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流れ 2007年8月号 目次

― 流体と騒音:汎用ソフトウェア特集 ―

  1. ANSYS社が提供する最新FSIテクノロジー
    一宅 透(アンシス)
  2. CD-adapcoの最新CFD技術のご紹介
    ~“次世代”汎用熱流体解析プログラムSTAR-CCM+~
    中嶋 達也(シーディー・アダプコ・ジャパン)
  3. オープンソースCFD:OpenFOAMの紹介
    田中 太(福井大学工学部)
  4. 文科省IT基盤構築のための研究開発「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発」
    - マルチフィジックス流体シミュレーション・システムFrontFlow -
    大島 伸行(北海道大学大学院 工学研究科)
  5. 流体騒音解析ソフトウェアCAA++ ~非線形音響ソルバによる流体騒音の数値予測~
    毛利 昌康(ディライト)
  6. 編集後記
       池田 浩(東芝)、岩佐 能孝(IHI)、岡 新一(C&I)

 

文科省IT基盤構築のための研究開発「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発」
- マルチフィジックス流体シミュレーション・システムFrontFlow -


大島伸行
北海道大学

加藤千幸
東京大学

張会来
アドバンスソフト (株)

マルチフィジックス流体シミュレーションシステム ”FrontFlow” の概要

 流体シミュレーション研究の一つの大きな壁であった 乱流予測モデリング に関して大きなブレイクスルーが為されつつある。すなわち、膨大な演算量を必要とする原理方程式に基づく乱流の直接数値シミュレーション( DNS: Direct Navier-Stokes Simulation )が実際に実行され、乱流研究に多くの知見を与えたことにある。数値実験として DNS の有用性が広く認識され、また、その近似解析モデルといえる ラージ・エディ・シミュレーション LES : Large Eddy Simulation )が開発されたことで、乱流数値シミュレーションを本格的に工学問題に適用していくことが可能となってきた。 従来、時間平均解析が主であった工学乱流場の予測に対して、ラージ・エディ・シミュレーション( LES )法を基礎とする非定常解析法の実用化を図ることで、複雑な乱流現象を含む工学的な流体問題に対しても高精度、汎用的な CAE ツールの実現が期待されている。

 そこで、 文部科学省IT基盤構築のための研究開発 「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発」の一環として マルチフィジックス流体シミュレーションシステム FrontFlow の開発が進められている。 FrontFlow では、 LES 法に基づいた 1億格子点相当の非定常流れ数値計算を実現することで、たとえば、機器開発においては CAD データと同程度の解像精度をもった流れ場の予測と先行設計、さらには、流れの非定常性の適切なモデル化によって、従来予測設計の困難であった複雑系の問題 -特に、動力・エネルギー機器の設計において多くの応用ニーズがある燃焼流・混相流、および、車両・ターボ機械・建築構造などに重要な流体音や流れ・構造干渉- などの数値予測法の実用化を目指す。その 期待される代表的な対象には、 1) 熱エネルギー流動、 2) 流体騒音/流体振動、 3) 複雑な流体現象( ex. 混相流、反応流など) が挙げられる。

 LES に基づく非定常乱流解析は、これらの最近の工学設計における共通の課題に対して、より普遍的、汎用的な予測法を提供し、新しい課題に対しての先行的な技術開発を可能にすることが期待される。 そこで、 FrontFlow は 解析ソフトウェアや検証データベースの利用に際して、無償公開を原則とすることで速やかな産業界への適用をはかり、デファクトスタンダードの確立を目指している。

 以下では本システムの現在公開されている主要な解析ソフトウェア FrontFlow-blue および -red の機能特徴と代表的な解析事例を紹介する。なお、ソフトウェアおよび詳細資料が WEB サイト http://www.rss21.iis.u-tokyo.ac.jp にてダウンロード向け公開されているので、ご関心の方は参照されたい。

コード名 FrontFlow-blue version 5.0
キーワード LES 、有限要素法、流体機械、流体音
開発者 加藤千幸 ( 東京大学生産技術研究所 )

作成年月 2007 年 3 月
使用言語 Fortran77

 

コード名 FrontFlow-red version 3.0
キーワード LES 、有限体積法、燃焼、熱連成
開発者 大島伸行(北大)、張会来(アドバンスソフト)、坪倉誠(電通大)ほか

作成年月 2007 年 4 月
使用言語 Fortran90

 

汎用流体解析コード  FrontFlow-blue version 5.0

 FrontFlow-blueは非圧縮流体の非定常流動を高精度に予測可能なLarge Eddy Simulation(LES)に基づいた汎用流体解析コードである。本ソフトウェアは文部科学省ITプログラム「革新的シミュレーションソフトウェアの開発」プロジェクトのもとで開発、公開されている。Frontflow-blue バージョン5.0(最新版公開 2007年6月)では、Detached Eddy Simulation (DES)、熱輸送解析機能、四面体コードでのオーバーセット機能を新たにサポートするとともに、計算スピードに関して、ベクトル・スカラマシンにおいて旧バージョンに比べて約2倍の向上を実現している。

コードの主な特徴

  • 基礎方程式 : 3 次元非定常非圧縮性 Navier-Stokes 方程式
  • 乱流モデル: LES (標準スマゴリンスキーモデル、ダイナミックモデル)、 DES
  • 時間積分法 : 陽解法、陰解法( Crank-Nicolson 法)
  • 離散化手法 : 時間・空間 2 次精度 有限要素法
  • 対応メッシュ : 六面体、および四面体要素 移動・回転座標系 /Overset メッシュに対応
  • 並列計算機能 : 領域分割法による大規模計算・自動最適化領域分割統合ツール
  • その他の機能: 流体音響解析、キャビテーション解析、熱輸送解析

コードの概要

流体解析: FrontFlow-blue は非定常非圧縮性 Navier-Stokes 方程式を基礎方程式系とした有限要素法による流体解析ソフトウェアである。非定常流れを高精度に予測することが可能な乱流解析手法である LES により、流体機械の内部流れ解析や流体騒音の音源予測が可能である。本バージョンより、 LES と RANS のハイブリッド手法である DES もサポートする。また、複数の静止・回転座標系の混在に対応したオーバーセット法により、ポンプ等回転機械内部の流れや動静翼干渉を解析することができるほか、 キャビテーションを伴う流れの解析も可能である。 計算コードはベクトル計算機およびスカラー型並列計算機上で高速に動作するように最適化されており、自動化された最適領域分割・統合処理の実装によって、数百万~数億節点の大規模超並列計算にも対応している。

流体音響解析: 音源となる物体表面の静圧変動を流体解析により計算し、 Curle の式によって流れから発生する流体音(コンパクトな音源から発生する遠方場音)を予測することができる。

キャビテーション解析: 均質流体モデルにより液体体積率の時間発展を計算し、キャビテーションを伴う非定常流れを解析することができる。

熱輸送解析: 流体と固体中の熱伝導と、流体中の熱対流を考慮した熱輸送解析を行うことができる。流れを非圧縮として扱えるターボ機械内部等の熱輸送を計算対象としている。

動作確認プラットフォーム
IBM AIX, HITACHI HI-UX/MPP(SR8000), HP HP-UX, SGI IRIX, NEC SUPER-UX(SX, 地球シミュレータ )
DEC OSF/I (Compaq/HP Try64 UNIX), Sun Solalis, IA-32/IA-64 Linux 等

解析例

プロペラファンの空力騒音予測  (左図):翼端渦や前縁剥離渦などのプロペラファンにおける主要な渦構造が解像され、プロペラファンから発生する広帯域騒音スペクトルの定量的予測が可能となっている。 図は、速度勾配テンソルの第二不変量の等値面である。

斜流ポンプ内部流れ解析  (中央図):本バージョンより、四面体コードのオーバーセット機能が実装され、四面体コードによるターボ機械の内部流れ解析が可能となった。図は、四面体コードにより、斜流ポンプ表面の圧力分布を予測した結果である。

非定常キャビテーション解析 (右図):フランシス水車のドラフトチューブ内部での非定常キャビテーションの振る舞いを解析した。ある瞬間におけるボイド率 5% の等値面を描くことで、ランナーの上流で発生するキャビティを可視化している。

プロペラファンの空力騒音解析
渦構造の可視化
斜流ポンプ内部流れ解析
ポンプ表面の圧力分布
 
非定常キャビテーション解析
ドラフトチューブ内のキャビティ
 

 

乱流燃焼解析ソフトウェア  FrontFlow-red version 3.0

 FrontFlow-red は乱流変動などの非定常現象の高精度予測が可能な Large Eddy Simulation (LES) に基づいた乱流燃焼解析ソフトウェアである。本ソフトウェアは文部科学省 IT基盤プログラム「戦略的革新シミュレーションソフトウェアの研究開発」プロジェクトのもとで開発、公開されている。FrontFlow-red バージョン3.0 (最新版公開 2007年6月)では、ソルバーの安定性向上をはかり、新規に開発したDetached Eddy Simulation乱流モデル、LES-Flamelet燃焼モデル、粒子追跡モジュール、複数の輻射伝熱モデル、複数の新規ユーザーサブルーチン及び熱系関連ルーチンのベクトル化などの計算機能を追加するとともに、ユーザーより寄せられた問題点の修正をおこなった。

コードの主な特徴

  • 基礎方程式 : 質量、運動量、エネルギーおよび化学種の各保存方程式および状態方程式
  • 離散化手法 : 節点中心法を用いた有限体積法
  • 対応メッシュ : 六面体、三角柱、四角錘、四面体およびこれら要素の混在したメッシュ
  • 乱流モデル : LES または RANS (Reynolds Averaged Navier-Stokes) モデル
  • 燃焼モデル : アレニウスの式による総括反応、素反応モデルおよび渦消散モデル
  • 並列計算機能 : 領域分割法による大規模計算・自動最適化領域分割統合ツール

コードの概要

 本コードは質量、運動量、エネルギーおよび化学種の各保存方程式および状態方程式を基礎方程式とし、節点中心法を用いた有限体積法により空間を離散化した乱流燃焼解析ソフトウェアである。 非定常現象の高精度予測が可能な Large Eddy Simulation (LES) により、動力・エネルギー機器の設計において多くの応用ニーズがある燃焼流の予測を可能にする。 六面体、三角柱、四角錘、四面体およびこれら要素の混在したメッシュに対応し、三次元の任意の境界形状を取り扱うことができる。 SIMPLE 法に基づく陰解法を採用し、圧縮性流体解析および低マッハ数近似を施した非圧縮性流体解析を可能にしている。 乱流モデルには RANS または LES モデルが使用可能であり、 LES の SGS 応力項には Smagorinsky モデルを採用している。燃焼に関する化学反応モデルはアレニウスの式による総括反応、素反応モデルおよび渦消散モデルを採用している。 領域分割法 による大規模並列計算機能 によって、数百万節点の大規模超並列計算にも対応している。

動作確認プラットフォーム

 IA-32/IA-64/Opteron LINUX 、 SGI Altix 、 SGI IRIX 、 HITACHI HI-UX/MPP (SR11000)

解析例

ガスタービン燃焼器流れの実証計算 (協力:三菱重工業様) (図 1 、図 2 ): 複雑現象を含む非定常乱流場数値解析の 工学的応用例として、ガスタービン燃焼器流れの乱流燃焼場を対象とした実証計算を行った。 はじめに非燃焼乱流 LES を行い,燃焼反応を伴わない乱流流動予測の精度検証を行った。解析対象は典型的な旋回ノズルを有するモデル燃焼器形状を選択した。ノズル開口幅及びノズル内平均流速による Reynolds 数は Re=17700 である。旋回羽根により生成された旋回流により、ノズル出口下流に逆流域が形成されていることがわかる。また、旋回羽根及びノズル出口部で発生するせん断層により乱れが生成され、チャンバ内には発達した乱流場が形成されている。ノズル下流1/8D(D:ノズル直径)における主流方向平均流速及びその変動強度の半径方向プロファイルの予測結果を図に示す。平均流速においては供試体実験値とも良好な一致を示しており、旋回ノズルによる旋回流入ジェットのプロファイルが捉えられている。また速度変動に関してはピークの絶対値に過小評価が見られるが、分布は実験値と定性的に一致する。

輻射を考慮した 防火服表面の熱流束の解析 (協力:消防研究センター様) (図 3 ): 消防研究センターにて実施したマネキン火傷実験と同じ条件で数値解析を実施することより、防火服外部の3次元熱流体環境を明らかにする解析例である。 FrontFlow/red に実装された RANS モデルと渦消散燃焼モデル及び、新規開発した輻射伝熱モデルを用い、 火傷実験室と同じ寸法の計算領域をとり、中心に実寸大のマネキン人体モデルと、その周辺に8箇所に設置したバーナーを実験と同サイズなメッシュモデルを作成した。バーナーの燃料構成比と流量を実験計測より解析入力条件よして設定し、火炎中の化学反応と流れ場および伝熱分布を計算する。熱伝達の一部分を担う熱輻射をも同時に計算する.その解析結果から、マネキン表面の熱流束分布を求め、実測値と比較し、実証検証を行った。

 
図 1 瞬時主流方向速度分布 図 2 瞬時温度分布  
   
図 3 マネキン人体表面熱流束分布
と雰囲気ガス温度
   

関連文献

東大生研リーフレット・ソフトウェアベース No.111, No.112 (2007)
Kato, C., et al, (2007), Computers & Fluids , vol. 36, pp. 53-68.
Guo, Y., et al, (2006), Proceedings of the 23rd I.A.H.R. Hydraulic Machinery, No. F195.
大島、中島、燃焼流れ LES 、ガスタービン学会誌 vol.35, No.4 (2007) pp 。 219-224

更新日:2007.8.31