ニューズレター

流れ 2015年12月号 目次

― 特集テーマ:2015年度年次大会(その2) ―

  1. 巻頭言
    (竹村,杵淵,藤井,横山)
  2. CFDの流体システム設計への応用
    田中和博(九州工業大学)
  3. ワークショップ:機能性流体を基盤としたフロンティア流体工学への新展開
    高奈秀匡(東北大),西山秀哉(東北大)
  4. プラズマおよびイオン液体の環境・エネルギー技術への応用展開
    高奈秀匡(東北大)
  5. 電界共役流体のバイオエンジニアリング分野への展開
    竹村研治郎(慶應大)
  6. 磁気機能性流体を用いた革新的エネルギー変換・制御技術への応用展開
    岩本悠宏(同志社大)
  7. 電磁流体力学を応用した将来型エネルギー・航空宇宙技術
    藤野貴康(筑波大)

 

プラズマおよびイオン液体のエネルギー技術への応用展開


高奈 秀匡
東北大学流体科学研究所

 

1. 緒 言

  プラズマ流体は,熱プラズマと非平衡プラズマ(低温プラズマ)とに大別されます.近年,ガス温度が低いながらも大気圧下で高い化学反応性が得られる非平衡プラズマの機能性が注目されており,エネルギーおよび環境浄化,医療分野への応用研究が急速に進展しています.特に,エネルギー技術への応用に関しては,内燃機関における着火・燃焼促進に関する研究が進められており,非平衡プラズマによる着火・燃焼促進が希薄燃焼限界にブレークスルーをもたらす省エネ型新技術として期待されています(1-3)

  イオン液体は,室温で液体として存在することのできるカチオンとアニオンのみで構成される「塩」であり,高極性,高イオン伝導性,蒸気圧が極めて低い等の機能性を有する比較的新規な機能性液体です(4).この中でも液体でありながら揮発性がないという優れた機能性により,エネルギー分野においては,電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスにおける電解質として応用されてきています(5).また,静電スプレー現象を活用したコロイドスラスターに見られる宇宙推進器への応用(6)が開拓されています.

  ここでは,機能性流体であるプラズマ流やイオン液体を基盤としたエネルギーへの先進技術応用として,プラズマ燃焼促進およびイオン液体を用いた宇宙推進器応用に関する基礎および応用研究について紹介したいと思います.

 

2. 非平衡プラズマのエネルギー技術への応用展開

  近年,数十ナノ秒という極短時間に数十kV程度の直流高電圧をパルス的に印加することによる高圧下での反応性プラズマ生成法が着目され,プラズマ着火促進への先端応用に関する基礎研究が国際的に精力的に行われています.従来のスパークプラグに見られるような熱プラズマ(アーク)を利用した着火方式では,プラズマにより局所的な加熱が生じ,熱解離によるラジカル生成により燃料の酸化反応が促進され,混合気は局所的に着火します.一方,ナノパルス放電のような非平衡プラズマによる着火方式では,熱解離ではなく,プラズマ中における高エネルギー電子の衝突により高活性ラジカルや励起化学種,イオンが低温で生成され,これら反応性化学種により混合気の低温酸化反応が連鎖的に生じ,低エネルギーで着火に至ります.

  これまでの研究から,非平衡プラズマにより生成された10-1000 ppm程度の低濃度のラジカルにより混合気の低温酸化連鎖反応が生じ,希薄燃焼限界や予混合気の消炎限界が向上することが明らかとなっています.しかしながら,これまでの研究の多くは,大気圧以下の低圧下での実験が多く,シリンダ内における高温・高圧下での放電過程やラジカル生成過程などの基礎現象は十分に明らかにされていません.

  そこで,当量比0.5の空気・メタン予混合気を対象として,プラズマ化学反応モデルおよびプラズマ生成モデルを統合した解析モデルを構築し(1-3),図1に示すように,内燃機関の着火条件である,10気圧,600 Kの下で金属針電極間でのナノパルス放電により生成される高活性化学種の濃度分布を定量的に明らかにしました(2).さらに,本数値計算により,放電により生成されたラジカルにより,着火遅れが88%改善するという明確な着火促進効果が示されました(2) (図2).


Fig. 1  Distributions of O(3P), CH3, O3 and NO at t = 24.6 ns.


Fig.2  Time evolutions of gas temperature with or without nanosecond pulsed discharge.

 

3. イオン液体のエネルギー技術への応用展開

  微小細管にイオン液体を供給し,細管と対向電極間に直流高電圧を印加することで,微小細管先端より高速の微細液滴が連続的に発生します.本方式により,真空中においても帯電微小液滴を連続的かつ収束性良く噴霧させることが可能であることから,近年,放出されたイオン液滴を静電加速することで推力を得る宇宙推進機への革新的応用が期待されています(6).しかし,高い電気伝導性を有し,高粘度のイオン液体を用いた際の静電噴霧過程は十分に明らかになっておらず,静電噴霧における高効率化の上では詳細な解析が強く求められています.

  そこで,基礎特性として高速度カメラによる可視化解析を行い,直流高電圧を印加した際のイオン液体を用いた静電噴霧の形成過程を明らかにしました.さらに,印加電圧に対する液滴径および液滴放出周波数への影響を解析し,基礎特性を実験的に明らかにしました.イオン液体として1-Ethyl-3-methylimidazolium ethyl sulfate(C8H16O2S)を用い,内径0.1 mm,外形0.5 mmの細管に供給しています.図3に示すように,5.2 kVを印加すると,界面に作用する静電気量が表面張力よりも大きいため,テイラーコーンと呼ばれる円錐状界面が形成され,テイラーコーン先端から伸長する液柱が分裂することにより,微小液滴が周期的に噴出します.さらに,図4に示すように,印加電圧により2種類の噴霧形態が存在し,5.2 kV以上の電圧を印加すると,200 µm以下の液滴が生成される霧状噴霧に移行します.霧状噴霧においては,供給流量の減少に伴い,液滴径が減少し,液滴速度が増加することが明らかとなりました.


Fig. 3  Visualization of electrospray process for applied voltage of -5.2 kV.


Fig. 4  Correlation between ejected droplet velocity and diameter for various applied voltage and flow rate.

 

4. 結 言

  プラズマのエネルギー分野への先端応用として,ナノパルス放電による高圧・高温下における着火促進について紹介しました.さらに,新規の機能性液体として注目されているイオン液体のエネルギー分野への応用として,静電噴霧を利用した宇宙推進器への応用展開について紹介するとともに,その基礎特性を示しました.反応性プラズマおよびイオン液体は,応用の裾野が拡大しつつあり,異分野とが融合することにより,学際的な研究を展開し,新たな学術領域を創出することが期待できます.また,反応性プラズマ,もしくはイオン液体の優れた機能性を従来技術に重畳することにより,従来の環境・エネルギー技術にブレークをもたらす革新的技術として展開していくことが強く期待されます.

 

文   献

(1) Tanaka, H., and Nishiyama, H., “Numerical Simulation of Nanosecond Pulsed DBD in Lean Methane-air Mixture for Typical Conditions in Internal Engines”, Plasma Sources Science and Technology, Vol. 23, No. 3 (2014), 034001 (9 pp).
(2) Tanaka, H., Adamovich, I-V., and Nishiyama, H., “Computational Simulation of Nanosecond Pulsed Discharge for Plasma Assisted Ignition”, Journal of Physics: Conference Series, Vol. 550, No.1 (2014), 012051 (9 pp).
(3) 高奈秀匡,西山秀哉,“内燃機関燃焼促進のための極短時間パルスDBD放電構造解析とエネルギー効率評価”,日本機械学会論文集 (B編),第79巻801号,1005-1015頁,(2013).
(4) 大野弘幸 監修,“イオン液体の開発と展望”,シーエムシー出版,(2003).
(5) Zhao, H., “Diffuse-charge dynamics of ionic liquids in electrochemical systems”, Physical Review E, Vol. 84 (2011), 051504 (10 pp).
(6) Lozano, P., Martínez-Sánchez, M., Lopez-Urdiales, J-M, “Electrospray emission from nonwetting flat dielectric surfaces”, Journal of Colloid and Interface Science, Vol. 276 (2004), pp. 392-399.
更新日:2015.12.15