流れ 2011年4月号 目次
― 特集テーマ: 流れの夢コンテストの10年 ―
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第10回流れの夢コンテストに参加して
早水庸隆
西田五徳
丹波享
石田憲保
仲田悟
松田達也
安田直幸 |
1.はじめに
「楽しみながら,流れを見る,感じる,理解する」というテーマで第10回流れの夢コンテストが開催された.そもそも流れの夢コンテストは,流体工学部門ホームページによると,「流体工学の新しい展開と技術者・研究者を目指す若い人々(学生など)を対象として,流れに関する知恵を駆使して,テーマを達成するアイデアと技術力を競うコンテストで,製作された作品と実演を含めたプレゼンテーションで内容を審査するもの(1)」である.そのコンテストへ米子工業高等専門学校(米子高専)の早水研究室は参加することを決めた.
いざ参加を決めてからは,作品のアイデアに悩み,作品の構造に悩み,迫る期限に焦り,当日は初めての参加に加え,作品の調整に苦しみ,まさに七転八倒であった.しかし,その苦労の末,コンテストの結果にて報われることになった.
2.コンテスト出展作品の作成
まずは,アイデアを出すのに苦しむこととなる.「流体の流れる様子を見て,感じて,それを楽しむ?しかも学べる要素も?なんて欲張りな.そんな欲張りな作品のアイデアは本当にあるの?」というのが正直な意見だった.しかし,作品概要提出まで粘りに粘ってアイデアがようやく出た.流体で『ピタゴラ装置』を作ろうというアイデアである.ピタゴラ装置といえば,NHK教育のTV番組『ピタゴラスイッチ』(2)の中の1コーナーに登場する装置で,ビー玉やドミノ,その他身近なものを使ってさまざまな仕掛けが次々に展開していく装置である.思わぬ動きが途中で入り,その意外性も大きな魅力となる.ピタゴラ装置の仕掛けを流体の流れや原理を使ってつなげていけば,見て面白いのはもちろん,学び取ることができる.「これは,この欲張りなテーマをすべて満たすことのできる画期的なアイデアではないか!!」と思い,これがコンテストに出展する作品のアイデアとなった.
3.完成作品とその構造・原理
完成した作品を図1に,概略図を図2に示す.
図1 完成作品
図2 作品概略図 (クリックすると別ウィンドウで表示されます)
図2を使い装置の動作を説明する.まず①のタンクにためられた水が②のゲートを開くことで流れ始め,ピタゴラ装置が動き出す.そして①のタンクから出る水は,シーソーの片方のタンク③へとたまる.タンク③が重くなることで図3に示すようにシーソーが傾き④のタンクの位置が高くなり,位置エネルギを増すことでタンク⑤への流れを生じる.
図3 位置エネルギの利用
タンク⑤内は環状になったパイプ2本を有し,パイプより少し低い位置まで水が満たされている.パイプ内は図4(右)に示すように水面と同じ高さで水が満たされているが,④のタンクから水が流れ込むことで水面が上がり,⑤のタンク内水面がパイプの一番高いところ以上となるとパイプ内を水が流れ始める. 1度流れが発生し始めるとサイフォン効果によりタンク⑤内の水がなくなるまで⑦,⑧のチューブ出口へ流れ続ける.これにより⑦,⑧のチューブ出口から吐出される全流量は,タンク④から流入する水量と,タンク⑤内にもともと入っている水量の合計となり,タンク⑤に流入する流量より吐出する流量を増す効果を得ている.
図4 サイフォン効果の利用
⑦のチューブ出口より吐出する水は,⑨の船を押す力となる(運動量の法則).船は⑧のパイプ出口へ進み,船の上に設置されたレールの上を⑧から吐出される水が通る.これにより⑩のティッシュへの流路を作る.その途中の様子を図5に示す.
図5 運動量の法則の利用
⑩のティッシュがぬれることで切断され⑪の重りが下へ落ち,⑫のペットボトルロケットのスイッチを引き⑬のペットボトルロケットが発射される.ペットボトルロケットは図6に示すようにセットされており,空気と水の比が2:3程度で圧入されている.スイッチが入るとジェット推進の原理によりガイドに沿って進む.これは,スイッチが入ることで大気圧下に解放されたペットボトルロケット内の空気が膨張し,空気よりも密度の大きな水を押し出す力の反作用により,大きな推進力を得る構造である.ペットボトルロケットの設置が横向きであるため,空気と水の比は2:3程度が最も大きな推進力を得られた.
図6 ジェット推進の原理の利用
発射されたペットボトルロケットは,⑭の針を押し⑮の水の入った風船を割る.タンク⑯内に水が満たされ,⑰の浮き(発泡スチロール)を図7に示すようにアルキメデスの原理により浮かせる.浮いた浮きにはアームがついており,⑱のタンクのゲート⑲を押し上げタンク⑱内の水を流出させる.
図7 アルキメデスの原理の利用
⑱のタンクから流出される水は⑳の水槽へと入る.⑳の水槽は,図8(左図,中央図)のように水が流入することで文字が浮き出る仕掛けとなっている.原理としては,図8右図(水槽を横から見た図)に示すように水槽内には45°程度に傾いたアクリル板が入っており,水の入っていない部分では光がアクリルを透過し,水の入った水位までは光が全反射しスクリーン上の文字を照らすことで文字を浮き上がらせる.
図8 水の屈折の利用
以上のように,本作品は展開していく.その動作の様子を図9に示す.(時間のかかる部分は省略されている.)
図9 ピタゴラ装置の動作(動画) (クリックすると再生されます)
4.コンテスト当日
コンテスト当日は,まず午前中に作品の実演が1時間半ほどあり,午後から作品のプレゼンテーションであった.まず午前の実演では,ピタゴラ装置のスイッチのつながっていく様から流れによる動作する現象を「見て,感じて,楽しめる」よう実演していく予定であった.朝から装置の設置を行い,実演に備えた.いざ始まると,ピタゴラ装置は途中で止まることが多く,全体を通しての成功率はあまり高くなかった.また,一度動作を終えると,次の復旧までには時間がかかった.しかし,装置が動けば,その動きに見ている人たちは見入っているようであった.
午後からは,装置の動く原理などの説明を行い装置の構造から流体の原理等を「理解」してもらえるようにプレゼンテーションを行った.図10は,そのプレゼンテーションの様子である.
図10 プレゼンテーションの様子
その後,特別講演を挟んでコンテストの結果発表があった.コンテストの結果は,『ドリーム賞』であった.参加を決めてから,構造を考え,装置を作成し,当日の発表まで苦労の連続だったが,『ドリーム賞』を受賞することができ,早水研究室のメンバ一同大喜びであった.
5.コンテスト後
コンテスト後,このピタゴラ装置は,米子高専の中学生向けのオープンキャンパスにて公開した.すべての原理を短時間で理解してもらうのは難しかったため,装置の動作する様子を見て動作を不思議に思い,流体現象に興味を持ってもらえればと考え公開した.装置の調整も行い公開した結果,装置が途中で止まることもほとんどなく,中学生の反応も上々であった.
6.最後に
スイッチから発生する流れがつながっていく様子から流れの不思議を発見し“流れ”に興味を持ってもらえれば良いと思い本装置を制作した.その結果,流れの仕組みを利用して,たくさんの方を楽しませる装置ができたと思う.
最後に本装置の作成にかかわった,米子高専早水研究室の皆様お疲れ様でした.
参考文献
(1) | http://f-dream2010.yz.yamagata-u.ac.jp/ |
(2) | http://www.nhk.or.jp/kids/program/pitagora.html |