第102期 (2024年度)流体工学部門 一般表彰(フロンティア表彰)
一般表彰(フロンティア表彰)
真田 俊之(静岡大学)
受賞理由
分散性混相流の微細構造を解明すると共に、それらの知見を活かし二流体ジェット洗浄等の研究開発を行い、半導体ウェットプロセスへの流体⼯学の活用という新たな分野を開拓したため。
受賞のコメント
この度はフロンティア表彰を賜り、大変光栄に存じます。歴代の受賞者には、機械学会で尊敬する先輩方が名を連ねており、その一員に加わることができたことに深い喜びを感じております。ご指導くださった先生方、ご推薦・ご審査いただいた先生方、切磋琢磨してきた研究者の皆様、そして日々共に研究に取り組んでいる研究室のメンバーの皆様に、心より御礼を申し上げます。
本受賞に繋がった半導体ウェットプロセスの研究は、博士課程修了後に大学で職を得た後、企業の方からのご相談をきっかけに始まりました。それまでは分散性混相流に関する普遍的な現象解明や流体物理に興味を持ち、研究していた私にとって、材料や化学薬品、経験を重視する半導体プロセスの分野は、当初、全く未知であり、非常に困難を感じておりました。しかし、当時、様々な新材料の導入と相互汚染を避けるために、ウェハを一枚ずつ処理する「枚葉式プロセス」への移行が必要とされており、短時間で均一な処理を実現するためにも流体工学の知見が不可欠であると感じておりました。
この研究の過程で、半導体産業を取り巻く政治的な状況やマーケティングによって形成される世界的なトレンドに翻弄されることもありましたが、流体工学という基盤に立ち戻ることで、様々な課題に向き合うことができました。その結果、業界で経験則や常識とされていた事項に対して、少しずつ理論的な考え方や流体工学的視点を導入することができたと考えております。また、共同研究を通じて実プロセスの改善が報告された際には、流体工学からのアプローチが正しかったとの自信を得ることもでき、大変嬉しく思いました。今回の受賞は、今後もさらなる努力を求められていると受け止めております。今後も自ら考え抜いた手法で研究に挑み、新たな道を切り拓いていきたいと存じます。
最後に、学会を通じて多くの先生方から学びの機会をいただきました。今後は私もさらに学会活動に貢献できるよう、力を入れてまいります。この度は誠にありがとうございました。
一般表彰(フロンティア表彰)
高奈 秀匡(東北大学)
受賞理由
次世代素材であるセルロースナノ繊維の流動場,電場によるナノ構造制御法を確立 し,高機能複合材料創製に成功した.流体と材料分野を統合した未踏技術分野を開拓し,セ ルロース先進応用研究を牽引している.
受賞のコメント
この度は,日本機械学会 流体工学部門 フロンティア表彰という名誉ある賞を賜り,大変光栄に存じます。ご推薦,ご選考いただきました関係者の皆様に心より御礼申し上げます。これまで,ともに歩んでくださった共同研究者の皆様,そして研究室のスタッフ,学生諸氏の多大なる貢献により,本受賞に至ることができました。この場をお借りして深く感謝申し上げます。
受賞の対象となった研究は,次世代素材として注目されております,セルロースナノファイバー(CNF)を原料とした高強度セルロース単繊維を創製に関するものです。セルロース単繊維の高強度化においては単繊維内のナノ構造制御が極めて重要となります。本研究では,CNFが交流電場に対して高い応答性を示すことを見出し,交流電場による繊維方向法と従来の伸長流動場による配向法を組み合わせた,新たな繊維配向制御法を開発いたしました。本制御法により,セルロースの有する優れた材料特性を最大限に引き出すことが可能となり,セルロース単繊維の新たな応用が切り拓かれつつあります。
本研究は,流体工学のみならず,ナノ材料工学,化学工学との統合的フロンティア研究により生み出されたものであり,これまでの研究成果をこのような形でご評価いただきましたことを心より嬉しく思っております。今後は,本受賞を励みに,機能性流体工学を基盤とした新たな学問領域の開拓を目指し,フロンティア研究を邁進してまいります。
一般表彰(フロンティア表彰)
塚原 隆裕(東京理科大学)
受賞理由
亜臨界乱流遷移に対する大規模直接数値シミュレーションを用いた現象解明を行い,優れた業績を多数挙げた.また,機械学習の乱流現象への応用といった新規性の高い分野でも先駆的な役割を果たしてきた.
受賞のコメント
この度は,栄えある一般表彰(フロンティア表彰)を授かりますこと,大変光栄に存じます.ご推薦ご選考をいただきました関係者の皆さま,これまでにご指導くださった先生方に厚く御礼申し上げます.
当受賞理由の一つである亜臨界乱流遷移の研究に携わり始めたのは修士学生(指導教員:河村洋先生,東京理科大学名誉教授)の頃で,それから早20年が経ちました.その末に,このフロンティア表彰を賜りますこと,実に感慨深く望外の喜びです.当研究は,国立研究開発法人日本原子力研究開発機構との共同で,高温ガス炉安全設計に関わる基礎研究が発端でした.チャネル流(平行平板間流れ)の乱流維持限界を,直接数値シミュレーション(DNS)により探ることから始めましたが,当時未熟な私は「レイノルズ数を下げるだけの単純な調査で,すぐ終わる研究」と安直に考えたものですが,フタをあければ,研究者人生をかける研究テーマとなりました.一見,単純そうな問題でも,誠心誠意に向き合い取り組んだ結果,思いがけない発見の数々を体験することができました.欧州のとある教授に「Chance favors the prepared mind(幸運は準備した者に訪れる)」と当時に評価を頂いたことが,いまでも印象に残っています.これは学生や後進にも伝えたい経験です.
また,学生らには時折,「研究活動はゴールドラッシュ」と伝えることがあります.どこに金塊(研究成果)が潜んでいるかは分からない.目の前のフィールド(研究分野)に鉱脈(大発見)が残っているかも分からない.そんなとき,どこをどのように,どれほど掘っていくべきか.広く浅くか,または妄信的に一点を深く掘るか,正解は無いかもしれない.金塊は無いと判断(結論)するのも価値はあるが,ときには掘る方向を多次元に広げて(異なるアプローチ/アイデア/分野を統合して),誰も掘っていない方面を掘り進むことも,近道かもしれない.それらの戦略が,限られた研究者人生には肝心と思っています.まさにゴールドラッシュ時代の開拓者の気持ちであります.
さて,当コメントの掘り下げが迷走する前に,当受賞理由の説明に戻ります.粘弾性乱流への関心は,助教時代に研究室主宰の川口靖夫先生(東京理科大学名誉教授)のもと,ポリマー/界面活性剤希薄水溶液の乱流摩擦抵抗低減の研究が発端となっております.さらに,私はその亜臨界遷移域や,弾性慣性乱流(EIT)・弾性乱流(ET)にも興味を持って,同様にDNS等で機構解明に努めてまいりました.また,機械学習を応用して,粘弾性流体構成方程式の代理モデル構築や,スカラー拡散源推定など,乱流問題に対するAIの可能性と限界を探る調査を2017年から始めました.いずれも課題続出のホットな研究ばかりです.
今回の受賞を励みに今後も,開拓者(フロンティア)精神・野心を心に秘めて研鑽と研究を重ね,流体工学を発展させるチャンス(幸運)を逃さぬよう精進して参ります.最後になりましたが,本受賞の研究成果は多くの共同研究者の皆様と,研究室メンバーのご協力によるもので,皆とのめぐり逢い(幸運)に恵まれなければ成し遂げられませんでした.そして,強力に支え続けてくれてきた家族に深く感謝いたします.
一般表彰(フロンティア表彰)
西田 浩之(東京農工大学)
受賞理由
プラズマを利用した能動的流体制御技術に関する高度な実験と数値計算に基づく基礎研究を実施し,さらに流れ制御への深層学習の応用,車両の空力制御技術の開発など流体制御分野で先駆的かつ主導的な役割を果たした.
受賞のコメント
この度は,流体工学部門一般表彰(フロンティア表彰)を賜り,大変光栄に存じます.ご推薦を頂いた先生方,ならびに選考関係の皆様に心より御礼申し上げます.
受賞対象のプラズマを利用したアクティブな流体制御技術の研究は,15年以上にわたって取り組んできたテーマです.特に,バリア放電型プラズマアクチュエータに着目した研究を行ってきました.機械的可動がなくシンプルな構造,流れのフィードバック制御に適した高速な応答性も持つことから,これまで難しかった条件と環境においても,流体のアクティブ制御を実現できる可能性があります.私の研究室では,プラズマ工学と流体工学の融合領域を研究対象として,電気流体現象の物理解明などの基礎研究,流れのリアルタイムフィードバック制御への深層強化学習の応用,熱伝達促進や車両の空力制御への適用など,プラズマアクチュエータによる能動制御技術の実現に向けた研究に取り組んできました.受賞につながる成果には,流体工学部門のプラズマアクチュエータ研究会における議論から得た着想に基づくものが数多くあります.そしてなにより,共に研究に取り組んできた共同研究者と研究室メンバーあって成し遂げられたもので,深く感謝申し上げます.
プラズマアクチュエータには,高レイノルズ数流れへの適用に向けた高出力化,エネルギー効率の改善,オゾン生成の抑制など,実用化には多くの技術課題が残されています.今後もプラズマ技術による能動流体制御の実現に向け,研究に邁進する所存でございます.