ニューズレター

流れ 2014年12月号 目次

― 特集テーマ:2014年度年次大会 (2) ―

  1. 巻頭言
    (真田,横山,杵淵)
  2. 高クヌッセン数流れ(希薄気体流からマイクロ気体流れへ)
    新美智秀(名古屋大学)
  3. ワークショップ:先端熱流体計測の計算との連携を含む新展開
    早瀬敏幸(東北大学)
  4. 荷電ナノ粒子流の計測(イオン電流とトンネル電流)
    土井謙太郎,川野聡恭(大阪大学)
  5. 空力音源探査のためのファン表面圧力変動計測技術の開発
    飯田明由(豊橋技科大)
  6. プロセス・トモグラフィー法による血液循環流路内の血栓検出の可能性
    Sapkota Achyut,布施拓士(千葉大学),丸山修(産業技術総合研究所),武居昌宏(千葉大学)
  7. 最近の先端熱流体計測における高速度カメラの利用について
    桑原譲二(株式会社フォトロン)

 

空力音源探査のためのファン表面圧力変動計測技術の開発


飯田 明由
豊橋技術科学大学

 

 

1. はじめに

  風洞実験等で物体表面の圧力を計測する場合,模型に穴をあけてセンサや圧力計の配管を埋め込まなければなりません.実験の規模や予算にもよりますが,100個も200個もあけて実験することはまれで,16個もあけることができればよいほうです.特に回転体の圧力計測を行う場合は,スリップリングの容量の問題もあって,数点しか圧力センサを埋め込めこむことができない場合があります.頑張って実験を何度も繰り返して,測定位置を変えて実験データをとることもありますが,私が専門としている空力騒音の場合,音源である物体表面の圧力変動の位相が重要なこともあって,繰り返し実験では,目的とするデータをとれないこともあります.数値解析で物体表面の圧力分布のコンター図などを見ると計算はいいなと羨ましく思います.10年くらい前に東北大の浅井先生やJAXAの藤井先生から感圧塗料(Pressure-Sensitive Paint : PSP) (1)-(10)というものを教えてもらいました.すでに皆さんもよく知っておられるように,感圧塗料はルミネッセンス分子が紫外線を受けて発光する際,発光強度が紫外線の強さに比例し,周囲の酸素濃度に反比例する性質を利用した非接触の圧力計測技術です.ルミネッセンス分子を含んだ塗料を模型表面に塗り,その表面に紫外線を当てながら風洞実験を行うと,塗料内部に浸透する酸素濃度が圧力に比例するため,ルミネッセンス分子の発光強度を計測することにより模型表面の圧力の大きさ測定することができます.初めて,この技術を聞いたときに,世の中には頭のいい人がいるもんだなぁと感心しました.

  塗料ですから,物体表面に簡単に塗ることができます.写真撮影ですから2次元の計測データを得ることができます.これまでの圧力孔をあけていたのとは大きな違いです.圧力孔をあけて実験する場合は,圧力孔をどこにあけるか事前によく考える必要があります.でも,どこに孔をあければいいかは計測しないとわからないので,この問題は結構悩ましい問題です.どこに空けたらいいかわかるくらいなら,実験する必要がないのではと常々思っていました.その悩みから解放されるのではと,浅井先生と藤井先生に実験方法を教わりにいき,早速,自分でも実験してみることにしました.薬品を調合するためのビーカーやフラスコ,分析用電子天秤を購入して,なんとなく化け学系の実験室みたいな雰囲気になって楽しく実験を始めたことを覚えています.カメラは天体望遠鏡用の16ビットカメラを購入し,光源は秋葉原でLEDを400個購入して自作しました.まずは,何か測ってみようということで角柱周りの圧力分布を測定しました.感圧塗料の計測では実験時の温度変化に測定結果が依存するため,風洞は吸込み式(ファンを測定部の下流に取り付けた)の風洞を感圧塗料計測用に作成しました.そんな風にして始めた感圧塗料を用いた実験ですが,最初のうちは(今でも?)校正がうまくいかなかったり,データ整理が大変だったりとずいぶん苦労しました.それでも何とか解析のような圧力コンター図がかけるようになったので,最近はもともとの目標であった回転体(ファン)の圧力変動計測に取り組んでいます.今回は,その取り組みを紹介したいと思います.

 

2. ファン表面の圧力分布計測

先に示したように空力騒音の研究では圧力変動の位相が重要なことから,理想的には瞬時圧力場(面情報)の時間変動データを計測することが求められます.筆者が以前に行った円柱周りの圧力変動計測では,従来型の圧力センサを用いたため,瞬時圧力場の面情報を測定することが難しいので,圧力変動のスパン方向相関関数を求めて,位相情報をモデル化しました.感圧塗料を用いた計測は基本的に面計測ですので,従来の計測のようにモデル化をする必要がないという点で非常に魅力的です.しかし,実際に低速ファンに感圧塗料の技術を適用しようと試みてみるといろいろと難しい点がありました.感圧塗料の計測で強度法と呼ばれる方法では,発光強度と圧力の大きさを関連づけるスタン・ボルマーの関係式を用いますが,低速のファンの場合,発光強度が小さいこと,励起光源や塗料の塗りムラなどの影響を排除するため,実験前の画像(リファレンス画像)と実験中の画像(計測画像)の比をとって,各位置での発光強度と圧力の関係を正規化する必要があります.このため,ファンのような移動物体ではカメラと被写体の位置が変化するため,リファレンス画像との比を求めることが難しくなります.この問題を解決する方法の一つとして,ファンの回転と撮影を同期させ,カメラと被写体の位置が同じ条件になったときに撮影する位相平均法があります.しかし,空力騒音の計測では瞬時圧力場を測定したいので,できれば位相平均法は使いたくありません.位相平均法を使うなら,以前の圧力センサを埋め込む方法と本質的に変わらないからです.そこで,PIV計測でも用いられることがある像回転法をPSPに適用してみることにしました.

  像回転法とは,図1に示すように台形のプリズムを介して画像を撮影すると,カメラには被写体を反転させた画像が写るという性質を利用した撮影法です.被写体を固定した状態でプリズムをθだけ回転させると画像は2θだけ傾きます.このことから,被写体を角速度2ωで回転させ,プリズムをωで回転させると,カメラに映る画像は常に最初の状態(被写体をひっくり返した状態)となります.


Fig, 1 Principle of image rotating prism

  この方法を用いれば,少なくとも被写体とカメラ(正確にはCCD素子)との相対的な関係は常に一定となり,風洞中で静止している物体の計測と同等の条件になります.もちろん,実際には被写体は動いているため,被写体の各位置での光源の状態が常に一定でなければこの計測は成り立ちません(実際に,この光源と物体の関係を一定に保つことが非常に難しく,学生さんはこの対策にずっと苦労しています).冷静に考えるとあまりうまく行くとは言えない方法かもしれません.それでもこの方法であれば,瞬時圧力場の計測が可能となること,あまりスマートな方法でないので,誰もやっていないという面白さがあります(誰もやっていないのは,その研究が無駄だからというケースもありますが,なんでもかんでも効率第一の研究ばかりでは面白くありません.失敗しても学ぶことはたくさんありそうなので,この研究を続けています).

  学生に頼んで装置を作ってもらいました.図2に実験装置の概略図を示します.


Fig. 2 Schematics and picture of PSP System for moving object

  CCDカメラにはBITRAN BS-42 (16 bit,解像度2048×2048 pixel) を使用し,カメラのレンズにはPSP用には波長650 nm ±20 nm,TSP用には波長570 nm ±40 nm,のバンドパスフィルタを取り付け,周辺光の影響を排除しました.励起光源には紫外線LED (OptoSupply OSV5XME1C1E) 80個を使用し,ファンを取り囲むように配置しています.実は,先にも述べたように光源を均一にするのにすごく苦労しています.できるだけファンの周りに一様な光源を並べるため,LEDの数がどんどん増えていきました.まだ,完全に均一でないので,そのうちもっとLEDの数を増やすか,ファンと一緒にLEDを回すことになると思います.あるいは,有機ELをファンの表面に張り付けてファン自体を発光させたほうが良いかもしれません.一番苦労しているのはこの点ですので,もし,像回転プリズムを試してみたい方がいたら,発光するファンを回転させてみてください.

  さて,計測結果はどんな感じでしょうか.実験装置のところにも書きましたが,温度の影響が大きいため,感温塗料でファン表面の温度も測定し,補正を行っています.実験の前後で0.3度くらい温度が変化していました.

  図3にPSPで計測したファン表面の圧力分布とLES解析結果を示します.PSPによって得られた画像は,LES解析結果と同様に翼端前縁部分で圧力が低く,後縁に向かって圧力が回復していることがわかります.また,圧力変動の大きさは,翼の前縁 (x/C = 0.01) で大きく,翼の中央付近から後縁 (x/C = 0.4〜0.9)では,先端部の半分以下になっています.この傾向はLES解析と同様であり,また,ファン騒音の音源が翼前縁付近の圧力変動に起因するという知見とも定性的に一致します.残念ながら絶対値で比較するとPSP解析とLES解析は2倍以上も圧力が異なるので,定量的な評価はまだ行えていません.しかし,定性的とはいえ,回転するファンの瞬時圧力場をPSPで計測することができそうだということがわかりした.今後は,より定量的な計測が行えるように校正方法,励起方法を検討していきたいと思います.


(a) Experiment (PSP)            (b)Simulation (LES)
Fig. 3 Pressure distribution on the surface of fan blade measured by PSP 

 

4. 結言

  空力音源探査を目的として,像回転プリズムとPSPを用いたファン表面圧力変動計測技術の開発を行い,ファン表面の圧力変動を測定してみたところ,PSP計測の結果は,LES解析結果と定性的に一致することを確認することができました.定量的な評価を行うには解決すべき課題がたくさん残されていますが,像回転プリズムを用いたPSP計測手法は,空力騒音の音源計測に役立つのではないかと考えられます.今後,さらに改良して,定量的な計測が可能なシステムを開発していきたいと思います.

 なお,紙面の都合で,非定常PSPの技術については触れませんでしたが,本研究では非定常圧力変動計測に,東京農工大学亀田教授が開発したマイクロスラリーを用いたPSP(11,12)を使用しました.非定常PSP計測には一般に陽極酸化被膜を用いたPSPが利用されていますが,企業との共同研究の計測で実際の製品の圧力計測を行いたい場合,陽極酸化被膜を用いた実験は難しいことから,どうしようかと悩んでいたのですが,亀田先生の開発したマイクロスラリーPSPは通常の塗料と同じように利用することができます.学生と一緒にマイクロスラリーと白金ポロフィリンの分量を調整して非定常圧力計測ができたときは感動しました.ここに記して亀田先生に謝意を表します.また,感圧塗料の計測を始めるにあたり,東北大学浅井圭介先生,永井 大樹先生には薬品の調合から詳しく教えていただきました.宇宙航空研究開発機構 藤井孝藏先生にも温度・圧力同時計測手法,PSP処理ソフトSMAPの利用等,ご指導いただきました.ここに記して謝意を表します.

 

文   献

(1) J. H. Bell, E. T. Schairer, L. A. Hand, and R. D. Mehta, “Surface Pressure Measurements Using Luminescent Coatings”, Annual Review of Fluid Mechanics 33, 155–206 (2001).
(2) R. H. Engler, “360 Degree PSP System and Measurements”, the 8th PSP Workshop, NASA Langley Research Center, Hampton, VA, Oct. 16-19 (2000).
(3) Y. Le Sant, F. Bouvier, M.-C. Merienne, and J.-L. Peron, “Low Speed Tests using PSP at ONERA”, AIAA Paper No. 2001-0555 (2001).
(4) Kentaro Inoue, Shigeru Murata and Yohsuke Tanaka, “A Study of Performance Evaluation of Image Derotators for PIV”, The 12th International Conference on Fluid Control, Measurements, and Visualization, OS14-01-4II (2013).
(5) Thomas J. Juliano, Pradeep Kumar, Di Peng, James W. Gregory, Jim Crafton and Sergey Fonov, “Single-shot, lifetime-based pressure-sensitive paint for rotating blades”, Measurement Science and Technology 22, 085403 (2011).
(6) Gamal E. Khalil, Colin Costin, Jim Crafton, Grant Jones, Severin Grenoble, Martin Gouterman, James B. Callis, and Larry R. Dalton, “Dual luminophor pressure sensitive paint: I.Ratio of reference to sensor giving a small temperature dependency”, Sensors and Actuators B: Chemical 97, 13–21 (2004).
(7) Chr. Klein, W. E. Sachs, U. Henne, and J. Borbye, “Determination of transfer function of pressure-sensitive paint”, 48th AIAA Aerospace Sciences Meeting and Exhibit, Orlando, FL, AIAA Paper No. 2010-0309 (2010).
(8) Tianshu Liu, M. Guille, and J. P. Sullivan, “Accuracy of pressure-sensitive paint”, AIAA Journal 39, 103–112 (2001).
(9) T. Liu, and J. P. Sullivan, “Pressure and Temperature Sensitive Paints”, Springer, Berlin (2005).
(10) Y. Egami, K. Fujii, T. Takagi, Y. Matsuda, H. Yamaguchi, and T. Niimi, “Reduction of Temperature Effects in Pressure-Sensitive Paint Measurements”, AIAA Journal 51, 1779–1782 (2013).
(11) Masaharu Kameda, Norikazu Tezuka, Tomohiro Hangai, Keisuke Asai, Kazuyuki Nakakita, and Yutaka Amao, “Adsorptive pressure-sensitive coatings on porous anodized aluminum”, Measurement Science and Technology 15, 489–500 (2004).
(12) 亀田正治, 天尾豊, “セラミック超微粒子を用いた高速応答型感圧塗料”, セラミックス, Vol. 46, No. 7, 576–581 (2011).
更新日:2014.12.15