々の研究グループでは,数(十)km以下の狭領域スケールに的を絞り,RIAM-COMPACT® (Research Institute for Applied Mechanics, Kyushu University, COMputational Prediction of Airflow over Complex Terrain,リアムコンパクト)と称する非定常・非線形風況シミュレータを開発している1-3).最大の特徴は,汎用的なパーソナルコンピュータ1台で動作し,国内外のあらゆる地域に適用可能であること,加えて,風の流れをアニメーションとして視覚化できる点にある.RIAM-COMPACT®は,産学連携で提携した民間企業により,市場への普及が既に開始されている.気流予測結果(16風向)と,対象地点近傍の1年間の野外風況時系列データを基に,風車の特性値であるパワーカーブなど入力すれば,任意地点の年間発電電力量(kWh/年)や設備利用率(%)の事前評価も可能である.

  最近になり,建設後の大型ウィンドファームWF(Wind Farm)において,稼動率が当初の予想を下回る,すなわち,発電出力が著しく悪い風力発電機WTG(Wind Turbine Generator)の問題が顕在化しつつある.この主たる原因は,WTG近傍のわずかな地形起伏の変化が起源となり,そこから機械的(直接的)に発生する風の乱れ(地形乱流)であると考えられる.また,地球温暖化に伴い,WF内の卓越風向や平均風速の経年変化4)が原因になる場合も考えられる.

  いずれにしても,稼働中のWFにおいても定期的な風況評価(ウィンドリスク評価)が必要であると考えられる.そこで我々の研究グループで提案するのは,RIAM-COMPACT®によるWF風況診断である.これには,最新の土地造成状況を反映した,10m以下の高解像度標高データ5, 6)の利用が不可欠である.具体的には,既存のWFに対して精緻な風況シミュレーションを実施し,WTGの配置が現状維持で良いのか,あるいは,運転状況の悪いWTGは移動が必要なのか,コスト面からみて停止させるべきなのかといったWF内のWTG再配置問題を支援するものである.本報では,実際のWFに対して風況診断を行い,風車周辺に発生する地形乱流の影響を報告する.

 

2.RIAM-COMPACT®よるWF風況診断

図1には,本研究で対象にしたWTG立地点周辺の地形と計算条件を示す.図1(a)に示すように,本研究では,WTG立地点周辺をDXF形式のCADデータから5m解像度で詳細に構築し,その周囲は国土地理院の50m標高データと滑らかに接続させた.このように,地理情報システム(GIS)の技術を活用し,紙地図やDXFファイルに基づいて独自に構築した高解像度標高データと,既存の標高データをマージさせて地形データを効率的に作成することを実現した.自治体や電力事業者が保有している紙地図やCADデータは,最新の土地造成状況を反映しており,国土地理院の50m標高データなどと比較して格段に高い精度を有する.GISに基づいて作成された標高データは,RIAM-COMPACT®で即座に利用可能である.標高データの作成期間は図面1枚あたり数日程度である.同様の手法により,レーザープロファイラーで測定された地形データや,現在無償で公開されている全世界を対象にした3秒メッシュ(約90m)のスペースシャトル地形データ(SRTMデータ)の利用も可能である.視覚的な特長として,RIAM-COMPACT®では実スケールのロータ直径,ハブ高さ,受風面の風向,表示カラーなどを設定し,十進経緯度で立地点を指定すれば,WTGの線図を計算領域中に挿入することが可能である(図1を参照).本研究で対象にしたWTGは,ロータ径52m,ハブ高さ44mである.便宜上,WTG-A,WTG-Bと称し,図中には記号A,Bで示すものとする.


(a) Top view

 


(b) Bird’s eye view

Fig.1 Geographical features around WTGs

 

  以上のように作成した高解像度標高データを入力データとして,非定常・非線形風況シミュレータRIAM-COMPACT®により精密な風況シミュレーションを行う.以下では,計算結果について説明する.

  図2には,主流方向速度の変動成分のコンター図を示す.図中に矢印で示すように,速度変動の大きい領域が時間とともに移動している様子が見て取れる.アニメーションを作成し,これを観察すると,同様の現象が繰り返し生じていることが判明した.すなわち,WTG-Bのすぐ前方の地形の起伏から周期的な渦放出が生じていることが明らかになった.WTG-Bは,地形の僅かな凹凸から周期的に放出される渦(地形乱流)の影響を受けていることが示された.


(a) Time=T1


(b) Time=T1+儺

Fig.2 Time evolution of gust (=|u-Uave|)
in the vertical plane of each WTG

 

  図3には,それぞれの風車立地点付近の速度ベクトル図(時間平均場)を示す.WTG-Aでは,風車ロータ面の全ての高さレベルで風速分布は一様である.地形効果によって風速が局所的に増速している様子も見て取れる.一方,WTG-Bでは,風車ハブ高さの下方において風速が大きく欠損しているのが分かる.WTGのパワーカーブは,WTGの存在は仮定せずに,ハブ中心へ流入する風速値で規定されている.また,速度シアも5〜7程度のべき乗則に従う分布が前提になっている.よって,ベキ法則から大きく逸脱した速度シアの下では,発電量は従来のシミュレータによる計算値を大きく下回ることになると予想される.同時に,この非常識的な大きな速度シアは,WTGのタワーの振動問題,あるいは,疲労強度の問題などと関連して今度ますます重要になると考えられる7, 8)

Fig.3 Closeup of velocity vectors for time-averaged field
in the vertical plane of each WTG

 

 

3.おわりに

  今後の風力発電施設は山間部などのより厳しい場所に設置せざるを得えない.したがって,今後の風力発電施設の事業評価はより厳密に,かつより高精度に行う必要がある.今回提案したWF風況診断は,WTG建設前の風況精査にも適用されるべきものであると言える.

 

謝 辞

  本研究を遂行するにあたり,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の平成17年度産業技術研究助成事業(2006年1月-2008年12月),「空間解像度10m以下の詳細地形構築技術の開発とそれを用いた風力タービンハブ高さ周辺の風の乱れの視覚的評価」プロジェクト(研究代表者:内田孝紀)の援助を受けました.また,(株)ユーラスエナジージャパンには計算対象サイトに関する情報を提供して頂きました.ここに記して感謝の意を表します.

参考文献

(1) T.Uchida and Y.Ohya, Micro-siting Technique for Wind Turbine Generators by Using Large-Eddy Simulation, Journal of Wind Engineering & Industrial Aerodynamics,Vol.96, pp.2121-2138, 2008
(2) T.Uchida and Y.Ohya, Verification of the Prediction Accuracy of Annual Energy Output at Noma Wind Park by the Non-Stationary and Non-Linear Wind Synopsis Simulator, RIAM-COMPACT, Journal of Fluid Science and Technology, Vol.3, No.3, pp.344-358, 2008
(3) T.Uchida and Y.Ohya,Micro-siting Technique for Wind Turbine Generator by Using High Resolution Elevation Data, JSME International Journal「Environmental Flows」, Series B, Vol.49, No.3, pp.567-575,2006
(4) 北谷匠子,結城陽介,早崎宣之,谷川亮一:ECMWF40年再解析データを用いた風速の長期変動評価,第26回風力エネルギー利用シンポジウム,pp.223-226,2004
(5) 内田孝紀,大屋裕二,荒屋亮,田辺正孝,川島泰史:流体シミュレーション技術と地理情報システムを連携した新しい風力発電適地選定手法の開発,第27回風力エネルギー利用シンポジウム,pp.241-244,2005
(6) 内田孝紀,大屋裕二,荒屋亮,田辺正孝,川島泰史,風況シミュレーションのための紙地図からの高解像度地形データの構築,九州大学応用力学研究所所報,第129号,pp.135-141,2005
(7) 山本学,内藤幸雄,近藤宏二:風力発電コンクリートタワーの風応答実測,日本流体力学会年会2005講演論文集,pp.61,2005
(8) 石原孟,ファバンフック,高原景滋,銘苅壮宏:実風車における現地観測と風応答解析,第27回風力エネルギー利用シンポジウム,pp.153-156,2005
更新日:2008.12.26