流れ 2000年11月号 目次
― 特集 自然エネルギー ―
― 研究会紹介 ―
― 海外研究動向 ―
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ネパール・ブジュン村の極小水力発電所建設
▲前徳島ネパール友好協会会長 |
1996年2月徳島ネパール友好協会が設立されて,ネパール 国ラムジュン地区ブジュン村に極小水力発電所を建設するため の援助活動が正式に発足した.あれからもう4年半,1999年12 月3日のネパール国第二皇太子ご臨席の発電所前での完成式か らでも,はや10ケ月,月日の過ぎるのは非常に早く感じられる.
ヒマラヤ!,ヒマラヤ!. かって40年前,山に憧れた男 が夢見た憧れの地.当時は,ほんの一握りの山男のみしかヒマ ラヤの地を踏めなかった.しかし最近は,もう世界の観光地に 飽き,かつ山に少しは興味ある先進国の人達が非常に簡単にネ パールに入国し,約1週間のヒマラヤ・トレッキングを楽しんでいる.
我々が地球温暖化・地球環境保全や開発途上国援助を議論している時,ヒマラヤの麓の村人には電気が無いのだ.現在で も,まだ電気の無い村はたくさん残っている.ネパールで電気 を使用しているのは,全人口の13%にしか過ぎない.村の人 口は増え,田畑は広げざるを得ず,炊事・暖房に使用する薪の ため多くの森林が伐採されている.国連の開発計画によれば, 「ヒマラヤ地区の森林が減少.ネパールは世界で唯一女性の平均寿命が男性より短い国である」事が明らかにされている. 神々の山といわれるヒマラヤの麓では,赤茶色の段々畑が山肌 を覆い,そこから発する川は土砂に埋め尽くされている. ネ パールでは,エネルギーの95%を森林に依存し,20年前に国 土の64%あった森林が今や37%に激減している.そして特に トレッカーが多い地域では,食事のみならず,暖房やシャワーの為に多くの木々が伐採されているのが現状である.
我々日本の中でも小さな県のNGOグループは,KMTNC (King Mahendre Trust
For Nature Conservationというネパールの自然環境保護組織)と共に80kWの発電所を建設し,なんとか電気の無いヒマラヤの麓の小さな村に灯をともした.この事により,年間約1200トンの木材資源が節約され,これまで
木材伐採に要した労働力が削減されるだろう.特に女性や子供 達が薪運びや囲炉裏作業から開放され,健康・教育環境も大幅 に改善されることが期待される.私は,電灯の下で一生懸命に
勉強している少年少女達の姿が目に浮かびます.個人的には, 私は「国際援助とは,かわいそうだから物をあげるという物質 的ではなく,将来のため,子供達の教育に関する援助」が非常に重要だと思われる.
1. 発電所の概要
(1)水源・取水口・導水路
極小水力計画の水源は,ミディコーラである.この川の集水 面積は,水取入口で約50km2である.この川の水量は,雨 期(6月~9月)と乾期(10月~5月)とで,最大で約20倍の違いが ある.そこで,水車の流量は,乾期の最小水量の約1/3である Q=0.150m3/sと設定した.取水ダムは金網に丸石を包み込ん だ蛇籠ダムとした.この形式は,雨期に増水してダムが流されても村民が容易に修理できるためである.導水管は,長さ約 1700m,直径400mmの塩ビ管を畑の地下1mに埋設し,途中の小川では石積のアーチ橋の上に置いた.
(2)沈砂池・灌漑水路・水槽
取水口後方には,巾1.5m,長さ2mの沈砂池を設置し,岩石, 木材,木の葉を取り除く.また管路の途中には,畑の灌漑水の分配池を設置した.発電所手前の丘に,水槽を設置し,オー バーフロー用の余水路を付けた.
(3)水圧管
総落差102mの水圧管は,全長約760m,直径285mmから 300mmのスチール管を2.0mから2.5mおきに溶接し,15ヶ所 のコンクリート台の上に設置した.途中に数カ所自在継手を設けてある.ここからの水漏れも問題である.
(4)水車
水車は,ピッチサークル0.4mの横軸2射ペルトン水車(図 1)をネパールBYS社で製作した.バケット形状は古いが,ニー
ドルバルブとディフレクターも付いている.回転数は900rpm で発電機とは平ベルトで連結されている.平ベルトは修理が現 地で可能のためである.このような皮製の平ベルトはスイス製のものが一般的であるとの事である.
▲図1 横軸2射ペルトン水車 |
(5)発電機・制御器
発電機は,回転数1500rpm,50Hz,三相400V,128kVA Brushlessを設置.水車からプーリで増速されている.制御は, 放水路に浸してある外部ヒータ(5kW×16個)を使用した. もし送電線が切れても,ヒータで水を温めるため,ゆっくりと バルブを閉めることが可能である.
(6)変圧器・送電線
発電所で11,000Vに昇圧されて,約1.5kmの送電線で二方向
(二ケ所の部落)に送電し,380V(動力)と220V(電灯)に降 圧して地下埋設管で配電した.(7)配線 220Vの配線は,大部分石畳道の地下に埋め各家庭まで配電
された.屋内配線技術は,村の若者を徳島からのボランティア が教育した.照明には蛍光灯を多用した.
2. 工事
ブジュン村は,標高約2000m,発電所は1500m,3000から
4000m級の山に囲まれた村である.自動車道(ベシ・サハール) から,我々で,徒歩8時間かかる.この道を,50から60kgの 荷物に分けて,溶接器(旧式)やパイプを分解,切断して人の背で運び,また現地で溶接や組み立てを行った.発電機と変圧
器はヘリコプターで空輸した.工事用のダイナマイトが盗まれたり,警官が襲われたりして,工事は予定より1年以上遅れた. ブルドーザも無く,砂利や砂もハンマーだけで岩を砕いて作る.まあ日本では考えられない工事であった.
3. 効率
管内損失を多少多めにみて,全効率を60%として,80kWの 発電を計画した.しかし,管の溶接のブリードとか管接続部のせり出しが,計画より10mmも大きく,現在60kWしか発電できていない.この乾期にパイプの取り替えを行い,75kWの発
電をめざしている.
4. 今後の問題
我々が長年完成を待ち望んだこの新しい水力発電所をようや く完成させました. しかし我々は今後この発電所を維持して行かねばなりません.これは,開発途上国援助では非常に重要
な事でありますが,我々にとっては困難な事であります.しか し,やらねば成らないことです.これが心のこもった真の援助 であると思います.
今回の水力発電所建設で,多くのネパールの方々とお会いして意見を交換する事は非常に幸せな事でありました.お互いの 国際理解を深めながら,大いに成長し,発展して行く事を期待
しています.そして“ヒマラヤに灯を燈す”ことが,今後の両 国の友好と平和への掛け橋と成ることを希望いたします.最後 になりましたが,会員の皆様,またご援助を賜りました多くの
方々また多くの会社に深く感謝いたします. ありがとうございました.
▲写真1: 大地の畑に刻まれた送水管用掘削
▲写真2: 完成式に集まった村民と水力発電所
更新日:2000.11