第103期 (2025年度)流体工学部門 部門賞
部門賞

高木 周(東京大学)
受賞理由
気泡流の多重スケール構造解析,生体力学分野における大規模数値計算,マイクロバブルの医療応用の分野で顕著な業績があり,国際理論応用力学連合の会議委員を務めるなど,国際連携においても多大な貢献をした.
受賞のコメント
このたびは,日本機械学会流体工学部門より部門賞という栄誉を賜り,誠に光栄に存じます.ご推薦ならびにご選考に携わられた皆様に,心より御礼申し上げます.このような名誉ある賞を頂くことができましたのも,博士論文のご指導を賜り,その後も研究室運営をご一緒させていただいた松本洋一郎先生,留学先でご指導いただいた Andrea Prosperetti 先生( Johns Hopkins大学) をはじめ,これまでお世話になりました多くの先生方,国内外の共同研究者の皆様,研究室スタッフ,そして共に研究に取り組んできた学生の皆さんとのご縁とご支援の賜物であり,深く感謝申し上げます.
さて,受賞対象となった一つ目の項目「気泡流の多重スケール構造解析」は,学生時代から長年にわたり関わってきた研究です.ごく微量の表面活性剤添加により個々の気泡運動が変化し,壁面近傍に気泡が集積してクラスターを形成すると,気泡流乱流の構造が劇的に変化し,大規模渦構造が消失するという,きわめて興味深い現象に関するものです.本研究には,現在森北出版社長を務めておられる森北博巳博士,大阪公立大学の小笠原紀行准教授,東京農工大学の田川義之教授,Purdue大学の前田一輝助教授をはじめ,多くの優れた研究者が,若き日に博士研究員や研究室学生として参画し,非常に複雑な現象に対してそれぞれのスケールにおいて精緻な議論をすることに成功しました.
二つ目の項目である「生体力学分野における大規模数値計算」は,2007~2009年度に私が(独)理化学研究所へ出向し,スーパーコンピュータ「京」に関するプロジェクト「次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの開発」の臓器全身スケール研究開発チームのチームリーダーを務めていた際の成果に基づくものです.大阪大学の杉山和靖教授,東京科学大学の伊井仁志教授らが博士研究員としてチームに参加し,関係メンバーと議論を重ねながら,完全オイラー型の新しい流体構造連成手法の中核部分をまとめ上げていった過程は,今でも強く印象に残っております.
三つ目の項目「マイクロバブルの医療応用」では,特にマイクロバブルと薬剤を内包したベシクルの生成および,超音波を用いた制御・破壊に関する研究に取り組んでおります.本研究は高度な専門性と実験技術を要する難易度の高いテーマですが,薬学系・医学系の研究者と連携しつつ,臨床・医療応用へ繋がる成果を実現すべく,現在も精力的に研究を進めております.
私自身の研究は,現象のマルチスケール性に着目したものが多く,一人で完結できるものではなく,多くの研究者との連携や議論の積み重ねによって発展してきました.国内のみならず,上述の Andrea Prosperetti 教授に加え,Huaxiong Huang 教授,Jacques Magnaudet 博士,Dominique Legendre 教授など,多くの海外研究者との交流の中で培われた視点が,現在の研究の基盤となっております.これまでの経験を踏まえ,今後も海外連携の重要性を強調しつつ,国際的な研究活動を積極的に推進していく所存です.
最後になりますが,流体工学部門および部門に所属される皆様のますますのご発展を心よりお祈り申し上げます.
部門賞

茨木 誠一((株)三菱総合研究所)
受賞理由
流体機械の研究開発に従事し,遠心圧縮機の内部流動の解明と高性能化,過給機や小型ガスタービンの開発など流体工学の発展に顕著な功績を収めた.また,第101期流体工学部門長を務め,部門運営に多大なる貢献をした.
受賞のコメント
この度は日本機械学会流体工学部門より部門賞を賜り、誠に光栄に存じます。ご推薦、ご選考を頂いた皆様に心より感謝申し上げます。あわせてこれまで私を支えていただいた恩師、故井上雅弘先生、古川雅人先生をはじめ、三菱重工業株式会社の皆様、関係した全ての方々に深く御礼を申し上げます。
私は1992年に九州大学大学院機械工学専攻修士課程を修了後、三菱重工業株式会社長崎研究所ターボ機械研究室へ入社し、ターボ機械や流体機械に関する研究開発とマネジメントに約32年間にわたり従事しました。その後、2024年9月に株式会社三菱総合研究所に移籍しました。三菱重工業在籍中は、車両用・舶用過給機、小型ガスタービン、産業用圧縮機などのターボ機械の高性能化・高信頼性化に関する研究開発に取り組みました。
特に、遷音速遠心圧縮機の内部流動研究においては、レーザ流速計や高応答圧力センサを用いた詳細な計測と流動解析を併用し、羽根車内部の衝撃波と翼端漏れ渦や境界層の干渉、ディフューザ内部の羽根車後流の拡散や非定常変動など、複雑な流動現象および損失生成機構の解明に努めました。また、空力設計に関しては、進化型アルゴリズムとニューラルネットワークを活用した最適設計技術をフォンカルマン研究所と共同開発し、自動車用過給機など実製品の高性能化に役立てました。さらに製品開発では、当時世界最大の舶用過給機や高温排気ガス対応乗用車用過給機、高速モータ発電機を用いた電動ターボなどの開発に携わりました。このような流体工学・流体機械に関するチャレンジングで魅力ある研究開発の機会に恵まれたこと、これまでご指導いただいた方々やともに尽力した仲間、関係者の皆様に改めて感謝申し上げます。
2023年度には第101期流体工学部門長を拝命いたしました。世界的な課題である気候変動の抑制、カーボンニュートラルの実現に向け、エネルギーの供給と利用の両面に係る流体工学の役割は増すばかりです。複雑な課題に対応するには学際的な取組、産官学連携も不可欠であり、日本機械学会の貢献が期待されます。
一方で会員の半数を占める企業会員の減少が課題であり、企業にとって魅力のある学会づくりや学会活動への参画促進を目指して企業連携活性化WGを設立しました。2024年度の部門講演会から、本WGによるオーガナイズドセッションを企画するなど活動を本格化させています。今後、この活動の成果が企業連携をはじめ、産官学連携や部門間連携の発展につながり、流体工学部門が社会課題の解決により一層貢献することを願っております。
最後になりますが、今後の流体工学部門、並びに会員の皆様のますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。
部門賞

関 眞佐子(関西大学)
受賞理由
微小血管内血液流れに関する流体力学的研究で先駆的役割を果たし,管内層流における浮遊粒子の慣性集束現象の分野で多くの研究業績を挙げるなど,流体工学の発展に多大な貢献をした.
受賞のコメント
この度は,流体工学部門より部門賞を賜り,大変光栄に存じます.ご推薦をいただきました方々ならびにご関係の皆様に心より感謝申し上げます.これまでお世話になりました恩師の先生方,共同研究をして下さいました先生方,共に研究を進めてきた学生たちの協力なしには,このような栄誉ある賞をいただくことはできませんでした.篤く御礼申し上げます.
受賞理由の一つである「微小血管内血液流れに関する流体力学的研究」は,大学院博士課程の途中で,国立循環器病センター(現:国立循環器病研究センター)研究所の研究員として勤務を始めたことからスタートしました.当時,日本におけるバイオレオロジー研究の創始者と言える岡小天先生が研究所長を務めておられ,血液流れを理工系の立場から解明しようという機運が満ちていました.学位取得後,米国コロンビア大学において,今でも赤血球のモデル化で名前のあがるR. Skalak教授のもとで研究ができたのは貴重な経験でした.Skalak教授は著名なShu Chien医学部教授と緊密な共同研究を続けておられたので,日本でも米国でも身近にin vivo実験を行う研究者がいて,いつでも議論できる環境であったのはとても恵まれていました.このおかげで,血液や血球の力学の研究を長年続けることができ,一昨年には日本バイオレオロジー学会から「岡小天賞」を授与していただくという幸運に恵まれました.
別の受賞理由である「管内層流における浮遊粒子の慣性集束現象の研究」は関西大学に異動してからの研究となります.研究室の4年生に各自与えた卒研テーマの一つとして始めた研究ですが,思いのほか興味深い現象が次々見つかり,日々学生の報告を聞いて胸を躍らせながら研究を続けています.慣性集束現象は応用面が注目されていますが,私はその基礎研究として,様々な粒子,流路,媒質を用いた場合の下流断面における粒子分布に興味をもっています.研究室の学生だけでなく,多くの共同研究者に多方面にわたり助けてもらいながら,また沢山の議論を重ねながら研究を進めてきました.本当に多くの方々に支えていただいていることに深く感謝しております.
最後になりましたが,流体工学部門の益々のご発展をお祈り申し上げ,受賞の感謝のご挨拶とさせていただきます.
部門賞

安倍 賢一(九州大学)
受賞理由
長年にわたり流体工学分野の教育と研究に従事し,多くの技術者の育成と流体工学の発展に顕著な功績を収めた.特に,数値流体工学分野において,新たな乱流モデルの開発を通して解析の予測精度向上とコスト削減に寄与する多数の卓越した業績を挙げた.
受賞のコメント
この度は,流体工学部門より部門賞という大変名誉な賞を賜り,誠に光栄に存じます.ご推薦頂いた方々および関係各位に感謝申し上げます.また,これまで研究活動を進めるにあたりご指導頂いた先生方やご助力頂いた多くの方々に対し,ここに深く感謝申し上げます.
今回の主たる受賞理由である乱流モデルの研究については,豊田中央研究所に在籍していた頃に名古屋工業大学の長野靖尚先生とお会いする機会を得られたことから始まりました.私は,実は当時「乱流モデル」の知識が皆無でその効果についても懐疑的でしたが,仕事上の必要性から当時の最先端であった低レイノルズ数型k-εモデルをやっとの思いでCFDソフトに組込んで解析したところ,何と予測精度が一気に実用レベル近くまで向上しました.この事実は私の研究者人生において最大の衝撃でした.先人の英知に感銘を受け,さらに深く追求したいと思っていた矢先に,幸運にも長野先生から直接ご指導頂ける機会を得ました.そこから,乱流モデルの面白さと奥深さにとりつかれ,縁あって九州大学に職を得てからもなお「乱流モデルの沼」にどっぷりはまって今日を迎えている次第です.
これまでの30余年の研究者人生の間に,多くの諸先生方から貴重なご指導を頂き,また同世代の研究者の方々と切磋琢磨しながら研究活動を進めてきた結果,低レイノルズ数型k-εモデルに始まり,LES/RANSハイブリッドモデル,さらに最近では非等方SGSモデルといった研究テーマにおいて,自分でも誇れる成果を幾つかは世に送り出せたように思います.それらが世の中の関連分野の発展に多少なりとも貢献できたのであれば,一人の研究者として嬉しい限りです.
ご多分に漏れず自分の中では「まだまだ若い」と思っていましたが,近年の技術革新の早さを目の当たりにして,遅ればせながら「FORTRAN時代の研究者の引き際」を考えるようになってきました.今でも教育活動と並行して自ら流れ計算や可視化作業を行う毎日ですが,私のまわりにも次の時代を任せられる人材が増えてきていますので,今後は将来有望な次世代の方々にうまくバトンを渡していくことに力を注いでいきたいと思います.
最後になりましたが,今後の流体工学部門と関係する方々の益々のご発展をお祈り申し上げます.この度は,誠に有難うございました.
部門賞

店橋 護(東京科学大学)
受賞理由
燃焼を伴う乱流の大規模直接数値シミュレーションや先進的光学計測などを世界的に先導し,普遍的な乱流微細渦構造の解明を行うなど,複雑流動に関する研究分野において顕著な業績を挙げた.
受賞のコメント
