ニューズレター

流れ 2009年12月号 目次

― 特集テーマ: 未来を拓く超音速機 ―

  1. 超音速複葉翼理論によるソニックブーム低減
      大林 茂(東北大学)
  2. JAXAにおける静粛超音速機技術の研究開発
      牧野 好和(宇宙航空開発機構)
  3. サブオービタル宇宙輸送機『ロケットプレーンXP』の流体マネージメント技術
      大貫 美鈴(米スペースフロンティアファンデーション)
  4. ソニックブームと大気の関係
      山下 博(東北大学)
  5. 超音速で伝播する燃焼波(デトネーション)の工学的応用
      笠原 次郎(筑波大学)
  6. 自動車用ターボチャージャの一部を用いたターボポンプの実験的研究
      野末 辰裕、中野 富雄(有人宇宙システム株式会社)、塩幡 宏規、立川 力(茨城大学)
  7. 編集後記
    編集後記(鄭、木下、森)

 

サブオービタル宇宙輸送機『ロケットプレーンXP』の流体マネージメント技術


大貫美鈴
米スペースフロンティア
ファンデーション

1.サブオービタル宇宙輸送機
 サブオービタル宇宙輸送機とは弾道飛行によりIAF(国際宇宙連盟)で定義されている100Kmを超える宇宙を往還する新しいタイプの宇宙輸送機である.宇宙旅行を約2千万円で提供する機体として米国を中心に数社が商業運行開始を目指して開発を進めている.サブオービタル宇宙輸送機の技術そのものは1960年代に米国においてX-15試験機で実証され,また2004年には米スケールドコンポジット社がスペースシップ1で達成しており,民間企業による開発が可能であると見られている.サブオービタル宇宙輸送機には,垂直離着陸,水平離着陸,垂直離陸/水平着陸,空中発射などの飛行形態があり,それにより最短約20分から最長約2時間半までと飛行時間は異なるが,無重力時間が約4分間であることは共通している.経済的なコスト,飛行頻度,有人レイティングの信頼性,レイトアクセス,研究者が搭乗できるなどの特長から,宇宙旅行とともに中時間の無重力実験,リモートセンシング,地球観測,小型衛星の打ち上げなどへの活用が期待されており,NASAでも利用に向けた様々な取り組みを行っている.

 
図1.X-15 cNASA 

SS1rocketburn
図2.スペースシップ1 cスケールドコンポジット社

2.ロケットプレーンXP

  米ロケットプレーン社が開発を進めているロケットプレーンXPは,パイロット1人を含む6人乗り,ジェットエンジン2基,ロケットエンジン1基を搭載した水平離着陸型単段式のサブオービタル宇宙輸送機である.ジェットエンジンで高度12Kmまで上昇してロケットエンジンに点火,70秒間のロケットエンジンの燃焼でマッハ3.5以上に達して弾道飛行で宇宙に到達,往還時はジェットエンジンに再着火してパワードで帰還する約45分間の飛行となる.ロケットエンジンはNASAのスペース・アクト・アグリーメント(SAA)のもとロケットダイン社(当時)のRS-88を機体サイズに合ったAR-36に改良,ジェットエンジンJ85-15はジェネラルエレクトリック社(GE),飛行制御機器はムーグ社,航空電子機器,電気システム,ランディングギアなど,実績がある技術を採用している.

 

3.流体力学飛行技術

ロケットプレーンXPは2003年から航空機や軍用機の設計に用いられているCATIAで設計され,数々の試験を実施してきた.2007年,CFD(Computational Fluid Dynamics)分析ソフトウエアと大容量データ処理コンピューターに投資し, 繰り返し行う膨大な試験と評価により機体の流体効果を最大限取り入れ,VテールからTテールに,4人乗りから6人乗りへ変更したのをはじめ,細部も含めるとおびただしい設計変更を実施した.典型的な超音速機のTテールはより安定しており,高スピードにおける制御に優れている.XPの機首の両側に小さなカナードを装着した機体のCFDによる流体分析の結果である.カナードは主に再突入の際,機体のピッチコントロールを安定させる役割となる.旧デザインではデルタ翼前方が大きく設計されており同様の役割を担っていたが,小さいカナードをつけてデルタ翼をミニマムにすることで機体全体の軽量化を実現した.


図3.Vテールの旧デザイン


図4.Tテールの新デザイン

設計においてCFDのコンピューターによる膨大な反復試験のデータと,実際の機体モデルによる風洞や水流による多くの試験で測定されたデータの分析と比較で,機体の流体特徴と制御の安定性を確立している.


図5.CFDによる流体分析


図6.水流試験(ウィチタ航空宇宙研究センター) 


図7.マッハ4風洞試験(NASAマーシャル飛行センター)

 

4.燃料の流体技術

  ロケットプレーンXPにおいて一番大きなシステムは機体の中央の液体酸素燃料タンクである.極低温の液体酸素は,単一推進燃料である過酸化水素を使いタービンの羽根車をまわすターボポンプでケロシンとともにエンジンに高速で送り込まれなければならない.こうして4000Kg以上もの燃料が約70秒間エンジンに送り込まれる.推進系への燃料供給システムは,液体酸素とターボポンプの200℃以上の温度差の中であっても,スムーズに機能する信頼性のある設計となっている.安全面においては,液体酸素と過酸化水素がタンクに安全に充填されること,タンクとラインにおける極めて高水準のクリーンレベルの維持が重要である.

 ロケットエンジンの停止など,飛行中の不具合により飛行を途中で打ち切り帰還する場合,安全に帰還するために液体酸素を放棄するシステムとなっている.一方,ケロシンは放棄しないでジェットエンジンで使用できるように燃料移動システムで胴体部にある燃料タンクから両デルタ翼に機体の重量バランスを保ちながら同時に移される.


図8.ロケットプレーンXPのシステム図(CATIA)
胴体部中央の黄緑が液体酸素,ピンクがケロシン,その間のオレンジが過酸化水素のタンク

 

5.生命維持システムの流体技術

  有人宇宙技術において実績のある米パラゴン社が担当している閉鎖系生命維持システムにより,ロケットプレーンXPは気密服を着用しなくてもよいキャビン環境となっている.生命維持システムの球形タンクに入った低温の液体酸素と液体窒素が低温のガス状に変わることでキャビンに空気が供給され,キャビンの温度環境も保つ.飛行開始前,ハッチが閉じられた瞬間にキャビンは完全に気密されるため,閉鎖系システムにおける流体マネージメントシステムは信頼性がなければならず,空気の漏れなどの不具合がどの段階で起こってもキャビン内の空気が維持できるようにいくつものバックアップシステムが機能するように冗長性がとられている.また,キャビンの乗客や乗員の呼吸から出る水蒸気や二酸化酸素は,空気中から取り除かれるシステムになっている.


図9.座席後部の閉鎖系生命維持システム(CATIA)
下方黄色が液体酸素,青が液体窒素タンク,その間の緑は2酸化炭素除去装置

 

6.無重力環境の流体技術

 ロケットプレーンXPはロケットエンジンを停止した後,100Km以上の高度に達し約4分間の無重力環境の後,大気圏に再突入して帰還する.大気圏外での機体の姿勢制御は,機体の先端部にあるタンクから機首と翼のスラスタに過酸化水素が供給される3軸のリアクションコントロールシステム(RCS)で行われる.過酸化水素のスラスタタンクはヘリウムガスのレダーによる与圧システムで,タンクの燃料が減少しても過酸化水素の燃料がタンクの中で球体になって漂わないように,燃料タンクの圧力を維持し,燃料ラインに連続的に供給される.


図10.スラスタは機首に4基,両翼に各2基

7.サブオービタル宇宙輸送機に夢を乗せて

  私たちはいつの時代も乗り物に深く関わってきた.乗り物は私たちの生活を豊かに変え,はかり知れない経済効果をもたらしてきたのである.そして,現在の宇宙時代,宇宙開発におけるロケットもまた同様である.衛星などの社会基盤は私たちの生活を安全で豊かなものになるように支え、さらに有人宇宙活動を通じて宇宙からの視座ももたらされ,それは地球の環境保全にも繋がっている.米フュートロン社の調査によると,現在開発されているサブオービタル宇宙輸送機の商業運行開始から5年で年間約700億円の宇宙旅行需要が生まれると展望されており,無重力実験などの他の利用を含めるとさらに大きな市場が拓けると予想される.サブオービタル宇宙輸送機が多くの夢の実現に貢献することを願っている.

更新日:2009.12.29