流れの読み物

Home > 流れの読み物 > ニュースレター > 2000年11月号

流れ 2000年11月号 目次

― 特集 自然エネルギー ―

  1. ネパール・ブジュン村の極小水力発電所建設
    (中瀬 敬之 前徳島ネパール友好協会会長,徳島大学工学部)
  2. 急進展する風力発電 陸から海へ
    (牛山 泉 足利工業大学)

― 研究会紹介 ―

  1. 研究会紹介 : 「新エネルギー研究会」が発足
    (林 農 新エネルギー研究会 主査,鳥取大学工学部)

― 海外研究動向 ―

  1. : ライス大学滞在記
    (野々下 知泰 上智大学)
  2. 海外研究動向 : Imperial College...そしてパブ
    (川添 博光 鳥取大学)

― 開催行事報告 ―

  1. : 風に負けるな,水を超えろ! 第6回 流れと遊ぶアイデアコンテスト
    (石綿 良三 神奈川大学システムデザイン工学科)

 

  1. 第78期流体工学部門講演会報告
    (実行委員長 杉山 弘 室蘭工業大学)
  2. 78期流体工学部門賞の選考と授与
    (総務委員会委員長 重河 和夫 ㈱神戸製鋼所)
  3. 学生の欄 : 実験流体力学トークインに参加して
    (細野 晃裕 岐阜大学大学院工学研究科)
  4. 開催予定行事案内
  5. 広報委員会からのお知らせ

 

急進展する風力発電 陸から海へ

牛山 泉
(足利工業大学)

風力発電導入の現状

 最近,国内外での風力発電の導入が急進展している.2000年 9月現在,世界の風力発電の総設備容量は約1,510万kWであ り,大型火力発電や原子力発電のおよそ15基分が風力発電で 賄われていることになる.さらに,今後10年間にその規模は ほぼ5倍に増大するものと予想されている.風力発電の導入ナ ンバーワンはドイツで500万kW,2位はアメリカで251万kW, そして3位のデンマークは200万kWながら国内総発電量の9 %を風力発電でまかなっている.
 一方,わが国は2000年9月現在,設備容量10万kWで世界 の15位に過ぎないが,1990年代中期以降NEDO(新エネルギー 産業技術総合開発機構)の助成制度などにより急ピッチで導入 が進められている.
 風力発電機は,過去10年ほどの間に風車専用翼型や可変速 同期発電機の開発など著しい技術革新があり,運転経験を踏ま えた雷撃対策などにより信頼性が高まったことから,商用風力 発電の稼働率は90%を超え,大型風車を集中立地させている ウィンドファームの設備利用率は25-35%と高くなってい る.また,経済性の追求により,風車の大型化が進み,最近で は直径60mを超える出力1000kW以上の商用風力発電機も多 数設置されている.さらに,ドイツではオフショア風力発電専 用機を開発中で,直径100mを超える4MWの超大型機が2000 年末にはその巨大な姿を現すことになっている.さらに,風車 の設置場所も,従来の平坦な沿岸地帯のみでなく,山岳地帯や 浅海沖合いへと,そのサイトを拡大しつつある.そして,風況 に恵まれたサイトでの発電コストは10円/kWhを切り,火力 発電と肩を並べるまでになっている.

風力発電の環境負荷低減効果

 風力は「環境にやさしいエネルギー源」であり,欧米におけ る風力発電の大規模な導入の根拠もまさにここにあるといえ る.現時点での最新鋭機の一つ,デンマーク製の660kW機を, 年平均風速7m/sのサイトに設置すると,年間発電量185万 kWhを期待できる.これと同じ電力量を石炭焚き火力発電に より得ようとすると,SO2:5.3トン,NOx:4.8トン,CO2 :1,572トン,そしてスラグや灰を102トン発生することになる. つまり,風力発電の導入により,環境負荷を大きく低減できる わけである.このように,風力や太陽光など再生可能エネル ギーと火力発電などとのコスト比較では,「環境コスト」とい う視点が重要なのである.

オフショア風力発電

 欧州では陸上での設置場所が限られていることや,景観や騒 音などの問題から,風車を沿岸部の沖合いに設置するオフショ ア風力発電が始まっている.1997年にデンマーク政府は2030 年までに400万kWのオフショア風力発電を設置すると発表し ているが,オランダ,スウェーデン,ドイツでも実証研究が始 まっている.
 洋上では,陸上と比較して,風の乱流強度や高度に対する風 速勾配も小さいのが特徴である.また,洋上では騒音問題は軽 減されるものの,その反面,塩害対策が必要になる.オフショ ア風力発電の最大の課題は沖合での基礎および設置工事である が,北海は洋上油田の技術的ノウハウの宝庫であり,その技術 を活用することができる.
 一方,日本の海岸線は34,000kmにも達する世界でも有数の 長さを持つ海洋国であり,オフショア風力発電の設置場所は十 分にある.筆者らの試算では沿岸の1kmの幅を考えるだけで も,NEDOの風況マップに基づいてつくられた陸上での風車 設置シナリオの10倍以上の風車の設置が可能となる.しかし, 北海と比較して日本の沿岸海域は水深が深くなることからタ ワー設置方法の工夫,フローティング形式の検討などが必要で ある.しかし,わが国には海上構築物や造船の技術もノウハウ もあることから,日本型オフショア風力発電システムの開発が 期待されている.

風力発電の将来

  現在,わが国においては通産省のニューサンシャイン計画の 下に風力開発が進められており,その一環である「離島用風力 発電システム等技術開発」の100kW級の風車は,富士重工業 が世界の最先端を行く新鋭機を開発中であり,これと並行して 開発中であった美しいデザインの40kW級中規模風車も既に完 成している.
 世界的に風力発電が急進展する中で,わが国の風力発電設備 容量は世界全体のわずか0.5%に過ぎない.地球環境の時代に あって,いま,COP3の議長国でもあった,わが国の風力発電 導入の量的な拡大と風力関連の新技術の開発による国際貢献が 待たれているのである.

連絡先: E-mail: ushiyama@ashitech.ac.jp


▲写真1
スウェーデンのオフショア風力発電(北海)

▲写真2
国産最大の1MW風車
(室蘭・三菱重工製)
更新日:2000.11