流れ 2016年2月号 目次
― 特集テーマ:流体工学部門講演会 ―
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流れの夢コンテストを通して
服部 秀平
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1.はじめに
私たちはチーム名「LCS×皐月」として,東京理科大学金町キャンパスで行われた第14回流れの夢コンテストに参加した.LCSとは,東京大学大学院低炭素工学システム学講座(Low Carbon System)のことであり,皐月は修士2年の服部秀平先輩と,私修士1年の江森郁麻との唯一の共通点が5月(皐月)生まれであったということから,このようなチーム名となった.
本稿では,この2人が作品考案から制作,コンテストに参加し最優秀賞を受賞するまでの経緯を記したい.
2.参加のきっかけ
きっかけは,今年(2015年)の4月にLCS准教授である染矢聡先生から流れの夢コンテストのお話を伺ったことからであった.私は「流体工学の新しい展開を図るため,技術者・研究者を目指す若い学生を対象として,流れに関する知恵を駆使してテーマを達成するアイデアと技術力を競い合い,製作された作品とそのプレゼンテーションで審査・表彰する.」というコンテストの趣旨に,興味を持つと同時に多少の焦りも感じた.なぜなら,例年常連校が多い中で東京大学大学院からは流れの夢コンテスト初参加であり,右も左も分からない状況であったためだ.しかし,参加するからには,ありきたりな作品ではなく独自な作品で見る人を感動させる作品を作りたいという想いが強くあり,この意思が固かったことが今でも言える.
こうして,流れの夢コンテストへの挑戦が始まった.
3.コンテストのテーマと作品のコンセプト
今回のコンテストのテーマは「和を広げる癒し・福祉」であり,私たちのチームは和を広げる癒しに重点を置いた作品を制作することを決めた.そこで,泡と照明を合わせた作品を考案したが,何か物足りない感じがした.突然だが,流体を利用した和の癒しを感じるものといえば,何が思い浮かぶだろうか.鹿威し,風鈴,水琴窟など沢山挙がるが,どれも見た目の癒しだけではなく音による癒しの効果があると分かる.そこで,私たちは「見て聞いて楽しむあかり」をコンセプトに,作品に音の要素を加えることにし,作品タイトルを「ミュージック・泡~Music hour~」とした.お気づきの方もいるかもしれないが,「泡」と「hour」をかけたものとなっている.泡の動きを見ながら音楽に耳を傾ける,そんな癒しのひととき(hour)をこの作品から感じて欲しいと思い,このようなタイトルに決定した.
4.ミュージック・泡~Music hour~の外形
まず初めに,灯りを囲う当作品の外形について述べていく.灯りには私たちの生活の空間を明るくするだけでなく,人の心を暖かくし,癒しを与えてくれる効果もある.そこで,電球による眩しさを抑え,「点」からなる光源を「面」に変える間接照明に着目し,日本の伝統的な照明具である行灯をモチーフとした外形とし,Fig.1に示すように周りには開催時期である11月に合った装飾を施した.
Fig.1 Appearance of “Music Awa ~Music hour~”
5.見て楽しむ灯りを
一般的な行灯の中には,ロウソクや電球のみであるが,当作品には照明器具としての電球以外にも多くの装置とギミックが施されている.見て楽しむ灯りとしては、まるで泡が浮き沈みしているかのような,油球が浮き沈みを繰り返す装置を作成した.ガラス瓶の中には,オレンジ色に着色したベンジルアルコール(C6H5CH2OH)と無色透明の食塩水と2種類の液体が入っている.ベンジルアルコールの特徴は,油性インクなどに用いられており,水溶性が低く食塩水には溶けにくい液体となっている.また,ベンジルアルコールの比重は25℃において1.04 kg/Lと食塩水に比べて若干比重が大きく,食塩水の下に沈む.ここで,この2種類の液体が入った瓶の下に行灯の灯りとなる白熱球を設置し,白熱球から発生する熱を利用して瓶の底を温められるようにした.すると,光源の放熱で温められたベンジルアルコールが,Fig.2に示すように食塩水の比重より小さくなることにより浮上する.そして浮上したベンジルアルコールは,熱源から遠ざかることにより冷やされて比重が食塩水より大きい状態に戻り,沈んでいく.この流れを繰り返す仕組みとなった.
Fig.2 It looks like a floating oil bead rises
6.聞いて楽しむ灯りを
ミュージック・泡~Music hour~というタイトル名の通り,行灯の中に音楽が流れる装置としてレーザーハープを作成した.レーザーハープとは,レーザーポインタのレーザー光を弦に見立て,そのレーザー光を弾く(遮る)ことによって,音源を鳴らす装置である.マイコンボードであるArduinoを用いた,レーザーハープの設計図をFig.3に示す.Fig.3に示すCdsセルが光センサの役目となっており,Fig.4に示すように側面に取り付けた光センサの向かい側には,瓶を貫通してCdsセルにレーザーが常に当たるようにレーザーポインタを設置した.このようにすることで,先ほどのベンジルアルコールが浮沈する際,ベンジルアルコールがレーザーに当たり,レーザーが屈折し,Cdsセルに当たるレーザー光を一時的に遮ったときに音楽が流れる仕組みとなっている.今回,流れの夢コンテストの開催時期が11月であったため,秋の童謡「紅葉(もみじ)」が流れるようにレーザーハープを作成した.
Fig.3 A design of Laser Harp
Fig.4 Laser Harp system
7.夢コンに参加して
午前のプレゼンも無事に終わり,問題は午後の実演であった.なぜならこのミュージック・泡~Music hour~,食塩水の濃度やレーザーハープの調整を繰り返して完成したのがコンテストの前日20時頃であったためだ.当日はレーザーハープから音楽が流れることの再確認,またベンジルアルコールと食塩水の比重が逆転する温度が60℃辺りであったので,昼休憩に電球を点けて,予め液体の温度を上昇させた.その調整もあり,実演開始時間には,Fig.5に示すようなベンジルアルコールの浮沈と,浮沈をトリガーとしたレーザーハープからの音楽を,多くの方々にお見せすることが出来た.当作品をご覧になり,癒しを感じて下さる方や,作品の仕組みについて興味を持って頂いた方,中にはスマートフォンで動画を撮影する方もいらっしゃり,ここまで至るのに大変ではあったが,妥協せずに作品をこだわった甲斐があったと実感した.
Fig.5 Music Awa ~Music hour~
7.おわりに
このような貴重な経験をすることが出来たのは,第14回流れの夢コンテスト実行委員長の亀谷雄樹様をはじめとした,実行委員の方々,そして協賛企業の方々のご尽力のおかげです.
また,最優秀賞という大変名誉の有る賞を頂けたのは,第一にLCSの皆様のご支援があったからだと言える.その上で,高い美術力を駆使して作品制作を取り組んで頂いた服部先輩と,私のデザインに妥協しない粘り強さが,色濃く反映した作品を制作することが出来たと思う.
最後に,このような機会を与えて下さったLCSの染矢先生,いつでも相談に応じてくれた先生方,先輩方,そして同期の皆様に,この場をお借りして深くお礼申し上げます.