流れ 2004年4月号 目次
― 特集:流れの制御とものづくり ―
― 研究会報告:研究会の動向 ―
― 失敗から学ぶ成功への秘訣 ―
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攪乱を用いた円管内乱流の操縦による機械の省エネルギ化
広島工業大学工学部 知能機械工学科講師 宇都宮浩司 |
1.はじめに
機械工学分野では「熱や位置エネルギから仕事への変換は99%が流体を介してなされる」[1]と言われており,「ものづくり」においては装置の省エネルギ化,小型化や性能向上を考える場合には乱流制御を含む流れの挙動の詳細な資料が必要となる.特に摩擦抵抗やエネルギ損失の低減は重要であり,近年は知的な乱流の制御と操縦[2][3]に関する研究がなされ[4][5]ている.しかしながら,乱流制御に関する研究の多くは外部流であり,内部流での研究は不足している.その一方で,内部流れは流体機械や管路設計は勿論,多くの機械で利用され,内部流中の撹乱物体による圧力損失の正確な評価,更には例えば伝熱特性との関係の評価が産業上要求されるものの,系統的なデータはまだ不足しているのが実情である.そこで,内部流中に設置された撹乱により変形した流れの平衡流への緩和過程と撹乱による操縦の可能性を調査するために,十分発達した円管内乱流中に単独撹乱リングを設置し,その背後の流れを調査(平均流場[6],乱流場[7]及び3重速度相関[8])した.
2.実験装置 及び測定方法
実験に用いた供試円管は直径約100mm,管長約14mのアクリル製で,実験装置の概略,使用記号及び座標系を図1に示す.主要記号は管直径;D,断面平均速度;Ua ,管中心速度;Uc であり,座標系はMR前縁端より流れ方向にXo 、管内壁から管中心方向へyである.
実験は,管径レイノルズ数がRe=6.2× の一定(断面平均速度Ua は約9m/s)で行った.また撹乱リング(MRと略記)は高さh及び幅w共に7mmの正方形断面(hと管半径Rの比はh/R=0.14)である.このMRを十分発達した位置の内壁面に設置した.
図1 実験装置の概略
3.主な実験結果
平均速度[6],乱流場[7],及び3重速度相関[8]の分布の流れ方向変化を詳細に測定し,緩和過程や撹乱に対する流れの応答を調査した.詳細は各論文で述べているが,撹乱背後で流れ場は大きく変化,その影響は下流まで長く残る.従って撹乱背後には整流機構を設置する等の工夫が必要になる.図2に管軸中心の速度Uc と流れ方向乱れ強さurmsの流れ方向変化(Ua で無次元化,下添字c は管中心位置)を示す.十分発達した流れの回復には60直径もの距離を有する.また,両者で応答差(最大値をとる位置や最小値を取る位置にずれ)があり,平均流場の調査だけでは不十分である.以上のように,攪乱を用いた流れの制御では,その下流への影響を十分に考慮する必要がある.
図2 中心線上の平均速度と乱れ強さ
次に剥離せん断層の特徴を見てみる.図3に再付着位置のレイノルズせん断応力分布を外部流中の撹乱背後の流れの再付着点近傍の分布と比較して示す.図中のUo は主流速度(本研究ではUc )を表す.ステップ流(downward的撹乱)の場合ピーク値をとる位置はy/h≦1,垂直平板やシェルターベルトを越える流れ(upstanding的撹乱)の場合y/h>1であるのに対し,本流れはピーク値をとる位置はy/h=1に近いが,剥離せん断層の幅は広く,両者の中間的性質を示す.従って,このような攪乱による乱流制御は可能と考えられ,制御には剥離せん断層の性質が重要になる.但し,高いせん断応力の存在はエネルギ損失の理由となるため,制御のために流れ場に人為的に撹乱を導入する場合は,十分に考慮すべきである.次に,レイノルズせん断応力のピーク値とそれを取る位置の流れ方向変化について,外部流中の撹乱背後の流れと比較して図4に示す.ピーク値は本流れ場はステップ流の場合より高くupstanding的撹乱の場合より低い位置であり両者の中間的性質を示す.即ち,内部流の場合は例えば「機械工学便覧」[9]等にある外部流の資料はそのまま利用できない.この理由の一つには,外部流中の撹乱の場合と異なり再付着位置以降も逆圧力勾配が続く事が考えられる.この様な逆圧力勾配は大きなエネルギ損失の原因となるため,撹乱による乱流制御を考える場合には,その前後の圧力勾配に留意する必要があり,更に流れの加減速や撹乱背後の渦構造等も配慮して撹乱形状を決定することが望ましい.
図3 再付着点近傍のレイノルズせん断応力
4.まとめ
攪乱を受けた流れの緩和過程の詳細な計測は,これまで内部流では報告されてなかった.内部流の制御の基礎資料として,本研究で得られた知見[10]は,撹乱の影響の程度と領域や流れ場の再調整過程の評価,内部流と外部流の差異の明確化等を通じて,幅広くより高級な「ものづくり」に利用される.即ち,機械の性能向上,装置の高機能化と小型化,抵抗損失の低減(必要動力の低減),コスト対策や省資源化・省エネルギ化等の観点から,機械設計やものづくりへの乱流制御の応用に必要な情報の提供ができたと思われる.工業上の応用例としては,1)オリフィス周りの流れ(正確な流量計測方法と騒音防止 ),2)各種配管(圧力損失の推定、抵抗損失の減少、管路の保守(清掃作業)の目安),3)高性能の熱交換器(抵抗体を用いた伝熱特性の向上,フィン周りの流れ),4)乱れ生成体背後の乱流制御(乱流混合の促進や平衡流への発達促進),5)その他(反応促進,乱流混合,化学工学や土木工学への適用)等が考えられる.
図4 剥離せん断層の特徴
文献[1]妹尾泰利,内部流れ学と流体機械,(養賢堂,1982)
[2]笠木伸英,鈴木雄二,深潟康二,パリティ,18-2(2003),20-26.
[3]Gad-el-Hak, M., Appl. Mech. Rev., ASME, 49-7, (1996), 365-379.
[4]Bandyopadhyay,P.R., Trans. ASME, J. Fluids Eng., 108(1986),127-139.
[5]大坂英雄,機論,63-605,B(1997),2-8
[6]西茂夫・宇都宮浩司・大坂英雄,機論,61-586,B(1995),2037-2044.
[7]宇都宮浩司・西茂夫・大坂英雄,機論,64-620,B(1998),1000-1007.
[8]宇都宮浩司・西茂夫・中西助次・大坂英雄,機論,68-666,B(2002),393-400.
[9]機械工学便覧 基礎編 A5 流体工学(1986).
[10]宇都宮浩司・西茂夫・中西助次 ,機械設計,47-4,(2003)47-50.